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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学45巻1号

1994年02月発行

雑誌目次

特集 グルコーストランスポーター

糖輸送体:GLUTファミリーとSGLTファミリー

著者: 笠原道弘

ページ範囲:P.2 - P.8

 グルコースは動物細胞にとって最も重要な代謝基質の1つである。多くの代謝物質の材料となるばかりでなく,エネルギー変換反応の出発点となる。個々の組織や器官において,それぞれの環境と果たすべき役割に応じてグルコース代謝活動はさまざまである。そのことに対応して細胞外から細胞内に取り込む過程である細胞膜上の糖輸送活性も多様である。近年の分子生物学や細胞生物学の新しい手法を用いた糖輸送体の研究の急速な発展により,多くの新事実が明らかにされた。とくに,糖輸送体の分子機構,各組織や器官での特有な性質を担う各種の糖輸送体の同定,免疫学の手法による局在性の研究,発現の調節,原核細胞から真核細胞に広く存在するスーパー・ファミリーであることの認識など,ここ数年の研究の発展は爆発的ともいえる。発表される論文の数もうなぎのぼりで,多くの点で明瞭な像が浮かびあがりつつあるが,細かな点では一致していないことも多い。研究の進展にともない,糖輸送体を扱った総説も1990年以来のものだけでも20以上あり,多岐にわたる研究分野をカバーしている1-25)
 本総説では動物細胞に存在する2つのタイプの糖輸送体:促進拡散系糖輸送体とNa/グルコース共輸送体の概略を述べ,それぞれ相同な輸送体が原核細胞から存在するスーパー・ファミリーを形成していることに言及する。

グルコーストランスポーター分子の膜内配向

著者: 柱本満 ,   森啓行 ,   春日雅人

ページ範囲:P.9 - P.14

 哺乳類糖輸送担体には,現在までに確認されている限りで7種類のisoformが存在するが,とくにGLUT1は最初にcDNAがクローニングされた糖輸送担体であり,多くの細胞株に安定して発現できることから,このisoformを用いた構造機能相関についての研究が著しく進んでいる。一方,GLUT4は特異的な細胞内分布を示し,インスリン反応性の特徴的な挙動を示すことから,インスリン作用に関連して多くの研究が行われている1-3)。本稿ではとくに糖輸送担体の膜内配向,細胞内配向について,この二種類のisoformを中心に最近の知見をまじえて紹介する。

マウスグルコーストランスポータータイプ1(GLUT1)遺伝子の発現制御メカニズム

著者: 村上尚 ,   戸高幹夫 ,   石井一夫 ,   林日出喜 ,   金井文彦 ,   蛯名洋介

ページ範囲:P.15 - P.22

 グルコーストランスポーター(Glucose Transporter:GLUT)は1から7型まで報告されているが1),GLUT5はおもに小腸などで多く発現が見られるフルクトースのトランスポーターであり,GLUT6はGLUT3に似た偽遺伝子,そしてGLUT7はおもに肝のミクロゾームに存在するGLUTであるので,表1に示すように通常GLUTは1~4型までを分類し,その発現のおもな組織とD-グルコースに対する親和性(Km)を示してある1)
 最近のGLUTに関する研究として,おもに次にあげる2つのテーマがあると考えられる。

グルコーストランスポーターの分布と機能的意義

著者: 高田邦昭

ページ範囲:P.23 - P.28

 リン脂質の二重層を基本構造とする生体膜は,基本的にはグルコースのような極性をもった分子をほとんど透過させない。グルコーストランスポーター(glucose transporter,糖輸送体)は,このような生体膜における糖の膜通過に関与する輸送蛋白である1-4)。糖の濃度勾配に依存してその通過を促進する促進拡散型のグルコーストランスポーターは,笠原らによって1977年ヒト赤血球膜から抽出され,蛋白として同定された5)。1985年にはLodishの研究室で,そのcDNAの同定と解析からアミノ酸配列が明らかにされた6)。後にGLUT1とよばれるようになったこのヒト赤血球膜グルコーストランスポーターをはじめとして,現在では,GLUT1~GLUT7のアイソフォームが知られている1-4)
 一方,小腸や腎臓では,糖は濃度勾配に逆らって輸送されるのが知られている。これはNa濃度勾配に依存してNaとグルコースが一緒に輸送される一種のコトランスポート(cotransport)で,このような能動輸送型のグルコーストランスポーターについては,Wrightの研究室で,expres-sion cloningの手法によりそのcDNAが同定された7,8)

グルコーストランスポーターの多機能性

著者: 西田幹夫

ページ範囲:P.29 - P.31

 グルコースの細胞膜通過を援ける機構には,少なくとも7種類のグルコーストランスポーター(glucose transporter:GT,糖輸送体)が知られており,それぞれ,主としてどの臓器に分布するかが明らかになってきた1)。GTは従来,基質に対する立体的な特異性が高く2),通過可能な化合物の構造に対する要求性が高いと考えられてきた3)。しかし,GTの遺伝子解析が進むにつれて,腸管のGT(Glut5/小腸タイプ)のように,複数の糖単体に親和性を示すGTの存在が明らかにされた1)
 さて,私達は,実験催糖尿薬ストレプトゾトシン(STZ)やアロキサン(Allo)による糖尿発症機構の解明を試みる過程で,膵β細胞がグルコースを認識するセンサーはGTではないか,と想像するに至った4)。このセンサー機能を兼ね備えたGTは,グルコースのみならず,2-デスオキシ-D-グルコース(2-DG)5)や3-O-メチル-D-グルコース(3-OMG)6)も通過させうる。したがって,GTは,(1)センサーによって認識可能な糖の構造さえ含有すれば,特定の糖に限らず通過させうる性質があるのではないか,(2)構造上,糖以外の化学物質でも,ある種の構造類以性を有する物質は,GTを介して膜を通過できるのではないかと思われる7)。すなわち,GTは,化学構造物としては必ずしもグルコースのみの通過機構ではない,と推定される。

脳タイプのグルコーストランスポーター

著者: 永松信哉 ,   中道洋子 ,   佐和弘基

ページ範囲:P.32 - P.37

 ほ乳類動物細胞の主要なエネルギー源は,グルコースであり,ATPの恒常的な供給は糖代謝により賄われている。とくに脳神経細胞においては,そのエネルギー源の大半をグルコースのみに依存していることから,脳へのグルコースの輸送およびその代謝機構を解明することは,脳神経細胞機能を理解するうえで第一義的であると思われる。
 グルコースは,分子量180とはいえ極性分子であるため,リン脂質の二重層である細胞膜を速やかに通過することはできない。つまり脳神経細胞における糖代謝の第一段階は,細胞膜上に存在する特異的な担体蛋白質,すなわちグルコーストランスポーター(glucose transporter糖輸送担体)に細胞外の糖が結合し,細胞内へ輸送されることである。現在,2種類のglucoseの細胞膜輸送機構が知られている。第1は,Na輸送と同時にglucoseをその濃度勾配に逆らって能動輸送するエネルギー依存性のNa/グルコース共輸送で,SGLTとよばれるものである1)。第2は,細胞内外のグルコースの濃度差のみに依存する促通拡散型輸送で,これは,少なくともGLUT1~5までのisoformが生体内の各種臓器組織に広く分布していることが明らかとなってきた2,3)

小腸上皮細胞におけるグルコース輸送担体

著者: 宮本賢一 ,   南久則 ,   武田英二

ページ範囲:P.38 - P.41

 食物あるいは飲物を通して摂取された糖質は中間消化をうけた後,小腸上皮細胞での終末消化によっておもにグルコース,ガラクトース,およびフルクトースに分解されたのち吸収される。グルコースおよびガラクトースの刷子縁膜での吸収は,濃度勾配に逆らうNaイオンに依存した2次性能動輸送系により行われる。この輸送系に関与する輸送担体は,Na/グルコース共輸送担体(SGLT1)とよばれる。さらに経細胞内輸送を経て基底膜に運ばれた単糖は,広い基質特異性をもつ肝型グルコース輸送担体(GLUT2)により毛細管へ輸送される。一方,これらとは別にフルクトースの輸送には,刷子縁膜に存在する小腸型グルコース輸送担体(GLUT5)が関与していることが示唆されている。
 このように,小腸上皮細胞における各グルコース輸送担体の役割が次第に明らかにされてきた。本稿では,小腸上皮細胞における各グルコース輸送担体に関して,われわれの最近の知見を示して現状を概説する。

甲状腺におけるグルコーストランスポーターの発現とTSH

著者: 保坂嘉之 ,   多和田真人 ,   女屋敏正

ページ範囲:P.42 - P.44

 各種ホルモンは細胞内で行なわれているさまざまな過程を調節しているが,甲状腺細胞においてはTSHが細胞の増殖や甲状腺ホルモンの合成,分泌といった基本的な細胞機能を調節している1)。最も基本的なエネルギー源であるブドウ糖の代謝も甲状腺細胞においてはTSHの調節下にあり,糖代謝と甲状腺ホルモン分泌や甲状腺細胞増殖との間には密接な関連があることは古くから知られていた。例えば,培養液中のブドウ糖の存在は甲状腺細胞の増殖やTSH刺激下における甲状腺ホルモンの分泌を増加させる2,3)。さらに,TSHは甲状腺培養細胞へのブドウ糖の取り込みを刺激することも証明されている4)。細胞内における糖代謝には,第一段階として細胞膜に存在する糖輸送担体(GLUT)と,解糖系の最初の酵素であるhexokinaseによるリン酸化が重要である。
 近年,分子生物学の発展によりGLUT群およびhexokinase群がクローニングされ,それらの遺伝子発現のメカニズムについても次第に明らかになりつつある。われわれは甲状腺における糖輸送の調節機構を明らかにするために,GLUTとhexokinaseに関して一連の研究を続けてきた。本稿ではTSHによるGLUTとhexokinaseのmRNAの発現調節を中心にデータを紹介する5,6)

褐色脂肪細胞における熱産生とグルコーストランスポーター

著者: 志水泰武 ,   二上英樹 ,   斉藤昌之

ページ範囲:P.45 - P.47

 グルコースの膜輸送や代謝の調節機構の研究において,脂肪細胞の果たしてきた役割の大きさは,インシュリン作用についてのブレイクスルー的知見の多くがこの細胞系から始まったことからもうかがい知ることができる。通常用いられている脂肪細胞は,腹腔内や皮下の脂肪組織をコラゲナーゼで処理してえられた遊離細胞か,3T3などの株化細胞をin vitroで分化させた細胞であるが,このような白色脂肪細胞に加えて,哺乳動物には構造も機能も異なるもう一種類の脂肪細胞,褐色脂肪細胞(brown adipocytes)が存在する。この細胞でのグルコース代謝もやはりインシュリン感受性であるが,加えて交感神経性の特異な調節を受けていることが最近明らかになってきた。本稿ではグルコーストランスポーター(GLUT)を中心に,褐色脂肪での糖代謝と熱産生機能との関わりを紹介する。

薬剤排出機構とグルコーストランスポーター

著者: 山口明人

ページ範囲:P.48 - P.53

 近年,細胞外への薬剤の排出による化学療法剤耐性機構が注目を集めている。がん細胞にはATPの分解と共役して薬剤を排出するP糖蛋白があって,抗がん剤に対する多剤耐性の原因となっている1)。細菌にはプロトンの輸送と共役した抗生物質排出ポンプが存在し,やはり薬剤耐性の原因となっている2)。後者はアンチポーターであるが,ユニポーターまたはシンポーターであるグルコーストランスポーターと驚くほど共通の構造をもっている。まず,両者はともに膜を貫通する12本のαヘリックスからなり,N, C両末端はともに細胞質側に存在するという基本構造をもつものと推定されている。P.J.F.Hendersonは,グルコーストランスポーターと薬剤排出蛋白を両極端とし,中間にさまざまな糖や弱酸のシンポーターを含む大きな輸送体ファミリーが高等動物細胞から細菌に至る生物体において存在することを指摘した3)。このファミリーはいくつかの共通アミノ酸配列モチーフをもつことによって特徴づけられる。中でも最も顕著な配列モチーフは,推定二次構造上,細胞質側の1番目と4番目の親水性のループに2回出現するRXGRRまたはその変形モチーフである4)。このように輸送される基質のまったく異なる広範な輸送体に共通に保存されているにも拘わらず,これまで,その輸送機能における役割についてはまったく不明であった。

糖尿病の発生機序とグルコーストランスポーター

著者: 清野裕 ,   三浦俊宏

ページ範囲:P.54 - P.57

 インスリン非依存型糖尿病(non-insulindependent diabetes mellitus:NIDDM)の特徴として,ブドウ糖に対するインスリン分泌の障害,肝よりの糖放出の増加,インスリンによる末梢組織でのブドウ糖の取り込みの低下があげられる。これらの現象はすべてブドウ糖の細胞内(外)へ輸送の障害によって生じているため,糖輸送担体の発現異常が関与する可能性が推測されていた。したがって最近の糖輸送担体遺伝子のクローニングによって,この分野の研究は一躍脚光をあびるに至った。以下,NIDDMの発症への糖輸送担体のかかわりについて述べる。

脳腫瘍に発現する糖輸送担体

著者: 西岡達也 ,   織田祥史

ページ範囲:P.58 - P.61

 脳では促通拡散型に属する5種類(GLUT1-GLUT5)の糖輸送担体のうち,GLUT1(HepG2/赤血球型糖輸送担体)とGLUT3(ヒト脳型糖輸送担体)が豊富に存在することが報告されている1)

連載講座 新しい観点からみた器官

視覚器―視興奮の分子機構と網膜再生

著者: 徳永史生 ,   斉藤建彦

ページ範囲:P.62 - P.70

 地球上の生物は太陽の光のもとで発生し,進化してきたので,良きにつけ悪しきつけ,太陽の光の影響を受けている。植物は太陽光をエネルギー産生に利用し,動物はおもに情報の媒体として,利用してきた。ヒトでは情報の80%以上を光,すなわち視覚によっているといわれている。動物を見渡すと視覚器の構造も単純なものから複雑なものといろいろあるが,最も機能的に発達したものとして,昆虫の複眼と脊椎動物のカメラ眼がある。ここでは器官を新しい視点から見直すという企画であるので,生物科学の普遍的問題で,視覚器とくに脊椎動物の眼の特徴を活かした研究で,最近急速に進展した研究と今後急速に進みそうな課題について取り上げてみたい。
 1980年代非常に研究が進展したのは,細胞内情報伝達の分子機構の研究である。神経伝達物質,ホルモン,増殖因子,栄養因子などが受容細胞にある受容体に作用し,その情報が細胞内で情報処理される時にはたらく分子が明らかになってきた。その中で,脊椎動物視細胞における光受容過程の研究が最も進んでいるといえるだろう。

解説

植物生活環の制御と植物ホルモン―ジベレリンを中心として

著者: 高橋信孝

ページ範囲:P.71 - P.78

 私達人類の生存は植物によって支えられているといっても過言ではない。私達の食糧は,植物のみが有する生理機能,光合成によって,太陽エネルギーと空気中の二酸化炭素と水から作り出される糖類を出発物質として,生物によって生産されたものであり,また地球環境の保全に重要な役割を果たしているのも植物である。
 植物は,発芽,成長,器官分化,開花,結実,休眠などの複雑でしかも規則正しい生活環を有しており,それを構成する生理現象は,環境要因,すなわち光,温度,水分など,および植物に内在する植物ホルモンによって巧妙に制御されている。現在までに,オーキシン,ジベレリン,サイトカイニン,アブシジン酸,エチレン,ブラシノステロイドの6種の化合物群が植物ホルモンとして認められており,そのうちジベレリンは日本の科学者によって発見され,その後の研究の発展においても日本人研究者の貢献がきわめて大きいものがあった。

精子―卵相互作用のシグナル伝達メカニズム

著者: 宮崎俊一 ,   白川英樹

ページ範囲:P.79 - P.90

 受精現象は,精子と卵の接着,細胞膜どうしの融合,細胞質の交流を経て,精子核および細胞質が卵内に取り込まれ,雌雄前核が形成され,両者が融合するまでの過程をいう1)。しかし受精前に,各配偶子の発育,成熟が必要であり,精子と卵が出会う機会をつくるための機構や,種特異的な結合を可能にする機構が必須である1,2)。さらに受精は当然その後の細胞分裂や細胞分化の開始に関連する。したがって受精は広範囲の現象を含み,各段階でいろいろな研究課題があり,一つ一つテーマが非常に興味深い。さらにまたそれらの研究は,他の細胞/現象系に対して有用な示唆を与えうる。普遍的な観点から受精という現象を捉えれば,それは細胞―細胞間の相互作用に基づく細胞活性化であるといえよう。すなわち卵から精子への作用,精子と卵の結合,精子から卵への作用を含む。ここでは,精子―卵相互作用のシグナル伝達に関する最近の知見を解説する。
 受精の本質的なテーマである精子による卵賦活の信号伝達機序は,ホルモンや増殖因子による細胞活性化に比べて研究が遙かに遅れている。代謝的に不活発な,いわば眠った状態にある未受精卵は,精子の結合によって突然目を覚まし活性化される。受精初期に卵で起こる現象は細胞内カルシウムイオン(以下Caと記す)濃度の劇的な上昇であり,卵賦活の引き金になると考えられている3)

実験講座

In situハイブリダイゼーション

著者: 野口光一 ,   仙波恵美子

ページ範囲:P.91 - P.97

 In situハイブリダイゼーション(ISH)組織化学法は,最近神経生物学を含め非常に広範な医学・生物学の分野で注目を集め1),容易に利用されるようになってきている。本法は,免疫組織化学法と同様の解像度で,個々の細胞に存在する特定の核酸を検出することが可能であり,組織形態学と分子生物学を結ぶアプローチとして発展してきた。ISHは,1969年に細胞核のDNAやrRNAを捉える手段として開発されて以来,染色体上での遺伝子のマッピングの手段として数多くの改良がなされ,今では必須の手段となっている2)
 しかしながら,本法が急速に注目を集めるようになってきたのは,細胞が有するmRNA検出への応用が実用化されてからである。組織内のmRNAを検出する標準的な手段としてのNorthern blotting法では,個々の細胞もしくは細胞群における特異的な発現を検出することは事実上不可能である。この点で,ISHは,分化の非常に進んだ組織,たとえば神経組織などでは有用性がとくに高い。また,少数の細胞のみが発現するmRNAを検出する際には,Northern blotting法と比較して感度の点でも有利となる。

研究のあゆみ

私の神経伝達物質研究をふり返って

著者: 大塚正徳

ページ範囲:P.98 - P.109

 私は平成6年3月を以って東京医科歯科大学を定年退官することになった。大学を卒業以来40年の研究生活のうち30年を伝達物質研究に費やしたことになる。最近,学生実習のときなど学生から「先生の御専門は神経伝達物質だそうですが,何をなさったのですか」などときかれて思わずたじろぐことがある。しかし科学者の任務は,1)文化の継承と2)新たなる開拓の二つであって,それは共同作業であり,オリンピックと同じように参加することにも意義があるのではなかろうか。私のような平凡な科学者が回顧談を書くことには躊躇を感じない訳にはいかないが,長い研究生活をふり返って,迷い,悩み,時には喜びを含めた思考過程を,編集委員,編集同人として縁のあった「生体の科学」に書かせて頂くことにした。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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