特集 研究室で役に立つ新しい試薬
活性制御試薬 ホルボールエステル関連試薬
ホルボールエステル関連試薬(総論)
著者:
佐野公彦1
高井義美2
所属機関:
1神戸大学医学部小児科
2神戸大学医学部第一生化学教室
ページ範囲:P.398 - P.400
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1941年にBerenblumらによって,化学発癌には二つの独立した過程,すなわちイニシエーションとプロモーションからなることが提唱された1)。彼らはマウスの皮膚での化学発癌実験に基づき,その量では腫瘍を発生しえない少量の発癌物質(bcnzopyrene)を1回マウスの皮膚に塗布したのち,同じ部位にそれ自体では発癌性のないクロトン油を繰り返し塗布すると皮膚ガンが形成されると報告した。この場合,benzopyreneのような物質をイニシエーター,そしてクロトン油のような物質をプロモーターと称した。その後,クロトン油から強力なプロモーター活性を持った物質,TPA(12-O-tetradecanoyl-phorbol-13-acetate)が分離された2)。そしてTPAには腫瘍のプロモーション活性だけではなく多彩な生物学的作用を持つことが明らかになった3)。TPAの作用機構は長らく不明であったが,1982年に神戸大学の西塚研においてTPAをはじめとするホルボールエステルがイノシトールリン脂質の代謝回転に共役して活性化を受けるカルシウム・リン脂質依存性蛋白質リン酸化酵素(C-キナーゼ)を活性化することが明らかにされ,世界中の注目を集めた4)。さらに,C-キナーゼがTPAの細胞内レセプターそのものであることが,西塚研を含む4つの研究室から独立して報告された5-8)。