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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学42巻3号

1991年06月発行

雑誌目次

特集 ペルオキシソーム/最近の進歩

ペルオキシソーム研究の歴史

著者: 東悳彦

ページ範囲:P.166 - P.168

 現在ペルオキシソームと呼ばれているオルガネラが最初に発見されたのは1954年で,発見者はスウェーデン・カロリンスカ研究所の若い大学院生Rhodin1)であった。彼は電子顕微鏡の先駆者の1人Sjöstrandのもとでマウス腎尿細管上皮細胞の研究をしていて,それまで未知のこの小体を発見した。1枚の限界膜で囲まれ,中に密度の高い顆粒性マトリックスがつまっている直径約0.5μmのこの顆粒は,これといった特徴もないままにmicrobodyと名付けられた。その2年後,Rouillerら2)がラット肝実質細胞でこれと類似のオルガネラを観察したが,それには現在尿酸オキシダーゼそのものと考えられている半結晶性のcoreが存在していた。
 一方このオルガネラへの生化学的アプローチは,形態学者達の研究とはまったく別個に,ベルギー・ルバーン大学のde Duve一派によって行われた。彼らは密度勾配遠心法で細胞を細分画し,多くの酵素の活性分布曲線を描いて,そのいくつかのピークが一致する画分に特定のオルガネラが存在するという作業仮説のもとに検索をつづけ,1953年にまず酸性加水分解酵素群を含有する袋状の小体としてリソソームという顆粒像を確立した3)

ペルオキシソームの形態と形成過程

著者: 市川操

ページ範囲:P.169 - P.174

 ペルオキシソーム(PO)の形態を述べるにあたって,筆者がこれまで行ってきたPOについての研究は哺乳動物(主としてラットとスナネズミ)の肝細胞で行われたので,以下の記述はこれらの材料から得られた知見を中心におき,その他の事項については文献的な紹介に止どめることをお断りしておく。とくに本稿では,最近筆者らが微細形態分析のための画期的な試料処理法として重用している急速凍結置換固定法1)で肝細胞を処理した場合,POおよびそれに関連があると云われている細胞小器官がどのように観察されるか,またPOの形態形成に関与すると考えられている細胞内諸構造がPOの形成促進時にどんな動態を示すか,細胞が生きている時の状態をほぼ忠実に反映していると考えられる急速凍結試料の切片像を観察した結果を中心に,その形態と形成機序について考察する。
 POは電子顕微鏡ではじめてその存在が明らかになった細胞小器官の一つで,1954年Rhodinによってマウス腎臓の近位尿細管上皮細胞に含まれる直径0.3~0.6μm,一層の限界膜に包まれ,中等度の電子密度をもった均質な微細果粒状の基質を容れる球状の構造物としてはじめて記載された2)。この時点で,この小体はその生理学的意義がわからないままに一般的な名称としてマイクロボデイと呼ばれた。

ペルオキシソーム形成因子

著者: 塚本利朗 ,   三浦恵 ,   下澤伸行 ,   藤木幸夫

ページ範囲:P.175 - P.179

 ペルオキシソームは真核細胞生物に広く存在する細胞内小器官の一つであり,種々の重要な機能を有している。その形成機構については,細胞質の遊離型ポリソームで合成された構成蛋白質が翻訳後に,すでに細胞内に存在しているペルオキシソームに輸送され,その結果ペルオキシソームが成長,分裂して増えていくというモデルが一般に受け入れられている1)。ペルオキシソームが細胞内で安定に存在していくためには,多くの因子の関与が考えられる。新たに合成されたペルオキシソーム蛋白質には局在化のためのシグナルが存在し,またそのシグナルを認識するレセプターや膜を介した蛋白質輸送のための装置の存在がペルオキシソーム膜上に想定される。また細胞質に存在して,膜透過に適するように蛋白質の高次構造をほどくいわゆるunfoldaseや,ペルオキシソームの構造を維持し,分裂に関与する因子なども含まれるであろう。これら諸因子のうち局在化シグナルについては,われわれのグループを含め,in vivo2),in vitro3)の移送実験により,ある程度その実体が明らかにされてきている。しかしながら,それ以外の因子については,ペルオキシソームの形成過程そのものが複雑なこともあり,ほとんどその実体は不明である。しかしこれらの因子のいずれかに異常がおきた場合,ペルオキシソーム形成過程が障害されると考えられる。

ペルオキシソーム蛋白質の局在化シグナル

著者: 大隅隆

ページ範囲:P.180 - P.183

 ペルオキシソームの蛋白質は細胞質ゾルの遊離ポリソームで合成された後,小胞体を経由することなく,すでに存在するペルオキシソームに輸送されると考えられている1)。ペルオキシソームは分裂によって新しいペルオキシソームを形成するが,時によっては多数が細管状構造を介してつながった,“ペルオキシソームレティキュラム”の構造をとるという。
 これまでに数多くのペルオキシソーム蛋白質についてcDNAのクローニングやin vitroの翻訳実験が行われているが,それらの結果からわかったことは,ごく一部の例外を除いて大半のペルオキシソーム蛋白質は切断性のシグナルペプチドをもたないということであった。このことは,成熟体のアミノ酸配列の中にペルオキシソームへの輸送シグナルが含まれていることを示唆しており,やはり小胞体とは無関係に輸送されるミトコンドリアや葉緑体の蛋白質の場合とは好対照をなしている。ここ数年の間に,ペルオキシソーム局在化シグナルの研究において大きな進歩があったので,ここで概説してみたい。なおこの問題については,一部は宮沢らによってすでに本誌でも取り上げられており2),また他にもいくつかの総説が出ている3-6)ので,参考にしていただきたい。

ペルオキシソーム酵素SPT(の発現調節)と原発性高シュウ酸尿症

著者: 市山新 ,   西山孝三 ,   船井恒嘉 ,   小田敏明

ページ範囲:P.184 - P.188

 原発性高シュウ酸尿症(Primary hyperoxaluria type 1,PH1と略)は,グリオキシル酸(シュウ酸の直接の前駆体)の代謝異常に基づくシュウ酸の過剰生産を本態とする先天性代謝異常症である。生化学的にはシュウ酸とともに多量のグリコールが尿中に排泄されることが特徴であり,臨床的には水に難溶なシュウ酸カルシウムによる再発性腎結石,腎石灰化症などを起こす。現時点では肝臓移植あるいは肝臓・腎臓移植以外には姑息的な治療法しかなく,早晩腎不全となることが多いので,予後は悪いとされている1,2)
 グリオキシル酸は尿中シュウ酸排泄量(成人で約0.35mmol/d)よりもはるかに過剰に(ヒトで2~8mmol/d)生産されているらしい3)。したがって,動物がシュウ酸結石症を病むことなく生きて行くためには,グリオキシル酸を効率よく他に代謝する酵素か,いわゆるcalcium oxalate crystal growth inhibiting substance(s)4)のいずれか,または両方が必要と考えられる。

ペルオキシソームのアラニン:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼ

著者: 野口知雄 ,   藤原智子 ,   林寿恵子 ,   櫻庭春彦

ページ範囲:P.189 - P.193

 ペルオキシソームは,ラット肝臓では一群の抗脂血剤を投与すると著しく増殖するという興味深い性質を示すにもかかわらず,生理的に意義のないオルガネラであり,原始呼吸に寄与していた酵素群が残存している化石顆粒だと考えられていた1)
 ところが,1976年Lazarowとde Duve2,3)によって脂肪酸のβ-酸化系がラット肝臓において,ミトコンドリアの他にペルオキシソームにも存在し,その活性が抗脂血剤の投与によって著しく上昇することが明らかにされ,ペルオキシソームの機能が脚光をあびだ。そのため,動物のペルオキシソームに関しては,主に脂質代謝との関連で研究が進められてきた4-9)。しかし,動物のペルオキシソームは脂質代謝の他にも重要な役割を演じている。著者らはLazarowらと時を同じくして,動物のペルオキシソームがアミノ酸10),グリオキシル酸9),核酸塩基の代謝11-14)にも重要な役割を演じていることを明らかにしてきた。

ペルオキシソーム酵素ウリカーゼの遺伝子構造

著者: 伊藤正樹

ページ範囲:P.194 - P.197

 ペルオキシソーム酵素ウリカーゼの遺伝子が研究の対象として関心をもたれるのは,次の4点による。①ペルオキシソームに局在する酸化酵素として,局在化シグナルや活性中心などの機能部位と構造との関連。②ウリカーゼ活性をもつラットでは肝臓に強い活性があり,臓器特異的発現調節がみられている。③ウリカーゼを含め尿酸分解系酵素群は高等動物ほど脱落しており,進化の過程で遺伝子の不活性化が起きていることが示唆されている。④Lesch-Nyhan症候群の原因酵素であるヒポキサンチンーグアニンホスホリボシルトランスフェラーゼの変異遺伝子をマウスに導入しても,発症がみられない1)。したがって,ヒトにおけるLesch-Nyhan症候群などの高尿酸血症の発症とウリカーゼ活性の脱落との関連が考えられる。
 そこで,本項においては,今後これらの課題の解決にむかう基礎として,今日までに知られているウリカーゼ遺伝子の構造に関する知見を紹介する。

ペルオキシソーム酵素ウリカーゼの発現特異性

著者: 本島清人

ページ範囲:P.198 - P.200

I.ウリカーゼとは
 ウリカーゼ(尿酸酸化酵素,EC 1.7.3.3)はペルオキシソームに局在し,プリン代謝系において尿酸を酸化してアラントインにする酵素である。この際水素受容体として酸素のみを用い,この種の酸化酵素としては例外的に,水ではなく過酸化水素を生成する。尿酸酸化酵素は核酸代謝に関わる酵素であるが,すべての細胞に必須というわけではなく,生物種における分布,発現する組織特異性,細胞内局在,また発現時期の特異性など,以下の特徴が知られている。

ペルオキシソーム増殖薬

著者: 渡辺隆史 ,   須賀哲弥

ページ範囲:P.201 - P.203

 1965年,Hessらは代表的な脂質低下薬,クロフィブレートがラット肝ペルオキシソームを著しく増殖させ,しかもカタラーゼ活性を上昇させると報告した1)。以来,薬物によるペルオキシソーム増殖に関する多くの研究が脂質低下薬を中心として行われ,クロフィブレートと構造的にはまったく無関係の薬物によってもペルオキシソームの増殖や酵素誘導が起こることが明らかにされている。また,ペルオキシソーム増殖薬を長期間投与すると肝癌が発生するというReddyら2)の報告がきっかけとなり,ペルオキシソーム増殖と酵素誘導は毒性学的にも注目を集めている。本章では,ペルオキシソームの増殖や酵素誘導を引き起こす薬物につき,その特徴,誘導の機序,毒性学的意義について概説する。なお,これらに関してすでに多くの著書や総説が出ているので,詳細についてはそれらを参照されたい3-7)

ヒトの遺伝性ペルオキシソーム病

著者: 折居忠夫 ,   鈴木康之 ,   下澤伸行

ページ範囲:P.204 - P.207

 ペルオキシソームの形態ならびに機能障害に起因する疾患は表1に示したごとく,臨床的にも生化学的にも異質性に富んだ疾患群が含まれている。新生児期・幼児期に重篤な症状を呈する疾患が多く,生理的にペルオキシソームの重要性を物語っている。ペルオキシソーム病のプロトタイプであるZellweger症候群(ZSと略)は生体膜研究の実験系として,またペルオキシソームの器官形成への関与,さらには神経細胞移動の機構の研究にきわめて重要な疾患で,本稿ではZellweger症候群の臨床,病理,生化学的異常,相補性解析による分類,病因について簡単に触れた。

連載講座 新しい観点からみた器官

皮膚:表皮細胞における細胞間接着と細胞基質間接着の制御

著者: 北島康雄

ページ範囲:P.209 - P.217

 皮膚は表皮と真皮から構成されている。表皮は下層から基底細胞層,有棘細胞層,顆粒細胞層,角質細胞層に分けられる。表皮細胞は基底細胞層で分裂し,上層へ移行するにつれて分化(角化)し,最終的に死細胞となり角質層を形成する。真皮は表皮真皮境界の特種な構造1)を介して表皮を構造的,機能的に支えている。真皮には線維芽細胞,血管,リンパ管,神経,皮膚付属器などがあり,それぞれが皮膚の構造と機能を分担している。すなわち,真皮成分はそれぞれが一つの構造機能単位として働いている。一方,表皮細胞は,表皮内に存在するランゲルハンス細胞などの免疫担当細胞および遊走しているリンパ球などの血液成分と相互作用,クロストークをしながら免疫学的器官としても機能している2)。皮膚はこのような広範な機能を包括しており,それぞれの分野で新しい研究成果が蓄積されている。
 このように多方面に渡る皮膚の機能が有機的に遂行されるには,細胞間,細胞と基質間の接着構造やその制御とシグナル伝達が重要である。そこで,表皮細胞間接着および表皮真皮境界接着の構造,とくにデスモソーム,インテグリンについてその制御機構に関する最近の知見をわれわれの研究も加えながらまとめ,表皮および表皮細胞が研究モデルとして広く医学,生物学の分野に貢献できる可能性を模索したい。

解説

ミトコンドリア蛋白質の輸入装置

著者: 斧秀勇 ,   坪井昭三

ページ範囲:P.219 - P.226

 ほとんどすべてのミトコンドリア構成蛋白質は,核の遺伝子にコードされ,細胞質の遊離型ポリゾームで合成される。また,それらは一部の例外を除き,N末端にミトコンドリアへのターゲッティングシグナルの機能を持つペプチド(分子量数千,延長ペプチドまたはプレシークエンスと呼ばれる)を持つことも明らかにされている1,2)。細胞質で合成されたミトコンドリア蛋白質前駆体は,それぞれミトコンドリア内のそれらが定着すべき場所に輸送されなければならない。近年このミトコンドリア蛋白質の輸送機構を解明するための研究がわが国を始め各国の多くの研究室で活発に行われており,その複雑な分子機構も徐々に明らかにされつつある。ことに最近になって,ミトコンドリア蛋白質前駆体の輸送過程に関与する様々な因子が同定されるとともに,それらの機能,役割の解析も開始されている。本稿では,われわれの研究室で得られた結果を中心に,前記輸送過程に関与する諸因子についてこれまでに知られているところを解説してみたい(図1)。

アクチビンと形態形成

著者: 上野直人 ,   浅島誠

ページ範囲:P.227 - P.233

 受精からはじまり個体が形成されるまでの動物の発生過程には細胞増殖,分化などの精緻な調節機構が存在すると考えられている。最近,この調節メカニズムに細胞増殖因子が深く関わっていることが明らかにされつつある。なかでも細胞増殖因子の一つTGF-βに似た構造をもつ「アクチビン」が初期発生の重要な調節因子として注目されている。本稿ではアクチビン発見の背景,そしてアクチビンが形態形成因子として機能する場合のメカニズムを考察するとともに,この分野の研究における解決すべき問題点などを指摘してみたい。

話題

ペルオキシソーム病モデル細胞を用いたヒト病因遺伝子の解明―疾患遺伝子治療を目指して

著者: 下澤伸行 ,   塚本利朗 ,   鈴木康之 ,   折居忠夫 ,   藤木幸夫

ページ範囲:P.234 - P.236

 Zellweger症候群に代表されるペルオキシソーム欠損性疾患群の一次的病因については未だ解明されていないが,その病因因子を明らかにする上で,ペルオキシソーム生合成過程に異常を示す変異細胞を用いることは非常に有用と考えられる。たとえば,DNA修復機構に異常をもつヒト色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum,XP)のB群においては,同じ相補性を示すチャイニーズハムスター卵巣(CHO)変異細胞を用いることにより,ヒトDNA修復遺伝子がクローニングされ,B群XPの病因遺伝子であることが証明されている1)
 筆者らは,すでにCHO細胞より相補性群を異にする三つのペルオキシソーム欠損変異細胞(Z24, Z65,ZP92)を分離し,このうちZ65においてペルオキシソームを形成させる遺伝子のクローニングにも成功している(本号特集,塚本らの項参照)。一方,ヒトのペルオキシソーム欠損性疾患群におしても,細胞融合法による遺伝学的異質性の検討により,本邦2)および米国Johns Hopkins大学グループによる分類3)を併せて少なくとも8つの相補性群が存在する(表1)。

機能不明の脳神経

著者: 藤田一郎

ページ範囲:P.237 - P.239

 脊椎動物の脳からは12対の脳神経が出ている。「第2脳神経は何か?」と問えば,医学や動物学を学んでいる学生は,即座に,視神経と答えるだろう。それで正解である。しかし,50年前,答えは別であった。終神経(terminal nerve)―これが,当時の正しい答えである。この神経は,1878年にFritschがサメで発見し,以来,世紀の変わり目に,多くの解剖学的研究がなされ,ヒトを含めてほとんどすべての脊椎動物が持っていることが確かめられた。ところが,その後,数十年の間,終神経は研究者から無視され続け,1968年には,国際解剖命名規約の上で,第2脳神経の座から滑り落ちた(今日,終神経は命名規約では自律神経の一部にリストされているが,この分野の研究者は第0脳神経と呼んでいる)。ちなみに,Fritschが論文を発表した1878年から100年の間に発表された終神経に関する論文の数は50編にも満たない。ところが1980年代になって,この神経の奇妙な側面があいついで明らかになり,終神経の研究のリバイバルが訪れた。
 終神経はどう奇妙なのか。まずその解剖学的経路である。板鰓類(サメやエイの仲間)のように終神経が神経束として独立して走行している例をのぞき,多くの脊椎動物では,終神経の細胞体は嗅神経の中に混在している(図1A,B)。そして,その神経突起の一部を嗅上皮に送っている。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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