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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学45巻2号

1994年04月発行

雑誌目次

特集 脳と分子生物学

特集に寄せて―分子生物学から脳への接近

著者: 伊藤正男

ページ範囲:P.112 - P.113

 最近,方法的に著しく完成度の高くなった分子生物学を土台として,脳に接近しようとする試みが盛んである。1993年1号の本誌座談会「脳と遺伝子」では,その可能性が縦横に論じられたが,本特集ではさらにその具体的な数々の成功例が示されている。分子生物学が脳に対する大きな切り込み口であることにはもはや異論はないが,果してどこまで切り込めるものであろうか。この特集は,分子生物学からの脳への接近の現状を語るとともに,その将来の見通しをも与えることを期待して編集されたものである。

ウイルスを用いた神経系・脳スライスへの遺伝子導入

著者: 武地一 ,   尾崎美和子 ,   渡辺恭良

ページ範囲:P.114 - P.120

 遺伝子工学的手法を使って哺乳動物の機能を解析する方法には,現在,おもに3つの方法がある。すなわち,(1)ツメガエルの卵や,培養細胞などにクローン化した遺伝子を導入し解析する方法,(2)培養神経細胞あるいは個体レベルに,ある遺伝子に対するアンチセンスDNAを導入し,その遺伝子の発現を抑制することにより遺伝子の機能を解析する方法,(3)トランスジェニックマウスを利用する方法である。しかし,ツメガエルの卵や培養細胞を用いる実験系では,単純化した分子機能の解析ができる反面,神経細胞のネットワークを保った状態(神経系の研究ではより重要となる)での解析が困難である。トランスジェニックマウスを用いる場合は,個体レベルでの検索ができるという長所があるが,ある遺伝子産物の局所的な働きを調べるには使いにくく,時間的,技術的にも容易ではない。一方,脳スライスの系は,神経細胞のネットワークを保った状態での解析が可能なため,記憶に関係があるとされる長期増強などの電気生理学的反応や細胞内カルシウム濃度の変化などの情報伝達系を解析するのに優れた系であり,多くの研究に用いられてきた。この脳スライスに遺伝子導入ができれば,他の方法と組み合わせることにより,脳機能の解明に役立つものと思われる。
 従来,遺伝子導入には,リン酸カルシウム法,DEAEデキストラン法,あるいはリポフェクチン法などの物理化学的方法がよく用いられてきた。

脳神経研究におけるジーンターゲティング法の現状

著者: 八木健

ページ範囲:P.121 - P.125

 マウス胚幹細胞を用いたジーンターゲティング法の確立により,今まで多様性,複雑性,可塑性などにより解析が困難であった哺乳動物の脳神経系に分子遺伝学的なメスを入れられるようになった。このメスがどれだけの切れ味をもつのかは未知数であり,脳神経系および高次神経機構の解明にどれだけの意義をもつのか批判的な意見も多い。しかし,とくに脳神経組織が個体レベル以上での機能に関わっている以上,個体を用いた分子機構解析が可能となる遺伝学的手法は必須のものとなる。本総説では1)ジーンターゲティング法の解説,2)学習行動を含む動物行動のジーンターゲティング法による解析の現状について解説したい。
 ヒトを含む動物のさまざまな合目的性をもった行動様式はファーブルやローレンツなど多くの人々に興味を与え,数多くの研究の対象となってきた。動物の個体や種の生存に対し合目的にみえる行動がどのように形成されてきたのか?また,脳が司る認知・情動・運動・記憶(学習)・意識がどのようにして形成され機能しているのか?は脳研究の中心的なテーマである。どのように生みだされてきたか?という問いかけは,もちろん系統発生および個体発生的側面を合わせもち,その答えも双方の側面を合わせもつことばとして語られる必要がある。また,行動を司る脳は多様性,複雑性,可塑性に富んでいる器官であり,莫大で長期にわたる淘汰圧により進化してきた器官であるが,種や系統間で遺伝的によく保存されている。

ミュータントマウス研究の現状

著者: 池中一裕 ,   山口宜秀 ,   鹿川哲史 ,   小川正晴 ,   御子柴克彦

ページ範囲:P.126 - P.132

 脳神経系は多くの遺伝子が統制のとれた制御下に発現することによって形成され,複雑な高次機能を獲得している。近年,多数の脳特異的遺伝子がクローニングされ,それぞれ脳神経系形態形成にどのような働きをしているのか,詳細に検討されている。それらの機能解析で現在最もよく使われているテクニックは,その遺伝子を過剰発現させるトランスジェニックマウスの系と,その遺伝子の発現を減少させる,あるいはなくさせる遺伝子ノックアウトマウスの系である。トランスジェニックマウスやノックアウトマウス(本特集「脳神経研究におけるジーンターゲティング法の現状」を参照)を作製して遺伝子機能解析は多大な成功を収めた。しかし,その陰で,作製しても何の症状も出ないマウスが相当数とられているし,本当に重要な働きをする遺伝子の場合致死性になることも多々ある。われわれは従来より,遺伝性に脳疾患を示すミュータントマウスの解析をしてきたが,これらは後述するように劇的な症状を示すにもかかわらず,生存,飼育,継代が可能である。これらミュータントマウスの症状はよく研究されているので,原因遺伝子の働きは最初から想像できる。すなわち,ある機能を担っている遺伝子を同定するのに突然変異部位を決定すればよいわけである。
 ミュータントマウスの症状は,われわれの想像を絶するほど興味深いものがある。

脳の遺伝子

著者: 丸山敬

ページ範囲:P.133 - P.138

 ある個体の細胞核の遺伝情報は原則としてすべての細胞で共通と考えられるが,発生と分化の過程でそれぞれの組織に特異的な遺伝子が発現し,各組織がまとまって個体としての機能が営まれる。脳の機能を考える場合,ニューロン,グリアなど神経系細胞が中心になるが,脳として組織の機能には血管や脳脊髄膜などの神経系以外の細胞も含める必要がある。
 本節では,脳で機能する遺伝子を詳細に検討する方法として,細胞1個に発現している遺伝子の解析法,発生の際に脳の分化を誘導する遺伝子,そして,脳における細胞死を考えていきたい。

神経細胞の最初期遺伝子

著者: 山形要人

ページ範囲:P.139 - P.144

 現在,記憶のメカニズムを説明する仮説として,シナプスの可塑性,すなわちシナプスの伝達効率の変化やシナプス結合の形態変化を考える説が有力である。海馬や大脳皮質でおこる長期増強(LTP)1)や,小脳などでおこる長期抑圧(LTD)2)は,シナプス伝達効率の変化によると考えられている。もう1つのシナプスの発芽によるシナプス数の増加3)や競合によるシナプスの退行,脱落4)も,神経の可塑性を説明するための重要な現象である。
 中枢神経系は,神経間の非常に正確なシナプス結合によって機能しているが,その過程をみてみると,成長円錐がまず正しい経路を探し,標的神経に到達した後,シナプスを形成する。ここまでは,遺伝的にプログラムされており,神経活動とは無関係である。しかし,その後,NMDAリセプターなどを介する神経活動によってシナプスの再構築がおこり,より機能的なシナプス回路が形成されると考えられる5)。このシナプス活動依存性の神経の可塑性は生後も続き,長期記憶の保持に必要と考えられる。このように神経は,シナプス活動によって,解剖学的,機能的特性を変える。最近の研究で,細胞の外からの刺激(神経伝達物質や成長因子)が,遺伝子発現のカスケードを活性化し,長時間の細胞応答,すなわち新しいシナプス結合を生じると考えられる。

神経伝達物質とその合成酵素―チロシン水酸化酵素を中心に

著者: 永津俊治

ページ範囲:P.145 - P.151

 神経伝達物質の合成酵素の研究は従来,微量にしか精製できなかったので分子構造の研究の進歩も遅かったが,現在は分子生物学的方法により,遺伝子がクローニングされて一次構造が決定され,さらに大腸菌や昆虫細胞系での大量生産が可能となり,その酵素化学性質が詳細に解析されている。また酵素蛋白質の結晶化とX線回折に研究が進んでいる。培養細胞系やトランスジェニックマウスでの酵素の遺伝子発現の調節をふくめて,生体内での神経伝達物質の合成酵素の調節機構が分子レベルで詳細に解析されることが期待される。

中枢神経系の伝達物質受容体

著者: 赤木宏行 ,   小澤瀞司

ページ範囲:P.152 - P.158

 神経伝達物質受容体に関する分子生物学的研究は,1980年代に沼らのグループを中心に行われたアセチルコリン(ACh)受容体のクローニングとアフリカツメガエル(Xenopus)卵母細胞発現系を用いた分子構造と機能に関する研究1)を先駆けとして,近年著しい進展をとげた。現在までにcDNAクローニングにより,タンパク質の一次構造が推定されている中枢神経系の伝達物質受容体を表1に要約した。これらの受容体は,受容体とイオンチャネルが複合体を形成していて伝達物質が受容体に結合することによりイオンチャネルの閉開が直接制御されるイオンチャネル型受容体と,受容体とこれによって調節を受ける効果器が別個の分子であり,伝達物質が受容体に結合するとGタンパク質を介して効果器の活性が調節される代謝調節型受容体に大別される。
 本稿では紙数の制限もあり,イオンチャネル型受容体のうち,中枢神経系の最も主要な伝達物質であるグリシン,GABA,グルタミン酸に対する受容体チャネルに関連する最近の分子生物学的研究の成果について述べることにする。

神経伝達物質のトランスポーター

著者: 田中光一

ページ範囲:P.159 - P.163

 シナプスにおける神経伝達物質の動態は図1のように要約される。活動電位が神経終末まで到達すると,そこから伝達物質が放出され(①),この物質がシナプス間隙を拡散し,それに接するシナプス後細胞の受容体と結合し(②),シナプス後細胞の興奮性を変化させる。放出された伝達物質はトランスポーターによる能動的再取り込み(③)や分解酵素による分解(コリンエステラーゼなど)により不活性化され,シナプス伝達は終了する。神経終末に再吸収された伝達物質は,シナプス小胞にあるトランスポーターにより小胞内部へ貯蔵される(④)。神経伝達物質のトランスポーターはその存在部位・生理学的役割により,細胞膜(神経終末あるいはグリア細胞)にあり③の過程に関与するトランスポーター1)と,シナプス小胞膜にあり④の過程を担うトランスポーター2))に分類される。
 本稿では,両者のトランスポーターについて現在まで明らかにされた知見を分子構造を中心に概説する。

ニューロトロフィンとその作用機構

著者: 山田雅司 ,   畠中寛

ページ範囲:P.164 - P.169

 ニューロンの分化,生存維持に重要な役割をもつ分子は数多く知られている。中でもニューロンの外から働く拡散性のタンパク質を総称して神経栄養因子(neurotrophic factor)1,2)とよぶ。その代表的存在が,ニューロトロフィン(neurotrophin)である。ニューロトロフィンタンパク質の分子構造について,またその生理作用についての研究は,ここ数年の間に急激な発展をとげている。本稿では,ニューロトロフィンとそのレセプターおよびその作用機構について,とくに細胞内シグナル伝達機構の解明に向けた研究を紹介する。

線虫神経系の分子生物学

著者: 三谷昌平

ページ範囲:P.170 - P.175

 神経系はとても複雑で,神秘的な組織である。今日において,神経系の分子生物学的解析の当面の目標としては,神経系がいかにしてでき上がるのか,また,でき上がった神経系がどのように正しく機能するのかという問題に対する解答を得ることといえよう。これを研究するための一つのアプローチとしては,できるだけ単純な実験系を用いて分子・細胞生物学的な基本原則を見い出し,他の実験系との相違点と共通性の面から,より複雑な現象を考察して行く方法がある。この意味で,線虫Caenorhabditis elegans(以下C. elegansと略す)は多くの研究者の興味を惹いている。線虫C. elegansにおいても,両方の面からの研究が行われているが,紙面の制約から,本稿では筆者が現在重点を置いている神経発生のメカニズムについて,筆者自身の研究に関連の深いもののみの紹介をさせていただくことにする。より一般的な神経発生などについては他の総説を参照していただきたい1-3)

ショウジョウバエ神経系の分子生物学

著者: 松崎文雄

ページ範囲:P.176 - P.181

 この10年間における生物学の最大の進歩の一つは,発生という現象が遺伝子という言葉で記述されるようになったことである。発生学の分野で,この言葉がきちんと通じるようになったのには,とりわけ,ショウジョウバエの貢献が大きいといえよう。1980年代の前半までに,ショウジョウバエでは,前後軸,背腹軸,各体節の形成などの初期発生のおもなできごとを制御する遺伝子の突然変異はおおむね同定しつくされ,その関係が遺伝学的に整理されていた1,2)。そこに分子生物学が導入され,分子的実体が因果関係をともなって明らかにされてきた。驚くべきことに,これらの遺伝子のホモログは,哺乳類をはじめとする脊椎動物にも広く存在し,胚発生に基本的な役割を果たしている。分子レベルに至ってはじめて,節足動物と脊椎動物という系統樹上でかけ離れた生物の形態形成に,共通の原理といえるものが見えてきたことは注目すべきことである。
 ショウジョウバエの神経系は脊椎動物とは比べものにならないほど細胞の数が少ないため,遺伝学的な解析に加えて,単一細胞レベルで発生を分析することが可能である。ショウジョウバエが神経生物学の分野でも,形態形成の研究同様に前衛的な役割を果たしうるであろうか。ここでは,ショウジョウバエの中枢神経系の胚発生,とりわけ,神経発生の初期過程と,多様性の形成の分子機構を中心に最近の知見を紹介したい。

ゼブラフィッシュの脊髄と運動神経細胞の分化―転写調節因子と組織間相互作用の役割

著者: 岡本仁

ページ範囲:P.182 - P.188

 脊髄の各種細胞の分化には,脊髄と脊索や体節との組織間相互作用が重要な役割を果たしている。ニワトリ胚では,脊索の接触が,脊髄の床板細胞(floorplate cell)の発生を誘導し1),脊索および床板細胞からの何らかの拡散性因子が,運動神経の発生を誘導することが示されている2)。脊索,脊髄,体節(あるいはそれらの前駆組織)の間の相互作用は,さまざまな組織特異的転写調節因子の発現パターンを規定することによって,おのおのの組織の分化を引きおこす。さらに,このような過程の繰返しが,最終的に運動神経細胞の分化へと結びつくと考えられる。
 細胞分化における組織間相互作用の機構を知るうえでは,突然変異系統の解析が大きな威力を発揮することが,ショウジョウバエや線虫を使った研究から示されている。ゼブラフィッシュ胚で脊髄ができるまでの過程は,被覆(epiboly)という過程があることを除けば,他の脊椎動物の胚と,基本的にはほとんど同じで(図1,2参照),ゼブラフィッシュ胚は,脊椎動物の発生を知るための最も簡単なモデルとみなすことができる。近年,大規模かつ系統的なスクリーニングによって,脊椎動物の発生過程に異常をきたす突然変異を同定する試みが,このゼブラフィッシュを用いて世界のいくつかのグループで開始されている3)

連載講座 新しい観点からみた器官

嗅球―脳の未知機能分子の探索の場として

著者: 森憲作

ページ範囲:P.189 - P.195

 嗅球は嗅覚神経系の第1次中枢で,終脳の吻側部に左右1対発達している。図1に示すように,ほとんどの哺乳類では主嗅球と副嗅球が隣りあって並んでおり,主嗅球は嗅上皮の嗅細胞からの入力(嗅神経入力)を担当し,副嗅球は鋤鼻器官に分布する受容細胞からの入力(鋤鼻神経入力)を担当している。主・副どちらの嗅球も,多くの層が整然と並んだ皮質構造をしている。たとえば主嗅球の内部をその表面から深層部へ向かってながめてみると(図1),嗅神経線維が複雑にいり混じって走行する嗅神経層,球形の神経叢である糸球が多数(約1千~3千個)シート状に並んだ糸球層,僧帽細胞や房飾細胞の樹状突起が分布し,顆粒細胞の樹状突起と樹状突起間相互シナプスを形成している外叢状層,僧帽細胞の細胞体が並んだ僧帽細胞層,顆粒細胞の細胞体の集まりが幾重にも重なった顆粒細胞層,脳室の周辺に位置し,僧帽細胞や房飾細胞の軸索が走行する白質などが観察される1,2)
 最近になって,嗅球ニューロンの匂い分子に対するチューニング特性の解析が進み,匂い分子情報の集約および処理装置としての嗅球神経回路の構造と機能が注目されている3-6)。著者らは,この機能的解析と並行して,嗅球が脳内の未知機能分子の探索の場として非常に適していると考え,約10年程前から,「モノクローナル抗体法」と「脳切片を用いた免疫組織化学的スクリーニング法」を組み合わせて,嗅球への分子的アプローチを始めた。

実験講座

近赤外光による脳内酸素モニタリング

著者: 成瀬寛夫 ,   住本和博 ,   寺尾俊彦

ページ範囲:P.196 - P.202

 脳は低酸素や虚血に対して非常に弱い臓器である。胎児,新生児期の低酸素性虚血性脳症は脳性麻痺の大きな原因の1つであり,児のその後の人生に大きくかかわる。また,循環停止を必要とする心血管系手術も多用される傾向にあり,低酸素および虚血に起因する中枢神経系後遺症も見逃せない。これらの予防のためにも,脳に酸素が十分供給されているかどうかをモニタリングする意義は大きい。
 血中の酸素濃度を直接測定することができればよいが,とくに胎児や新生児では頻回な採血自体が生命への危機となりうる。それゆえ,従来よりパルスオキシメータなど非侵襲的な方法が考案されてきた。近年,脳内酸素状態をとらえる機器として近赤外光酸素モニター(Near Infrared Spectroscopy,以下NIRS)が開発され,ベッドサイドにおける非侵襲的な脳内酸素動態の連続的観察が可能となり,本邦でも新生児および麻酔領域での報告がみられるようになってきた。本稿ではNIRS全般について解説するとともに,新生児領域,および最近われわれが始めた分娩時胎児におけるモニタリングについても紹介する。

話題

第19回北米神経科学大会 神経伝達物質放出機構をめぐる話題

著者: 山口和彦

ページ範囲:P.203 - P.204

 第19回北米神経科学大会は昨年11月7日から12日までワシントンDCで開かれ,演題数は1万題以上,参加者は2万人以上と相変わらずの盛会であった。あまりにも巨大な学会であるため,とても全貌をつかむことはできないが,アルツハイマー病の病因をめぐるトピックスと伝達物質放出機構をめぐる話題は,全体の中でとくに今回関心を集めた最もホットな分野であったように思われる。そこで伝達物質放出をめぐる話題についてシンポジウムでの講演を中心に紹介してみたい。
 この分野は1960年代のKatz, MilediらのCa説以来,しばらく大きな進展がみられなかったが,最近1-2年の間にシナプス顆粒に存在している蛋白質の生化学的研究が急速に進み,次々にシナプス顆粒蛋白質のDNA塩基配列が決定され,さらにそれらの蛋白質と結合する新たな放出関連蛋白質が発見される,といった具合に連鎖反応的に研究が進み,神経伝達物質放出の分子的理解がそう遠くない,という期待が高まっている。

Autonomic Nervous System 1993―Structure,Function and Development

著者: 持田澄子

ページ範囲:P.205 - P.206

 頭記の国際シンポジウムが1993年3月26,27日の両日,米国San Diego市で,New OrleansのTulane大・Yates/Mascorro両教授の主催で開催された。このシンポジウムは自律神経系の主として細胞レベルでの形態と機能について,限られた数のスペシャリストを選抜して数年おきに開かれるもので,第1回は1976年に開かれ,筆者らは第3回(1986年,Heidelberg),第4回(1990年,Oxford)と参加を続けて,今回は第5回への参加となった。今回は,たまたま日米合同解剖学会のサテライトとして開かれたので出席者が解剖学者に偏り,演題も前回と比べて機能系のものは少なかった。1993年には8月にもOxfordで別の組織(Oxford大・薬理)による自律神経会議が開かれ,重なった顔ぶれが多く出席した。筆者も両方の会議に参加したので両方をあわせて,自分の専門領域である機能系(生理・薬理)の話題を中心にいくつかを紹介する。
 Matthews(Oxford大)は長年,交感神経節を主要な研究対象の一つとしている解剖学者で,機能面でのポイントをよく踏まえて興味を組立てており,筆者と材料が共通なので,彼女の発表に関心をもって注目した。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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