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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学41巻2号

1990年04月発行

雑誌目次

特集 細胞接着

細胞接着―特集によせて

著者: 石川春律

ページ範囲:P.82 - P.83

 細胞相互の連結は生物の多細胞化に不可欠の出来事である。細胞は相互に認識し,連結する。機械的,力学的連結はとくに接着(adhesion)と呼ばれる。接着は細胞同士のみでなく,細胞外マトリックスとの間にも起こる。この過程を通じて細胞は集合し,組織が構成され,器官,さらに個体が完成し,維持される。
 多くの細胞間に接着のための特別な構造が存在することは古くから知られている。それには,上皮細胞間に見られる接着帯(zonula adherens)があり,また,デスモソーム(desmosome,接着斑)もある。ほかにも,これに類似した接着構造が認められる。細胞と細胞外マトリックスとの間の接着構造も含めて,細胞接着装置と総称される。しかし,特別な接着装置を形成していなくても接着機能を有している場合が多いことも忘れてはならない。接着は強さに差はあっても力学的連結を意味し,間腔閉鎖のための密着帯やコミュニケーションを主とするギャップ結合とは区別される。

細胞接着と形態形成

著者: 野村一也

ページ範囲:P.84 - P.87

 入念に準備された卵母細胞が成熟完成し,これまた入念に作られた精原細胞からできた精子が侵入して受精卵が完成する。1個の受精卵が分裂を繰り返して成体に至る過程で,どのような細胞が生まれ,どのように相万作用し,そしてその過程はどのように外界とかかわっていくのかを探るのが発生生物学である。発生の過程での細胞分化や組織構築,器官形成においては,活発な細胞接着分子の寄与があることが分かってきた。本稿では細胞と細胞とを接着させる分子(とくにCa2+依存性細胞接着分子)についてその形態形成とのかかわりに的を絞って概説したいと思う。

ミエリン形成細胞接着分子としてのMyelin-associated glycoprotein(MAG)

著者: 佐藤修三 ,   宮武正

ページ範囲:P.88 - P.90

 Myelin-associated glycoprotein(MAG)は,分子量約100kDaのミエリン糖蛋白の一種で,その含有量は全ミエリン蛋白の1%以下と微量であるが,神経軸索周囲に多く分布していることなどより細胞間認識,つまりミエリンと神経軸索との関係維持に重要な物質であろうと考えられていた。最近cDNAクローニングにより明らかにされたその分子構造は,細胞間認識分子としての特徴を備えていることが示された。ここでは,ミエリン形成細胞と神経細胞との相互認識におけるMAG分子の役割について,脱髄疾患との関係,免疫学的特徴,その分子構造と発現,生物学的機能などを通じて述べる。

細胞接着とストレス線維

著者: 藤原敬己

ページ範囲:P.91 - P.94

 I.はじめに―細胞の接着について
 ある細胞の接着を云々するとき,われわれは便宜上その細胞の接着している相手が別の細胞である場合と細胞以外の物質である場合に分けて議論を進めることが多い。それはこれら二つの場合が低倍率の光学顕微鏡などで,形態的に容易に区別することができるからである。しかし顕微鏡の分解能を上げて観察したり,ことに分子レベルで接着を考えてみると,この区別がそれほど明確でなくなってくる。これが上で「便宜上」という言葉を使った理由である。
 細胞と基質の接着は比較的容易にしかも明確に定義することができるのに対し,細胞と細胞の接着には,(非科学的な言い方であるが)隣合う細胞間でどれほど相手の存在を意識しているのかが問題になる。たとえば,密着結合(tight junction)は細胞同上の接着のもっとも緊密なもので,明らかに相手が必要である。しかしこのような緊密度の高い細胞間接着は例外で,普通には電子顕微鏡で見ると細胞間には明らかな間隙が認められ,その間隙には細胞外基質様物質が認められることも多い。したがって細胞同士の接着の場合にも,細胞―基質―細胞という連結を見ることができ,基本的には細胞間接着のあるものは細胞と基質間の接着としてとらえることができよう。しかし細胞間に間隙を持った接着の場合でも,明らかに相手の細胞の存在が重要なものもあり(たとえば,神経筋接合部),これらは細胞間接着とすべきであろう。

細胞接着と筋原線維形成

著者: 小宮山政敏 ,   豊田直二 ,   嶋田裕

ページ範囲:P.95 - P.98

 長線維状の筋細胞において,それを特徴づける筋原線維(筋細線維)は細胞に張力の発生する方向,すなわち起始から停止に向かって規則正しく走行している。また培養した骨格筋および心筋細胞においても,筋原線維は長管状の細胞においてはその長軸方向,また多角形の細胞においては対角線方向に規則的に分布している。このように筋原線維が規則的に配列するのは,細胞と基質(骨あるいは培養皿)あるいは細胞同士の接着によって細胞内に張力が発生することと深い関係があるのではないかということが想像されている1-4)
 細胞内の張力を直接測定したり,あるいは細胞に張力をかけることにより筋原線維形成の方向性を調べることは難しいが,張力のかかると思われる推定線4)と筋原線維走向との関係を,培養細胞の基質への接着部位を干渉反射顕微鏡(IR)を用いて調べることは可能である。このような実験系を用いて,われわれはニワトリ心筋細胞の培養において細胞接着と筋原線維形成との関係について観察4,5,6)したので,その結果について考察して述べることにする。

デスモソームとヘミデスモソーム

著者: 尾張部克志

ページ範囲:P.99 - P.102

 細胞接着には細胞間および細胞・基質問の接着がある。高等動物細胞の接着装置には裏打ち構造としてマイクロフィラメントが関与するものと中間径線維が関与するものがある。中間径線維の関与している接着装置としては,細胞間ではデスモソーム,細胞と基質間ではヘミデスモソームが知られている(図1)。デスモソームやヘミデスモソームが豊富に存在する組織は表皮や舌上皮,眼の角膜上皮などである。これらの組織は重層扁平上皮から成り,直接外界にさらされている摩耗の激しい組織である。このような組織では,高い再生力とともに細胞同士が互いに,また上皮全体が基質に強固に接着することが不可欠である。デスモソームとヘミデスモソームはこのような目的を達成するための接着装置と思われる。

細胞接着性タンパク質とその活性ペプチド

著者: 林正男

ページ範囲:P.103 - P.107

 細胞は,細胞相互および細胞外マトリックスに接着する。この接着により,細胞の形態,移動,分化,増殖,分泌などの活動が巧妙に制御される。17年前にフィブロネクチンが発見されて以来,細胞接着を担う因子として,フィブロネクチン,ラミニン,ビトロネクチン,テネイシンなど10数種の細胞接着性タンパク質が知られるようになった。さらにここ5~6年のうちに,これらタンパク質の活性部位が特定のオリゴペプチドとして同定され,このオリゴペプチドを認識する細胞表面の特異的レセプターが分離された。本総説では,これら細胞接着性タンパク質の活性ペプチド(表1)に焦点を合わせ,細胞接着因子群の最近の動向を整理した。なお,本文中のアミノ酸表記は一文字略号を使用した。

細胞接着と細胞極性

著者: 藤田尚男

ページ範囲:P.108 - P.114

 細胞の極性(polarity)という言葉の意味を,細胞の機能軸に沿って小器官,その他の細胞内構造物が配列されたり,あるいは細胞膜の分化が偏在していることと解釈するならば,おそらくほとんどすべての細胞に,何らかの意味の極性があるということになろう。たとえば線維芽細胞,果粒白血球,肥満細胞,形質細胞のような単独で存在する細胞にも,核,ゴルジ装置,中心小体などの位置的関係には極性がみられるし,また神経細胞にも軸索と樹状突起がある。
 あたえられた課題「細胞接着と極性」ということは,このような意味でなく,主に上皮細胞における細胞間の接着と極性の関係を説明せよということと理解される。

マクロファージ接着能

著者: 富田光子

ページ範囲:P.115 - P.118

 I.マクロファージとは
 無脊椎動物から高等動物に至るまで広く存在し,生体内で不要となった物質のみならず外界からの異物をエンドサイトーシスにより取り込んで処理を行い,また免疫の初期に重要な役割を演じる細胞群であるマクロファージ(macrophages,Mφ)は貪食細胞のうちでもミクロファージ(microphages,多形核白血球)に対してつけられた名称である。最近は各種組織,臓器で分化してしまった単球(腹腔Mφ,肺Mφ,肝臓Mφであるクッパー細胞,脳Mφであるミクログリア細胞など)をMφと称し,これらに末梢血中に見られるような単球と,その前駆体であるモノブラストイド細胞もしくはプロモノサイトなども加えた骨髄由来のMφ系細胞種をモノヌクレアファゴサイト(mononuclear phagocytes,単核貪食細胞)と呼んでいる1,2)

細胞接着分子に対するCキナーゼの作用

著者: 伊藤康一 ,   丸山悠司

ページ範囲:P.119 - P.121

 近年,細胞接着分子の存在が,神経系をはじめ種々細胞,組織の形態形成,発達,分化の過程で注目されている。しかしこの細胞接着分子とCキナーゼの相互作用に関する情報はきわめて少なく,その直接的証明はほとんどなされていない。現在,両者の関係を知る力法の一つは,Cキナーゼの活性化剤であるホルボールエステル(PMAなど)や,阻害剤のH7を培養細胞系に添加し,それらによる形態変化や接着性について検討することである。よって本稿ではこれら接着分子を,Ⅰ.免疫グロブリンスーパーファミリー(N-CAM,L1など),Ⅱ.インテグリンスーパーファミリー,Ⅲ.カドヘリンファミリーの3グループに大別し,神経系細胞を中心にそれぞれCキナーゼ関与の可能性について記述した。

連載講座 新しい観点からみた器官

副腎髄質―神経細胞のモデルとしての副腎クロマフィン細胞

著者: 岡源郎

ページ範囲:P.125 - P.133

 副腎髄質細胞(副腎クロマフィン細胞)は,ノルアドレナリン(NA),アドレナリン(Ad)などのカテコールァミン(CA)を生合成し,貯蔵し,分泌するいわゆる分泌細胞として古くから親しまれてきたが,最近ではCA以外に多くの神経ペプチドを産生し,貯蔵し,分泌する細胞としても注目されている。神経系では,一つの神経細胞に一つの伝達物質という概念は今日ぬぐい去られ,一つの神経細胞からいくつかの生理活性物質が放出されている例が多くあげられている。副腎髄質という内分泌器官もCAだけでなくいくつかの生理活性物質を同時に分泌している。したがって,一つの内分泌細胞が一つのホルモンを分泌するという概念もすでに過去のものになりつつある。
 さて,副腎髄質は内分泌器官ではあるが交感神経系に属し,特殊に分化した交感神経節に相当する。交感神経系では,節前ニューロンの終末からアセチールコリン(ACh)が放出され,節後ニューロンの終末からはCAが放出されて,情報を伝達している。副腎クロマフィン細胞は,節後ニューロンのように長い突起を伸ばしてはいないが,節前ニューロン(内臓神経終末)から放出されたAChに応答しCAを分泌している(図1)。したがって副腎クロマフィン細胞は,しばしば神経細胞のモデルとみなされ,得られた知見は神経細胞での伝達機構の解明にも多くの示唆を与えてきた。

実験講座

コンフォーカル・レンズ:共焦点レーザー走査型顕微鏡

著者: 久場健司

ページ範囲:P.134 - P.143

 生きた細胞の微細構造をとらえ,それが種々の生理機能を発揮しているときの経時変化を見ることは,その生理機能の機序を理解する上において,非常に重要なことである。このためには,光学顕微鏡に位相差装置や微分干渉装置を応用して,細胞の微細構造の輪郭をとらえるのが一般的方法である。最近では,TVカメラにより記録したビデオ信号の画像を電子回路によりコントラスト増強したり1),深さの異なる面での画像データにフーリエ光学理論を応用して,電子計算機により焦点外の画像成分を除去し,目的とする真の焦点面の画像を抽出する方法が行われている2)
 一方,細胞内のCa2+やHなどの遊離のイオン濃度の空間的変化を,それが生理機能を発揮しているときに,動的に記録する必要が高まり,Ca2+やH感受性プローブの螢光をTVカメラで記録し,画像処理により分析する方法が,ここ数年急速に普及しつつある3,4)

解説

逆説睡眠の最近の知見

著者: 酒井一弥

ページ範囲:P.144 - P.152

 よく知られているように,“逆説睡眠”あるいは“レム睡眠”(REM,Rapid Eye Movementの略)と呼ばれる特異な睡眠期の研究は,1953年にアメリカのAserinskyとKleitman1)が,夜間の睡眠時に速い目の動き(“急速眼球運動―REM”)が周期的に出現することを発見したことに端を発する。その後DementとKleitmanら2,3)によって,この特異な睡眠期には,それまで覚醒時に特有なものと思われていた,速く振幅の小さな脳波(“低振幅速波”あるいは“脳波の脱同期”)が記録されること,この睡眠期がほぼ90分間隔で夜間に4~5回繰り返され,“夢”と密接に関係していることが明らかにされた。1958年にDement4),翌年にはフランスのJouvet5)らによって,この睡眠期がネコでも観察されることが報告され,その後逆説睡眠の研究は急速に進んだのである。
 逆説睡眠期には,大脳皮質脳波の脱同期化や,急速眼球運動というきわめて特徴的な持続的(tonic)そして相動的(phasic)な現象の他に,数多くの現象が中枢や末梢で観察される。

話題

フィブリノーゲンの受容体認識領域と血小板凝集

著者: 高野静子

ページ範囲:P.153 - P.158

 血漿や血小板にはフィブリノーゲン(Fibrinogen,Fib),フォンウィルブランドファクター(von WillebrandFactor,vWF)やフィブロネクチン(Fibronectin,Fn)などの粘着性蛋白質が多量に含まれている。それらの蛋白質は血小板,白血球,単球,リンパ球や内皮細胞などと反応して,細胞と細胞または細胞と他の組織表面とを粘着させる生体糊として機能している1,2)。とくにFibは血漿中に2~4mg/ml含まれており,血小板凝集のコファクターである。FibはvWFやFnと協力して血小板を凝集させたり,内皮下組織に粘着,拡張させて,血栓を形成する。Fibは静止状態の血小板には作用しない。血小板はCa2+の存在下にADPやトロンビンなどの刺激を受けて受容体を形成するが,その時だけFibは血小板に結合する1)。Fib分子がどのようにして血小板の受容体により認識されるかという問題は,血小板凝集を中心とした止血血栓や病理血栓の形成機序の解明のために大変重要である。この稿では血小板受容体によるFib分子の認識機構について若干概説する。

第12回ヨーロッパ神経科学連合会

著者: 高橋智幸

ページ範囲:P.159 - P.161

 1989年9月3日から7日まで,イタリア,トリノ市(Turin)において,第12回ヨーロッパ神経科学連合会(Annual Meeting of the European Neuroscience Association)が開催された。トリノは,かつてイタリア王が君臨し,数学者ラグランジェを生んだ場所でもある。主催者は,P. Andersen(Oslo),P. Strata(Turin)で,今回は,European Brain and Behaviour Society第21回例会との一部共催であった。会は,Plenary lecture(8),Symposia(22)および口演とポスターからなり,約1,200の演題が発表された。
 Plenaly lectureは,先ず,P. AdamsがMembranecurrentsと題して残響甚しい大会場で話をした。エコーにまたエコーが生じる状態での講演は,きわめて聞きとりにくかった。すでに発表されている総説の内容に加え,M currentの単一チャネル電流記録,M currentへのG蛋白の関与などが述べられた。Mチャネルのコンダクタンスはきわめて小さく(~2pS),解析は容易でないように見受けられた。Mチャネルの活性化にpertussistoxin抵抗性G蛋白が関与するらしいが,cAMP,IP3,protein kinase Cの関与の可能性は,いずれも否定的であった。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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