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文献詳細

雑誌文献

生体の科学40巻5号

1989年10月発行

文献概要

解説

ヒト染色体バンド構造と遺伝子塩基配列

著者: 池村淑道1

所属機関: 1国立遺伝学研究所遺伝情報研究センター

ページ範囲:P.586 - P.591

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 ヒトゲノムの全塩基配列を決定する計画が現実性を帯びてきている。ヒトゲノム構造を分子レベルで完全に理解しようとする試みと言える.このような巨大な計画が実行に移されるに際して,すでに得られているデータを概観し,どのような事実が解明されて行くのかを予想し,情報の解析方法を確立して行くことが重要に思える.現時点でGenBankデータベースに収録されたヒト塩基配列は総計3Mbに達している。決して少ない情報量とは言えない。ゲノム全体の0.1%ではあるが,全体像の片鱗なりと見えてきているのではないだろうか。本稿ではヒトの染色体バンド構造と遺伝子塩基配列との関係が徐々に解明されつつある現状を紹介してみたい。
 ヒトの分裂中期の染色体には約850本のG/Qバンドが見出される1)。DNAの長さについていえば,既知ヒト塩基配列の総計は,平均的なバンド1〜2本分の塩基数と言える。すでに蓄積した塩基配列の量は,総計としては光学顕微鏡のレベルに達している。筆者らはこのような大量の情報から,ヒトゲノムの全体的描像を知ろうと試みている。この一見無謀な研究も,きっかけはまったく異なった研究を出発点としていた。筆者らは数年前より,ヒト遺伝子のコドン選択パターンを決める要因を研究している2)。高等動物遺伝子の場合,同一生物種に限っても,コドンの3文字目が極端にGとCに偏る遺伝子(たとえば80%以上のG+C%)が多数存在する一方で,AとTに偏る例も多い。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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