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文献詳細

雑誌文献

生体の科学42巻6号

1991年12月発行

文献概要

実験講座

クライオ電顕による生体分子の構造観察

著者: 豊島近1

所属機関: 1東京工業大学生命理工学部生体機構学科

ページ範囲:P.625 - P.630

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 低温電子顕微鏡の歴史は20年以上になるが,この方法が生物試料に応用されて目覚ましい成果があがるようになったのは,ここ数年のことに過ぎない。たとえば,バクテリオロドプシン1),高等植物の光合成系2),バクテリアのポリン3),といったものでは,二次構造やアミノ酸残基の同定まで可能になっている。このような高分解能の構造解析が可能になったのは,低温技術の導入によるところが大きい。試料は糖やタンニン酸に包埋され,低温(-130℃以下)で観察される。試料は無染色であるために電子線損傷が激しく,低温での観察が必須である。残念なことに,水和したものの電子線損傷は乾燥したものに比べて格段に大きいので,高分解能で水和したものを室温で観察できる可能性は小さい(ただし,観察に必要な電子線量は分解能の関数であるから,分解能を限ればもらろん可能ではある)。
 電子顕微鏡で生物試料を観察するときの主要な問題点として,1)試料を真空中で観察する必要があること,
 2)試料の電子線散乱能が小さいこと,
 3)試料が電子線損傷を受けやすいこと,
の3点があげられる。電子線損傷を軽減するために,高加速電圧,写真乳剤の最適化,といった幾つかの方向が探求されたが,顕著な効果があったのは低温の利用であった。低温の利用は,さらに,まったく新しい可能性をももたらした。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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