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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学4巻5号

1953年04月発行

雑誌目次

卷頭

科學と藝術

著者: 宮本璋

ページ範囲:P.193 - P.193

 先日或る彫刻家のところで偶然評論家なども混えて雑談の花を咲かせた事があつた。その時私は科學と云うものの本質であるとか又は研究の態度と云うのを話し,彫刻家は又美術についてそれと同じような話題を話して,結局二人ともたとえそれぞれの立場はちがうにしても,物の見方と云うか,テーマの扱い方と云うものは,それを扱う人の個性個性によつて,大きい自然の現象のなかから,どの角度で,どう云う部分を,どんな解釋で切りとるかにあるのだと云ふ點で,意見が極めてよく一致し快適なストーブの暖かみや主人のまことに好意あるもてなしと相俟つて,近來にないうれしい早春の宵を過した上,同席した評論家などからも大變いい話だつたと喜ばれて一層氣をよくもした。
 私は兼ねて自然現象に對して,その最も確からしい,そして最も可能的な因果をとり扱うのが自然科學の對象であり,勿論人間社會の現象を含めて,又自然現象のうちで甚だ稀で,そのときたゞの一回しか起らなかつたある事柄を描写するのが藝術だと思つているものではあるが,それにつけてもいつも不思議に思うのは,どうして藝術の場合には作者の個性の問題があれ程喧ましく云われるのに,研究者の場合にその人の個性があまり目だたないでも,いつもそのまゝ放任されているのかと云う點である。

綜説

筋收縮の物理化學的研究—Actomyosin系の結合解離を中心として

著者: 永井寅男 ,   寺山良雄

ページ範囲:P.194 - P.203

 はしがき
 我々がある物理的,或いは化學的變化を理解するということは,巨視的な現象の諸條件を整理し之を微視的な立場に移行して説明づけることである。筋收縮の本態という古い問題も,最近の蛋白化學の發展を足場として筋肉を,その構成諸分子へ分析し,次にそれら素子集團の綜合的行動の理解に解決を求めて行かねばならない。
 實際筋收縮の問題は,他の諸生理現象に先んじて機作解明への道を進んでいる。現在多くの人々によつてこの方面の研究が進められA.Szent-Györgyi等によつてまとめられた1947年1)1948年2)1951年3)の三度にわたる著作は,最近の自然科學の中の最もめざましいものが,この方面にあることを示している。

論述

ACTH定量に關する2,3の問題

著者: 中尾健

ページ範囲:P.204 - P.211

 〔A〕ACTH定量(生物檢定)の檢定目標並に定量法に就て
 至適環境下の生體も外來生の危険刺戟に曝されると,その環境の變化に順應するために一定の防衛反應が起きて來る。其の結果生體の諸種の變化が起きるが,副腎に於ては其變化が特に著明で其の重量は増加し,組織學的にも特にzona fasciculataに著明な機能亢進的の變化が惹起して來る。尚此の組織解剖學的變化と共に副腎中の化學的物質例えばascorbin酸やcholesterolも一過性の減少を來すものである。(Long1)Sayers等2))然し乍ら腦下垂體摘出と云う様な條件下では危険刺戟を與えても,これと化學的物質は減少を來さない。危険刺戟でなくACTH其物を投與した場合には,腦下垂體摘出後20-30時間内で未だ副腎皮質機能が健在な時に限り,ACTHに反應して副腎はascorbin酸及びcholesterolの減少を來して來る(Sayers3))。
 特にascorbin酸の減少はACTHによる最も鋭敏な特異的な反應である事が確認され(Sayers 4)),此を應用したのが有名なSayersのACTHの"Ascorbic Acid Depletion Method"で現在米國のACTHの生物検定は專ら此の方法に依つている。

新しいカリウム鹽型水溶性葉緑素(Sungreen)に關する藥理學的研究

著者: 寺田文次郞 ,   田村豊幸

ページ範囲:P.212 - P.221

 Ⅰ.まえがき
 蛋白質を大きく分けると單純,複合,誘導の各蛋白質になり,その中の複合蛋白質は更に燐,核,糖,金屬,脂質及び色素蛋白質に分けることが出來る。そして色素蛋白質は色素を配合簇とするもので,血色素,黄色酵素及び葉緑素がこれに含まれる。血色素が背椎動物の酸素運搬者として重要な物質であるのに對して,葉緑素は植物界にあつて炭酸ガスと水とから太陽光線の力を利用して澱粉を合成する重要な機能を有しており,動植物兩界の生理學的作用の興味ある對象をなしている。
 葉緑素の研究は古く1837年Berzeliusの時代から行われていたが,R. Willstätter,H. Fischer,A. Stoll等により今日では殆んどその化學構造までが明らかにされている。それは一般に植物の葉から適當な溶劑で抽出するのであるが,とり出されただけでは油には溶けるが水には溶けないものであり,これを葉緑素(Chlorophyll)と云う。このものも油に溶ける性質を利用して着色劑などにいろいろの用途があるが,醫學の領域ではこれをアルカリで加水分解して水溶性のナトリウム鹽(またはカリウム鹽)にしたものを一般に使用している。これを水溶性葉緑素(Chlorophyllin)と稱しており,從つて正しく云えば普通にみられる例の緑色の色素をChlorophyllと云うのは間違いで,本當はChlorophyllinと云うべきものである。

腎臟糸球體の分泌機能について

著者: 吉村不二夫 ,   須永吉郞

ページ範囲:P.222 - P.227

 1.緒言
 糸球體の機能に關しては昔からLudwig-Cushnyの物理的濾過説が一般に信奉せられて來たが,更にRichards一派15)20)21)の多くの研究がありまたZimmermann22)23)24)はこの説を形態學的に裏づけるような所見を發表したので,この説は益々鞏固なものになつたかの觀がある。しかるに田村憲造氏17)はこの濾過説をもつてしては容易に説明のつき難い色々の實驗結果に遭遇し,糸球體細胞の積極的な働きを想定しなければ到抵その機序を明かにすることができないと述べた。その主な實驗根據は,尿管を結紮してBowman氏腔(以下B氏腔と記す)の内壓を糸球體毛細血管係蹄の血壓よりも高くして尚尿成分がB氏腔に排出されると云うのである。我々は,過去の研究者が兩棲類を材料として實驗を行つたのでこれにならい,兩棲類の糸球體細胞の構造を詳しく觀察したところ,後に述べる如く蓋細胞に明かに分泌現象をみたのである。このことは田村氏の説を形態學的に裏づける結果となる。そうして更にこのような分泌機能は健常な人においてのみならず多くの哺乳動物においても存在するであろうことがほゞ形態學的に確められたので以下報告する。

報告

催癲癇發作樣物質メチオニンズルホキシイミン

著者: 中山悌志

ページ範囲:P.228 - P.230

 一般に特發性癲癇として,腦に見得べき變化が無く全身の痙攣發作及び意識消失を主症状とする内因性精神病は,從來その原因として腦血管の分布異常とか或種の傳染性疾患,又は何かの中毒性物質の作用等が考えられて居た。
 近年腦波の觀察の進歩や鎮痙劑の作用機轉の追求の結果として痙攣發作發現時に於ける要因として1)酸鹽基平衝,2)電解質,3)水分,4)血糖,5)アセチルコリン及びグルタミン酸,等々の代謝障害が誘因となり此の要素の上に腦の發作焦點の局所的特異條件が加わつて發作が發現すると考えられている1)

内臟神經の中樞端刺激による血壓下降について

著者: 錢場武彦 ,   西田芳郞

ページ範囲:P.230 - P.233

 ウレタン麻酔犬の小腸壁を刺激する時は,血壓は上昇する場合と下降する場合とがある。これは何れも内臟神經からその後根を求心的に上昇して脊髄に入る血壓反射である事を錢場ら16)は明らかにした。
 今内臟神經の中枢端を電氣的に刺激する時は,一般に血壓上昇を來す事は古くから知られて居る2)8)11)が,時には血壓下降を見る場合がある。この血壓下降に就ては,Knoll10)が初めて記載し,Auer & Mertzer1)が確認し,Burton-Opitz3)4)が,その末梢性要因を追及して否定的結果を得て居る以外には成績がない。内臟神經の中枢端刺激が或は血壓の上昇を來し,或は下降を生ずべき條件は尚不明である。自分らは呼吸との關係に於て之れを追及して若干の成績を得たので報告する。

心房粗動の實驗的研究

著者: 木村榮一 ,   加藤和三 ,   村尾覺 ,   鰺坂秀朗 ,   小山晋太郞 ,   大宮善吉

ページ範囲:P.233 - P.234

 心房粗動の發生機序については,周知の如く興奮旋回説と異所的刺戟生成説の二説があり,臨床上にも興味ある問題として,最近に於てもこの二つの説をめぐる論爭が絶えない。即ちScherfはアコニチン局所注射による實驗的"粗動"が注射局所の冷却によつて消失することから,Prinzmentalはアコニチン局所注射或は電氣的刺戟による實驗的粗動の高速度映畫及び心電圖所見より伺れもLewisの興奮旋回説を反駁し,異所的刺戟生成説を主張し,他方Rosenbluethは上下大静脈口の間に相當する部分を中心として心房の一部を傷害ブロツクすれば,電氣的刺戟により,容易に規則正しい粗動を發生せしめ得ること,傷害部の廣さを大ならしめるに從い,粗動波の頻度の減少することその他より,興奮旋回説を支持している。我々はScherfの方法及びRosenbluethの方法により生起せしめた實驗的心房粗動について精密なる心電圖時相分析を試み,殊にLewisの實驗の最大の弱點たる左心房各部からの誘導をも行つて,左右心房の全般に亙つて興奮傳導の様相を追究して些か知見を得た。

膀胱の吸收について

著者: 柴田勝博 ,   小川榮一 ,   吉村不二夫 ,   根本萬次

ページ範囲:P.235 - P.237

 膀胱や尿管の上皮細胞には吸收または分泌の機能があると想像され,尿成分やそれ以外の物質を膀胱内に注入してこれを検査した報告は多數あるが未だ定説はない。即ち正路1)等は正常尿成分である水,食鹽,尿素の吸收を認めているが,Cohnheim2)その他はこれに反對している。又Conradt3)は水,食鹽は吸收されず,尿素は吸收されると述べている。このほかの尿成分や色素,藥物等についても,その吸收についてまちまちの報告がある。これ等の實驗は化學的方法または生物學的検定法によつて,定性的または定量的に行われたものであつて,細胞學的立場から,このような物質の膀胱上皮を通過する組織像については全く報告されていない。化學的または生物學的検定法による成績が一致しない理由の一つは方法論的不備が考えられる。即ちある物質の吸收を觀察する場合,一定量の物質を膀胱内に入れて,一定時間後にその増減をしらべ,減少しなければ吸收がないという定量法では,膀胱内外の物質の出入りをみのがすことがある。この點は放射性同位元素で目印をつけた物質を使うことによつて改善される。Johnson等(4)はH2O18及びD2Oを使つて膀胱内外の水の轉換率をしらべ,毎分0.4%であると述べている。私達はP32を使つて,膀胱の吸收をしらべ,又墨や脂肪が吸收されて血管に入る過程を形態學的に證明し得たのでこゝに報告する。

ロンドン便り

National Institute for Medical Researchの理念と業績

著者: 佐藤昌康

ページ範囲:P.240 - P.242

 私は1952年9月からロンドンのUniversity CollegeのPhysiology Departmentで神經生理の研究をさせて貰つているのであるが,Mill HillのNational Institute for Medical Research(N. I. M. R. と略する)に大體週に一回,協同研究者のJohn Grayと仕事しに行くので,少しこの研究所のことを紹介してみたいと思う。幸にJohn Grayより次の論文を借用することを得たので,以下に,此の論文を辿つて,N. I. M. R. の理念と發展のあとを追つてみることにする。論文はSir Charles Harington,F. R. S:The work of the N. I. M. R. Proc. Roy. Soc. B. 136(1949),333-348で此れはRoyal Societyにおいて1949年3月10日になされたHaringtonの所長就任演説である。
 1911年のNational Insurance Actに,英國における科學研究に非常に重大な一章が含まれている。その一章というのは,「被保険者(insured person)一人あたり1ペニー(約4圓)の金の合計を醫學研究のために公庫(public funds)から支出すべきこと」。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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