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特集 細胞接着
デスモソーム(細胞―細胞間接着装置)の構造と機能
著者: 志田寿人1
所属機関: 1山梨医科大学分子細胞生物学
ページ範囲:P.335 - P.342
文献購入ページに移動形態形成という発生過程の中核に位置する生物現象において,細胞間接着が重要な役割を果たしているのではないかという古典的,かつ現代的な発生生物学上の作業仮説のそもそもの定式化は,今から40年近くさかのぼった,TownesとHoltfreterによる解離胚細胞群の実験的自己組織化誘起実験1)と,その結果に対するSteinbergの差次接着説(differential adhesion hypothesis)2)にまでたどることができる。アルカリ処理によって解離された胚葉位置を異にする細胞の集団が,invitroであたかも自己の位置をあらかじめ知っているかのごとくその本来あるべき相対的位置に自己組織化していくとの実験結果は,差次接着説によって,ちょうど一次構造の決定したポリペプチド鎖の高次構造形成と比較できるような,エネルギー最適化問題に還元されたといえよう。しかし,その後の30年間にわたる細胞間接着の研究の歩みは,理論構築の是非をめぐる議論の深化という方向をとることにはならなかった。これはSteinbergの提起した差次接着説が,具体的事実との乖離を生じたということではなく,細胞の接着現象と直接的に関連する実体の解明がなされていないという,分子論的展開にとって致命的な欠落部分に多くの研究者が気付いたからにほかならない。
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