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特集 研究室で役に立つ新しい試薬 糖関連化学物質(試薬) 糖鎖
糖鎖(総論)
著者: 岩森正男1 永井克孝1
所属機関: 1東京大学医学部生化学
ページ範囲:P.514 - P.517
文献購入ページに移動 生体の四大成分のうち,蛋白質は抗体,酵素,細胞構築などの多様な機能が明らかにされ,また核酸は遺伝情報を伝達する基本的役割が解明されるに至ったが,最後に残された糖質については,その機能が十分に明らかにされているとは言い難い。現在までに得られているデータから糖質の機能は三つに大別できる。その一は,血糖や肝,筋の貯蔵グリコーゲンに代表されるようにエネルギー源としての役割である。生体のほとんどの組織,とくにエネルギー消費のもっとも激しい脳はエネルギー源として糖をもっぱら用いている。しかし,通常状態のエネルギー源として糖の占める割合は非常に大きいものの,瞬発力を必要とする時にはクレアチンリン酸,飢餓状態では,脂肪酸,ケトン体,アミノ酸もエネルギー源として使用されるようになるため,エネルギー源としての糖の役割は非常に重要であるが,不可欠のものとは言い難い。また,第二の機能として,胃粘膜ムチンや耐寒糖鎖構造に代表されるように,温度,水素イオン濃度などの環境要因から生体を保護する役割がある。いずれも糖蛋白質の構造の一部として母体である蛋白質に対し独特の立体構造を付与し,物理化学的変化に対応している。一方,第三の機能である認識反応は,細菌やウイルス感染,細胞の増殖,分化,癌化,形態形成,免疫反応における自己非自己の識別,神経ネットワークの形成など高次の生物現象に関与し,近年もっとも活発な研究が展開されている分野である。
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