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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学42巻4号

1991年08月発行

雑誌目次

特集 開口分泌の細胞内過程

開口分泌の膜動態

著者: 藤田尚男 ,   千田隆夫

ページ範囲:P.244 - P.250

I.開口分泌は腺細胞の分泌様式の中の一つである
 腺細胞の分泌様式は次の4型に分けられる。
 その一は,細胞が生理的な変性を起こし,細胞体全体が分泌物として腺腔へ出されるものであり,全分泌(holocrine secretion)と呼ばれる。皮脂腺がその好例である。また胃の表層粘液細胞が胃小窩の深部から上昇し,生理的変性を起こして胃の内腔へ出ていくのも一種の全分泌といえるであろう。

開口分泌のビデオ顕微鏡による観察

著者: 寺川進

ページ範囲:P.251 - P.254

 エキソサイトーシス(開口分泌)過程はほとんど電子顕微鏡的な手法で観察研究されてきており,光学顕微鏡的にこれを観察した例は卵細胞や肥満細胞など特別な細胞に限られていた。一般的な外分泌,内分泌細胞,また,神経分泌細胞,そして,神経終末ではそれと思われる反応が見られず,エキソサイトーシス仮説の画竜点睛を欠くところとなり,この仮説に対する反対を誘った。EdwardsとEnglertを中心とするグループは,微分干渉顕微鏡と画像処理装置を用いて培養クロマフィン細胞を観察し,開口分泌らしきものが見えると報告した1)。しかし,その画像は不明瞭で,信ずる学者は少なかった。われわれは最新の微分干渉顕微鏡,CCD型ビデオカメラ,高速画像処理装置などを用いて,15,000倍以上の超高倍率で分泌細胞のビデオ観察をしたところ,意外に容易に,明瞭な開口像が捉えられた2)。画像処理装置はコントラスト増強により光顕の分解能を上げ,反応前後の差画像や時間微分画像を作ることにより,分解能以下の微小顆粒を可視化する。微分干渉顕微鏡は偏光を使い,標本上の屈折率勾配に基づく干渉効果によって,細胞を1μmの厚さで薄切りにしたような明暗像を作り出す(光学的断層化)ので,構造の重なりが少なく,高い空間分解能が達成できる。これにより開口分泌をいわば直視することが可能となった。

開口分泌の共焦点レーザー顕微鏡観察

著者: 瀬川彰久

ページ範囲:P.255 - P.259

 細胞内に膜でつつまれた分泌顆粒や小胞があり,それらが細胞表面の形質膜と融合して開口し,顆粒内容物を細胞外に放出したり,顆粒(小胞)膜を形質膜に組み込む時,その現象を開口分泌と呼ぶ1)。開口分泌によって神経伝達物質,ホルモン,消化酵素などが分泌することはよく知られている2)。開口分泌は膜の輸送や余剰膜の取り込みなど,きわめて動的な細胞過程で成り立つとされるが,生きた細胞でそうした動態を直接観察することは非常に困難である。私たちは最近共焦点レーザー顕微鏡によりラット唾液腺の開口分泌過程を直接観察したので3,4),その結果を従来の知見と対比しながら紹介してみたい。

分泌機能とゴルジ装置の動態

著者: 山科正平 ,   玉木英明

ページ範囲:P.260 - P.263

 分泌細胞ではゴルジ装置がきわめて良く発達しているが,その全体像は細胞の機能相に応じて非常に大きな変動を呈し,これがゴルジ装置が示す重要な特徴にもなっている。本稿では唾液腺の腺房細胞を一つの例に取りあげ,分泌細胞におけるいろいろな機能相に応じてゴルジ装置の形態がどのような変動を示すかについて自験例を中心に解説したい。

分泌蛋白質の生合成―In situ hybridizationによる解析

著者: 和泉伸一 ,   中根一穂

ページ範囲:P.264 - P.267

I.分泌蛋白質の生合成に関与する要素とin situ hybridization
 真核細胞で蛋白質が生合成されるには,遺伝子がhnRNAに転写され,スプライシングを受けてメッセンジャーRNA(mRNA)となる。mRNAは核から細胞質基質へ移行して,リボゾームと結合すると蛋白質への翻訳が開始される。mRNAの5'端にシグナルペプチド(シグナルシクエンス)をcodeする配列があると,そのmRNAは分泌蛋白質や膜構造蛋白質へと翻訳される。これらのmRNAはリボゾーム複合体を形成し,最初にシグナルペプチドが新生される。シグナルペプチドがリボゾームから突出し,いくつかの過程を経て小胞体に結合する。次々にリボゾームがmRNAに連結してポリリボゾームとなり粗面小胞体を形成し,シグナルペプチドとそれに連続して新生されたポリペプチド鎖は粗面小胞体内腔に導き出され,分泌蛋白質と膜構造蛋白質の生合成が進行する。
 個々の細胞や組織の中で,特異的なmRNAの分布を検出する技法がmRNA in situ hybridization法(mRNA-ISH)である。mRNA-ISHにより分泌蛋白質のmRNAが検出されれば,その場でその時にその特異的な蛋白質が生合成されていると推定できる。

分泌蛋白質のプロセシング

著者: 劉雲才 ,   竹内利行

ページ範囲:P.268 - P.271

 ペプチドホルモン,血液凝固因子,増殖因子など分泌蛋白質の生合成は,核内でそれらをコードするDNA遺伝子がRNAポリメラーゼによってmRNA前駆体に転写されることによって始まる。このmRNA前駆体は,成熟mRNAをコードするエクソン部分と,エクソン間を埋めるイントロン部分から成り,イントロン部分が除去され,エクソン部分がつなぎ合わさって(スプライシング)成熟したmRNAになる。核内で生合成されたmRNAは細胞質に輸送され,リポソームと接着し,分泌蛋白質のアミノ(N)末端側からシグナルペプチドが合成される。シグナルペプチドはシグナルペプチド認識顆粒(Signal peptide Recognition Particle=SRP)と結合し,mRNA-SRP複合体が小胞体の細胞質側にあるSRPリセプターと結合し,小胞体膜にドッキングする。分泌蛋白質は,シグナルペプチドを先頭にして小胞体膜を貫通し,小胞体内腔に入り込む。シグナルペプチドは小胞体腔表面にある酵素(シグナルペプチダーゼ)によりただちに切断をうけ,分泌蛋白質前駆体は小胞体からゴルジ複合体へと転送される。ゴルジ複合体はシス,メディアル,トランスの三区画に分けられ,分泌蛋白質前駆体はシス側から順次トランス側に移動する。トランス側ゴルジ体から細胞外へ分泌蛋白質が輸送される経路は二つある。

膜顆粒の軸索内輸送

著者: 藍澤広行

ページ範囲:P.272 - P.275

 細胞内で合成された物質は,それぞれが目的の場所に輸送された後に機能を発揮している。細胞内輸送としては,神経細胞における軸索内輸送が代表的な例である。最近になって,軸索内輸送を行うキネシン,ダイニンなどのモータータンパク質が発見され,物質の輸送はモータータンパク質によるATPの加水分解エネルギーがその動力源となっていることが明らかになった。その後,神経以外の細胞においても,染色体や核の移動を担っていると思われるモータータンパク質が次々と発見された。これら一連のタンパク質は一つのファミリーを形成していると考えられる。
 本稿では,筆者らが行ってきた副腎髄質のキネシンの研究を交えながら,キネシンファミリーの機能について概説する。

刺激分泌連関におけるイオンチャネルの役割

著者: 加藤昌克

ページ範囲:P.276 - P.280

 刺激分泌連関は細胞外からの刺激にはじまり細胞内から細胞外への物質(ホルモン,伝達物質など)の放出に至る一連の過程をいう。放出は多くの場合,開口分泌であるが,その像はまず電子顕微鏡でとらえられた。近年,ノマルスキー顕微鏡とコンピュータによる画像処理を組合せることにより生きた細胞における開口分泌をビデオでとらえることが可能になった(本特集寺川氏の総説を参照)。生理学的には神経筋接合部の終板電位の解析から伝達物質の量子放出が明らかになり1,2),その放出の過程にカルシウムイオン(Ca2+)が重要であることが示された3)。このCa2+の役割はDouglas4)によって一般化され,下垂体細胞からのホルモン分泌,副腎髄質細胞からのエビネフリンの分泌,唾液腺の分泌などもすべて細胞外から細胞内へのCa2+の流入を介して起こるとされた。このDouglasのカルシウム説はその大筋において現在も変更の必要はないと考えられる。ここで便宜上刺激分泌連関を二つの過程にわけて考えたい。一つは細胞質Ca2+濃度(〔Ca2+i)の制御である。他は〔Ca2+iの上昇から開口分泌に至る過程である。本稿では前者すなわちいかなるメカニズムで〔Ca2+iの上昇が起こるのかを下垂体成長ホルモン(GH)細胞を例に概説する。

分泌とシグナル伝達―細胞外ATP作用を中心に

著者: 岡島史和

ページ範囲:P.281 - P.287

 エキソサイトーシスに細胞内Ca2+が重要な役割を担っていることは周知の事実である。したがってエキソサイトーシスのシグナル伝達機構の研究も細胞内Ca2+を中心にその濃度の制御機構とその作用点の解析といった形で進められてきた。Ca2+は他の多くの生命現象とも深く関わっており,その制御機構の研究はエキソサイトーシスの研究に限らず細胞生物学全般の興味の対象としてこれまでに研究されてきている。その結果,細胞内Ca2+プールからのCa2+動員と深く関わっているイノシトールリン脂質代謝系の調節機構,細胞外Ca2+の細胞内への流入機構(各種Ca2+,チャネルの同定およびその制御機構)が次第に明らかにされつつある1)。一方,エキソサイトーシスに関わるCa2+の作用点として分泌顆粒膜上の多くのCa2+制御タンパクが同定されている2)。その中でCa2+の標的酵素であるホスホリパーゼA2生成産物,アラキドン酸代謝物質の分泌顆粒膜―細胞膜融合への関与など興味深い知見3)も得られている。細胞内Ca2+以外の多くの要因,たとえばAキナーゼ,Cキナーゼの関与も重要である。また最近になって各種GTP結合タンパクの関与も示唆されるようになった4)

ホルモン分泌調節と形態変化―下垂体前葉成長ホルモン分泌細胞を中心として

著者: 嶋田修 ,   嶋田―登坂久美 ,   石川春律

ページ範囲:P.288 - P.294

 哺乳動物の下垂体前葉には,少なくとも5種類の異なったホルモン分泌細胞があり,それらの細胞のいずれもが,視床下部からの因子や末梢からのフィードバック機構により,分泌機能が調節されている1)。その中で,成長ホルモン分泌細胞(GH細胞)は,多くの哺乳動物において,一定周期で10~100倍程度の分泌パルスを繰り返すというホルモン分泌パターンを示す2)。このように,雄ラットにおける下垂体ホルモンの日内変動のなかでは,これほどダイナミックな分泌調節が行われているのはGH細胞のみである。したがってGH細胞はホルモン分泌調節時の形態変化を調べる良いモデルと考えられる。ここではGH細胞についてのわれわれの観察結果を中心に,ホルモン分泌の形態を総説する。

連載講座 新しい観点からみた器官

胃腸:粘膜の形態形成と細胞分裂

著者: 片岡勝子 ,   陳竹君

ページ範囲:P.295 - P.303

 胃腸の壁は粘膜,筋層,漿膜(または外膜)の3層で構成されており,最内層の粘膜の表面(胃腸の内腔に接する面)は単層円柱上皮で覆われている。完成された胃腸粘膜には,絨毛,胃腺,腸陰窩のような突起や陥凹があるが,これらも連続した単層上皮で覆われていることには変りがない。そこで,まず,単層上皮の一般的性質について考えてみよう。

胃:ストレス蛋白質と粘膜防御機構

著者: 中村圭也 ,   青池晟 ,   川井啓市

ページ範囲:P.304 - P.308

 消化器領域とくに胃粘膜障害の研究において非常に興味深いテーマの一つに低濃度の壊死性物質(mild irritants)によって誘導される胃粘膜保護作用,いわゆるadaptive cytoprotectionと呼ばれる現象がある。これは1983年A. Robertによりラットのin vivoの系を用いて発表されたものであるが1),その後この現象が胃粘膜の単離細胞を用いたin vitroの系においても同様に認められることより2),Robert自身も述べているように細胞自身に自己防御の機構が存在することが推察されていた。しかし,その細胞内機序については未だ不明である。
 一方,近年の細胞生物学あるいは分子生物学における進歩は,種々のシグナルや非特異的な刺激に対する各臓器の応答を細胞レベルあるいは分子レベルで解明することを可能にした。そして種々の細胞機能が特定の蛋白質の合成あるいは合成後の修飾によってもたらされることが次第に明らかにされつつある。中でも熱ショック蛋白質(heat shock protein,HSP)あるいはストレス蛋白質と呼ばれる一群の蛋白質群が細胞保護機能に関与するものとして最近注目されている3)

実験講座

突然変異DNAの検出法(SSCP法)

著者: 林健志

ページ範囲:P.309 - P.311

 今日,多くの生物種のゲノムDNAの様々な領域の塩基配列が決定されている。これらは雑誌に論文として報告され,さらにGenBankあるいはEMBLデータベースに登録されて公開されている。市販のDNA配列解析ソフトウエアの多くには上記のデータベースが含まれているので,これらを購入すれば,誰にでも利用できる。また,公的機関,たとえば東京大学医科学研究所や国立遺伝学研究所が公開しているDNA配列解析ソフトウエアと上記データベースを電話回線を経由して利用することも可能である。さて,このようにして知ることができる塩基配列は多くの場合それぞれの生物種のそれぞれの遺伝子あるいはゲノム領域の「代表的な」あるいは「正常な」配列である。個々の個体は常に正常な配列を持っているとは限らない,つまり突然変異体かもしれない。それではある個体の特定遺伝子に突然変異があるか否か,またその突然変異遺伝子の塩基配列の変化はどのような変化であるかを決定するにはどうしたらよいか。既知の正常配列をプローブとして突然変異個体の当該遺伝子を大腸菌を経由してクローニングし,その塩基配列を決定するのも一法である。しかしこれには相当の専門的技術と多大な労力を必要とする。また多数の突然変異体についてこれを行うのは大変困難である。最近急速に普及したポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction,PCR)はこのような困難を一挙に解決した1)

マイクロウェーブ急速凍結―電子顕微鏡観察用生物試料固定法

著者: 市川道教 ,   松本元

ページ範囲:P.312 - P.318

 生物の微細構造(1~10nmの解像度)を観察しようとすると,現在のところ電子顕微鏡に頼らざるを得ない。そこで,試料を真空中に曝すことになり,固定する必要がある。化学固定剤(グルタアルデヒド,ホルマリンなど)で固定することが一般的である。しかし,化学固定は生きている状態を固定するのではなく,生物試料と固定剤との平衡状態として作られる(死んでいる状態の)構造を固定する。このため,近年生物試料から急速に(数ミリ秒の時間オーダーで)熱を奪うことで凍結固化する急凍法が開発されてきた。この方法は,試料を生きている状態のまま急速凍結できるので,固定時の生理条件と微細構造とを対比させることができる。すなわち,急凍法によって,生理学と電子顕微鏡による形態学がはじめて直結し得る,のである。しかし,急凍法では生物試料に含まれる水の氷晶化をいかにして防ぎ,試料の広範囲にわたって生きている状態を保つかが難しく,従来この困難のために広く普及していなかった。本研究では,マイクロ波を利用することによってこの困難を克服し,急凍法によって再現よく固定する方法を開発したものである。
 生物試料の急速凍結試料固定法(急凍法)は,化学固定による電子顕微鏡試料作成に比較すると,試料組織を変性させることが少なく1),また生物のダイナミックな現象を時間分解で観察することができる2)など,の利点がある。

図説

カタツムリの誕生

著者: 高市成子

ページ範囲:P.319 - P.329

 四季を通じて豊かな植物に恵まれている日本各地には,陸産の貝類で分類学上腹足類と呼ばれる“カタツムリ”が多く分布している。日本各地に分布するカタツムリは,600余の種類があり,北は北海道のエゾマイマイ(Helix laeta Gould)から沖縄地方のオキナワヤマタカマイマイ〔Satsuma (Luchuhadra) largillierti〕など広く全地域で見られる。また北陸から東北地方にかけて分布しているクロイワマイマイ(Euhadra senckenbergiana)は,巨大で火焔彩のはなやかなカタツムリで日本でもっとも美しい種類の一つとして有名である。
 貝類の歴史に眼を転じれば,日本の陸産貝類を採集した最初の人は,有名なvon Siebold, P. F.(1796-1866)であり,日本における陸産貝類の採集と研究を最初に手掛けた人は,飯島魁博士と平瀬與一郎氏である。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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