連載講座 新しい観点からみた器官
腎臓―腎髄質の機能
著者:
今井正1
浜田泰一2
所属機関:
1自治医科大学薬理学教室
2東京大学医用電子研究施設
ページ範囲:P.590 - P.596
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腎髄質のもっとも重要な働きの一つは濃縮尿の生成機能である。陸上生活を営む鳥類や哺乳類は体液から水が失われる危険に常にさらされている。腎臓の基本的な機能単位であるネフロンでは老廃物を排泄するために膨大な量の糸球体濾過を行わなければならない一方では,体液浸透圧の維持のために少量の高浸透の尿を排泄しなければならない。たとえば糸球体濾過量を150ml/minとすると1日でおよそ200lにも達するが,1日の尿量は2~3lであり,糸球体で濾過された水の98~99%が尿細管で再吸収されることになる。しかも,排泄される尿の浸透圧は体液のそれより高張である。鳥類や哺乳類が高張尿を生成できるのは,腎髄質が発達したことによる。腎髄質が他の組織と異なるのは組織の浸透圧が著しく高くなっている点である。最終尿はこの腎髄質を貫通している集合管を通ることによって水が再吸収され高張な腎髄質と浸透圧平衡に達して高張尿となるのである。
したがって尿濃縮機構を解明するためには,腎髄質がいかにして高張になるかを明らかにしなければならない。鳥類や哺乳類で腎髄質が発達したのは主に尿細管がループを形成し対向流となったためである。この対向流系の発達が髄質の浸透圧勾配の形成に重要であることはKuhnら1-3)の一連の理論的および実験的解析以来広く認められているが,これはあくまでも原理的なものに過ぎない。具体的なモデルとその証明は現在でもなお未解決の問題である。