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機能不明の脳神経
著者: 藤田一郎1
所属機関: 1理化学研究所国際フロンティア研究システム
ページ範囲:P.237 - P.239
文献購入ページに移動 脊椎動物の脳からは12対の脳神経が出ている。「第2脳神経は何か?」と問えば,医学や動物学を学んでいる学生は,即座に,視神経と答えるだろう。それで正解である。しかし,50年前,答えは別であった。終神経(terminal nerve)―これが,当時の正しい答えである。この神経は,1878年にFritschがサメで発見し,以来,世紀の変わり目に,多くの解剖学的研究がなされ,ヒトを含めてほとんどすべての脊椎動物が持っていることが確かめられた。ところが,その後,数十年の間,終神経は研究者から無視され続け,1968年には,国際解剖命名規約の上で,第2脳神経の座から滑り落ちた(今日,終神経は命名規約では自律神経の一部にリストされているが,この分野の研究者は第0脳神経と呼んでいる)。ちなみに,Fritschが論文を発表した1878年から100年の間に発表された終神経に関する論文の数は50編にも満たない。ところが1980年代になって,この神経の奇妙な側面があいついで明らかになり,終神経の研究のリバイバルが訪れた。
終神経はどう奇妙なのか。まずその解剖学的経路である。板鰓類(サメやエイの仲間)のように終神経が神経束として独立して走行している例をのぞき,多くの脊椎動物では,終神経の細胞体は嗅神経の中に混在している(図1A,B)。そして,その神経突起の一部を嗅上皮に送っている。
終神経はどう奇妙なのか。まずその解剖学的経路である。板鰓類(サメやエイの仲間)のように終神経が神経束として独立して走行している例をのぞき,多くの脊椎動物では,終神経の細胞体は嗅神経の中に混在している(図1A,B)。そして,その神経突起の一部を嗅上皮に送っている。
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