特集 細胞内における蛋白質局在化機構
オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)のミトコンドリア局在化シグナル
著者:
村上薫1
森正敬1
所属機関:
1熊本大学医学部附属遺伝医学研究施設
ページ範囲:P.555 - P.558
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ミトコンドリアは真核細胞のエネルギー産生の主要な場であるほかに,アミノ酸代謝,糖代謝(TCAサイクル),尿素合成前半などを担う重要な細胞内小器官である。ミトコンドリアは固有のDNAとタンパク合成系を持つているが,数百種類のミトコンドリアタンパク質のうちミトコンドリア内で合成されるのはごく一部であり,大部分は核DNAにコードされており,ミトコンドリア外で合成された後,内部へと移行する。したがってこれら大部分のミトコンドリアタンパク質は,細胞内の多くの膜系の中でミトコンドリア膜を特異的に認識し,膜を透過し,または膜に組み込まれねばならない。このようなミトコンドリア膜識別および膜透過の分子機構を明らかにしようとする研究が急速に進んでいる。1970年代後半にミトコンドリアタンパク質のin vitro合成が成功し,ミトコンドリアタンパク質の大部分がアミノ末端に分子量2,000〜10,000の"延長ペプチド"(presequence)をもつ前駆体の形で合成された後にミトコンドリアに移行し,プロセシングを受けて成熟タンパク質に転換されることが明らかになった。そして,前駆体の延長ペプチド部分にミトコンドリアを識別するシグナルが存在すると予想された。われわれは,以前よりミトコンドリアマトリックスに局在する尿素サイクル酵素であるオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)を用いてこの問題に取り組んできた1-3)。