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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学44巻2号

1993年04月発行

雑誌目次

特集 蛋白質の細胞内転送とその異常

微細形態学から見た細胞内転送の諸問題―分泌蛋白質の細胞内輸送の初期過程を中心に

著者: 田代裕 ,   山本章嗣 ,   吉森保

ページ範囲:P.80 - P.89

はじめに
 細胞内には種々の細胞内小器官が存在し,細胞は多くの複雑な区画(コンパートメント)に細分されている。蛋白質の大部分は細胞質区画に存在するリボソームにおいて合成され,それぞれ特定の区画に転送され,そこで機能を営む(蛋白合成後の細胞内局在化)。さらに種々のペプチドホルモン受容体,グルコース輸送体のように,細胞内での局在を変えつつ機能を営む蛋白質もある(機能発現に伴う局在化)。最後に蛋白質が分解される過程でも,特定の区画への細胞内転送が関与する場合が多い(分解過程での局在化)。ここでは第一の蛋白合成後の分泌蛋白質の転送のみに話を限定したい。
 蛋白質の細胞内転送を研究するためには,現在3つの方法が用いられている。その第1は生化学・分子生物学的方法である。細胞分画法を用いたり,あるいは新生ペプチド鎖やN型糖鎖のプロセッシングの進行の度合いなどによって細胞内転送された場所を推定することが出来る。In vivo,培養細胞,再構成系など種々の系を用いて実験が行われているが,最近では透過細胞(permeabilized cell)を用いた再構成系が開発され,細胞内輸送の分子機構の解明に威力を発揮している。さらに改変遺伝子を細胞に導入し,合成された異常蛋白質の挙動から選別シグナルを決定したり,細胞の機能を推定する方法が一般的によく用いられるようになった。

分泌蛋白質の小胞体膜透過

著者: 天谷吉宏

ページ範囲:P.90 - P.95

 分泌蛋白質が小胞体膜を識別し,透過していく過程の分子機構はBlobelとDobbersteinの“シグナル仮説”以来,これを実証するかたちで明らかになってきた。分泌蛋白質は多くの場合,N-末端におよそ20~30残基のアミノ酸からなるシグナルペプチドをもつこと,このシグナルを認識し,リボソームで合成途上にある分泌蛋白質を小胞体膜へ輸送するのにシグナル認識粒子(SRP)とその受容体が必要であることが示されてきた。最近,SRPの54KサブユニットとSRP受容体のα,βサブユニットがGTP結合蛋白質であることが明らかになり,SRPの機能とGTPase活性の関連が新たな問題点としてクローズアップされている。
 小胞体膜識別の過程に関わる因子がかなり明らかになっているのに対し,小胞体膜を識別した分泌蛋白質が膜を透過する過程に関わる因子,いわゆる膜透過装置の同定と機能解析は遅れていた。最近になり,ようやく膜透過装置と考えられる因子が同定され始め,その機能や相互作用の解析がめざましく進みつつある。ここでは酵母と哺乳類の実験系から得られた最近の知見を中心に,分泌蛋白質の小胞体膜透過機構を概説する。

先天性α2-プラスミンインヒビター欠損症と細胞内転送の異常

著者: 三浦修 ,   青木延雄

ページ範囲:P.96 - P.100

 近年めざましい発展をとげた分子生物学的手法は血液凝固・線維素溶解(線溶)系の研究分野にもいち早く導入され,この系に関与する大部分の因子のcDNAならびに遺伝子がクローニングされるとともに,これらの因子を欠損し出血傾向あるいは血栓形成傾向を呈する先天性欠損症の多くにおいて種々の遺伝子の異常が同定されるに至っている。
 しかし多くの場合、同定された遺伝子の異常から血漿蛋白の欠損に至る機序については必ずしも明らかではなく,今後解明されねばならない問題として残されている。

ゴルジ装置における蛋白質修飾の異常:LDL受容体の糖鎖異常

著者: 瀬口正志 ,   沖本忠義 ,   小野真弓 ,   桑野信彦

ページ範囲:P.101 - P.106

I.LDL受容体の構造と糖鎖修飾
 LDL(低比重リポ蛋白)受容体は,細胞表面膜上に存在しており,血中のコレステロール・キャリアであるLDLを末梢細胞に取り込ませる役割を果たしている。LDL受容体遺伝子の異常により,家族性高コレステロール血症(FH)を発症する。FHでは,LDL受容体が正常に機能しないために,LDLが処理されずに高LDL血症を呈する1,2)
 図1には,実際のFHの皮膚線維芽細胞とわれわれのFHモデル細胞の螢光標識LDLの取り込みを示している。われわれのFHモデル細胞もFH線維芽細胞同様に,標識LDLの取り込みが著明に低下していることが観察された。

分泌顆粒内における蛋白質のプロセシング

著者: 田中滋康 ,   黒住一昌

ページ範囲:P.107 - P.115

はじめに
 ホルモンをはじめとした多くの生理活性ペプチドは,はじめに分子量の大きな前駆体として生合成され,これが細胞内の移行過程でプロテアーゼの働きにより限定切断や種々の化学的修飾(糖鎖付加,S-S結合,アミノ末端アセチル化,カルボキシル末端アミド化など)を受け活性型となり(プロセシング),細胞外へ分泌される。通常,前駆体はそれ自身では生理活性を示さず,細胞内プロセシングを受けてはじめて活性物質として機能することから,細胞内プロセシングは蛋白質の広義の生合成過程の一部としてだけでなく,多様な生体機能の調節にかかわる重要なステップと考えられる1,2)。近年,分子細胞生物学的な研究により,プロセシング酵素のcDNAのクローニングや,前駆体蛋白質の限定切断部位の特異的なアミノ酸配列とプロセシング酵素との関係が明らかにされつつある。本稿ではプロセシング酵素に関する最近の知見を概観しつつ,前駆体蛋白質の限定切断が細胞内のどの部位で,いかなる機構により行われるかについて,形態学的な側面から論じたい。

分泌顆粒の細胞内輸送と細胞骨格

著者: 佐々木貞雄 ,   中垣育子 ,   堀清記 ,   坂口文吾

ページ範囲:P.116 - P.122

はじめに
 分泌顆粒を豊富に有する分泌腺細胞は主として蛋白質からなる分泌物を合成し,それをイオン,水とともに分泌顆粒の形に包装し,これを細胞膜の近くにまて細胞内輸送し,最後に開口放出によって細胞外に放出する。この一連の過程を分泌といい,きわめて一般的な細胞活動の一つとなっている。具体的には分泌蛋白質は腺細胞の粗面小胞体において合成され,滑面小胞体を経由してGolgi体に運ばれる。この小胞体―Golgi体間の輸送を仲介するのは,小胞体の膨出によって形成される輸送小胞(Golgi小胞)である。Golgi体のシス側(形成面ともいう)で輸送小胞は相互に融合してGolgi層板を作る。分泌物は通常層板の周辺部に集まり,しだいにトランス側(成熟面ともいう)に移動しここで濃縮を受けて分泌顆粒となる。このGolgi層板を経由しての輸送小胞の動きは層板を貫いて走る微小管に沿って行なわれると考えられている。この間,Golgi体では分泌物のペプチド鎖あるいは糖鎖のプロセシングが行なわれる。Golgi体で形成された分泌顆粒はGolgi体から腺腔に面する細胞膜近傍,すなわち細胞頂部に主として微小管(microtubule)よりなる細胞骨格系によって速やかに細胞内輸送される3-5)

ミトコンドリア蛋白質のターゲティングシグナル

著者: 伊藤明夫

ページ範囲:P.123 - P.128

 全ての蛋白質には,それが何をすべきかという「働き」を決めている情報と,その働きをどこですべきかという「働き場所」を決めている情報の二つの情報が含まれている。後者の情報,すなわち細胞内で生合成されたばかりの蛋白質が特定の細胞内小器官(オルガネラ)に選択的に輸送されるための情報を「ターゲティングシグナル」と呼んでいる。
 ミトコンドリアの蛋白質の大部分は,核内のDNA上の情報にしたがって細胞質で前駆体として合成され,ミトコンドリアに特異的に輸送される。次にミトコンドリア内の特定の区画に送り込まれ,同時に様々なプロセシングを受け活性を持つ成熟体となる1-3)

LDL受容体の転送と病態:家族性高コレステロール血症

著者: 三宅康子

ページ範囲:P.129 - P.134

I.LDLレセプターの動態と機能
 LDL(low density lipoprotein)は血中の主要なコレステロール・キャリアー蛋白質であるが,血中より細胞へのLDLの取り込みは,細胞表面膜上に存在するLDLレセプターを介して行なわれる。LDLレセプターを媒体として細胞内にLDLが取り込まれる過程はreceptor-mediated endocytosisと呼ばれている1,2)(図1)。
 LDLレセプターはLDL粒子中のアポ蛋白質B-100を認識して結合する。LDLレセプター複合体は,細胞表面上のクラスリンで裏打ちされたくぼみ(coated pit)に濃縮され,エンドサイトーシスにより小胞(coated vesicle)中に取り込まれて細胞内に入る。取り込まれた小胞の膜にはH-ATPアーゼが存在し,この働きにより小胞内は徐々に酸性となる。続いてクラスリンが小胞から離脱し,小胞同士が融合してエンドソーム(endosome)と呼ばれるやや大きな小胞となる。この酸性小胞内でLDLとレセプターは解離して,LDLはリソゾームへ,そしてLDLレセプターはエンドソームから切り離されて細胞表面に現われる(recycling)。LDLレセプターは10~20分で細胞表面に戻り再利用されることになる。LDLレセプターの半減期が約24時間であるから,1分子のレセプターは約100回ほどLDLを細胞内に取り込むのに働いていることになる。

ペルオキシソームへの転送異常:高蓚酸血症

著者: 市山新

ページ範囲:P.135 - P.140

I.原発性高蓚酸尿症
 肝臓でのセリン代謝には,セリンデヒドラターゼの作用を受けてピルビン酸になる経路と,ヒドロキシピルビン酸,D-グリセリン酸を経て2-ホスホグリセリン酸(解糖,糖新生の中間体,図1-A参照)に代謝される経路がある。マウスやラットではセリンデヒドラターゼの作用で始まる経路が主要セリン代謝経路であるが,この酵素の活性は動物の体表面が大となるに従い著しく低下する1)ので,ヒトを含むいくつかの大動物ではヒドロキシピルビン酸を経る経路の関与が大と推定される。
 グリオキシル酸(蓚酸の直接の前駆体)は水溶液中では主として水和型で存在することが知られている。そして,水和型グリオキシル酸の構造がヒドロキシピルビン酸に似ているためと思われるが,セリン代謝のヒドロキシピルビン酸経路に関与する2つの酵素がグリオキシル酸代謝においても重要な役割を果たしている。すなわち,この経路の最初の反応を触媒するセリン:ピルビン酸トランスアミナーゼ(SPT)は強いアラニン:グリオキシル酸トランスアミナーゼ(AGT)活性を持ち2)(本稿ではこの酵素をSPT/AGTと略す),第二の反応のD-グリセリン酸デヒドロゲナーゼはグリオキシル酸レダクターゼと同一酵素である(図1)。

エンドソームから細胞質への膜通過:ジフテリア毒素の細胞内侵入

著者: 目加田英輔

ページ範囲:P.141 - P.145

はじめに
 細胞は種々の高分子物質をエンドサイトーシス機構によって細胞内に取り込んでいる。脂質の輸送をつかさどるリポ蛋白,鉄イオンのキャリアーであるトランスフェリンなどは最もよく知られた例である。しかし,細胞におけるエンドサイトーシス機構の役割は栄養分の補給だけではない。上皮細胞でみられる細胞を介した物質輸送(トランスサイトーシス),ホルモンや生長因子のリセプターを分解することによる細胞間情報伝達の制御(ダウンレギュレーション),血液中の老廃物を取り除くことによるホメオスターシスの維持,免疫担当細胞が行う抗原の提示,などもエンドサイトーシスの重要な役割である。またウイルスや細菌の感染も,これらの微生物がエンドサイトーシス機構を巧みに利用することで成立している場合が多い。
 本稿で述べるジフテリア毒素も,エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれる蛋白質である。この毒素の特徴は,エンドサイトーシスによって取り込まれた毒素分子がエンドソームの膜を通過して細胞質に至り,そこで毒性を発揮することである。それゆえ,ジフテリア毒素が毒性を発現する機構の解析は,エンドサイトーシス機構のみならず蛋白質の膜通過機構の理解に役立つのである。

連載講座 新しい観点からみた器官

上皮小体―分泌機能調節因子としての血清Caと自律神経

著者: 江村正一 ,   正村静子 ,   磯野日出夫

ページ範囲:P.146 - P.152

 上皮小体は両生類以上の脊椎動物にみられる器官で動物種によってその位置,数および細胞の構造を異にする。たとえばヒトでは甲状腺の外側やや後方に,上下左右,合計4個存在し,組織学的に主細胞,酸好性細胞まれに水様透明細胞よりなるが1),著者らが主に使用しているハムスターでは外側に1対存在し,主細胞と時に出現する水様透明細胞(図1)からなり酸好性細胞は見られない2)。こうした上皮小体から分泌される上皮小体ホルモン(PTH)は,甲状腺の傍濾胞細胞(C細胞)から分泌されるカルチトニンおよび活性型ビタミンDとならびCa調節ホルモンといわれている。そのうちPTHは骨,腎臓および腸に働きかけて血清Ca濃度を上昇させる作用を有する,最も強力な調節ホルモンである。
 上皮小体は血清Ca濃度の変化によって,直接に機能が調節される自己調節器官であることはよく知られており,人為的に血清Ca濃度を変化させることによる細胞小器官の動態について多くの研究がなされている。また,著者らは長年自律神経との関係について,形態学的に追及し続け満足しうる結果を得ており,最近ではCa代謝と重力との関係について,上皮小体の微細構造の変化を通して研究している。さらに下垂体からの上皮小体を刺激するホルモンの存在の可能性についても検討している。以下それらについて述べてみたい。なお,細胞所見の検討はすべて主細胞に関してのものである。

実験講座

マイクロダイアリーシス

著者: 渡辺裕司

ページ範囲:P.153 - P.158

 無麻酔・無拘束下に動物の行動を観察しながら脳局所から遊離される神経伝達物質や候補物質の量を測定し,行動と伝達物質の動的変化を同時に観ることは,行動生理あるいは薬理学に関わっている者にとってひとつの理想型である。今日まで,この理想に近づくためにいくつかの方法が試みられてきた。行動観察とともに,脳表面あるいは深部をカップあるいはプッシュプル・カニューレを用いて灌流し,灌流液中の内因性物質を機器分析により分離定量する方法と,活性炭素繊維を封入したガラス微小電極を脳局部に刺入し,電極下に遊離される内因性物質の電解電位を測定する方法などは代表的なものである。
 脳に限らず,組織を灌流して得た灌流液中の微量の内因性物質を定量することは,分離技術に問題があったり測定機器の感度が低かったりしてかなり難しく,従来は目的とする物質ごとに解決法を考えるか,さもなければ放射性同位元素でラベルした物質を利用するしかなかった。しかし,近年,高速液体クロマトグラフによる分離分析技術が確立され,電気分解により酸化あるいは還元電位を発生する物質は電気化学的に高感度で測定できるようになったことから事態は一変した。すなわち,脳局所を灌流する方法は透析する方法に代わり,透析液の分析は高速液体クロマトグラフと電気化学検出器を組合せて行い,数~数十μlのサンプルから数種類の物質を一度に分離して定量することがごく普通にできるようになった1)

光ピンセット

著者: 鈴木直哉 ,   木下一彦

ページ範囲:P.159 - P.165

I.光ピンセットとは?
 光ピンセットは,レーザー光のような強い光を,開口数の大きなレンズ(顕微鏡の対物レンズ等)で強く集光することにより,その焦点付近で物を非接触に捕まえる装置である。ビーズはもちろん,ウイルスから細胞まで,様々な物を捕まえることができる(波長1μmの赤外光レーザーを使えば,水や生体物質に吸収されないので,溶液中の細胞などを生かしたまま捕まえ続けることができる)。光ピンセットは,マイクロマニピュレーションや,分子モータータンパク質の力の測定などに利用されている1,2)
 なぜ光で物が捕まえられるのか?光の波長に比べて,捕まえる物の大きさがある程度以上大きい場合には,幾何光学の立場に立って,光の屈折から光ピンセットの捕捉力を説明することができる3)。図1Aに示すように,焦点の位置より少し外側の位置に球体を置いた場合を考える。光は,球体に入る時と,出る時の2回屈折し,その進行方向を変える。つまり,光には運動量が与えられたことになる。これの反作用として,同じ大きさで逆向きの運動量が球体には与えられる。そして,これらの合力は光の焦点の方向に向く。

話題

神経特異抗原HPC-1は神経発芽に関係する

著者: 赤川公朗 ,   山口和彦 ,   中山孝 ,   井上明宏

ページ範囲:P.166 - P.168

 われわれは従来よりモノクロン抗体法を利用して,神経系の機能構築に関わると期待される未知の因子を探求してきた1-3)。HPC-1抗原はその過程で見つかった神経系特異抗原で,多くの種の成熟個体において中枢,末梢神経系を問わず広範に存在する機能不明の蛋白質であった4)
 最近,われわれはその構造を報告した5)。288残基よりなるHPC-1の推定アミノ酸配列にはC末端に疎水性の高い膜結合部位と考えられる領域がある。免疫電顕の結果などより,蛋白分子はC末で形質膜に結合し,それ以外の部分は細胞内にあることが分った6)。HPC-1はおもに神経細胞の軸索およびシナプス終末形質膜に存在し,樹状突起には認められない。初めHPC-1はまったく未知の分子であったが,われわれの報告5)とほぼ同時に発表されたepimorphin(EPN)という蛋白質がホモロジーを有することが明らかとなった7)。両者はアミノ酸配列で63%の同一性を有していた。その後,N型カルシウムチャンネルに結合する神経特異蛋白質syntaxin8)が報告されたが,そのアイソフォームの1つがHPC-1と同一であることが判明した。これらのことよりHPC-1/syntaxin/EPNはまったく新しい蛋白質ファミリーを形成していることが示された9)(図1)。

アプリジアのシナプスの可塑性研究の現状

著者: 杉田修三

ページ範囲:P.169 - P.173

 アプリジアの感覚細胞と運動細胞をつなぐシナプスは,学習や記憶に相当すると考えられる行動上の変化に伴う変化を示し,その可塑性のメカニズムの研究が細胞・分子レベルで広範に進められてきた1-3)。とくに,水口と尾という2つの部位の引っ込め反射に関与する,感覚細胞と運動細胞のシナプスがよく調べられている。これらの反射は,頭部や尾に強い苦痛刺激を与えるとより強くなる。この行動上の変化をsensitizationと呼ぶが,その細胞レベルでの変化の1つが,感覚細胞と運動細胞をつなぐシナプスの増強(synaptic facilitation)である。sensitizationには数十分以下の短期のものと,24時間以上続く長期のものがあり,長期的な変化に限ってタンパク質の合成が必要であるということがいわれているが4),ここでは短期のsensitizationに関係するシナプスの変化に限って話を進める。というのは,長期的なsensitizationのメカニズムについては,現時点では仮説先行的であるといわざるをえないからである。1982年に,短期的なsensitizationに関する細胞・分子レベルの優れた仮説が現れ,短期的sensitizationのメカニズムの研究は一応の終止符を打ったかにみえた3)。しかし,その後の研究によってこの仮説はさまざまな修正を迫られることになり,また多くの点について解決がついていない。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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