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文献詳細

雑誌文献

生体の科学39巻5号

1988年10月発行

文献概要

特集 細胞測定法マニュアル 細胞光学特性測定法

局所分子運動測定 時間分解ラマン分光法

著者: 小林孝嘉1

所属機関: 1東京大学理学部物理学科

ページ範囲:P.534 - P.536

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 細胞内の分子の構造を見る方法としてレーザーを用いたラマン分光法には次のような特徴がある。まず第一に空間的コヒーレンスの良さを利用してレンズで空間的に狭い領域にたとえば細胞内の特定の細胞内器官に集光し,そこにおける生体高分子の構造情報を得ることが原理的に可能である。ラマン散乱は,他のX線解析やNMR,あるいは赤外吸収スペクトルと異なり,結晶と水溶液のいずれも観測可能なので,結晶と水溶液とでの状態でアミノ酸残基などのコンフォメーションの違いなどの分子構造の差異があるかどうかを明らかにできる。
 このラマン分光法が広く応用されるようになったのは,レーザー技術および微弱光測光技術の進歩に負うところが大きい。レーザー光の高い空間的および時間的コヒーレンスにより,ラマンスペクトル測定データのS/Nは飛躍的に向上した。またこれに伴って同時に測定時間が短縮され,必要な試料の量が少なくて済むようになった。ラマン散乱は赤外吸収と異なる遷移選択測をもつので相補的な情報が得られる。またたとえば,分子の可視・紫外吸収に近い波長の単色レーザー光でラマン散乱を励起すると,電子遷移に共鳴する効果のため特定の振動モードが非常に強いラマン線を与える。そのラマン散乱強度の励起波長依存性により,電子励起に伴う原子配置の変化,振動と電子状態の相互作用,可視吸収帯の帰属の情報を得ることができる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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