特集 神経系に作用する薬物マニュアル
Ⅲ.代謝的に作用する薬物 代謝回転に作用する薬物
カルモデュリンアンタゴニスト
著者:
日高弘義1
小林良二1
所属機関:
1名古屋大学医学部薬理学教室
ページ範囲:P.507 - P.510
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カルモデュリンは,1970年に垣内史朗とCheungによって独立に発見された。数多くの研究から,カルモデュリンは細胞内Ca2+信号系のkey stepに位置する多重機能性のカルシウム受容タンパク質であることが判明した。カルモデュリンはすべての真核細胞に普遍的に存在するが,とりわけ神経系(大脳皮質,尾状核,海馬,小脳など)には大量に含まれている。免疫組織学によれば,神経細胞がカルモデュリン抗体によって染色され,ことにシナプス後膜の細胞質側が良く染色されているという。神経軸索では,滑面小胞体,ミトコンドリア,シナプス小胞などが良く染まる。含量がきわめて高いことからも,カルモデュリンは神経系において重大な調節的役割を果たしていると考えられている。ことに,1)やはり神経系に高濃度に存在するCa2+/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼⅡ(CaMキナーゼⅡ)を介する調節機構,2)カルモデュリン依存性タンパク質脱リン酸化酵素(カルシニューリン)を介する調節機構,3)シナプシンⅠ,MAP2,タウ,カルスペクチンなどの細胞骨格系タンパク質を介する調節系の3種は,神経機能調節においては重要である。カルモデュリン拮抗薬の先駆的研究は,本多らのフェノチアジン系薬剤のホスホジエステラーゼ阻害作用についての実験であろう。しかし,この段階では,カルモデュリンとの関連は明らかではなかった。