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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学44巻6号

1993年12月発行

雑誌目次

特集 滑面小胞体をめぐる諸問題

滑面小胞体の形態学

著者: 山田英智

ページ範囲:P.636 - P.642

 1940年代の後半,PorterはOsO4固定の培養細胞の全載標本を電顕で観察し,その薄く伸展した細胞体部分の,いわゆるendoplasm全体に拡がるレース状の網を見出し,endoplasmic reticulum小胞体(以下ER)と名付けた。ついで同部位の切片像の観察から,この網が,膜で境された細管ないし嚢の連続によってつくられていることが明らかにされた。
 一方,Paladeによるリボゾームの発見から,ERがリボゾームを伴うものと,伴わないものがあることが明らかになり,前者をrough surfaced ER粗面小胞体(以下rER),後者をsmooth surfaced ER滑面小胞体(以下sER)と区別するようになった1)。rERは分泌タンパク質の合成と輸送に関与する細胞小器官として,その構造と機能についての分析は進んでいるのにくらべ,sERについては比較的遅れているといえよう。一つにはその機能が単一でないことによるのであろう。この小文ではsERの形態を概観し,細胞の種類による変異を紹介し,機能との関連について触れてみたい。

走査電子顕微鏡でみた滑面小胞体

著者: 田中敬一

ページ範囲:P.643 - P.647

 小胞体は細胞の種類によって,また同じ種類の細胞でもその機能状態によって多少異なる形態をとるといわれている。粗面小胞体は主として一つの機能,すなわちタンパク合成を司っているが,滑面小胞体の方は,いろいろな化合物の水酸化,ステロイドホルモンの合成,イオンの能動輸送など,細胞によっていろいろな機能を行っている。したがって,粗面小胞体はほとんどのものが扁平嚢状であるのに対し,滑面小胞体は管状体の網,または叢,扁平嚢状,胞状など,いろいろな形態をしめしている。
 SEMによる滑面小胞体の観察は1976年,Naguro1)が膵臓外分泌部の細胞で見たのに始まる(図1)。当時はまだオスミウム-DMSO-オスミウム法(以下,O-D-O法と略す)が開発されておらず,細胞内構造は細胞基質に埋没され影のようにしか見えなかったので,無理にイオンエッチングによって剖出していた。Naguroの用いた標本もエッチングなしであったため,他のすべての細胞に細胞内構造は見られなかった。しかしその中で,たった一つの細胞ではあったが,滑面小胞体が立体的に剖出されていたのである。この細胞が何細胞なのか,またなぜこの細胞だけがこのような状態になったか結局わからずに終わったが,走査電子顕微鏡による細胞内構造観察の,発展過程における重要な一里塚であったことは確かである。

分析カラー蛍光電子顕微鏡によるステロイド産生細胞の観察

著者: 小川和朗

ページ範囲:P.648 - P.654

 走査電子顕微鏡(scanning electron microscope,SEM)は,ナノメーター(nm)のオーダーまできわめて細く絞った電子線で試料表面を走査し,試料面から発生する二次電子(secondary electron,SE),反射電子(back scattered electron),Auger電子,X線,カソードルミネッセンス(cathodoluminescence,CL)などの信号から,試料に関するいろいろな情報を得ることができる。これらの信号のなかで,CLは,すでに1955年からSEMによる分析手段として確立されており1),物理学,半導体などの領域では広く応用されていたが,医学生物学の分野では,CLが信号としては非常に微弱な信号であることおよび電子線照射により容易に損傷を受け(電子線損傷 beam effect),CLが変化あるいは消退(fading Phenomenon)することなどの難点により,なかなか実用に供されなかった。
 われわれはこれらの難点を克服し,CLを分光分析するとともに,カラーで解析しうる走査電子顕微鏡,すなわち分析カラー蛍光電子顕微鏡(analytical color fluorescence electron microscope,ACFEM)を開発し,医学生物学の諸分野で応用してきた2-9)

SERの酵素細胞化学(G6Pase)

著者: 齋藤多久馬

ページ範囲:P.655 - P.658

 滑面小胞体はリボゾームが付着していない小胞体として粗面小胞体から区別される1)。これまで小胞体に対する研究者の関心は,粗面小胞体におけるタンパク質合成にスポットライトが集中してきたきらいがある。しかしながら,滑面小胞体もきわめて重要なはたらきをしていることが次第に明らかになってきている。細胞の生理学的研究には細胞化学の方法はきわめて有用である一方,代謝を司るすべての代謝過程が観察されるには至っていない弱点をもってもいるのは事実である。今回,glucose-6-phosphataseの細胞化学的検出を代表に,いくつかの臓器における代謝を眺めてみたい。

SERの酸素不足に伴う形態変化

著者: 伴野朋裕 ,   河野邦雄

ページ範囲:P.659 - P.665

 一般に,神経細胞の樹状突起内には,管状の滑面小胞体(SER)がネットワークを形成して分布していると考えられている1)。ところが,小脳プルキンエ細胞の樹状突起内には,時々,積層小胞体あるいは層板小体とよばれる構造(滑面小胞体が層板状に重なったもの)が観察される2)。従来より,この層板小体は,固定不良あるいは細胞傷害のために生じたアーチファクトであると考えられてきたが見解は一致していなかった3-8)。最近,この層板小体にイノシトール三燐酸受容体(IP3受容体)が豊富に局在すると報告され,層板小体がCa2+動態に関連した何らかの生理的機能を有するのではないかと議論されるようになった10-15)
 われわれは,層板小体の形態を調べる目的で,多くのラットを用いてプルキンエ細胞樹状突起を観察したが,ほとんどのラットは,管状の滑面小胞体が観察されるだけであり,小脳のどの部位を観察しても層板小体はみられなかった(図1a)。しかし,固定前に数分間の無呼吸状態となったラットでは,逆に,管状の滑面小胞体がほとんどみられず,層板小体が多く観察された(図1b)。したがって,数分の無呼吸の間にプルキンエ細胞樹状突起内の滑面小胞体が,管状から層板状にダイナミックに形を変えるのではないかと考え,くわしく解析した。

小胞体腔内のカルシウム結合タンパク質

著者: 小沢政之

ページ範囲:P.666 - P.669

 小胞体内腔に蓄えられていたCa2+は,カルシウムチャンネルにより細胞質内に放出され,カルモジュリンあるいはトロポニンCなどのカルシウム結合タンパク質に結合することにより,細胞質でのさまざまの情報伝達に中心的役割を演じている。このように,小胞体内腔がCa2+の貯蔵部位として機能していることは知られている。しかしながら,小胞体内腔のCa2+は,単に貯蔵されているだけなのであろうか。
 筋小胞体には,カルシクエストリン(calsequestrin)というカルシウム結合タンパク質が存在していて,Ca2+の貯蔵に関与することが古くから知られていたが1),最近になり,小胞体腔内に新しいカルシウム結合タンパク質が存在することが明らかになってきた。

SERとバゾプレシンの作用

著者: 石川三衛

ページ範囲:P.670 - P.673

 アルギニンバゾプレシン(AVP)は,腎集合尿細管細胞においてV2受容体を介してcAMP産生を惹起し,管腔側からの水の透過性を亢進させる。一方,血管平滑筋細胞や腎糸球体メサンギウム細胞ではV1受容体を介してイノシトールリン脂質の代謝回転を促進して,イノシトール1,4,5-三リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DAG)の産生を惹起し,細胞内遊離カルシウム([Ca2+i)とプロテインキナーゼCの活性化を引き起こして細胞の収縮をもたらす。このように,AVPは標的細胞のV1またはV2受容体いずれかに結合後,その作用を発現する。
 近年,V1,V2受容体がクローニングされ,構造が明らかになった1-3)。V1受容体は394個(分子量44202),V2受容体は370個(分子量40518)のアミノ酸より成り,いずれも細胞膜を7回貫通する典型的なG蛋白結合受容体である。両者のホモロジーは60%と高い。V2受容体をもつ集合尿細管細胞でもAVPが[Ca2+iを動員することが明らかとなり4,5),V1・V2受容体の分布と受容体以降の細胞内情報伝達系との連関が話題になっている。本稿では,[Ca2+iの動員の細胞内プールである小胞体(ER)とAVPの関係を上記のV1,V2受容体をもつ細胞において論ずる。

変異タンパク(リゾチーム)のERによる分解

著者: 大村文彦 ,   菊池正和

ページ範囲:P.674 - P.677

 膜蛋白質や分泌蛋白質は粗面小胞体の膜上で合成され,小胞体腔へ移行する。このような新生蛋白質は,そこで立体構造を形成し,あるものは多量体を形成する。またジスルフィド結合(S-S結合)の形成やアスパラギン(Asn)結合型糖鎖付加などの蛋白質の修飾も小胞体腔で行われる。このようにして正しい構造を獲得した蛋白質は小胞体からゴルジ体へ移行し,やがて最終的な目的地へ到達し,その機能を発揮する。ところが小胞体腔で正しい構造形成が行われない場合,異常な蛋白質は小胞体からゴルジ体への移行ができず,ときにはそこですみやかに分解されることが知られている。
 この分解様式は,1988年Klausnerの一派によってはじめて明確に示された1)。彼らはT細胞抗原受容体(T cell antigen receptor:TCR)のαサブユニットのみをマウスの繊維芽細胞で発現させ,非会合状態にあるこの蛋白質の運命を解析した。TCRαは合成後20分間のラグタイムの後,約50分の半減期で分解された。この分解は,リソソーム系による分解とは異なり,TCRαがゴルジ体中間部(medial Golgi)に到達する以前に起こることが示された。分解される前のTCRαは小胞体にしか認められないことから,この様式の分解はER degradationまたはpre-Golgi degradation(pre-Golgi分解)とよばれている。

ジペプチジルペプチダーゼIV変異体の小胞体における分解

著者: 池原征夫

ページ範囲:P.678 - P.680

 ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP IV)は,本来,細胞表面膜に局在するセリンプロテアーゼであり,小腸粘膜,腎尿細管,肝細胞などの極性をもつ上皮細胞に高い活性がみられる。これらの細胞では,新しく合成されたDPP IVはゴルジ装置で選別されて,細胞膜のapical domainに輸送される1)。最近,われわれはDPP IV欠損ラット2)の解析を含む一連の研究で,本酵素の活性部位配列に変異があると,合成されたDPP IVは小胞体に停留され,きわめて速やかに分解されることを明らかにした3,4)

ER腔内のプロテアーゼ活性をもつ溶性タンパク質群

著者: 裏出令子 ,   鬼頭誠

ページ範囲:P.681 - P.683

 細胞内のタンパク質分解は従来,リソソームと細胞質のプロテアーゼによって行われると考えられてきた。しかし最近,分泌タンパク質や膜タンパク質生合成の場である小胞体でもタンパク質の分解が行われることが明らかとなってきた。小胞体におけるタンパク質分解系の研究は始まったばかりで,その実体はほとんど明らかとなっていない。われわれは最近,小胞体に局在するプロテアーゼを世界に先駆けて発見した1-3)。本稿ではこの小胞体腔内の溶性システインプロテアーゼ,およびその小胞体での予想される生理的役割について紹介する。

SERと貧食胞

著者: 木南英紀

ページ範囲:P.684 - P.686

 貪食胞には細胞外からエンドサイトージスによって微生物や細胞の破片のような大きな顆粒を取り込むことによってできる貪食胞と,自己の細胞成分を取り込んでできる貪食胞がある。どちらの貪食胞もタンパク質をリソソームへ運ぶルート上にある。前者はマクロファージや白血球など特殊な専門の細胞が担当しており,貪食胞を構成する膜は細胞膜由来で,直接には小胞体と関連をもつことがないので,本項の議論から除く。
 後者すなわち,自己貪食(Autophagy)には細胞質成分が二重膜のオートファゴソームにいったん貯えられた後,リソソームによって分解されるMacroautophagyと,リソソーム膜表面の陥入によって直接細胞質を取り込むMicroautophagyの二つの経路があるが,細胞蛋白の代謝回転にはMacroautophagyが最も大きく寄与していて研究も進み,通常自己貪食というと,Macroautophagyのことを指す。ラット肝の蛋白分解の速度は通常0.3-1.5%/時であり,絶食時で3-4.5%/時と促進される1)。この蛋白分解はリソソーム蛋白分解阻害剤存在下で強く阻害され,その割合はほぼ全体の60-70%と見積られている2)。蛋白代謝でリソソーム経由の蛋白分解の寄与が非常に大きいことを示している。

アミロイドフィブリルとER

著者: 石原得博 ,   高橋睦夫

ページ範囲:P.687 - P.690

 アミロイドフィブリル(線維)の多くは,細胞膜周囲または細胞外で形成される。網内系細胞(Kupffer細胞,マクロファージ),形質細胞,内分泌細胞や腫瘍細胞の胞体内には単位膜に囲まれたアミロイド線維の集簇がみられるが,滑面小胞体sERがアミロイド線維形成に直接関与しているという証拠はない。しかし,一部のアミロイド線維の形成には細胞内小器官,とくにゴルジ装置,ライソゾーム,分泌顆粒や粗面小胞体rERが重要な役割を果している。
 まずアミロイドについて簡単に,ついで細胞内アミロイド線維形成について記載する。

ウイルス感染とER

著者: 小西英二 ,  

ページ範囲:P.691 - P.693

 ウイルスエンベロープの蛋白は,ERで合成されアセンブリーのための部位に輸送される。フラビウイルスの感染性粒子が正しくアセンブリーするためには,細胞(ER内)およびウイルス由来のプロテアーゼによる蛋白の切断が不可欠である。エンベロープの蛋白は,アセンブリーの結果,ウイルス様粒子あるいは感染性粒子に取り込まれるまでERに保持される。

Glucose-6-phosphatase(G-6-Pase)欠損症の分子機構と肝病変

著者: 杉和洋 ,   藤山重俊 ,   佐藤公望 ,   佐藤辰男

ページ範囲:P.694 - P.697

 肝臓は肝外からの栄養成分を取り込み代謝し,それらを他臓器に輸送動員する主要臓器である。糖代謝の場合,いったん,血中よりグルコースを肝内に取り込んだあと,グリコーゲンとして貯蔵し,必要に応じてそれをグルコースに変え,血中に放出して,血糖を維持している。肝グリコーゲンの主要な分解系は,図1に示すごとく,グルコース-1-リン酸(G-1-P),グルコース-6-リン酸(G-6-P)を経てグルコースへと至る経路であり,それぞれホスホリラーゼ,ホスホグルコムターゼ,グルコース-6-ホスファターゼ(G-6-Pase)により反応が行われる。これらのグリコーゲン代謝系酵素の遺伝的活性欠損により,種々の臓器におけるグリコーゲンの異常蓄積をきたし,多彩な臨床症状を呈する病態は,古くよりグリコーゲン病(糖原病)として知られている。近年,これら酵素異常の生化学的,分子生物学的解析が進歩し,その病態発現の分子機構が解明されつつある。
 本稿では,グリコーゲン病の中でもとくに肝障害を招来するG-6-Pase欠損症に焦点を絞り,その発現の分子機構に関する最近の知見,および臨床症状について述べ,自験例を紹介したい。

ガン(細胞株BeWo)における糖鎖形成異常

著者: 榊原隆三

ページ範囲:P.698 - P.701

 近年,生理活性糖タンパク質の活性発現において,その糖鎖構造の重要性が注目されている。糖タンパク質は,細胞内輸送のメカニズムと連関したタンパク質部分の合成,糖鎖の付加およびプロセシングなどの生合成過程を経て,完成した構造を獲得する。しかし多くの場合,糖鎖構造には多様性があり,さらに細胞のガン化によりその構造は大きく変化していることが明らかになってきている。このような観点から,ガンや病気などで起こる細胞の何らかの変化と,その細胞の産生する糖タンパク質,糖脂質などの糖鎖構造の変化との関連性を明らかにする研究として糖鎖生物学,糖鎖病理学とよぶ新しい研究分野が生じてきた。
 糖タンパク質ホルモンであるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)は,非共有結合した2つの異なるサブユニットα,βから構成されている。hCGは正常胎盤および絨毛癌組織のトロフォブラスト1-3),およびそれ以外にいくつかの悪性腫瘍4,5)で産生されている。hCGの両サブユニットは,それぞれ2本のN-結合複合型糖鎖を含んでいる。βサブユニットは,N-結合糖鎖に加えて4本のO-結合糖鎖をいずれもC-末端領域にもっている6)。妊婦尿から得られた正常hCGのN-およびO-結合糖鎖の構造7-14),さらにホルモン活性発現における糖鎖構造の重要性を示す多くの研究がある15)

連載講座 新しい観点からみた器官

聴覚器―内耳コルチ器の細胞外成分

著者: 川端五十鈴 ,   石井甲介 ,   八木昌人

ページ範囲:P.702 - P.709

 器官は,そこに所属する細胞のはたらきによって器官固有の機能を発現することはいうまでもないことである。しかし,機能を発現するためには細胞をとりまく細胞外成分のはたらきも重要であり,しばしば不可欠の役割をもっている。
 聴覚末梢受容器官である蝸牛のコルチ器の主役は感覚細胞である有毛細胞であるが,これに隣接する細胞外成分の組織が有毛細胞の機能の発現上,重要な役割をはたしている場合がある。コルチ器内の蓋膜と基底板をとりあげ,私どもの研究室で行なっている現状をまとめてみた。

解説

記憶,学習とタンパク質リン酸化反応

著者: 鈴木龍雄 ,   田中亮

ページ範囲:P.710 - P.719

 記憶,学習といった脳の機能は,複数の神経細胞のシナプス間コミュニケーションによって発現してくる。ある特定の神経回路にしぼっていえば,記憶,学習はその回路を構成する神経細胞間のシナプス伝達効率が可塑的に変化するという神経細胞の性質に基盤をおいている。したがって,記憶,学習のメカニズムを明らかにするためには,シナプス間コミュニケーションの可変性のメカニズムを分子レベルで明らかにする必要がある。一般に,細胞内情報伝達系においてはタンパク質リン酸化反応による多重制御系がはたらいており,細胞内の情報の流れはタンパク質リン酸化反応によって大きく左右される。このことはシナプスを構成する少なくともふたつの神経細胞のそれぞれにも当てはまるであろう。最も高度に分化した構造のひとつであるシナプスにおいては,情報伝達の仕組は今まで他の細胞で明らかになった以上に複雑であると予想される。
 本解説では,学習,記憶のモデルとされる長期増強(long-term potentiation,LTP)の発現に,どういったタンパク質リン酸化反応がどのように関わるのかを詳細に検討する。そのほか,LTPとタンパク質生合成の連関についても述べる。

細胞膜受容体の構造と機能

著者: 春日雅人

ページ範囲:P.720 - P.726

 各種の生物活性物質は,それと特異的に結合する受容体(receptor)とよばれる蛋白質と結合することにより,その作用を伝達し発現する。形質膜(plasma membrane)を自由に通過することのできるステロイド,甲状腺ホルモンあるいはVitamin AやDなどは細胞内に存在する受容体に結合することによりその作用に発現するが,形質膜を自由に通過することのできないペプチドホルモンや各種の生物活性物質などは,形質膜上に存在する受容体に結合し,そのことによってその作用を細胞内へ伝達する。本稿では,この細胞表面に存在する受容体の構造と機能について概説したい。

実験講座

神経機能を計るバイオセンサー

著者: 民谷栄一

ページ範囲:P.727 - P.733

 バイオセンサーの原理は,すでに多くの成本,総説でも示されているように生体材料のもつすぐれた分子認識機能に着目し,これらと電極,半導体デバイスなどのトランスデューサーと結合させることにより構成される1-3)。バイオセンサーの応用分野としては,医療分析,環境計測,食品分析,バイオプロセス計測,基礎科学研究用などがある。最近では,マイクロマシン技術,遺伝子工学技術などの先端技術を駆使したバイオセンサーも開発されている4-6)。ここでは,神経伝達物質を微小バイオセンサーを用いて測定し,神経機能の評価へ応用した例を示す。

話題

神経疾患の遺伝子治療

著者: 青崎敏彦

ページ範囲:P.734 - P.736

 最近の遺伝子導入技術の進歩にはまったく目を見張るものがある。最初に人に遺伝子治療の試みがなされたのは1990年の9月,アデノシンデアミナーゼ欠損症患者に対してであったが,それからまだ3年も経たないうちに,すでに種々の進行癌(脳腫瘍,肺癌,腎癌,卵巣癌など)や肝臓疾患,嚢胞性肺線維症ひいてはAIDSに対する遺伝子治療が現実味を帯びたものとなってきている2,13,15)。米国では遺伝子治療専門の研究センターがミシガン大学やピッツバーグ大学に次々と設立され,さらに遺伝子治療を専門とする企業が雨後の竹の子のように活動を開始した。遺伝子治療研究を対象とした研究誌も今年中には3誌を数えることになりそうである。本稿では神経疾患に対する遺伝子治療の現状について,私の見聞した範囲で概観してみたい。

クロイツフェルト記念シンポジウム「新皮質の構造と機能構築」印象記

著者: 津本忠治

ページ範囲:P.737 - P.739

 大脳皮質や視床,とくに視覚系の機能について1950年代末より多くの先駆的研究を展開し,ヨーロッパにおける神経科学のリーダーの一人であったOtto Creutzfeldt教授が64歳で亡くなられたのは1992年1月23日であった。彼のたぐいまれな包容力のある人柄と神経科学に対する多くの貢献については,Experimental Brain Research誌88巻3号(1992年)に弟子の一人であったWolf Singer教授がくわしく書いているので,ここでは省略する。ただ,その追悼文に追加するとすれば,多くの日本人がMünchenやGöttingenにおいて教えを受け,また数度にわたって来日された知日家でもあったという点であろう。筆者も1975年から2年間にわたってGöttingenで薫陶を受けた一人であるが,今回のシンポジウムへの日本からの参加者は筆者一人(笠松卓爾氏がサンフランシスコより参加)であったことには,少し淋しい思いをした。
 このクロイツフェルト記念シンポジウムは,彼の研究室があったGöttingenのマックスプランク生物物理化学研究所の講堂で1993年5月18日より5日間にわたって行われた。

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生体の科学 第44巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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