特集 脳の移植と再生
新皮質の異種間移植と血管新生
著者:
竹居光太郎1
高坂新一2
所属機関:
1日本医科大学第2生理学教室
2国立精神・神経センター神経研究所
ページ範囲:P.92 - P.97
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脳は,従来より免疫学的拒絶反応の起こりにくい免疫寛容部位であると考えられてきた1)。これは脳内の血管には一部の領域を除いて血液脳関門という機構が存在し,免疫担当細胞や抗体の脳組織への侵入が隔絶されるためであると推測されてきたからである。また,脳内には顕著なリンパ系が存在しなかったり,移植免疫に重要な役割を演ずる主要組織適合遺伝子複合体(MHC)抗原が正常脳にはまったく発現しなかったりすることも脳は免疫学的に隔絶された特殊な臓器であると考えられた要因である。これらのことから,脳は移植にもっとも適した臓器であると考えられたが,最近になって脳内移植の場合でも異種間や同種異系間移植では拒絶機構が存在し2,3),免疫抑制剤によってその拒絶反応が沈静化することが明らかにされた4,5)。このような事実から,脳は他臓器と同様に免疫学的拒絶機構を有し,免疫寛容部位ではないと考え直されるようになった。したがって,パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経系変性疾患に対する新治療法として注目されてきた脳内移植に関しても免疫学的拒絶反応を考慮せざるを得ない状況となった。そこで,脳内移植における免疫学的拒絶反応と血管構築や血液脳関門の存在様式などとの関係を検討することは重要な課題となる。異種間移植において励起される免疫学的拒絶機構と血管構築との関連性についてわれわれが行った研究を中心に以下に簡単に解説する。