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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学4巻1号

1952年08月発行

雑誌目次

巻頭

研究行政の反省

著者: 若林勳

ページ範囲:P.1 - P.1

 我國科學研究の隆興は一に國家經濟の復奮をまたなければならないともいうが,現在の不自由は不自由なりに研究を進めなければならない。走らない自轉車が倒れるように研究者が杜絶えれば科學は亡びるであろう。研究行政という言葉があるかどうか不明であるが,現日本の科學研究に於ける二三の行政的な問題──科學研究費の配分と研究所の整備とについて少しく反省を試みよう。
 總額に於て乏しい國の科學研究費──それが他の國費といかなるバランスにあるかはしばらく論外に措き──これをいかに配分するかは重要な問題である。文部省から交附される各種の研究費の配分法には色々の批評もあるが,其趣旨は重點主義と見られる。個人研究費配分にもこの線が強化されると聞く。從つて其詮衡の困難さは思い遣られる。勿論選ばれた有識者の合議によることで其研究價値を定める天秤の精度は餘程高いものと思うが不幸その選に洩れる有能の學者も幾人かは出來るであろう。併し彼等に最低の研究費が與えられておればそれはそれなりに研究を進めるであろうが,もしもその基礎額さえも缺けるならば甚だ同情す可き境遇に置かれることとなる。學界に認められて研究費を交附せられることは結構であるが,研究費の交付を念頭に置いて學界に認められようと努力するような努力は,學界百年のために慶す可きではあるまい。

展望

ATP

著者: 吉川春壽

ページ範囲:P.2 - P.8

 1.ATP.ADP.AMP
 ATPはアデノシン三燐酸Adenosine triphosphateの頭文字三つをとつた略語で,この物質はアデニン,リボーゼ各1分子,及び3分子の燐酸から成るところの一種のヌクレオチードである。
 ATPの端の燐酸1個のはずれものがアデノシン二燐酸Adenosin diphosphate.で,略してADP.という。さらにもう1個燐酸のはずれたものが昔から知られていた。アデニール酸Adenylic acidであつてアデノシンー燐酸に他ならないのであるからAdenosile monophosphateの頭文字をとつてAMPと略稱するのが普通である。ATPはアデニール酸とピロ燐酸との化合物でもあるのでアデニールピロ燐酸Adenyl pyrophosphateともいう。新鮮な筋肉の浸出液の中から分離されたアデニール酸はアデニン-9'β-D-リボフラノシドのアデノシンのモノ燐酸エステルで,燐酸の結合位置はリボーゼの5の炭素の位置にある,アデノシン-5'燐酸である。これを筋肉アデニール酸と稱している。これは酵母から得られた酵母核酸の加水分解で得られたアデノシン-3'-燐酸と區別するためである。アデノシン-3'燐酸は筋肉アデニール酸とちがつて,生物學的活性はない。

論述

體液循環の基礎的研究

著者: 西丸和義

ページ範囲:P.9 - P.13

 體液循環に關する概念はHippocrates(B. C. 460-370)が漠然と血液(心臓),粘液(脳),黄胆汁(肝),及び黒胆汁(脾)の四液であると考えた。次いでErasistratus(B. C. 300-250)は屍體解剖により,Galenus(A. D. 130-210)は屍體解剖により,體液は血液とPneumaであつて,血管系,神經系を流れるとした。然しHarvey(1578-1657)は生體實驗により,體液は血液であつて,此れは心臓から心臓へと,心臓の運動を唯一無二の原動力として,循環すると考えた。19世紀後半になつてClaude Bernad(1813-1878)は物理化學的な方法で,此れ迄のdataをまとめて,體液とは血液とリンパ液であつて,其物理化學的性状を恒常に保ちつゝ心臓から心臓へと循環すると云う概念を得た。それから現在に至る迄の多くの先進はHarveyの殘した,心臓は如何にして收縮するか,血管,淋巴管は只の導管であるか,等に對する解答としてのdataを提供した。自分等も此の問題に興味を覺えて,1921年以來追及したものが次の樣な抄録である。

腎糸球體に就て

著者: 阿久津勉

ページ範囲:P.14 - P.18

 腎臓に於ける尿生成の機構に關して,既に1543年Andreas Vesalius等は第1圖に示すが如く,腎臓は1個の濾過膜としての篩を有し,腎内血液から濾過によつて尿を生成すると考えて居つたがMarcell Malphigi1)(1666)が,糸球體を發見後,Selumlansky2) に續きJohannes Müller3)等はMalphigi氏小體は單なる血液のReceptaculaであり,尿は尿細管で生成されると述べ,更に1824年に至りWilliam Bowman4)により所謂Bowmansche Kapselも見出された。即ちこの小體は内皮細胞より成る非常に薄い膜に掩われておることを腎動脈より醋酸鉛,重クローム酸カリを注入して證明した。この樣な形態學的研究の發展につれて,腎臓内尿生成の生理學的領域にも幾多の知見が加えられ,枚擧に遑ない數多くの論文が提出され,Cushny5)の廣汎な研究,又Richard6)一門の特異な研究成果の發表等により,この糸球體の持つ役割が一段と明確になりつつあるが,まだ解かれざる幾多の問題をも包藏している。

綜説

生化學に於ける粘度

著者: 菅原努

ページ範囲:P.19 - P.27

 1 緒言
 蛋白質殊に血清の粘度の測定は臨床家によつて廣く行われ,又最近ヒアルロニダーゼ等に關してヒアルロン酸の粘度變化の測定等もしばしば行われている。一方高分子溶液の粘度に關する理論が最近著しく進歩して來たが生化學の立場から理論と實際とを結びつけて検討したものは見られない。こゝに蛋白質を中心としてこの問題を考えてみる。

報告

豚精子のエネルギー代謝と運動との關係—第一報:豚精子の運動に及ぼす各種向神經毒の影響/第二報:解糖作用の觀察

著者: 中尾眞 ,   關根隆光 ,   野末源一 ,   高橋泰常 ,   古川美採 ,   吉川春壽

ページ範囲:P.29 - P.32

 われわれは實驗材料として哺乳動物の單細胞であり生體外で相當長時間,運動と云う機能を保持し得る豚精子を用い,代謝と機能の有機的關聯を究明せんと志した。この問題に對してわれわれは先に第一圖(1)のような圖式を提示したが,それに示すように,精子はエネルギー源として葡萄糖,果糖等を使用して居り外からエネルギー源を與えない場合は體内の燐脂質2)を消費すると推定され,エネルギー源サイクルとしては解糖系3)4)TCAサイクル5)6)がある。エネルギー傳達サイクルとしてはATP7)8)に集約される燐酸代謝,貯蓄サイクルとしては燐クレアチン9)燐アルギニン10)が存在する。興奮發生及び傳導サイクルは,豚精子にもアセチルコリンエステラーゼ11),コリンアセチラーゼ12)の存在することが關根によつて明らかにされ,所謂「アセチルコリン,サイクル」を有するものと考えられる。
 運動と云う機能もその實體として精子尾部のアクトマイオシン樣收縮性物質がEngelhardt13)によつて取り出されて居り("Spermosin"と命名されている).Szent-Györgyiの發展させた筋收縮の實體と一般であると想像される。

神經を引伸した時の傳導速度について

著者: 眞島英信

ページ範囲:P.34 - P.37

 神經を引伸した時その傳導速度がどのように變化するかについては,古くCarlson and Jenkins 1)及び(Carlson 2)の實驗がある。
 それによればAriolimax又はBispiraの神經を引伸して測定した結果,生理的限界内(20〜30%)で傳導速度は不變であつた。之に對しBethe 3)はHirudoの神經を用いて同樣の測定を行つた結果,生理的限界内では神經上の點間の傳導時間が一定であつて,傳導速度は從つて増大することを認め,Carlson等に反對すると共に,神經の傳導物質はCarlson等の結果が示唆する如き半液状流動性の物質ではなく,引伸しても太さ及び長さを變えないような物質でなければならないという結論に達し,彼が始めて染色し得た神經原纖維こそこの物質に他ならないと述べている。生理的限界内で原纖維はうねりがなくなつて眞直になるだけだというのである。然るにCarlson4)は之に對し再び同一の實驗を繰返してBetheの實驗の誤謬を指摘し,自己の以前の實験の正當なる事を確かめている。要するに從來神經を引伸して個導速度を測る目的は主として傳導物質の性質を研究する事にあつたのである。著者は蟇及び食用蛙の末梢神經の傳導速度を測定している際に,神經束に肉眼で明らかに見得る横縞が存在し之が引伸すことによつて消失することを認めた。

上皮小體と肝臓機能の關係に就いて—(其2)特に上皮小體摘出前後に於ける血中グアニヂン體の消長並びにこれに伴なう血糖量の消長に就いて

著者: 小原喜重郞 ,   吉田大三 ,   中島信夫 ,   瀨田孝一 ,   小野齋

ページ範囲:P.37 - P.40

 〔Ⅰ〕上皮小體の機能障碍又これが摘出によつて「テタニー」症状を惹起することは以前より知られ,その本態に就いても古くより幾多の學者により研究報吾せられておるが,その本態に就いては,又異つた獨自の見解から私共はその實險的研究を行い既に發表しているところである。即ち,「テタニー」症状は蛋白分解産物の代謝障碍による中毒の結果であるとすれば,「テタニー」は肝臓機能に密接な關係を有するものという考えから,私共は,上皮小體と肝臓機能との關係,特に蛋白分解産物の處理調整機能との關係を,主として血中殘餘窒素の消長によつて探究したのである。
 又教室の小原,吉田は同一見解の下に,上皮小體摘出前後に於ける血清沃度酸値の消長を検索し興味ある成績を得之れまた既に發表した所である。私共は上皮小體摘出前後に於ける血中グアニヂン體の消長によつて肝臓機能の變化を知り,それにより肝臓機能のテタニーに及ほす影響を知らんとしたのである。

神經纎維の靜止電位と閾値に對する葡萄糖の作用

著者: 秋山欣勇 ,   篠原健一

ページ範囲:P.41 - P.42

 古くから葡萄糖又は蔗糖はリンガー氏液中のイオンの代用として用いられている。又最近はリンガー氏液中のNaClの濃度を加減するのに鹽化ヒヨリンと共に屡々用いられる1)。然しNaClの代りに用いて全く何等の作用がないかどうかは疑問であつて,Lorent de Nó2)は葡萄糖又は蔗糖によつて膜電位が著明に變化することを報告している。即ち彼によると作用部が正常部に對し數10mVも正の方向に増大するという。以下に報告するのは,分離單一神経纖維に對する葡萄糖の濃度效果をしらべたもので,同時に閾値をも測定した。然し茲にはその實驗結果のみを簡單に報告するに止め,その作用機序についてけ深く觸れない。

シンポジウム

細菌毒素研究會記事

著者: 朝倉新太郞 ,   高木昌彦 ,   久保田憲太郎 ,   和田英太郎 ,   村田良介 ,   西田尚紀 ,   渡邊義一 ,   堀和弘子 ,   菅沼和子 ,   小黒義五郎 ,   多田庄三 ,   黒川正身 ,   中野健司 ,   山田隆子

ページ範囲:P.43 - P.46

破傷風毒素の作用機作
 私どもは,以前破傷風毒素中毒動物の血液及び脳脊髄についてしらべたところ,次の樣な變化が起きていることを知つた1)
 1)グルコース,焦性葡萄酸,α-ケトグルタール酸,アセトン體が,ほゞ中毒症状の進展に伴い生理的範園を著しく超えて増加する。

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生体の科学 第3巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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