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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学43巻6号

1992年12月発行

雑誌目次

特集 成長因子受容体/最近の進歩

ホスホリパーゼCのリン酸化EGF受容体認識部位

著者: 野沢義則

ページ範囲:P.562 - P.566

 多様な細胞応答に伴う情報伝達において,チロシンリン酸化を介するものも多く,とくに細胞増殖ではよく知られている1-3)。チロシンリン酸化を司る酵素は,受容体型チロシンキナーゼ(PTK)と非受容体型PTKに大別される。リン酸化される標的基質も多彩であるが,受容体型PTKの場合はγ型ホスホリパーゼC(PLCγ),ホスファチジルイノシトール(PI)-3キナーゼ(PI-3K),GTPase活性化蛋白質(GAP)などが代表的なものである。PLCγはPI-4,5-トリスリン酸(PIP2)を分解し,イノシトール1,4,5-トリスリン酸(IP3)と1,2-ジアシルグリセロール(DG)を産生するが,前者は細胞内プールからのCa2+動員因子として,また後者はプロテインキナーゼ(PKC)の活性化因子として作用する。PLCγはPTKによるチロシンリン酸化を受けると活性化され,この両シグナル変換系の間にクロストーク(crosstalk)が行われている4-7)。アゴニストが細胞膜受容体に結合すると,PLCγがチロシンリン酸化され,ついで受容体の特定部位を認識して移行することが知られているが,詳細については明らかでない。
 本稿では,EGF刺激によるPLCγのリン酸化と受容体認識部位について述べる。

c-erbB-2と細胞増殖

著者: 松田覚 ,   山本雅

ページ範囲:P.567 - P.571

 がん遺伝子の研究が進み,多くの遺伝子の同定およびその遺伝子産物の機能解析がなされてきた,この結果,がん遺伝子に対応するがん原遺伝子がコードする蛋白質は,正常細胞の分化や増殖の情報を司る重要な情報伝達経路上に存在していることが判明してきている。そして,これらの蛋白質に量的あるいは質的な変化が生じることにより正常細胞ががん化すると考えられるようになり,がん遺伝子産物の解析研究は重大な局面にさしかかってきた。
 EGF受容体遺伝子の近縁遺伝子として同定されたc-erbB-2遺伝子は1),乳がんや胃がんなど様々ながん組織から遺伝子増幅や過剰発現が検出されており,加えてin vitroでの発がん実験結果からも,発がんに深く関与していることが示されている。しかし,この遺伝子の発現は正常成人組織ではあまり認められず,ほとんど胎児の上皮組織でのみ確認されることが報告されている2),このことから,ErbB-2蛋白質は正常上皮組織の分化発達段階で機能していると考えられるが,それがどうしてがん細胞で発現が生じるのか,またどのようなメカニズムでがん細胞たらしめるのかが現在の重要な研究課題となっている。

EGF受容体遺伝子の増幅

著者: 古田康 ,   高須毅 ,   犬山征夫

ページ範囲:P.572 - P.574

 様々な悪性腫瘍において,癌遺伝子・癌抑制遺伝子の異常が生じていることが見出され,その発癌に至る役割が研究されている。その機序として,これらの遺伝子の異常増幅・過剰発現・点突然変異・遺伝子欠失などにより産生されるタンパク質の質的・量的変化が,細胞の増殖情報伝達機構の調整を乱し,癌化に至ることが明らかにされつつある。
 癌遺伝子の増幅に基づく癌遺伝子の活性化は,神経芽細胞腫(N-myc),乳癌(c-erbB-2),白血病(c-myc),扁平上皮癌・多形膠芽腫(EGF受容体)などでみられ,とくに前二者では遺伝子増幅と腫瘍の進展や予後との関連が研究され,臨床上も重要な意義をもつことがわかってきた。

脳神経細胞に対するEGFの作用

著者: 阿部和穂 ,   齋藤洋

ページ範囲:P.575 - P.578

 上皮成長因子(Epidermal Growth Factor;RGF)は,1962年Cohen1)によって新生児マウスの眼瞼開裂と切歯出現を早める因子として雄マウス顎下腺より見出された。分子量約6,000,等電点4.6,53個のアミノ酸からなる単鎖ポリペプチドである2-4)。現在では,種々の細胞に対して増殖刺激作用をもつ他,胃酸分泌抑制作用をもつこと5-7),精子形成に必要であること8)などが明らかにされている。ほとんどすべての組織から検出されることから他にも様々な生理作用をもつことが想像されるが,細胞増殖因子としての認識が強かったためか,とくに脳神経細胞をに対する作用はほとんど不明だった。しかし近年,ECFが培養脳神経細胞の生存維持に有効であることが見出出され,神経栄養因子としての働きが注目されてきた。また最近,われわれはEGFが脳神経シナプス伝達にも作用を及ぼすことを発見した。本稿では,EGFの新しい生理作用として注目される,脳神経細胞に対する多様な作用について,われわれの最新の研究成果を交じえて紹介する。

声門癌におけるEGF受容体レベルと予後

著者: 宮口衛

ページ範囲:P.579 - P.581

 上皮成長因子(EGF)はアミノ酸53個から成るポリペプタイドであり,Cohenが1962年マウス顎下腺から分離した1)。EGFは上皮成長因子受容体(EGFR)と結合して上皮細胞の増殖を促進する。EGFRはc-erbB protooncogeneの産物であり2),悪性腫瘍,とくに扁平上皮癌細胞において増加していることが明らかになってきた3,4)。EGFRの増加はin vivoおよびin vitroにおいて腫瘍細胞の増殖を促進するので,EGFRは癌の発現に何らかの重要な役割をはたしていると考えられている。EGFRの定量はラジオイムノアッセイ法,サザンブロット法,ノーザンゾロット法などが用いられてきた。今回,喉頭粘膜のEGFRを免疫組織化学的に染色し,その病理組織学的病態との関係および半定量化することにより臨床的予後との関係を明らかにした5-7)ので解説する。

胃癌におけるEGF receptorの発現と予後

著者: 米村豊 ,   津川浩一郎 ,   二宮至 ,   高村博之 ,   広野靖夫 ,   伏田幸夫 ,   杉山和夫 ,   宮崎逸夫

ページ範囲:P.582 - P.588

 近年分子生物学的手技を用いヒト癌の遺伝子異常が広く研究されるようになった。胃癌における遺伝子異常も様々な方面から検討され,その発生,進展に関与する癌遺伝子が徐々に解明されつつある。本稿では胃癌におけるepidermal growth factor(EGF),transforming growth factor alpha(TGFα)およびその受容体であるepidermal growth factor receptor(EGFR)の発現と,これらの因子が胃癌の発生・予後にいかに関わっているかを述べる。

TGFα,EGF receptorとヒト卵巣癌におけるTGFα/EGF receptorオートクリン機構

著者: 倉智博久 ,   三宅侃 ,   谷澤修

ページ範囲:P.589 - P.595

 癌細胞自身が細胞増殖因子(growth factors)を産生するとともに,その受容体をも発現し,自分が産生した増殖因子が自身に作用する機構をオートクリン機構(autocrine mechanism)という。この機構はたとえば癌細胞の制御のきかない増殖をよく説明し得るモデルとして1980年SpornとTodaroによって提唱された1)。癌の増殖に重要なオートクリン機構として,肺の未分化小細胞癌のボンベシン2),乳癌のインスリン様増殖因子1(insulin-like growth factor,IGF-1)3)などが知られているが,もっとも多くの種類の癌でその発現が証明されているのが,上皮成長因子受容体〔epidermal growth factor(EGF)receptor〕を介したオートクリン機構である。EGF receptorに作用する増殖因子としては,一般的には後述のごとくEGFとtransforming growth factor(TGF)αの二つが考えられるが,乳癌4),腎癌5),膵癌6),肺癌7)など多くの癌で発現する増殖因子はいずれの癌においてもTGFαである。すなわち,これらの癌ではTGFαとEGF receptorによるオートクリン機構が発現していることが知られている。

TGFβ受容体のサブタイプとシグナル伝達

著者: 安井弥 ,   田原榮一

ページ範囲:P.596 - P.599

 TGFβは,元来,非腫瘍性線維芽細胞であるNRK細胞の軟寒天培地での増殖を促進する物質として見出されたが,その後の研究により,様々な細胞の増殖・分化を制御する物質であることが明らかになってきた1)。すなわち,上皮系細胞,内皮細胞あるいは血液幹細胞などに対しては増殖抑制因子として働く一方で,胚発生の誘導,細胞外基質の産生,骨・軟骨形成に関しては促進的に調節している2)
 TGFβは,分子量25,000のダイマー構造をとる蛋白であり,ヒトではそれぞれ約70%の相同性を有するTGFβ1-3の3種類が存在する1)。TGFβ1では,2.5Kb mRNAから390個のアミノ酸よりなる前駆体としてつくられ,ダイマーが形成された後にN端が切断され,112個のアミノ酸のダイマーである成熟型となる3)。一方,TGFβ受容体は,ヨード標識されたTGFβ1を用いたアフィニティーラベル法による検討から,Ⅰ型からⅢ型の3種類の存在が明らかにされている4)。TGFβ受容体の分子量は,Ⅰ型,Ⅱ型,Ⅲ型それぞれで,約55KDa,65~80KDa,260~300KDaであり,Ⅰ型とⅡ型は糖蛋白,Ⅲ型はプロテオグリカンといわれていたが,最近,Ⅲ型およびⅡ型受容体が相次いでクローニングされた。

FGF受容体と脳腫瘍

著者: 畑中正一

ページ範囲:P.600 - P.604

 私たちは細胞成長因子の中でもFGFとその受容体が脳腫瘍の形成に重要な役割を果たしていることを確かめたのでその発生学的な意義を含めて解説したい。

骨芽細胞の増殖におけるPGFとIGF-I受容体

著者: 羽毛田慈之 ,   久米川正好

ページ範囲:P.605 - P.609

 骨組織は,生体内のカルシウム代謝を司る重要な器官であると同時に,生体の支持および運動機能においても重要な役割を演じている。それら骨の器官としての役割を果たすために,骨組織は常に,一定の量的平衡関係を保った骨吸収と骨形成を繰り返している。この一連の新陳代謝を骨リモデリングと呼ぶ。この骨リモデリングは,破骨細胞などの骨吸収系細胞と骨芽細胞を中心とした骨形成系細胞の協同作用によって遂行される。そして,近年,これら細胞間相互作用を仲介する,多くのサイトカインなどの局所因子の同定および骨代謝への作用が盛んに研究されている。現在解明されている骨代謝を調節する局所因子だけで10数種類にも及ぶ。そして,それら局所因子の中でプロスタグランジン(PG)は,骨吸収・骨形成の両面にわたって大きく作用することが明らかにされてきた、骨組織におけるPGの主な産生細胞が骨芽細胞である。そして,PGはautocrinc/paracrine的に骨芽細胞に作用し,骨形成はもとより,骨吸収をも間接的に調節する。すなわち,PGの骨芽細胞への作用が骨代謝全体に対して大きな影響を及ぼす。本稿では,その骨芽細胞へのPGを著者らの研究を中心に述べたい。

連載講座 新しい観点からみた器官

精巣―造精細胞の分化とセルトリ細胞の関連

著者: 永野俊雄

ページ範囲:P.611 - P.615

 精子産生の場としての哺乳類精巣について形態学の立場から2,3の問題をとりあげてみる。

解説

脳由来神経栄養因子(BDNF)研究の最近の進展

著者: 野々村健 ,   畠中寛

ページ範囲:P.616 - P.625

 この論考では,脳神経系においてその構築と維持に必須の役割を果たしている神経栄養因子と呼ばれる蛋白質を扱うことにする。この蛋白質は,神経細胞の生存と分化に大きく関与している液性因子として細胞の外から働くことが知られている。
 神経成長因子(nerve growth factor;NGF)はもっとも古くから研究されてきた代表的な神経栄養因子である1,2)。NGFをはじめとする神経栄養因子の研究は,ここ数年大きな進展を見せている。その一つにNGFファミリー蛋白質としての脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF),ニューロトロフィン-3(neurotrophin-3;NT-3),NT-4,NT-5の発見と,trkチロシンキナーゼファミリーがそれらの機能的受容体を構成していることの発見が挙げられる。本稿では,新展開を迎えている神経栄養因子研究の中でBDNFに焦点を当て,これまでに行われた研究経過をまとめ,脳神経科学における課題の中で果たしている役割について述べてゆきたい。

実験講座

アンドロゲン受容体に対するモノクローン抗体の樹立と応用

著者: 出村孝義 ,   小柳知彦

ページ範囲:P.626 - P.631

 近年,ステロイド・ホルモンの作用機序に関する研究はその受容体の分離・精製,さらにはその遺伝子のクローニングにより飛躍的に進歩してきた。しかし,アンドロゲン受容体(androgen receptor,AR)は他のステロイド受容体に比べ非常に不安定なため,特異性の高い抗体を作製するための純度の高いAR蛋白を精製することは不可能であった。われわれは部分精製したARをマウスに免疫してモノクローン抗体を樹立し1),各組織におけるARの局在診断や前立腺癌のアンドロゲン依存性の診断に応用してきた2,3)。ここではわれわれが行ってきたARに対するモノクローン抗体の作製方法について概説する。

蛍光色素による膜の染色法:ER染色を中心に

著者: ,   藤原敬己

ページ範囲:P.632 - P.637

 細胞には,膜を持っている種々のオルガネラが存在するが,その中で大きな部分をしめているのが小胞体(endoplasmic reticulum,ER)である。ERという名称はPorterらにより,培養線維芽細胞の全載標本の電子顕微鏡像に見られる,細胞内に広がる“lace-like”ネットワークに対して与えられた1-3)。超薄切片作製の技術がすすみ,いろいろな生物試料の電顕観察が可能になるにつれ,ERが細胞の普遍的構造であることが示された4-7)。その機能としては,よく知られている分泌用タンパク質あるいは細胞膜に組み込まれるタンパク質などの合成に加え,脂質合成や細胞質内のCa2+濃度調節などがあげられる8,9)。ERは細胞にとってきわめて大切な,これら諸機能の場なのである。
 このように重要なオルガネラの細胞内分布を容易に知る方法があれば,細胞生物学上のいろいろな研究に役立つと考えられる。電顕によらないERの観察に向け,Terasakiらは数年来,親油性蛍光色素によるER染色法の開発・改良を行ってきた。ERを染色する蛍光色素として理想的なことは,(a)その色素がすべてのERを染色し,(b)ER以外の膜系を染めない,という二つの条件を備えていることである。しかし,今のところそのような色素はまだみつかっていない。現在用いられている色素でもっとも良いものは,DiOC6(3)(後述)と呼ばれるものであろう。

追悼

熊谷 洋先生を偲んで

著者: 「生体の科学」編集委員

ページ範囲:P.639 - P.639

 東京大学名誉教授,「生体の科学」編集顧問であられた熊谷洋先生は平成4年11月11日午後4時8分永眠されました。享年88歳でした。
 先生は新潟県長岡のご出身で新潟高校を経て東京帝国大学医学部医学科を昭和5年に卒業されました。昭和18年薬理学教室講師のままジャカルタ医科大学教授として赴任され,インドネシアの若い人達への教育に熱情をそそがれたと伺っています。昭和21年復員して薬理学教室に戻られて,昭和22年同助教授,昭和29年薬理学第二講座教授に昇任されました。またこの年から32年まで薬学科薬品作用学教室の初代教授を兼任され,医学界,薬学界の薬理学領域の多くの人材を育てられました。昭和37年から39年まで医学部長を務められ,昭和40年退官,名誉教授となられました。昭和41年から51年まで日本医師会副会長として当時の武見会長を助け,国際的に日本医師会の地位を高める努力をなさいました。昭和51年より59年まで,日本医学会会長として日本医学会シンポジウムなどの日本医学会の学術的レベルの向上に努められました。

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生体の科学 第43巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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