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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学44巻1号

1993年02月発行

雑誌目次

座談会 脳と遺伝子

今後の研究戦略を探る

著者: 伊藤正男 ,   井川洋二 ,   御子柴克彦 ,   新井賢一

ページ範囲:P.2 - P.36

 伊藤(司会)今日は『生体の科学』平成5年の新年号ということで、今年の夢について大いに語ろうと,3人の先生に来ていただきました。
 題は「脳と遺伝子」という2つの極端を結ぼうというものです。一方は心の座,一方は生命の分子というこの2つの方向に現在研究が大変な勢いで進んでいます。この2つの流れのいずれに身を任せるべきか迷う若い研究者も少なくないと思います。あるいはこの2つを1つに合わせるところに大変なプレークスルーがあると感じながら,果してそれがどのように実現されるか分からないで悩む人も少なくないかと思います。そのようなわけで,今日は第一線の3人の先生方に大いに未来の可能性を論じていただきたいと思います。

連載講座 新しい観点からみた器官

卵巣―卵の形成とステロイド産生

著者: 鈴木秋悦 ,   北井啓勝

ページ範囲:P.37 - P.43

はじめに
 卵巣は,女性の一生を通じて,心身共に,女性の生体リズムの維持,調節にとって,中心的な役割を果している臓器である。
 発生学的には,卵子形成,卵胞の成熟,減数分裂,排卵など,生命誕生の基本に関与して,種族保存にとっての不可欠な機能を果している。

解説

NO合成酵素

著者: 小菅邦彦 ,   由井芳樹 ,   永澤浩志 ,   比企一晃 ,   佐瀬一洋 ,   服部隆一 ,   篠山重威

ページ範囲:P.44 - P.50

 1980年にFurchgottらによって報告された1)内皮由来血管拡張因子(EDRF:Endothelium derived relaxingfactor)は強力な血管拡張作用と血小板凝集抑制作用を有する物質として注目されてきた。1987年にPalmerらはEDRFが一酸化窒素(NO:intric oxide)であると報告し2),EDRFはNO,ないしNOをもつ物質(R-NO)であると考えられるようになった。
 その後NOは血管内皮細胞以外にも小脳3),血小板4,5),non-adrenergic non-cholinergicな末梢神経6),マクロファージ7),多核白血球8),肝細胞9),クッパー細胞10),腎臓メサンジウム細胞11),肺実質細胞12),副腎13),血管平滑筋14),線維芽細胞15)など全身の種々の組織,細胞で産生されていることがわかった。またNOの作用も当初の血管平滑筋弛緩2)以外に,神経伝達物質としての作用3)や細菌,腫瘍細胞に対する細胞障害11)などが挙げられている。

ナノ・エレクトロニクスとナノ・テクノロジーの展望

著者: 菅野卓雄

ページ範囲:P.51 - P.58

 はじめに
 ナノ・テクノロジー(nano-technology)という用語は国際的にも次第に定着しつつあるようであるが,もう少し丁寧にいえばナノ・メータ・テクノロジー(nanometer technology)ともいうべきもので,この技術が対象とする寸法がナノ・メータすなわち10-9mを単位として表わすのが適当な程度であることが理由になっている。
 ナノ・テクノロジーという概念が普及してくる以前に,マイクロという形容詞を付した用語が多く使われていた。電子工学の関連した分野としてはマイクロ・エレクトロニクスなどがその典型であろうが,もちろん一般的には“マイクロ”とは“微小”を意味する形容詞である。

骨格筋における種々の筋線維間連結

著者: 土方貴雄

ページ範囲:P.59 - P.65

Ⅰ.はじめに
 最近に至るまで,骨格筋内での筋線維構築については殆ど注目されていなかった。その証拠に,解剖学,組織学の教科書をみると,“筋内での各筋線維は30cm以上にわたる1)”,“縫工筋のように両端が先細りにならない平行筋においては,筋線維は明らかに筋の全長にわたり,途中で終わることなしに連続している2)”と記載されている。それでは,クジラやゾウの骨格筋では,1m以上の筋線維がみられるというのだろうか?
 文献を過去に遡ってみると,今世紀初めに,Bardeen3)が,イヌ,ネコ,ヒトの側腹筋において,筋束内に終わる短い筋線維を見出している。その後,Huber4)は,ウサギの後肢筋で短い筋線維による構築を詳しく記載し,2.5cm以上の長さをもつ筋では,筋束内に終わる短い筋線維からなることに注目した。またAdrian5)も,ネコのM. tenuissimusが1.7cm前後の短い筋線維からなっており,これらが重ね合うように連結し筋束を作っていることを示している。しかしながら,1930年以降最近に至るまで,骨格筋が筋束内に終わる短い筋線維から構築されていることを報告する論文は突発的に出されるに過ぎなかった6)。ようやく1980年代後半になって,脊椎動物の様々な骨格筋で,筋束内に終わる短い筋線維が見出され7-15),これら短い筋線維による骨格筋構築が例外的なものでないことが認知されるに至った。

実験講座

マウス種内異型蛋白Thy-1を用いるニューロン追跡

著者: 藤井正子

ページ範囲:P.66 - P.71

 はじめに
 リンパ球T細胞特異的な膜表面糖蛋白として知られていたThy-1は,その後ニューロンの膜表画にも証明された。さらに,マウスでは,マウスの種類に特有な2種のThy-1があって,Thy-1の112個のアミノ酸のうちの89番目がアルギニンであるかグルタミンであるかによって,区別されることがわかってきた12)。これは,Thy-1.1とThy-1.2と呼ばれ,前者はAKRと呼ばれる種類のマウスT細胞や脳に証明され,後者はBALB/cやC3Hなど一般的なマウスの種類にあることが知られている10)
 我々は数年来脳移植を研究題目にしてきたが,脳移植をはじめて,まず問題になる事は移植した組織をどう識別するかである。移植脳組織が特殊な神経伝達物質を持つ場合,それを指標にできるが,我々の扱っている嗅球のように,分子量の低いグルタミン酸のようなアミノ酸を伝達物質としているような遠心路をもつ系では,これを識別に使用する事は難しい。

話題

遺伝子治療研究の現状

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.72 - P.74

I.遺伝子治療研究の現況
 遺伝性疾患に対する遺伝子治療は1990年4月にNIHで最初に始められた。対象となったのはadenosine deaminase(ADA)の先天性の欠損のために起こった重症複合免疫不全症の患者で,ADA欠損患者の末梢血中のTリンパ球にADAの遺伝子を導入して患者に戻す遺伝子治療である。
 ADA欠損症の患者が遺伝子治療の最初の対象として選ばれたのは,1)ADA欠損症は致死的な疾患である,2)骨髄移植によって治癒し得る,3)ADA遺伝子を導入されたリンパ球はADAを欠いたリンパ球よりも長期間生存し得る,などの理由による1,2)。この遣伝子治療は既に2例のADA欠損症の患児に対して行われ,Tリンパ球数の増加,血清ADA値の上昇,免疫能の回復が遺伝子治療の結果認められたことがいくつかの学会などで報告されている。特記すべきことは従来感染症に対する予防のために家屋外に出ることが出来なかった患児が学校に行くとが出来るようになったことで,その臨床的意義は極めて大きいと考えられる。

筋エネルギー変換に関する第4回国際会議

著者: 八木直人

ページ範囲:P.75 - P.77

 「筋エネルギー変換に関する第4回国際会議」は,平成4年9月13日から7日間にわたって,イタリアの古都シエナで開催された。会議の準備をしたのはフィレンツェ大学生理学教室のVincenzo Lombardi博士で,日本から準備委員会に岡山大学の菅弘之教授が参加した。
 会場は,ルネッサンス時代に建てられたシエナ大学の大講堂で,壁はすべて大理石で作られており,天井の高さは15メートル近かった。参加者は日本から15人,全体で110人,講演は79題でポスター発表が約60件あった。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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