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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学39巻6号

1988年12月発行

雑誌目次

特集 細胞内における蛋白質局在化機構

細胞内転送—到達点と問題点(特集によせて)

著者: 大村恒雄

ページ範囲:P.542 - P.543

 本特集では,核,ミトコンドリア,ペルオキシソームなどの細胞小器官に局在している蛋白質が,細胞内で生合成されてからそれぞれの小器官へ選択的に運ばれ定着する機構についての最近の研究状況を概観することができる。蛋白質の細胞内転送と細胞内局在化の機構は,それ自体もちろん興味ある研究対象であるが,この機構の解明は細胞レベルでのさまざまな現象を理解するための基礎としても重要であろう。
 蛋白質の細胞内転送は,粗面小胞体の膜結合リボソームで合成された蛋白質が小胞体,ゴルジ装置をへて分泌顆粒,細胞膜,リゾソームに至る径路(膜結合リボソーム径路)と,遊離リボソームで合成された蛋白質が直接に核,ミトコンドリア,ペルオキシソームなどへ取り込まれる径路(遊離リボソーム径路)とに大別できるが,いずれの径路についても最初に問題となったのは蛋白質の種類によって細胞内の転送径路が選択される機構であった。この問題を解明する突破口となったのは1975年にBlobelらにより発表された分泌蛋白質についてのシグナル仮説1)であり,分泌蛋白質に共通な小胞体膜通過シグナルが膜通過時に切断除去されるアミノ末端都分のアミノ酸配列に存在するとの発見であった。

小胞体—ゴルジ体間蛋白質輸送における選別機構

著者: 吉森保 ,   田代裕

ページ範囲:P.544 - P.550

 真核細胞における蛋白質の輸送経路の中でも,小胞体(ER)-ゴルジ体系は分泌蛋白質,膜蛋白質,ライソゾーム蛋白質などが合成され運ばれる量的にも質的にも重要ないわば「幹線道路」である。シグナルペプチドとその認識機構の発見により最初の選別ステップ,つまり粗面小胞体内への蛋白質の移行過程はかなり詳細に理解されるようになった。しかしERで合成された蛋白質がその後目的地に至るまでたどる道程での選別の機序はまだほとんどわかっていない。この「幹線道路」では多種多様の新生蛋白質の中からまずERに留まる蛋白質とゴルジ体へ輸送されるものが選別され,次にゴルジ体でゴルジ体に留まるものとさらに細胞外,細胞膜,ライソゾームなどの最終目的地に向けて輸送されるものとが選別されねばならない。これらの選別は特異的で厳密に行われていることが各種の研究から明らかになりつつある。細胞はどのようにしてそれを成し遂げているのであろうか。最近,ERからゴルジ体への蛋白質輸送に関して画期的な研究が出だし,この分野も俄かに具体性を帯びて活気づいてきた。そこで本稿ではER-ゴルジ体の蛋白質選別輸送機構についての最近の知見をまとめてみたい。

ミトコンドリア型アスパラギン酸トランスアミナーゼのミトコンドリア局在化機構—プレシークエンスの構造と機能について

著者: 西徹 ,   森野能昌

ページ範囲:P.551 - P.554

 アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AspAT)は,動物細胞中でシトゾール型とミトコンドリア型(mAspAT)の2種のアイソザイムとして存在しており1),リンゴ酸脱水素酵素の同じく2種のアイソザイムとともにアスパラギン酸—リンゴ酸シャトルを形成するなど,代謝上重要な役割を果たしている。この2種のアイソザイムはともに核遺伝子にコードされ,細胞質で合成された後,ミトコンドリア型酵素はミトコンドリア内に移行して機能を発現する。
 一般に,mAspATを含むミトコンドリア蛋白質の約90%は核遺伝子にコードされており,細胞質で合成された後にミトコンドリア内の各コンパートメントに移行する。この移行のため,ほとんどの蛋白質はアミノ基末端にプレシークエンス(20〜60個のアミノ酸で構成)をもつ前駆体として合成される。そして,ミトコンドリア外膜上の受容体への結合,エネルギー依存性の移行,プロセシング酵素による成熟型への変換,活性分子の形成などの過程を経て局在化が完成する2,3)。厳格な選択的透過性を有するミトコンドリア内膜を大きな分子量の蛋白質が通過する機構は非常に興味深いものであり,上に挙げた各過程のそれぞれについて多くの研究がなされてきた。

オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)のミトコンドリア局在化シグナル

著者: 村上薫 ,   森正敬

ページ範囲:P.555 - P.558

 ミトコンドリアは真核細胞のエネルギー産生の主要な場であるほかに,アミノ酸代謝,糖代謝(TCAサイクル),尿素合成前半などを担う重要な細胞内小器官である。ミトコンドリアは固有のDNAとタンパク合成系を持つているが,数百種類のミトコンドリアタンパク質のうちミトコンドリア内で合成されるのはごく一部であり,大部分は核DNAにコードされており,ミトコンドリア外で合成された後,内部へと移行する。したがってこれら大部分のミトコンドリアタンパク質は,細胞内の多くの膜系の中でミトコンドリア膜を特異的に認識し,膜を透過し,または膜に組み込まれねばならない。このようなミトコンドリア膜識別および膜透過の分子機構を明らかにしようとする研究が急速に進んでいる。1970年代後半にミトコンドリアタンパク質のin vitro合成が成功し,ミトコンドリアタンパク質の大部分がアミノ末端に分子量2,000〜10,000の"延長ペプチド"(presequence)をもつ前駆体の形で合成された後にミトコンドリアに移行し,プロセシングを受けて成熟タンパク質に転換されることが明らかになった。そして,前駆体の延長ペプチド部分にミトコンドリアを識別するシグナルが存在すると予想された。われわれは,以前よりミトコンドリアマトリックスに局在する尿素サイクル酵素であるオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)を用いてこの問題に取り組んできた1-3)

ミトコンドリア局在化のシグナル:チトクロムP-450

著者: 伊藤明夫

ページ範囲:P.559 - P.562

 真核生物の細胞内には数多くの異なるタンパク質が存在しているが,それらは無秩序に分布しているのではなく,特定のタンパク質は特定の細胞小器官の特定の場所に局在することにより,細胞全体として統一のとれた活動に参加している。したがって,細胞の恒常性の維持とその調節にとって,タンパク質の細胞内局在化機構,すなわち,特定のタンパク質を特定の小器官に送り込む特異的な選別はもっとも重要な機構の一つである。
 ミトコンドリアはクロロブラストと同様,独自のDNAやタンパク質合成系を備えており,独自のタンパク質を合成している。しかし,ここで合成されるタンパク質はわずか十数種であって,大部分のタンパク質は核内のDNAの中にその情報が貯えられており,細胞質のリボソーム上で合成され,ミトコンドリアに特異的に送り込まれる1,2)。われわれはステロイド産生細胞のミトコンドリアの内膜に局在するチトクロムP-450(P-450)を例に,これらのタンパク質が内在している自身の行き先を決めているシグナルの実体と,ミトコンドリアに存在するシグナルの受容機構が何かを調べてきた。本稿では,前者についての最近の知見を紹介する。

ペルオキシソーム局在化シグナル:アシル-CoAオキシダーゼ

著者: 宮沢昌子 ,   大隅隆 ,   橋本隆 ,   大野恭子 ,   三浦恵 ,   藤木幸夫

ページ範囲:P.563 - P.565

 ペルオキシソームは,ほとんどすべての真核細胞に存在する一重膜で囲まれたオルガネラである。このオルガネラには,ミトコンドリアとは異なる諸酵素よりなる脂肪酸β酸化系が局在している1,2)。真核細胞にとっては,系統的に異なる二つのβ酸化系が必要である。植物や単細胞真核生物におけるベルオキシソームβ酸化系の重要性はすでに明らかにされている。ごく最近,Zellweger症候群をはじめとするペルオキシソームβ酸化系の欠失に起因する重篤な先天代謝異常が明らかとされ3),ヒトを始めとする高等動物においても,ペルオキシソームβ酸化系が不可欠なものであることが明らかにされた。
 現在,ペルオキシソーム形成について次のような作業仮説が考えられている。ペルオキシソームを形成するタンパク質はすべて,細胞核遺伝子によってコードされ,遊離ポリソーム上で生合成された後,既存のペルオキシソームに局在化される4)

ミトコンドリア・ペルオキシゾームへの局在—セリン:ピルビン酸アミノ転移酵素

著者: 小田敏明 ,   市山新

ページ範囲:P.566 - P.569

 セリン:ピルビン酸アミノ転移酵素(SPT)はラット肝において二つの異なる細胞内小器官,ミトコンドリアとペルオキシゾームに局在する。ミトコンドリア局在型酵素(SPTm)とペルオキシゾーム局在型酵素(SPTp)の酵素蛋白質としての諸性質にはほとんど差がないが,種々の刺激に対する酵素誘導はまったく異なっている。ミトコンドリアとペルオキシゾームに同一と思われる酵素が局在する例は他に見あたらないので,両オルガネラへの蛋白質の移行機構を調べる上で本酵素は興味ある特徴を備えているといえる。以下,われわれがこれまでにSPTについて蛋白質,mRNA,遺伝子の各レベルで明らかにしてきた点を中心に紹介する。より詳しい総説,とくにSPTの酵素誘導については文献1)を参照していただきたい。

タイトル名核蛋白質の核局在化機構

著者: 今本園部 尚子 ,   内田驍

ページ範囲:P.570 - P.574

 真核生物は,その遺伝子を核というコンパートメントに包み込んだ時に進化的に原核生物と分れた。遺伝子は核という細胞質と異なった特異な環境の中で,原核生物よりもはるかに複雑な遺伝情報の発現を,高度に秩序立てて行うことができる。核が独特の環境を構築できるのは,核膜二重膜が遺伝子を細胞質から隔てているのと同時に,核膜孔を通して核内で働く蛋白質のみが選択的に核内に輸送されるためである。このことは,細胞質に微少注入した蛋白質の中で,核蛋白質のみが核内に移行するという事実からも証明されている1-3)。最近になって,核膜孔構成蛋白質や核内移行シグナル(nuclear transportsignal)の存在が明らかにされてきており,またin vitro核内輸送実験系での解析も進められている。本章では,これらの新しい知見を通して,核蛋白質の選択的核内輸送機構について考察する。

ミトコンドリア外膜・内膜の局在化シグナル

著者: 中井正人 ,   松原央

ページ範囲:P.575 - P.578

 ミトコンドリア蛋白質の大部分は核のDNAによりコードされ,細胞質で合成された後ミトコンドリアへ移行する1)。移行した蛋白質は,主たる小区画である外膜,膜間部,内膜,マトリックスのいずれかに配置される(図1)。したがって,これらのミトコンドリア蛋白質は,ミトコンドリアを識別するシグナルに加えて,ミトコンドリア内での局在位置を決定するシグナルも持っているはずである。近年,ミトコンドリア蛋白質の遺伝子が続々とクローニングされ,前駆体の一次構造が多数明らかになり,その比較により局在化シグナルに関する考察が可能となった2)。一方,クローンした遺伝子を操作して得られた修飾遺伝子をin vivoやin vitroで発現させ,改変蛋白質の局在化能を解析することにより,局在化シグナルの同定や局在化機構に関する研究が進みつつある。ここでは,ミトコンドリア外膜,内膜蛋白質の局在化機構を中心に,この分野の最近の知見を紹介する。

ミトコンドリア局在化に要求される細胞質蛋白質

著者: 坪井昭三

ページ範囲:P.579 - P.583

 細胞質で合成されたミトコンドリア蛋白質前駆体は,それぞれの標的認識シグナル(targeting signal)に導かれてミトコンドリア内の定着すべき区画に輸送され定着する。また,この輸送には内膜ポテンシャル(⊿Ψ)が要求されることはすでによく知られていたが1-3),最近蛋白質の生体膜通過に膜外のATPが必要であること4-8),またさらにこのATPは熱ショック蛋白質の一種(unfbldase活性を持つ蛋白質)による前駆体のunfoldingの際に消費されるものであることが明らかにされた9,10)。したがって,細胞質で合成されたミトコンドリア蛋白質前駆体の輸送に要求される細胞質因子としては,筆者らが報告したもの11)を含めて少なくとも二種の蛋白性因子が存在することとなる。さらにこれら細胞質因子の前駆体輸送における役割は,外膜に存在する前駆体の受容体12-16)に関する情報なしには解析できないものである。そこで本総説では,ミトコンドリア蛋白質前駆体受容体および前駆体輸送に関与する二種の細胞質因子について解説する。

小胞輸送に関与する遺伝子

著者: 笠原道弘

ページ範囲:P.584 - P.587

 ゴルジ体,リソゾーム,細胞膜に存在するタンパク質および分泌タンパク質は少数の例外を除き小胞体からそれぞれの場所に所定の経路を通り小胞輸送によって運ばれる1)。小胞輸送はこれらタンパク質の日的とする場所への運搬をになっているだけでなく,真核細胞の他の機能もになっている。分泌あるいはエキソサイトーシスは上記タンパク質運搬のうち細胞外に放出されるものについて強調したと理解できる2)。エンドサイトーシスも小胞輸送がその細胞内でのメカニズムである3)。神経細胞における軸索輸送も代謝に伴う構成性の物質輸送で,そのうち速い輸送は小胞輸送である4)。さらに,細胞膜機能調節のいくつかのものがこの小胞輸送と密接に関係していることが明らかとなってきた5)。細胞膜の各種リセプターの内在下(internalization),リサイクリングあるいは細胞膜機能タンパク質(とりわけ膜輸送に関与するタンパク質)が細胞内情報伝達系のトリガーにより細胞内小胞から細胞膜に膜融合により移動し活性の上昇をもたらすことが見出された。これらの可逆的な輸送を含め,小胞輸送は真核細胞の細胞活動のさまざまな局面で重要な役割をはたしていることがわかった。小胞輸送という複維な現象を研究するためには形態学,生理学,生化学,免疫学,遺伝学などあらゆる知識と手法を動員する総合的アプローチが必須となっている。

実験講座

脊椎動物幼仔血管系への色素注入法

著者: 齋藤紘昭

ページ範囲:P.589 - P.592

 脊椎動物幼仔の血管発生学的研究方法には,1)生体血流観察法,2)連続切片構築法,および,3)色素注入法の三通りがある。
 Thomson(1830,'31)やHochstetter(1888,'91,'94)は第一の方法で研究し,後者はさまざまな綱における脊椎動物の腹静脈,前後肢縁静脈や肝門静脈の血管発生について多くの基本的ルールを提唱した。この方法では幼仔が非常に若い発生段階で,求める脈管系が単純かつ外表面から見える時のみに有効である。しかし,幼仔が成育し,表面組織によって深部の複雑化した血管系が覆われると,この方法では明らかに観察不可能になる。それ故に,この方法は体表や透視できる部位の血管発生学的研究に使用が限られてしまった。

透明導電膜を応用した顕微鏡用灌流恒温装置

著者: 百瀬弥寿徳 ,   豊富誠三

ページ範囲:P.593 - P.597

 パッチクランプ法などの電気生理学あるいは遺伝子注入技術のようなバイオテクノロジーの研究分野では,細胞を倒立顕微鏡下で観察しながら実験が行われている。これらの実験で用いられる単一細胞,卵細胞,培養細胞などを入れるチャンバーの容積は,ふつう1〜2mlと小さいため,チャンバーの温度をコントロールすることが難しく,室温で実験せざるを得ないというのが実情のようである。
 生体機能あるいは生体反応系における温度の影響の重要性は改めて述べるまでもないが,筆者らの1人(百瀬)は,モルモット心室筋単一細胞を用いた研究において,カテコールアミンの作用が著しい温度依存性を示すことから,顕微鏡下で細胞を入れるチャンバーと灌流液の温度を同時に制御できる簡便な装置の必要性をかねてより痛感してきた。そこでわれわれはガラスなどの透明基板上に真空蒸着された透明導電膜1,2)(透明で導電性のある薄膜)を発熱体として利用し,灌流液と細胞チャンバーを顕微鏡ステージ上であたためて温度制御する,新しい方式の装置を開発した。

解説

乱された感覚系と乗物・宇宙酔いそして順応と再順応

著者: 安井湘三

ページ範囲:P.598 - P.607

 さまざまな感覚受容器からの情報は脳で系統的に整理され,この総合的判断の下にわれわれは自己と周囲の空間相対関係を認識しているに違いない。物理環境が不自然であると,この機構に問題が生じ知覚の混乱は行動に支障を来すだけでなく生理的不快感も引き起こす。しかし,このような状況にも生体は順応していくのも事実である。無重力下で得られた最新の知見も含めて,この分野の研究を視覚と前庭感覚の関連で展望しながら,知覚神経系を主として随伴放電説,脳内モデル説,そして感覚矛盾説の観点から考える。
 自己と外界の正しい認識はすべての生き物にとって重大な課題である。高等動物の感覚・知覚系は外界入力の種類別に専門化している。こうすることにより,より精緻な周囲情報に基づいた命令を運動系に下すことが可能と思われる。一方,感覚刺激はその種類ごとに時を違えて一つ一つ入ってくるよりは複数が同時進行である場合が普通である。その際,脳は各感覚系の特性を考慮して,ある時は選択的に,また時には総合的にバランスして周囲との関係を判断しているはずである。この機構は通常うまく働いている。たとえばわれわれの頭が動くとき,視界に入る景色が変るのが見えるが,視覚だけでなく内耳の前庭器官からも神経パルスが脳に送り込まれる。また,自分の意志によるものであれば「頭を動かせ」という脳が発した命令自体も情報となる。こうして動いたのは周囲ではなく自分と弁別される。

腸管神経ペプチドと腸管運動

著者: 高木都 ,   中山沃

ページ範囲:P.608 - P.617

 神経活性ペプチドの研究は1970年代の10年間に飛躍的に発展した。その結果,神経活性ペプチドのうちで脳と消化管に共通して存在する脳・腸ペプチドが次々と発見された。消化管に存在する神経活性物質は主に胃・腸・膵の内分泌細胞に含まれるものと,主に神経細胞(線維)に含まれるもの,そして両者に含まれるものがある。1980年頃までの免疫組織化学による脳・腸ペプチド研究の進歩については,本誌(32巻5号,1981)に岩永らの報告1)があるが,筆者らも数年来腸管運動を調節する腸管神経(enteric nerves)***に含まれている神経活性ペプチドについて,その生理作用を検討してきた。そこで,筆者らの研究も含めてそれ以降の腸管神経ペプチドに関する研究について概説する。

話題

植物神経のPhylogenie—いわゆる副交感神経と交感神経の起源

著者: 三木成夫 ,   重井達朗

ページ範囲:P.618 - P.623

 〔紹介・説明〕
 1969年第43回日本薬理学会総会の折,若手研究者セミナーにおいて,三木成夫氏(当時東京医科歯科大学解剖学助教授)は表題の講演を行った。そこに紹介されているハンガリーの解剖学者J. Botárの説は,自律神経系の基本概念に関する独創的な見解である。当時三木氏は自家の研究成果と結びつけて深く共鳴するところあり,その要点を,さらにリアルな図によって解説している。とくにその見事な具体例として,"鰓腸の附属器(門脈)として発生した"心臓の神経支配の意義を,画期的な新知見に基づいて論じている。以来20年の推敲を経て,さらに拡充され,深められた論述を準備,投稿しようとした三木氏は,その序文を残したまま不幸にも急逝された(1987年8月)。以下に掲載されるのは,同序文と,1969年のセミナーにおける講演のプリントである。ここに異例の説明を記すのは,このプリントに凝縮されたBotár-三木の見解が,今日なお公表の価値を失わぬと信ずるからにほかならない。
 註および文献,附1,2は重井による。

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生体の科学 第39巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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