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特集 分子進化
免疫グロブリン遺伝子の進化
著者: 松田文彦1
所属機関: 1京都大学医学部医化学教室
ページ範囲:P.41 - P.48
文献購入ページに移動 脊椎動物は,さまざまな外敵の侵入から自己を防衛するための免疫系と呼ばれる非常に高度に発達したシステムを持つ。この系は大きく液性免疫と細胞性免疫の二つに大別される。液性免疫は主にリンパ球B細胞により担当されており,抗原の侵入に対し抗体(免疫グロブリン)と呼ばれる蛋白質を産生しこれに対抗する。抗体の種類は数百万種にも及ぶといわれるが,それだけ多種の抗体を産生する機構,またその遺伝子の構造,さらに進化的にいかにその機構が獲得されたのかといった疑問は,免疫学者のみならず生物学に携わる者にとって避けて通ることのできない大きな謎であった。近年分子生物学的手法が免疫学の分野に導入されて以来,それらに関与する遺伝子の単離により,免疫系の多様性に秘められたさまざまな謎が次々に解き明かされた。その中でも免疫グロブリン遺伝子の解析は,もっとも下等な脊椎動物であるサメから,両棲類,爬虫類,鳥類,そして哺乳類に至るまで広く行われており,分子進化学的考察を与えるに足りるだけのデータの蓄積がなされつつある。本稿では,この多様性獲得機構を主に進化的側面から展望し,またこの機構の持つ問題点に対しても若干の考察を加える。なお,免疫グロブリン遺伝子についての一般的事項に関しては,総説1,2)を参照されたい。
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