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解説
新しい中枢性神経伝達物質:ATP(アデノシン3リン酸)
著者: 井上和秀1
所属機関: 1厚生省国立衛生試験所薬理部
ページ範囲:P.296 - P.303
文献購入ページに移動 ATPはあらゆる細胞に普遍的に存在する「エネルギーの通貨」として広く認識されており,それが神経伝達物質の一つであるとする考えは常識を逸しているようである。じつはこの仮説はすでに1970年代にG. Burnstock1)により発表されたが,当時としてはかなり信じがたい大胆な仮説であったためか,なかなか受け入れられず,今日までATP研究は四半世紀の辛酸をなめることになった。いまや,膨大な研究成果をふまえ,生体のほとんどの臓器,組織でATPが神経伝達物質として働くことが信じられるようになってきた(末梢での神経細胞終末での局在,刺激に応じた放出,ならびに標的細胞,組織に対する作用などについては,多くの総説2-4)があるので参照されたい)。その中で,情報量が圧倒的に少ないためにいまだ確たることが言えない部位の一つに脳―中枢神経系があったが,この1,2年に中枢神経系での研究報告が急増し,ATPが新しい中枢神経伝達物質としての地位を確保しつつある。
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