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特集 LTPとLTD:その分子機構
アラキドン酸と海馬シナプスの長期増強
著者: 岡田大助1 杉山博之2
所属機関: 1理化学研究所国際フロンティア研究システム思考ネットワーク研究チーム 2九州大学理学部生物学科
ページ範囲:P.477 - P.482
文献購入ページに移動BlissとLφmoが最初に海馬歯状回でシナプス伝達の長期増強(long-term potentiation:LTP)を発見したとき,彼らはその機構として三つの可能性を挙げた1)。シナプス前終末(プレ)からの伝達物質放出の増加,シナプス後細胞(ポスト)の受容体の数の変化あるいは感受性の変化,シナプスの形状の変化である。その後LTPの分子メカニズムの研究は,CA1野における2アミノ5ホスホノ吉草酸(NMDA受容体の選択的拮抗薬)の抑制効果の発見以来加速度的に進んだ2)。歯状回の貫通線維と顆粒細胞の間のシナプスのLTP(以後単に歯状回のLTPという),およびCA1野の錐体細胞とシャッファー側枝または交連線維間のシナプスのLTP(以後単にCA1のLTPという)はNMDA受容体を含む機構でLTPが開始することが知られている。このNMDA型のLTPはポスト側で起こる現象であるとする考えが初めは有力であった。その理由となる実験を示そう。
LTPはNMDA受容体チャネルを通じてカルシウムイオンが流入することで始まる。このことからNMDA型LTPのもつ共同性,連合性が説明されている。カルシウムの流入がポスト側であることをはっきりと示したのはケージドカルシウム(Nitr-5)を使った実験である3)。この物質はカルシウムをキレートするが特定波長の光を受容すればこれを放出する。
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