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文献詳細

雑誌文献

生体の科学41巻6号

1990年12月発行

文献概要

解説

アンチセンス遺伝子導入による特定遺伝子発現の抑制

著者: 勝木元也1

所属機関: 1東海大学医学部DNA生物学

ページ範囲:P.569 - P.576

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 現代のバイオサイエンス研究戦略の要諦の第一は,生物機能を遺伝子機能に還元することである。これまで記載的であった現象が,遣伝子を介して物質的な根拠を得ることになるからである。脳の働きのように複雑かつ精妙な機能においても,究極においては遺伝子発現の制御機構の解明によって理解が深まることは間違いない。
 生物機能を遺伝子機能に還元する方法には,二つの方向がある。その第一は,調べようとする生物現象に関わって働いている遺伝子を,直接的または間接的方法によって単離してくることである。こうして得られた遺伝子は,その遺伝子がコードするmRNAや蛋白質の正常での発現を調べるためのプローブとなる。調べたい遺伝子機能は,はたして,いつ,どこで,どのような生理的条件下で発現し,生物機能を実現しているのかという疑問に答えるには必要な研究となる。さらに,遺伝子の塩基配列の決定から類似の遺伝子や遺伝子発現の調節機構が推定されることも数多くある。しかし,遺伝子DNA上の塩基配列だけから遺伝子の機能を,完全に予測することは難しい。生物学の法則は,物理化学的法則とは違って,すべての生物に共通の法則が成り立つとは限らない。生物は,それぞれ進化の歴史を背負っており,遺伝子によっては,種ごとあるいは極端な場合には個体ごとに生体内での働きを異にすることがあるからである。すなわち,塩基配列だけから,遺伝子機能の普遍的法則を導きだすことは不可能なことである。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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