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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学4巻6号

1953年06月発行

雑誌目次

巻頭

研究機器と我等の研究

著者: 若林勳

ページ範囲:P.243 - P.243

 終戰直後のことであるが 某占領國の何という人であつたか知らないけれども,日本の科學研究を視察し,"大學で教授が教育を二の次にして大した價値もない研究に耽つているようだが,日本には研究室はなくともよい。教授は學生の教育に專念するようにし,研究は○國の進んだ研究の結果を貰うようにすればよい"というようなことを放言したという話がある。筆者が直接聞いたわけでもなく 眞僞のほどは確かでないからその詮索は無用のことであるが,今この話を思いだし何かの反省の材料としたいと思う。
 自然科學の發展に研究機器の進歩が重大な關係をもつていることはいうまでもない。海外ではすぐれた研究機器が製作され驅使されている。われわれがいつまでも能率の惡い機器をひねり廻していては世界の學術の進歩とのひらきが大きくなるばかりだという聲も尤もである。文部省は學術用輸入機械に對し特別の處置を講じているのは宜なりといわなければならないが,何分日本の經濟力から言つて容易く入手できないのは當然である。そこで我國でもそのようなものを作ろうということで,あるものは既に國産品ができ,あるものは試作中である。例外はあるかもしれないが,少ない經費であちらのような精巧なものを作るということは非常に困離であろう。

論述

腦組織に於けるグルタミン酸代謝

著者: 臺弘

ページ範囲:P.244 - P.250

 1.まえがき
 腦組織におけるグルタミン酸代謝の問題は生化學的研究の成果と臨床的經驗の二方面から近來注目をあびるようになつて來た。
 グルタミン酸は腦組織で酸化をうける唯一のアミノ酸であるばかりでなく,この酸の脱炭酸反應は腦にのみ著明に認められる。またグルタミン酸及び之に關連する物質であるグルタミン,γ-アミノ酪酸の總量は腦内遊離N化合物の70%を占める濃度に含まれて居る。即ちグルタミン酸は約0.01m/kg(150mg/100g),グルタミンとγ-アミノ酪酸は各々約0.004〜5m/kg(60mg/100g)の濃度にあり1)2)3),之は肝や腎の樣な他の臓器に比して著しく多いものである。他方臨床的にはPrice,Waelsch等がグルタミン酸の投與によつて癲癇の小發作型の患者に鎮痙的效果のあることを報じ更に之より發展して精神薄弱者の智能改善に役立つとZimmerman等が強調して以來,通俗的にも甚だ有名になつたのである。

抗ヒスタミン劑の藥理—その化學構造と作用を中心として

著者: 小林龍男

ページ範囲:P.251 - P.259

 Phenoxyethylamineの誘導體929Fが摘出組織ばかりでなく生體内においてもHistamine(Hと略記)の作用に拮抗することを見出したのがきつかけとなつて,Fourneau et Bovet5)らによつて種々の抗adrenaline劑の中から,或る種のaminoetherが著明な抗H作用をもつことを知りその後各方面での研究によつて今日の抗H劑にまで發展したのである。
 實際に抗H劑は實驗的にHの氣道吸入を行つた場合のモルモットの氣管支痙攣,Hによるモルモツト摘出腸管の収縮,ヒトの皮内にHを注射した場合に生ずる紅色丘疹,犬,猫などのHによる血壓降下などに對して著明な拮抗作用を示す事が知られている。

Spectrophotometryによる血清蛋白質と色素イオンの結合に關する研究1)2)3)

著者: 楠智一 ,   島尾和男

ページ範囲:P.260 - P.268

 まえがき
 近年血漿蛋白質の研究はTiselius4)の電氣泳動法とCohn5)のエタノール分劃法が導入されて以來,急速に進歩した。特に多くの物理化學者によつて各蛋白分劃の分子恒數が相次で計算され6)この方面の知見は嘗て見なかつた程の速度を以て集積されつゝある。これ等の知見に基づいて各分劃の持つ機能が,その物理化學的な性状とどの樣な關係にあるかを知ることは困難ではあるけれども興味深く且つ重要な問題である。一方血清蛋白は多くの場合リポイド,糖質をはじめ有機,無機各種の物質と結合しまたはこれを分離すると云う過程を通じてその機能を營むものと考えられる。從つてかゝる結合,分離の模樣を定量的に検索することは取りもなおさず上に記した「機能と性状の關係を知る」ために甚だ重要な手懸りを與えるものと思われる。
 我々はその樣な見通しの下に血清蛋白各分劃,主としてアルブミン(以下alb.と記す)とγ-グロブリン(以下γ-glob.と記す)について種々の色素イオンとの結合の性状を比較した。この實驗は未だ漸く緒についたばかりであるが,一應今迄に得られた結果の概略を述べ,讀者の批判を仰ぎたい。但し紙數に限りがあるのでこの方面に關して残された先人の業蹟は,我々の知見に直接關係あるものにかぎつて言及した。

アミノ酸の代謝異常

著者: 古武彌人

ページ範囲:P.269 - P.272

 アミノ酸の代謝異常産物が尿中に排泄せられる症状としてはシスチン尿,アルカプトン尿,キサンツーレン酸排泄,ケトン尿,チロジノージス等が擧げられる。今回はキサンツーレン酸排泄,シスチン尿,アルカプトン尿の三つに就て我々の仕事を中心にして書いて見たい。この内で嚴重な意味の代謝異常は,キサンツーレン酸の排泄であつて,此の時は健常な場合には起らない變化即ち正常でない變化が體内で起つている。これに反してシスチン尿,アルカプトン尿は正常代謝徑路に於て體内酸化力不足の爲,反應の途中で中間代謝産物が多量に排泄せられる症状である。此の内先ずキサンツーレン酸に關する我々の研究を述べる。

展望

Microphysiologyの進歩

著者: 内薗耕二

ページ範囲:P.273 - P.279

 Microphysiologyの生立ち
 Microphysiologyの進歩に就てその全貌を明かにすることは筆者のよくする所ではない。ここに述べる所のものはMicrophsiologyの極く近年に於ける進歩の跡を垣間見よとするにすぎない。時間的餘裕が充分でなく,見落し思い違い等も少くないと思われるけれども,請わるるまゝに筆をとることゝする。
 生理學がいささか精密科學的なニユーアンスを持ち始めたのは1871年Bowditchによるall or nothing lawの發見であると見ていいかと思う。ここに要素的な生理學のきざしが見られるのである。

報告

P32による血流速度の測定

著者: 田坂定孝 ,   高橋杏介 ,   雨宮岩男

ページ範囲:P.280 - P.282

 血行の状態は心機能を判定するに重要な因子である。從つてわれわれは血流速度即循環時間を測定してこれにより臨牀上の判斷に資するのである。その測定方法も種々あり何れも藥劑を静脈内に注入して一定部位に於てその藥劑特有の反應を各するまでの時間を計測するものである。
 血流速度は血管の各部に於て異なるが古くはVolkmann1)が犬の頸動脈で205〜357mm/sec馬の頸動脈は306mm/secであると云つているが人間では血管の各部分に於ける血流速度は測定困難である故に循環時間を測定して臨牀上の判斷に供するのである。

末梢神經刺戟に對する中樞神經系の反應

著者: 野間實利

ページ範囲:P.283 - P.286

 蟇の腦から得られる腦波に關してはLibet and Gerard(1938年)等の,又遊離の神經細胞密質塊の自發的電氣變動に關してはAdrian(1931年)等の研究がある。蟇の腦からは大略6Hz位の割合に規則正しいものと,その上に重疊する不規則な波が見られている。
 筆者は無麻酔,脊髄無切斷の儘蟇の大腦に電極を挿入し得る樣圖の如き固定装置を施し(第1圖a),先端の徑40μのAg-Agcl不分極性套管針電極(第1圖b)を直接大腦實質内に挿入し,之を抵抗容量結合型三段増幅器及び出力變成器を通してオッシログラフ振動子に誘導し,更に末梢神經を刺戟した場合の中枢神經系の興奮機序を明かにせんとした。末梢神經の刺戟にはPorter型インドクトリウムを用い,Helmholtzの短絡斷續法によつた。

皮膚壓迫による膝蓋腱反射閾値の變動について

著者: 長谷川渙 ,   山崎恒雄 ,   岡井一雄

ページ範囲:P.286 - P.289

 まえおき
 皮膚の壓迫刺激が正常人の四肢筋の緊張に及ぼす影響については,高木等1)2)3)の報告がある。これらは何れも被驗者をして隨意筋に豫め一定の緊張状態(tonic contraction)を保たせておき,壓迫によつて起る緊張の變化を同心型針電極により導いたN. M. U. のspike放電間隔を測定することによつて觀察したものである。
 今回吾々は,正常人に於て隨意筋に自覺的には何らの緊張(tonic contraction)をも加えない状態での壓迫效果を確かめようと思い,筋緊張に大きく左右される膝蓋腱反射の閾値について以下の實驗を行つた。

學會印象記

第25回日本生化學會總會,他

著者: 吉川春壽

ページ範囲:P.290 - P.292

 日本生化學會の第25回總會は今年の4月26日から28日まで3日間,東大理學部主催の下に行われた。從來,日本生化學會は醫學部の生化學教室,あるいは醫化學教室が主催して開かれて來たのだが,今度その先例がやぶられたわけである。このことは,昨年神戸で總會がひらかれた時,評議員會で,生化學會の會員中には理學部系統の會員もおいおい増えて來たし,あたかも,東大理學部化學科の左右田教授が來年停年に達せられるという機會でもあるので,一度,理學部畑の方でひらいて,醫學部の他の,もつとひろい分野の生化學者の關心をあつめたらよかろうと決議されたからであつた。そこで,會頭には左右田教授,副會頭には植物學科の田宮教授がなつて總會をひらくことにきまつたのである。
 生化學會は東大醫學部の生化學教室の柿内名譽教授が主唱されて20年あまり前にはじまつたので,したがつて醫科關係の會員が壓倒的に多かつた。けれども柿内教授は生化學が,醫學の一部ではなく,生理學,生姿學(Biomorphologie)と相ともなつて生物學をなす,大きな分野の學問であるとの考えで,醫學部外のあらゆる生化學關係部門を包含した學會たらしめようとの方針をとられたので,理科や農科系の人も入つていた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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