実験講座
超高速MRIによる無侵襲脳機能計測法
著者:
小泉英明1
板垣博幸1
小野寺由香里1
山本悦治1
所属機関:
1㈱日立製作所中央研究所
ページ範囲:P.304 - P.309
文献購入ページに移動
来たるべき21世紀は「脳と心」の時代ともいわれており,科学,技術は脳と精神の研究を中心に大きく展開されると予想される。脳・神経科学の成果は,近未来的には脳・精神障害の診断と治療に,将来的には人工知能,ロボティクス,さらには育児,教育などへと広範な応用が期待される。現在,脳研究の基本的な問題点は,健常な人間の高次機能(感覚処理,運動指示・調整,言語,学習,記憶など)を計測する手段がきわめて乏しいことである。例えば,脳波は脳内電源位置の空間分解能を得ることが困難であった。ポジトロンCT(positron emission tomography:PET)は,ほとんど唯一の非侵襲的な脳機能計測法として多くの新たな成果を生んできたが,実際上,放射性物質を使用するので健常者に適用することは困難である。もし,健常な人間に適用できる脳機能計測法が新たに開発されるなら,それは脳・精神科学の根幹に寄与することとなる。現在,脳磁計測(magnetoencephalograpy:MEG)などいくつかの安全で無苦痛の高次脳機能計測法が生まれつつあるが,とりわけ注目されているのが核磁気共鳴機能描画(functional magnetic resonance imaging:fMRI)である。この手法は,大脳皮質の活性化状態を,秒オーダの時間分解能,ミリメータオーダの空間分解能で計測できる可能性をもつ。