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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学43巻3号

1992年06月発行

雑誌目次

特集 血管新生

血管の発生―血管芽細胞から血管へ

著者: 平光厲司 ,   比留間民子

ページ範囲:P.172 - P.177

 血管発生については,以前に解剖学の立場から概観したことがある1)。ここでは,個体発生における血管(内皮管)の形成に焦点を絞ることにする。
 はじめてわれわれが走査電顕でニワトリ胚の原始血管形成を明らかにしたのは,今から10年前のことであった2)。光学顕微鏡では見られない高分解能像を示すことができたので,血管の初期発生が手にとるようにわかり多くの反響があった。しかし,血管が形成される前に現れてくる内皮細胞の原基,いわゆる「血管芽細胞angioblast」については推定の域を出ず,明確な根拠をもって示すことができなかった。

大脳皮質の発達と血管新生

著者: 間藤方雄

ページ範囲:P.178 - P.183

 脳の血管は,辺縁枝と中心枝に分けて扱われることが多い。中心枝は脳の発達初期に脳底部から侵入する血管であり,辺縁枝は皮質の層分化と共に侵入し,分枝する血管である。もちろん少数の辺縁枝は胎生中期から存在するが,脳皮質の発達が生後箸しいラット,マウスでは,それに伴って軟膜の血管から分岐・発達し,血管網を作るようになる。
 一般に血管の伸びについては,従来から出芽によるものか,その分化すべき場所にすべり込んだ細胞が局所で増殖し,管腔形成に至るものか議論されてきた。

血管網形成機序

著者: 樋田一徳 ,   海藤俊行

ページ範囲:P.184 - P.193

 微小血管網は,生体の各組織に対する栄養供給と物質交換という重要な役割を担い,器官固有の形態・機能を反映した特異的構築を示す。その血管網形成は,組織の分化,器官形成および機能発現に与るだけでなく,創傷治癒,炎症とその修復,新生物の発生と侵襲に際しても惹起される。そのため,微小血管網形成機序を解明することは,複雑かつ精巧な生命現象を理解する上で重要な意味を持つ。
 本稿では,血管網形成機序を論ずるにあたり,まず現在に至るまでの形態学的研究の一連の流れを展望し1-29),ついで筆者らが用いてきた実験系を具体例に,とくに血管網の立体的形成機序に焦点をあて,概説してゆきたい。

血管の可塑性

著者: 藤田尚男 ,   今田正人

ページ範囲:P.194 - P.200

 血管の可塑性について書くことを簡単に引きうけてしまった私は,〆切日が近づくにつれて,このような問題をとりあげる資格のないことを自覚し,悔いている。その理由は,私は血管についての専門家でないからである。今さら致し方ないので,甲状腺の毛細血管の形態が,腺の機能状態に応じて容易に変化することをわれわれが撮った写真によって示し,「血管には強い可塑性がある」ことを眼で認識していただくことにしたい。
 私が甲状腺の分布血管の構造が分泌機能に応じて変化することに関心をもつようになったのは,1970年(昭和45年)の暮に冬眠コウモリや,下垂体摘出ラットの甲状腺の毛細血管内皮の小孔(まど)(fenestrations)の数が減少していることに気づいてからである。

血管内皮細胞増殖因子と血管新生活性の測定法

著者: 岡部哲郎

ページ範囲:P.201 - P.208

 血管の新生という現象は,いくつかの生物反応の結果が,最終的には血管内皮細胞の増殖を引き起こすことによって終結する。現在までアンジオジェニンなど種々の因子が血管新生を引き起こすことが報告されているが,これらの因子の中で直接血管内皮細胞の増殖を引き起こす因子は少ない。ということは,その他の多くの血管新生因子は実は,血管新生という連鎖反応の最初の段階のトリガーにすぎない。しかも,血管新生のトリガーとしては機械的刺激や蛋白分解酵素などの非特異的因子でもよいのであり,非特異的組織反応として血管新生が引き起こされているか否か判断できない(図1)。ここでは,血管内皮細胞に直接働いてその増殖を促進する作用をもつ生体内ペプチドについて述べる。In vitroで直接血管内皮細胞に働く増殖因子で,かつin vivoで血管新生作用のある因子で同定されたのは数少ない(表1)。その中で,ほとんどはヘパリンに強い親和性を示す因子でheparin binding growth factorsとも呼ばれている。

培養内皮細胞の多様性

著者: 徳永藏

ページ範囲:P.209 - P.211

I.形態の多様性
 1.ヒト大動脈内皮細胞の形態
 培養内皮細胞は形態学的に大きく2種類に分けられる。一つは培養内皮細胞の大部分を占め,直径50~70μm,類円形ないし多角形を示す小型細胞で“典型的内皮細胞”と言われる。この典型的内皮細胞は一層敷石状に増殖し,乳幼児や若年者大動脈およびあらゆる年代の静脈系内皮細胞の大部分を占める(図1)。他はより大型の細胞で直径100~200μmの範囲であるが,稀に250μm以上の巨細胞も混在して見られる。後者は通常2核以上の核を有し,“バリアント内皮細胞”あるいは“非典型的内皮細胞”とも呼ばれる1,2)。成人大動脈の内皮細胞の多くは前述の典型的内皮細胞からなるが,0~30%の割合でバリアント内皮細胞が出現する。その出現頻度は動脈硬化や加齢の程度に従って多くなる。バリアント内皮細胞出現の機序については推測の域を出ないが,この細胞が分裂能を有しないことから,何らかの細胞膜障害のために隣接細胞が癒合して形成されると考えられる。

血管内皮細胞増殖抑制因子

著者: 鈴木不二男

ページ範囲:P.212 - P.216

 血管新生現象は胎仔の発育,黄体形成あるいは傷の修復など正常の過程において認められるほか,血管腫,固形腫瘍の増殖,腫瘍の転移,糖尿病性網膜症,乾癬症やリウマチ性関節症など種々の疾患の発症にも血管新生が不可欠であることから,血管誘導因子および血管新生抑制因子が注目されている。とくに血管内皮細胞増殖抑制因子は,in vivoにおいて血管新生阻害因子として作用する可能性がある。しかしin vitroで血管内皮細胞増殖抑制活性を発現してもin vivoでは血管新生を促進する因子もあるので,その作用機構は複雑である。本稿では主として培養血管内皮細胞に対するペプチド性増殖抑制囚子を中心として概観を試みたい。

Tumor necrosis factor(TNF)とInterferon(IFN)の血管新生に及ぼす影響

著者: 佐藤昇

ページ範囲:P.217 - P.220

 固形腫瘍の増殖は腫瘍に栄養と酸素を供給する毛細血管の新生に依存することが知られている1)。したがって腫瘍部位での血管新生阻害は栄養と酸素を断ち切ることになり,きわめて効果的な腫瘍退縮法になると考えられている。TNFおよびIFNは血管内皮細胞の遊走・増殖を抑制するため,これら因子の抗腫瘍効果のメカニズム解明と臨床応用の観点から血管新生に及ぼす影響に興味が持たれた。

血管新生抑制ステロイドとラミニン

著者: 北川泰雄 ,   全焄

ページ範囲:P.221 - P.226

 血管の内壁は内皮細胞で裏打ちされており,外側にある基底膜がその極性単層構造を支えている。この基底膜は動脈では平滑筋多重層との,毛細血管では周辺の結合組織との仕切りにもなっている。内皮細胞は時に応じて遊走・増殖して血管内壁を更新・修復して創傷部位,脂肪組織や腫瘍形成組織に侵入して血管網を新生する。これには内皮細胞自体あるいは周辺細胞が分泌するラミニンやⅣ型コラーゲンが重要な働きをする。われわれは内皮細胞が2種類のラミニン複合体を合成し,その量比が血管新生抑制ステロイドによって変動することをウシ大動脈内皮細胞(BAEC)と肺動脈内皮細胞(CPAE)で明らかにした1)。これが見事に無駄を省いた「サブユニットすりかえ機構」によることも示した。ここでは,このステロイド作用を手がかりに血管新生におけるラミニンの役割を考えたい。

炎症部位における新生血管の特質

著者: 山下昭

ページ範囲:P.227 - P.231

 血管内皮は血管系の内壁を連続的に被う構造物であり,循環系からの代謝産物の搬出入,血小板機能の調節や血栓形成,凝固の調節など多彩な働きをしている。最近では,内皮は免疫応答と関連する各種の因子と相互作用を演じていることが明らかにされている。たとえば,インターフェロンが内皮細胞の増殖やIa抗原の膜発現を促進したり,そのIa内皮がマクロファージ(Mφ)や樹状細胞とともにリンパ球への抗原提示能を発揮したり1),さらにMφによって産生されるIL-1やTNFが内皮細胞に作用し,表面のプロコアグラント活性を高めたり,白血球への接着能を高める2)
 内皮のその他の重要な免疫関連機能としては,リンパ球をリンパ組織や炎症の部位へ選択的に遊走させ,免疫応答を調節する作用がある。生体防御の主要なエフェクターであるリンパ球が,生理的状態においてたえず血液とリンパ組織との間を再循環する,いわゆるリンパ球の再循環現象(ホーミング現象ともいう)は,リンパ組織内に存在する特有な血管,すなわち高内皮性細静脈(high endothelial venules;HEV)を介して起こると考えられている。ところで,外来性抗原や起炎剤の作用により組織局所に惹起される炎症反応の部位においても,HEV様血管が出現し,リンパ球の局所浸潤をもたらしていることも見出されており3,4),最近,その機構と意義が注目されている。

連載講座 新しい観点からみた器官

血管―血管新生における内皮細胞・平滑筋細胞相互反応

著者: 居石克夫

ページ範囲:P.232 - P.238

 血管は心臓,リンパ管ともに脈管系を構成し,組織の代謝を維持して生体の機能的恒常性を保持するために不可欠である。“個体は血管とともに老いる”とも言われるように,血管の機能的,形態的異常は臓器,個体の機能的障害を招来することとなる。
 主な血管の構成細胞は,内皮細胞と平滑筋細胞である。近年,これらの細胞培養が可能となり,また分子生物学の導入により,これらの細胞が種々の生物活性を有する物質を産生し,血管機能の維持,制御に積極的に関与していることが明らかとなりつつある。とりわけ血管内皮細胞の機能は,表1に示すように,血漿成分の透過性や血液凝固の制御のみならず,血管新生と組織修復,血管壁トーヌスの調節や炎症ならびに免疫反応の調節に関与している。このように,内皮細胞は血管壁細胞のみならず組織の多彩な機能を傍分泌(paracrine),自己分泌(autocrine)により細胞間相互の情報を伝達し合って微小環境を調節,制御している細胞であると言える。

実験講座

In vitro血管新生モデル系

著者: 佐藤昇

ページ範囲:P.239 - P.243

 最近血管新生の制御に関する研究が盛んになってきているが,生体内の血管新生は複雑なためこれまで多くの血管新生モデル実験系が確立され利用されてきている。これまで良く用いられている方法は,大きく分けて,(ⅰ)培養血管内皮細胞のプロテアーゼ産生・遊走・増殖・管腔形成1,2)などを指標とするもの,(ⅱ)同じin vitroでありながら血管片の培養を行い,生体内とほぼ同じ様式で血管新生を行わせるいわば器官培養法的な手法3,4),(ⅲ) in vivoモデルとしてのニワトリ受精卵漿尿膜法5),ウサギ・ラットなどの角膜を用いる方法6)および動物皮下組織へのスポンジの導入法7,8)などである。これらには正確性,迅速性,定量性などの面からみて,おのおの長所・短所があり必要に応じて組み合わされて使用されることが多い。本稿で紹介するのはこの分類の(ⅱ)に相当するものでありin vitroで生体内の血管新生に近い状態を再現するために作製された実験モデル系である。

話題

運動と骨格筋の血管新生

著者: 大野秀樹 ,   山下均 ,   佐藤昇 ,   山本三毅夫 ,   石川睦男

ページ範囲:P.244 - P.247

 最近,健康科学の一環として,運動研究が盛んになってきた。筋研究はその大きな比重を占めている。運動により骨格筋が肥大することはよく知られている1)。骨格筋肥大の研究は,神経生理学,免疫組織学,栄養学(エネルギー代謝)などに加え,生化学,分子生物学の最先端の技術も導入され,種々のアプローチが試みられている2)
 一方,筋が肥大するには,酸素と栄養物の供給が不可欠であり,当然,血管新生を伴うはずである。実際,運動により活動筋の毛細管の密度が増し,筋の横断面に占める毛細管の面積も増加する3,4)。筋血流量も,トレーニングにより増大する5)。毛細管密度や筋線維1本当たりの毛細管数の増加は,毛細管間の距離が短くなると同時に,酸素拡散距離も小さくなったことを意味し,筋への酸素供給に非常に有利となる。さらにIngjer6)は,トレーニング効果は遅筋線維であるType Ⅰに顕著で,毛細管数とミトコンドリアの含有量に密接な関係があることを明らかにしている。しかし,運動トレーニングと血管新生の研究は,未だにこのような古典的なレベルに止まっており,筋肥大研究と比較してかなり遅れをとっていることは否定できない。

両生類の軸形成とFGF―ツメガエル受精卵へ注入されたbFGF mRNAによる背側および腹側中胚葉の誘導

著者: 浅野美咲 ,   塩川光一郎

ページ範囲:P.248 - P.252

 イモリの初期胚を用いる発生学研究,とくに胚誘導研究には,ショウジョウバエ,センチュウ,ウニ,メダカ(あるいはゼブラフィッシュ),ニワトリ,あるいはマウスやラットの発生学研究とは明らかに異なる“面白味”がある。それは“マニピュレーション”,あるいは古典的といってよい胚の手術(もっと現代的に表現すると“胚操作”)が楽しめる,ということであろう。このことは,その胚操作によってノーベル賞を受賞したSpemannのオーガナイザー研究をみるまでもなく,すでに明らかなことと思われる。
 ところで,最近の両生類の胚誘導の研究は昔と異なり,主としてツメガエルの胚を用いて行われている。これは胚操作の面白味をこのカエルにおいてとくに発達した遺伝子操作の成果と結びつけた結果である。ツメガエルの中期胞胚の動物極側の約1/3の細胞群(以下,アニマルキャップ)をアッセイ系として行われるこの中胚葉誘導機構の研究は,Spemann以来の古典的なこの分野の研究の様相を一変させてしまったといえそうである。今や中胚薬誘導の研究は,“発生学のルネッサンス”ともいわれるほどの活力をもって,一方では両生類胚を用いるこの分野の研究者に,他方ではそれまではもっぱら培養細胞を用いてきた成長因子あるいは原癌遺伝子の研究者たちに,尽きない興味と興奮を提供しているように思われる。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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