文献詳細
文献概要
解説
大脳視覚野の可塑性
著者: 津本忠治1
所属機関: 1大阪大学医学部バイオメディカル教育研究センター高次神経医学部門神経生理学研究部
ページ範囲:P.232 - P.241
文献購入ページに移動 大脳皮質視覚野は外側膝状体(lateral geniculate nucleus,略称LGN)で中継されてきた両眼からの視覚情報を統合し,また特徴抽出を行うことが知られている。この皮質視覚野の機能は,遺伝情報によってすべてが決定されているわけではなく乳幼時期の視覚入力によって容易に変化する。この事実を最初に実証的に明らかにしたのは,HubelとWieselによる次のような実験であった。仔ネコの片眼を一時的に遮閉すると,その後視覚野ニューロンはその目に対する光反応性を失い遮閉されなかった眼にのみ反応するようになる1)。また,このような変化は生後の一定の時期—いわゆる感受性期あるいは臨界期—にのみ起こる2)。これらの先駆的研究は,発達脳視覚野が実験的に比較的容易にアッセイできる可塑性をもっていることを示しており,その後可塑性に関する多数の研究がこの領域でなされる引き金となった。とくに1970年代,人工的な視覚刺激を幼若動物に与えた後に視覚野ニューロンの反応性変化を観察する研究が多くなされ大脳機能の生得説と生後学習説の論争が展開された3-8)。しかしながら,現在に至るまでその可塑性のシナプスメカニズムについては未だ十分にはわかっていない。ただ最近,他の領域での研究の進歩と相まって感受性期の視覚野における可塑的シナプスの動作様式やその可塑性を制御する因子がある程度明らかになってきた。
掲載誌情報