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特集 分子進化
中立説から見た分子進化
著者: 日下部眞一1
所属機関: 1九州大学理学部生物学教室
ページ範囲:P.2 - P.9
文献購入ページに移動 ダーウィンの自然淘汰説から一世紀ばかりをへた今日,生物進化についてのわれわれの理解は実に豊かになってきた。これは,ダーウィンが自然淘汰説を唱えるにあたって仮定せざるをえなかった"遺伝の強い原理"についてのわれわれの理解がメンデル遺伝学の発達とともに深まってきたからにほかならない。しかし,生物進化は個体レベルの事象ではなく,集団に起こるものであるからメンデル遺伝学に立脚した生物集団(種)の遺伝的構成を支配する法則を究明することが大切で,これには集団遺伝学の発達が大きく貢献してきた。ダーウィンの自然淘汰説はこのようにしてメンデル遺伝学に裏付けられ,生物進化を説明する唯一の指導原理として広く認められるようになってきたわけで,1950年代前半までにはネオ・ダーウィニズムまたは進化の総合説として不動の地位を占めるにいたった。この説によると,生物のいろいろな形質はすべて適応進化の産物であり,淘汰に有利な突然変異が累積的に集団内に蓄積されて生物進化が起こる。このような生物進化の研究はほとんどが目に見える表現形質を対象として行われてきたものであるが,現在ふりかえってみると進化の総合説を遺伝学的基礎に基づいて証明する確固とした証拠はあまりないように思われる。
しかし,1950年代からの分子生物学の発達によって,遺伝子の直接的産物であるタンパク質のアミノ酸配列を種間で比較して分子レベルでの進化を定量的に扱うことが可能となってきた。
しかし,1950年代からの分子生物学の発達によって,遺伝子の直接的産物であるタンパク質のアミノ酸配列を種間で比較して分子レベルでの進化を定量的に扱うことが可能となってきた。
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