icon fsr

文献詳細

雑誌文献

生体の科学40巻1号

1989年02月発行

文献概要

特集 分子進化

遺伝暗号の可変性

著者: 山尾文明1

所属機関: 1名古屋大学理学部生物学科

ページ範囲:P.10 - P.17

文献購入ページに移動
 I.はじめに:普遍性神話の崩壊
 1960年代に解読された遺伝暗号は部分的な変化を除いて現在のすべての生物に対し基本的に共通である。これは現存するすべての生物がその起源を同じとすることの一つの証拠とされている。同時に,この普遍性は現在の遺伝暗号が生命系の進化のごく初期に偶然に凍結された1)ものであり,その変化は遺伝情報のシステム全般に重大な結果をもたらすがために起こり得ないと考えられてきた。1979年のヒトのミトコンドリアに端を発して2),種々の生物のミトコンドリアでの多様な暗号変化が明らかになった3)(図1)。この時点でも,ゲノムが小さく,それがコードする遺伝子の数もごく少数に限られたオルガネラにのみ許される例外としての認識が一般的であった。しかしその後自律的増殖系においても原核,真核生物の両方で少数ながら遺伝暗号の変化した例が見つかった。真性細菌の一種マイコプラズマではUGAコドンがトリプトファンを4),繊毛虫の類ではUAA,UAGがグルタミン5,6)を規定している(図1)。こうした遺伝暗号の多様性はいずれも普遍暗号からの部分的な逸脱ではあるが,遺伝暗号自体も他の生物的諸側面と同様に進化の対象であり変化しうるものであることを示している。したがってこれらの暗号変化の過程を解明して多様化を生じる要因を探ることはきわめて重要な意味を持つ。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?