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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学44巻3号

1993年06月発行

雑誌目次

特集 カルシウムイオンを介した調節機構の新しい問題点

神経系における電位依存性Caチャネルの役割に関する再検討

著者: 高木博 ,   鈴木信之 ,   吉岡亨

ページ範囲:P.178 - P.183

 Caイオンは細胞内情報伝達分子(セカンドメッセンジャー)の一つとして知られ,細胞内でCa濃度が一過性に変化することが引き金となってさまざまな生理機能が発現することが示唆されている。細胞内のCa濃度上昇の主たる要因は細胞外よりのCaの流入である。そのCa流入の入り口にあたるものが電位依存性Caチャネルである。このCaチャネルの生理的意義はこれまでさまざまな研究者により調べられているが,最近に至ってもなお新しいデータが蓄積され,その役割の見直しが行われている。
 この小論では主として,神経系において,これら電位依存性Caチャネルの分類がどのように変わったか?またそれら分類されたCaチャネルのサブタイプのうちいったいどれが伝達物質放出に重要な役割を果たしているかについて,最近の知見をまとめてみた。

シナプス可塑性のカルシウム濃度レベルによる調節メカニズム

著者: 津本忠治

ページ範囲:P.184 - P.191

 筋収縮,細胞内情報伝達など,生体内のほとんどすべての細胞機能が微量のCa2+によって制御されていることはよく知られている。本特集では,この制御機構の新しい問題点が多くの観点から解説されると思われるが,本稿ではシナプス可塑性のCa2+による制御機構について最近明らかとなってきた問題点を述べたい。
 脳内の神経細胞(ニューロン)間の接点であるシナプスは,一定の入力によってその伝達効率を変えることが知られている。たとえば,特定の入力後伝達効率が長期持続的によくなったり(シナプス長期増強),あるいは悪くなったり(長期抑圧)する。現代の神経科学研究者の多くは,このようなシナプス伝達効率の変化が,記憶や学習あるいは環境に対する脳機能の適応的変化の基礎にあると考えている。

細胞内Ca2+放出機構研究の新局面

著者: 飯野正光

ページ範囲:P.192 - P.197

はじめに
 骨格筋の収縮制御機構として発見された細胞内Ca2+ストアからのCa2+放出機構は,筋細胞に限らずほとんどすべての細胞に類似の機構が存在して,それぞれの細胞の機能制御に関与していることが明らかになってきた。Ca2+ストアに存在するCa2+放出チャネルには,Ca2+によるCa2+放出(Ca2+-induced Ca2+release,CICR)チャネルと,イノシトール三燐酸(IP3)チャネルの2種類がある。細胞によって,どちらか一方だけが存在していることもあるし,両方のチャネルとも発現していることもある。2種のチャネルには,一次構造の部分的な相同性の他に,ともに4量体としてチャネルを形成するなど驚くほど似かよった面がある。機能的にも,類似性が認められる。本稿では,これらのCa2+チャネルがどのような制御のもとに機能しているのかについて,基本的な事項に関しては以前の総説1)にゆずって,とくに最近の進展についてまとめてみたい。

ミオシンの燐酸化機構と平滑筋のCa2+感受性の変化

著者: 唐木英明

ページ範囲:P.198 - P.205

はじめに
 平滑筋の収縮は1970年代の終わり頃からCa感受性のミオシン軽鎖キナーゼによるミオシンの燐酸化説で説明されてきた1,2)。しかし最近,細胞内Ca濃度(〔Ca〕i)とミオシンの燐酸化と収縮の関係が従来考えられていたほど単純ではないことが分かり,燐酸化と収縮の間の時間依存性の解離〔Ca〕iと燐酸化の間の刺激依存性の解離が見出されている。またミオシンの燐酸化以外にも平滑筋の収縮を制御する機構があることが示唆されてきた。そこでこれらの問題を簡単にまとめてみたい。

平滑筋収縮蛋白質のカルシウム感受性制御機構

著者: 田中利男 ,   中充子 ,   三野照正

ページ範囲:P.206 - P.214

 平滑筋の収縮反応は,細胞内カルシウムイオンにより調節されていることは以前より知られている。さらに,その分子機構としてカルシウム-カルモデュリン依存性ミオシン軽鎖リン酸化反応が報告されてから長い期間が経過している1-3)。しかしながら,生筋における細胞内カルシウムイオン濃度やミオシン軽鎖リン酸化量が測定されるようになり,これらは必ずしも収縮反応と直線的関係ではなく,種々の条件(刺激の種類,組織の種類,時間経過,弛緩薬の種類など)により,その関係は大きく変化することが明らかにされてきた4-7)。そこで,カルシウム-カルモデュリン依存性ミオシン軽鎖リン酸化反応以外のカルシウム感受性制御機構に焦点があてられてきた。
 本稿では,平滑筋の新しいカルシウム感受性制御機構としてカルポニンやカルデスモンを中心に,それらのプロテインキナーゼによる調節機構について解説を試みる(図1)。

開口放出の調節機構―クロマフィン細胞を中心に

著者: 熊倉鴻之助

ページ範囲:P.215 - P.223

 ホルモン分泌は副腎皮質や性腺からのステロイドホルモンの分泌を除いては,一般に開口放出(Exocytosis)によって行われる。神経終末ではシナプス小胞もまた,開口放出によって伝達物質を放出する。ホルモン分泌は単に顆粒内容を細胞外に放出する過程のみを意味するわけではなく,広義には顆粒の合成,内容物の合成と濃縮,貯蔵,形質膜近傍への顆粒の輸送,そして開口放出という一連の連鎖によって完結する。本稿では,分泌の最終過程である開口放出に焦点を当てて,代表的なモデル系である副腎髄質クロマフィン細胞における開口放出の調節機構について筆者らの最近の研究を中心に述べて,新しい問題点を考えてみたい。

新しいカルシウム結合蛋白質:レティキュロカルビン(Reticulocalbin)

著者: 小沢政之

ページ範囲:P.224 - P.225

はじめに
 レティキュロカルビンreticulocalbinは,EFハンドモチーフを持つカルシウム結合蛋白質で,小胞体内腔に存在する1)。われわれはテラトカルシノーマ細胞に発現される一連のドリコス凝集素結合性(糖鎖の非還元末端にGalNAcを持つ)糖蛋白質のcDNAクローニンクを行っていたが2,3),偶然,EFハンドモチーフを持つ蛋白質のcDNA断片を得た。最初,このcDNAはSPARC(secreted protein,acidic and rich in cysteine)4)やインテグリンのα鎖5)のように,細胞外に分泌もしくは細胞表面に発現される糖蛋白質をコードするのではないかと考えられたが,full-lengthのcDNAをクローニングし,その塩基配列を決定したところ,アミノ末端にはいわゆるシグナル配列が存在し,一方,カルボキシ末端には,小胞体内腔に存在する多くの蛋白質に見い出されるKDEL配列(ER-retension signal)6)によく似た配列HDELが存在することが判明した。そこで以下に述べるような実験を行ない,たしかにこの蛋白質が小胞体内腔に存在することを証明し,レティキュロカルビンと命名した。

新しいカルシウム結合蛋白質:新しいS100ファミリー(S100L,S100C)

著者: 田中利男 ,   中谷中

ページ範囲:P.226 - P.227

 細胞内カルシウム結合蛋白質であるEFハンド蛋白質は数多く報告されているが,それそれの遺伝子構造を解析すると現在大きく3つのグループに分類され,その1つがS100蛋白質ファミリーである。この特徴は,2つのEFハンド構造を持つサブユニットが二量体を形成し,第1のEFハンド構造のカルシウム結合ルーフは通常の12個のアミノ酸ではなく,14個のアミノ酸からなることである。
 さらに遺伝子構造の特徴は,2つのEFハンド構造の間にイントロンが存在することである。一方,遺伝子の染色体上の位置もS100β以外の多くは第1染色体にあるのが特徴である。

新しいカルシウム結合蛋白質:ニューロカルシン(Neurocalcin)

著者: 岡崎勝男 ,   日高弘義

ページ範囲:P.228 - P.229

 ニューロカルシンは当教室で発見,精製された,中極神経系に豊富に存在している新しいカルシウム結合蛋白質である。当教室では,種々の新しいカルモデュリン阻害剤を合成し,カルモデュリンをはじめとするカルシウム結合蛋白の細胞機能制御機構を解明してきたが,その応用として,これら阻害剤をアフィニティリカンドとして用い,カルシウム依存性に溶出することで新しいカルシウム結合蛋白をいくつか発見してきた。ニューロカルシンは当教室で合成した新しいカルモデュリン阻害剤である,W-77((S)-P-(2-aminoethyl-oxy)-N-〔2-(4-benzyloxy-carbonylpiperazinyl)-1-(P-methoxybenzyl) ethyl〕-N=methylbenzene sulfonamide dihydrochloride)を用いたアフィニティクロマトグラフィを使って,ウシ大脳粗蛋白分画より得られた1)
 ニューロカルシンはTricine-SDS PAGE上で分子量23kDa,24kDaの2つに分かれ,さらにHPLC逆相カラムで2つずつに精製される。当教室ではウシ脳cDNAライブラリーより,2つのニューロカルシンのクローンを単離したが2),これらは精製された4つのアイソザイムとは異なっており,少なくとも合計6つのアイソザイムが脳内に存在していることになり興味深い。

新しいカルシウム結合蛋白質:新しいアネキシンファミリー(CAP-50)

著者: 水谷顕洋 ,   日高弘義

ページ範囲:P.230 - P.232

 本誌に登場する「新しいカルシウム結合蛋白質」は,そのほとんどがいわゆるEFハンド構造を有する蛋白質である。それに対してここで紹介するアネキシン蛋白質は,それらとはまったく異なるアミノ酸のモチーフを介してカルシウムイオンさらには燐脂質に結合する蛋白質で,近年さまざまな研究分野から注目を浴びている。本稿では,アネキシン蛋白質について概説し,筆者らの研究室で新たに発見したアネキシン,CAP-50を紹介する。

新しいカルシウム結合蛋白質:カルヴァスキュリン(Calvasculin)

著者: 日高弘義

ページ範囲:P.233 - P.234

 1.カルヴァスキュリンとは
 筆者らはカルモデュリンをはじめ,細胞内情報伝達に関わるさまざまな蛋白質分子に対する特異的阻害剤を開発してきた。これらの薬剤はそのターゲット蛋白質の生物学的活性を抑えることによって,そのターゲット蛋白質の細胞内における機能を明らかにできるという点で非常に有用であるということはいうまでもない。そのうえ,これらの薬剤をアフィニティカラムのリガンドとして使うことで,これら薬剤に特異的に結合する蛋白質分子を精製することもできる。
 W-66は筆者らの教室で新たに開発したカルモデュリン拮抗剤であるが,この薬剤にカルシウム存在下て結合する蛋白質としてウシの大動脈から精製されたのがカルヴァスキュリンである1)

新しいカルシウム結合蛋白質:レギュカルチン(Regucalcin)

著者: 山口正義

ページ範囲:P.235 - P.237

 レギュカルチン(RCと略す)は,ラット肝細胞質から単離された新しいCa2+結合蛋白質で,Ca2+による酵素活性化を制御する蛋白質として命名された。

新しいカルシウム結合蛋白質:セファロカルシン(Cephalocalcin)

著者: 志村二三夫

ページ範囲:P.238 - P.240

 Ca2+は神経系において,一般細胞過程はもちろん,ニューロンの興奮性/軸索輸送/神経伝達物質の産生と放出などの制御・調節に中心的な役割を果たす。中枢神経系では,1個の受容分泌細胞と見てさえ無類に複雑なニューロンが,それぞれ夥しい個性を発揮しつつ,10の10乗をこえるオーダーて高度に組織化されており,シナプス可塑性はじめCa2+関与の細胞現象・生化学的機構はさらに多彩と推定される。何の変哲もなげな陽イオンCa2+が生理作用を発現するにはその仲介・調節役の素子群が必須で,ここに新たな脳のCa2+問題へ,中枢神経系のCa2+結合蛋白の多様性・同系に固有な蛋白の解析からのアプローチの妥当性があると考えられる。本稿では,その一つの手掛かりともなりうる新型Ca2+結合蛋白を紹介する。

新しいカルシウム結合蛋白質:カルシウム結合蛋白としてのジアシルグリセロールキナーゼ(Diacylglycerol kinase)

著者: 加納英雄

ページ範囲:P.241 - P.242

 ジアシルグリセロール(DG)キナーゼ(DGK)は逆向きの反応を行なうホスファチジン酸(PA)ホスファターゼとともに,2次メッセンジャーであるPAとDG濃度の調節を行なっている。DGKには多数のアイソザイムが存在するが1,2),われわれは分子量約8万のキナーゼをブタ胸腺cDNAライブラリーからクローン化し3),この酵素が図1に示すように典型的なEFハンド構造を2ヵ所持ち,μMレベルのCa2+により活性化されることを報告した。
 この80KDGKはその後ヒト白血球4)とラット脳5)のcDNAライブラリーからクローン化されているが,いずれも互いに80%以上の同一アミノ酸配列を持つEFハンド蛋白質である。このDGKアイソザイムは細胞特異的に発現しており,T-リンパ球とオリゴデントログリア細胞に検出されるが,ニューロン,アストログリア細胞,肝細胞などには発現していない5)

新しいカルシウム結合蛋白質:カルレチニン(Calretinin)

著者: 山口知子

ページ範囲:P.243 - P.244

 近年遺伝子クローニング技術の発展に伴って,一つの遺伝子配列が解明されると同族分子の存在が遺伝子レベルで見いだされ,発現蛋白の探索によって新しい分子が同定されるという流れで,多くの未知蛋白の存在が明らかとなってきている1-3)。カルレチニンもその一つでカルモジュリン4)の同族分子であり,ニワトリの網膜からcDNAとしてJ. H. Rogers3)によって単離され,29kD蛋白を発現していることが分りカルレチニンと命名された。
 この分子はEF-ハンド5)をもつカルシウム結合蛋白として進化してきたカルモジュリンの分子の仲間である。図に示すようにカルレチニンはEF-ハンド遺伝子の重複により発生し,カルシウムを1分子当たり5ケ(4~6ケ)結合している蛋白であり,すでにクローニングされているカルビンディンD28k6)にもっとも近い分子相同性がある。

新しいカルシウム結合蛋白質:ビジニン(Visinin)

著者: 山形要人 ,   三木直正

ページ範囲:P.245 - P.246

 ビジニンvisininは,1983年に筆者らの研究室でニワトリ網膜に特異的な,24kDaの可溶性蛋白質として見いだされた1)。その特異抗体を用いた免疫組織化学的研究から,この蛋白質が種々の動物種の網膜錐体細胞(視細胞の一つ)に特異的に発現していることが分かった2)。また,ビジニンは視細胞の分化に伴い,その量が増加していくことから,光変換に関与していることが予想された。そこで筆者らは,ニワトリ網膜cDNAライブラリーを作製し,特異抗体を用いて,ビジニンcDNAをクローニングした3)。このcDNAは,192個のアミノ酸からなる,3個のEFハンドを持つ新しいCa結合蛋白質をコードしていた。ビジニンを大腸菌で作らせ,45Caブロティング法により,ビジニンがCa結合蛋白質であることも証明した。
 また,ノーザンおよびin situハイブリダイゼーション法より,ビジニンmRNAが網膜視細胞層に特異的に発現していることが分かった。また,光受容機能を持つ松果体でもビジニン陽性細胞が見られ,その数が光刺激によって増加すること4)から,ビジニンは光変換に関与している新しいCa結合蛋白質であろうと結論づけた。

新しいカルシウム結合蛋白質:S-モジュリン(S-modulin)

著者: 河村悟

ページ範囲:P.247 - P.248

 S-モジュリンはごく最近筆者らがカエルの視細胞で発見した順応調節蛋白質であり,Ca2+依存的にcGMPホスホジエステラーゼの光依存的な活性化を制御する1)

新しいカルシウム結合蛋白質:リカバリンとリカバリン様蛋白(Recoverin)

著者: 高松研 ,   野口鉄也

ページ範囲:P.249 - P.250

 1.リカバリン
 1)歴史(発見・命名)
 脊椎動物の網膜視細胞では,光刺激の受容にともなったロドプシンを介した一連の反応によってcGMP濃度が減少し,cGMP依存性チャンネルが閉じ細胞内電位が過分極し活動電位となる。連続的な強い光のパルス刺激を与えるとcGMP濃度は減少しチャネルは閉じた状態が続くと思われるが,やがてcGMP濃度の回復過程が促進されるため光刺激に対する反応性を回復する。これが明順応の機序の一つと考えられる。これは連続刺激によりcGMPチャンネルが閉じた状態が続くと細胞内Caが減少し,この低Ca状態がグアニレートサイクラゼ(GCase)を活性化することによっている。このようなGCasc活性のCa依存性調節因子がウシ網膜に見い出され,光感受性を回復させる作用を持つことから,リカバリンと命名された1)

連載講座 新しい観点からみた器官

嗅上皮―嗅細胞と匂い分子の受容

著者: 渋谷達明

ページ範囲:P.251 - P.259

 近年まで,嗅覚の研究は一部の人々を除いてあまり重要視されていなかった。それは視覚などの感覚に比べて,あまり重要な感覚ではないという先入観のようなものがあったからでもある。したがって当然のことながら研究者の数が極端に少なかった。さらに嗅覚の解析的な研究のためには,「匂い」というものがまだかなりあいまいな要素を含んでいたことも一因であった。しかしここ十数年間の「匂い」や「香り」に対する社会的な関心の高まりも間接的に作用してか,嗅覚に関する神経生理学,分子生理学,生化学,行動遺伝学,心理学など多方面からの研究が急速に発展してきた。それらの研究成果がベースにもなって,食品や嗜好品の香り,健康や疾病にも影響を与えるといわれる香りなどの開発研究も盛んになり,いくつかの新しい匂いの計測法も考案されてきた。さらに臨床医学面では嗅覚障害者の治療などが適切に行なわれるようになっている。このように最近ではいろいろな面から嗅覚の重要さが見直されるようになってきた。
 嗅上皮(嗅粘膜)は,組織学的には比較的単純な細胞構成をもつ粘膜であるが,とくに匂い分子の受容機構などは,最近明らかになったことが多い。ここでは嗅上皮の構造とともに,嗅細胞の匂い受容機構などについて最近の知見を述べることにしたい。

解説

Ca結合サイトとはどういうものか

著者: 矢沢道生

ページ範囲:P.260 - P.269

はじめに
 カルシウムイオン(Ca2+)は,生体内での多様な反応に関与している。多くの場合,Ca2+の機能は,Ca2+結合蛋白質と呼ばれる蛋白質への結合を介して発揮されている。蛋白質分子内でのCa2+の役割の代表的なものとして,次の3つがあげられる。(1)蛋白質が機能するときに必要な高次構造を安定化する。(2)それにとどまらず,基質分子の化学結合を活性化するなど,酵素の触媒作用にも積極的に参加する。(3)蛋白質の高次構造を可逆的に変えて,細胞内反応開始の引金とする。
 基本的には,これらはいずれも,蛋白質分子の一次構造上のいろいろな領域にあるアミノ酸残基をCa2+のまわりに集めて,それぞれの目的に合った高次構造をつくることによって達成されているので,Ca2+結合サイトの構造の詳細を知ることが作用機構の解明に役立つと考えられる。

実験講座

非放射性PCR-SSCP法の開発とその応用

著者: 安倍敏彦 ,   中島利博 ,   青野浩之 ,   西岡久寿樹

ページ範囲:P.270 - P.274

はじめに
 近年,分子生物学のいちじるしい発展に従い,種々の疾患の病態生理が遺伝子レベルで解明され,さらに一部の疾患では遺伝子治療も試みられつつある。たとえば筋ジストロフィーのようにこれまで長年の経験を積んだ専門医のみが症候学的に診断可能であった疾患が,遺伝子工学を応用した臨床検査により容易かつ迅速に診断可能となってきている。今後,この傾向はますます顕著となり,遺伝子レベルでの臨床検査診断学の重要性はより一層高まることが予想される。
 その中でも,国立がんセンターのOritaら1)により開発されたpolymerase chain reaction-single strand conformation polymorphism(PCR-SSCP)法は,塩基変異を容易に検出できる注目すべき方法である。したがって,遺伝子の突然変異により引き起こされる遺伝子疾患などの診断,治療に今後非常に有用な検査方法になる可能性が考えられる。

話題

夢見時の眼球運動は視覚像に追従するか?

著者: 森田雄介

ページ範囲:P.275 - P.277

 ヒトのレム睡眠期の夢と眼球運動の対応については,1950年代になって,睡眠時ポリグラム記録に基づき研究が行われるようになってきた。これらの研究は,レム睡眠期覚醒法1)に従って,言語により報告された新鮮な夢を蒐集し,夢の視覚像とポリグラム上の眼球運動との対応関係から検討されたものである2-4)
 DementとKleitman5)は走査仮説を提唱し,レム睡眠期に特徴的に認められる急速眼球運動(REM)は夢の中の視覚像に対応した視線の変化に直接的関係があるものと考えた。しかし,これに反論する報告も多数あり,ヒトの言語報告に基づくレム睡眠期覚醒法では客観性のある明確な結論を得ることは困難であると考えられる。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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