最近,薬理学,生化学や分子生物学の進歩により,脳の中で働くいろいろな酵素や受容体の特異的な抑制剤が作られ,またそれらの遺伝子を欠損した動物が登場して神経科学の研究に威力を発揮するようになりました。とくに,このような抑制剤や遺伝子欠損の効果が動物の行動にどう反映するかを調べて,動物個体の行動と分子・細胞レベルの知見を結び付ける試みが盛んになってきました。そして,個体対分子・細胞の関連を探り,個体の行動に際して脳神経系の中で働くメカニズムを探索する新しい研究の可能性が大きく開けてきました。
動物個体の行動は従来生理学,心理学,動物習性学や行動学の分野の仕事で,分子・細胞レベルの研究とはひどくかけ離れていましたが,ここでこれをドッキングさせることが求められています。技術も方法もひどく違う分野を結ぶことは容易ではありませんが,そのような学際的な混合が盛んにおこり,そこに新たな進歩が生まれるのも現代的な科学の特徴といえます。個別のディスプリンにこだわらないで,必要性のあるところ,どのようにでも可能性を開拓していくことが求められています。
雑誌目次
生体の科学45巻5号
1994年10月発行
雑誌目次
特集 動物の行動機能テスト―個体レベルと分子レベルを結ぶ
序 フリーアクセス
著者: 「生体の科学」編集室
ページ範囲:P.400 - P.400
1.ネコ
歩行の適応
著者: 柳原大
ページ範囲:P.402 - P.403
目標
歩行中に外乱を加えるとそれに対する四肢の協調的反射性応答が生じるが,この応答は生後発育発達の過程にて獲得されると考えられる。ここでは流れベルト上で自発歩行している除脳ネコの一側前肢に外乱を毎歩与えることにより,一過性に肢問協調がくずれるが,歩行を継続していく過程で適応的肢間協調が生じるという学習パラダイムを紹介する1)。この適応の成立には,小脳における一酸化窒素を介するシナプス可塑性が重要な役割を有している2)。
前肢のリーチング
著者: 伊佐正 , 北澤茂
ページ範囲:P.404 - P.405
目標
前肢のリーチング(目標到達運動)は,複数の関節に作用する多くの筋の協調した制御が必要とされる随意運動の一例である。自由度の多い運動系だが,軌跡の正確な定量化が可能である。ネコにおいては,この運動を制御する神経回路とその局所破壊の効果について多くの知見が蓄積されている2,3)。したがって,ネコを用いてリーチング時の前肢の軌跡の種々のパラメーターを定量化して解析し,関与する神経回路の局所破壊や単一細胞活動記録と対応させて研究を進めることにより,随意運動を制御する中枢神経系の機能と構造を関連づけて理解することが可能である。
眼球運動
著者: 小松由紀夫 , 外山敬介
ページ範囲:P.406 - P.407
目標
眼球運動は動物の種類によりかなり異なる。外界の動きや頭の動きにより生じる網膜像のブレを防ぐ視運動性眼球運動や前庭性眼球運動は,脊椎動物に一般的にみられる。中心視の発達した動物には,特定の視覚対象を視力の最も高い中心視の部分でとらえる追跡性眼球運動とサッケード性眼球運動がみられる。両眼視を行う動物には,左右両眼が逆方向に回転する輻輳運動がある。ネコにはこれらすべての種類の眼球運動がみられ,眼球運動の測定により眼球の動きを制御する運動中枢の機能,あるいはそこへ信号を送る感覚系の機能が検査できる。
スイッチ切り行動
著者: 前田久雄
ページ範囲:P.408 - P.409
目標
この学習は,ネコの脳幹動因系(視床下部と中脳中心灰白質)の電気刺激で生じる逃走反応を利用し,その動因(恐れ)の解消をもたらす行動(スイッチ切り行動)を獲得させるものである(Nakao, H, 1958)。他の要因の関与が少なく,動因―行動間の学習だけが関与した単純なモデルである。
さらに,学習獲得後,遅延強化(後述)することによって容易にネコに葛藤状態(実験神経症)を作りだすこともできる。
3.マウス・ラツト
ミュータントマウスの行動解析総論
著者: 二木宏明
ページ範囲:P.418 - P.419
行動異常解析の基本原理と留意点
障害の性質の分離
ミュータントマウスや人工的に作製した遺伝子欠損マウスの行動異常を解析する場合,まず第一に,欠損させた遺伝子が通常は脳のどの部位に発現するかを検討して適用するテストを決定すべきである。なお,理想的には,同一の装置を使用して,課題Aを行わせた場合は障害が認められるが,課題Bの時には障害が認められないというように,用いる課題を変えて障害の性質を区別するのが望ましい。
たとえば,Morrisの水迷路を用いた研究では,目標の位置を旗をたてて明示した場合には学習できるが,目標の位置を周りの刺激布置に基づいて学習させると障害が生ずることを明らかにすべきである。別の例をあげると,同じく電撃ショックを用いたfear conditioningであっても,contextual fear conditioing(周りの刺激布置―spatial context―に基づいたfear conditioning:海馬損傷で選択的に阻害される)は阻害されるが,ブザーなどの外的刺激を手がかり刺激にしたfear conditioningは阻害されないというかたちの実験デザインを組むことが必要である。なお,扁桃核の損傷では上述の2つのfear conditioningの両方が阻害される。
一般行動の評価
著者: 栗原久
ページ範囲:P.420 - P.423
目標
行動とは,生体に加えられた外部環境の変化(刺激)と生体機能の相互作用によって表に現れる生体丸ごとの動きを意味している(図1)。生体内では脳機能が行動発現の中心的役割を果たしているが,刺激を受ける感覚機能および行動を表現する運動機能も重要である。しかし,動物行動といっても多種多様で,それらのすべてを網羅する観察を実行することは事実上不可能である。観察の簡便さと密度は相反する傾向があるので,実際の実験では両者を天秤にかけ,どちらかを優先させなければならない。
一般行動の評価は,観察密度は低いが,簡便な方法によって動物の徴候あるいは症状を大まかに把握し,その原因を追及する手掛かりをつかむことを主要目的にしている。さらに,引き続いて行われる精密検査における観察項目を選択するための情報を得ることにも利用される。
行動発達テスト
著者: 関口茂久
ページ範囲:P.424 - P.425
目標
行動発達テストは,観察法を用いて動物が飼育箱や実験装置内において自由に動き回ったり,自発的に表す行動を一定の基準に従って判定する方法である。
オープンフィールドテスト
著者: 山田勝士
ページ範囲:P.426 - P.427
目標
ネズミを全く経験したことのない新しい環境(オープンフィールド)に置いた時の自発運動は,個体の運動活動性,探索行動および種々の情動反応を反映するものといわれている。行動薬理学においても種々の薬物の行動への影響をみる上で,最も基本的な指標として応用されている。
ムリサイドテスト
著者: 山本経之
ページ範囲:P.428 - P.429
目標
攻撃行動は,下等動物からヒトに至るまで広くみられる基本的な行動である。攻撃行動は,自からの生存を脅かす対象には立ち向って積極的にこれを打ち負かす攻撃的攻撃行動(offensive aggression)と,侵害的な外来刺激に敏感に反応し素早く逃れて身を守る防御的攻撃行動(defensive aggressison)に大別され,さらに同種間の攻撃行動と異種間の攻撃行動とに生態学上分けることもできる。ムリサイドはラットがマウスを殺す行為を指し,異種間の攻撃的攻撃行動に属する。
ムリサイドはこれまで攻撃行動の中枢機構解明への実験モデルとして,また情動異常や精神障害の病態モデルとして向精神薬とくに抗うつ薬の前臨床的評価法として繁用されている。
社会相互作用テスト
著者: 原千高
ページ範囲:P.430 - P.431
目標
社会相互作用テスト(social interaction test)とは,薬物の抗不安作用を評価するために2匹の動物間の相互の社会行動を利用したもので,File らにより確立された。すなわち,まだテリトリーが確立していない新奇の場所に2匹の雄性ラットを置くと,2匹の間の社会的関係を形成するための行動が観察される。これには社会的行動パターンを含む社会的相互作用(social interaction)と受動的体接触(passive body contact)がある。前者は,お互いに嗅ぎあったり(sniffing),後から追いかけたり(follwing),お互いに毛づくろいをしたり(allogrooming),上から乗りかかったり(mounting)といった社会的関係を形成する要素となるものである。後者は,お互いに身体を寄せ合ったまま腹臥位でじっとしている状態で何の相互作用もない場合である。
このsocial interactionの出現頻度は,2匹の動物の置かれた場所が暗くて慣れた所であれば高くなり,逆に明るく不慣れな場所であれば低くなる。すなわち,social interactionの出現頻度が低い場合は不安水準が高いことを意味し,この出現頻度を指標に抗不安薬の評価が可能となる。
母性(哺乳)行動
著者: 日下部守昭
ページ範囲:P.432 - P.433
目標
母性行動は母親と子供との相関によって成り立つ行動であり,ほとんどの哺乳類における母親の行動は出生時の子供の発達の程度に依存している。マウスやラットでは生まれたばかりの子供は未熟であるため,給餌(授乳),保温,防御や排泄排尿など親による育児は必須である。ゆえに,ミュータント動物や遺伝子組換え動物において,この母性行動の異常はこれらの動物の繁殖維持に大変重要な問題をもたらす。この項では神経の高次機能として母親の子供に対する育児行動およびこれに付随した母性行動についての解析法を紹介する。
性行動障害
著者: 吉村裕之
ページ範囲:P.434 - P.435
目標
痛み刺激などの直接的な嫌悪刺激を適用せずに,社会的ストレスを実験動物に負荷することにより,性行動障害を惹起させる。このような性行動障害の動物モデルは,心因性インポテンスに対する薬物療法の科学的評価と生物学的機序の解明に有用であり,ヒトの精神病理を配慮した病態モデルといえよう。
刺激誘発性闘争行動テスト
著者: 原千高
ページ範囲:P.436 - P.437
目標
閉ざされた小さな空間内の2匹の動物(一般にマウスやラットが用いられる)に床のグリッドを介して電気刺激を与えると,鳴き声を発しながら後肢で立ち上がり,お互いに対峙する闘争姿勢(fighting Posture,boxing Posture,mutual upright posture)や相手に咬みつくなどの攻撃行動(biting attack)が出現する(図1)。傷付いた動物や病気の動物は攻撃性が高いことから,ストレス誘発性の怒りに類似性が高いように考えられ,これらの闘争行動の出現頻度を指標に,社会心理学的研究や薬物の馴化作用(taming effect)の研究に使用されてきた。
刺激誘発性闘争行動は,不快刺激により誘発された攻撃行動であるところからaggressive response to painful stimulation,aversive stimuli-induced aggression,pain-elicited aggressionなどと英語で表現される。
絶望実験
著者: 田中正敏
ページ範囲:P.438 - P.439
目標
動物にとって絶望という状態があるかどうかはかなり不確実であるが,心理学的には,絶望感というのは,対処不可能な,つまり自らがコントロールできない事象に直面した時に,その結果としてしばしば生じる心理状態であるとされる1)。動物実験では,2つのモデルがあげられるが,これらの動物モデルは抑うつや不安といった情動と深く関係するモデルということができる。
ひとつは,SeligmanらやWeissらによる学習性絶望もしくは学習性無力(learned helplessness)1)である。これは,無力であることを学習するというもので,そういう個体はたとえ対処可能な状況であってもうまく対処できなくなるなど,興味ある課題であり,反応性うつ病のモデルとして考えられたが,ヒトでそれが必ずしも確かめられていない。
正向反射テスト
著者: 杉岡幸三
ページ範囲:P.440 - P.441
目標
正向反射テストは,神経筋協調運動の発達の程度を測定する最も簡便な離乳前テストのひとつである。この反射は生後の比較的早い時期から観察されるので,中枢神経系(小脳および脳幹を含む前庭系)と筋との統合運動の発達の程度を,出生後の非常に早い時期に検出することができる。この反射行動の発達遅延は,将来の種々の神経行動的異常を予測させる有効なサインとなりうる。
聴覚(驚愕)反射
著者: 杉岡幸三
ページ範囲:P.442 - P.443
目標
聴覚(驚愕)反射試験は,中枢神経系の発達の程度を,聴覚機能という側面から分析するものであり,多くの発達的研究で用いられてきている。元来は,聴覚機能の発達そのものを検出する検査として位置づけられてきたが,最近では,聴覚刺激に対する馴致の過程を分析することによって,基本的な学習の過程に関する評価も提供するテストとして用いられることが多い。
聴覚機能の発達(すなわち,生後のどの日齢ではじめて聴覚刺激で誘発される反射が現れるのか)を検出することを目的とする場合は離乳前テストとして用いられるが,学習の基本的側面を分析することを目的とする場合は成熟動物を用いることが多い。
断崖反射
著者: 栗原久
ページ範囲:P.444 - P.445
目標
生物学的にみた意識とは,生体内外の刺激を総合的に感受してそれらを判断し,臨機応変に対応する精神活動を意味している。意識が正常であるということは,現況に対する自覚と理解の両者が存在する状態ということになる。動物は自己の生存にとってより好ましい事象を獲得する方向,あるいは危険な事態から逃れる方向に行動を起こして環境に適応している。このような適応行動が不可能な状態は,意識混濁,または消失していると推察できる。
断崖反射(cliff reflex)は,動物が高所から落下するのを避けようとする行動で,この行動の観察・評価を通して,動物の意識状態を評価することが可能になる。
前庭動眼反射
著者: 永雄総一
ページ範囲:P.446 - P.447
目標
頭の動きを補償する前庭動眼反射の動特性(利得)は,小脳(片葉)によって適応制御されていることが兎や猿を用いた一連の研究から明らかにされている。ラットやマウスでは,小脳を含めた脳の生化学や遺伝子工学的知見が豊富であるので,この反射を用いて,小脳による運動学習の分子機構を解析することが可能である。
懸垂・握力テスト
著者: 栗原久
ページ範囲:P.448 - P.449
目標
各種の機能障害は運動機能の変化として現れやすい。著しい運動機能の変化は肉眼的観察でも容易に把握できるが,微妙な点について定量的に検討するには,数値で表せて客観的に分析できる何らかの指標が必要である。
マウスやラットは前肢の掌が細い棒や針金に触れると,それらを握ろうとする握反射(grasp reflex)を示し,引き離そうとしてもなかなか離そうとしない。このような行動を利用したのが懸垂(牽引力)テスト(traction test)および握力テスト(graspstrength test)である。いずれの試験も骨格筋の筋力を定量的に評価する目的で実施される。
回転棒テスト
著者: 栗原久
ページ範囲:P.450 - P.451
目標
運動機能障害の特徴の一つに運動協調性の障害がある。この種の障害は肉眼的観察からは把握しにくく,歩行を強制的に行わせた際の遂行の変化から評価することができる。
回転棒テスト(rotarod test)は,一定速度で回転する棒上にマウスやラットを乗せ,落下しないように回転に合った歩行を動物に行わせる試験法で,骨格筋の強調運動の可否,筋弛緩,およびバランス感覚などの検討を目的に行われる。
傾斜板テスト(背地走性テスト)
著者: 水谷正寛
ページ範囲:P.452 - P.453
目標
傾斜板テスト(Inclined Plane Test)は,運動機能を評価する神経-筋活動試験のカテゴリーに入る試験であり,運動協調性のほか,平衡感覚,筋力などを複合的に評価する試験の1つである。
「傾斜板テスト」は,「背地走性(負の走地性)テスト(Test of negative geotaxis)」と同義と考えられる。背地走性テストは,行動奇形学的試験・研究における出生児の行動発達検査に際して一般的に用いられる試験である。“Negative geotaxis”の呼称については,傾斜板の中央部に頭部を下にしてラットを置いた時,ラットは顔を上方に向けるが,このラットの姿勢反応をCrozier & Pincus(1926)が“Nagative geotropism”と呼んだことに由来している。
遊泳テスト
著者: 水谷正寛
ページ範囲:P.454 - P.455
目標
遊泳運動は,全身の反射,運動形態が協調的,統合的に関与する複合運動である1)。したがって,遊泳テストは遊泳姿勢,四肢の運動形態,遊泳方法などを指標として,動物の運動協調性,平衡感覚,筋力などを複合的に評価する試験である。新生児動物においては,遊泳運動の発達を中枢神経系の成熟指標としてとらえることができる。生殖・発生毒性試験においては,本テストは初期行動発達に関する検査項目の1つとして利用される。
カタレプシーテスト
著者: 栗原久
ページ範囲:P.456 - P.457
目標
脳の特定部位が刺激あるいは抑制されると,特有の行動が発現することが知られている。さらに,脳機能の一部に変化があると,特定の作用機序を有する薬物に対して著しい感受性を示し,劇的な行動変化が出現する可能性がある。
カタレプシー(catalepsy)とは,動物に不自然な姿勢をとらせてもそのまま維持する状態を意味しており,脳内黒質―線条体におけるドーパミン作動神経の機能低下を反映した行動で,ヒトの錐体外路症状,とくにパーキンソン症状と関連している。ここでは,カタレプシーの検出と評価方法について概説する。
ポール(棒)テスト
著者: 小川紀雄
ページ範囲:P.458 - P.459
目標
Parkinson病は寡動(無動)・振戦・固縮を3大症状とする頻度の高い神経難病で,ポールテストはこれらの症状のうち最も重要な寡動(bradykinesia)をマウスを用いて定量的に観察できる方法で,1)症状の重症度,2)治療薬の開発のための治療効果の判定,3)パーキンソニズム発症の新しい要因・物質の発見,4)発症防止要因・物質の発見などに応用できる。
微細運動機能測定実験
著者: 栗原久
ページ範囲:P.460 - P.461
目標
運動障害を動物レベルで検討する場合,一般的にはこれまでに紹介されたような姿勢,自発運動反射,筋弛緩,協調運動,カタレプシーなどを指標にした比較的大まかな測定が行われている。しかし,微妙な運動障害,たとえば肉眼観察からは把握できない程度の振戦などについて,客観的指標によって鋭敏かつ定量的に検討することが神経行動学的分野では重要である。
弁別運動制御課題(discriminative motor control task)はオペラント行動を利用した運動機能測定方法で,微妙な運動機能の変化を前肢による圧力のコントロールの可否あるいは変化として把握することを目的に実施される。
振戦・けいれん測定実験
著者: 須藤伝悦 , 秋山佳代
ページ範囲:P.462 - P.463
目標
不随意運動は随意筋が動物の意志を離れて動きすぎる運動過剰現象で,振戦やけいれんがこの中に含まれる。振戦は,作用方向が逆の部分的な筋群が,交互に緊張することによっておこる律動的な動きが特徴である。けいれんは振戦に比べて不随意運動の範囲が広く,より複雑な筋の収縮で,強直性(伸筋と屈筋が同時に収縮し,姿勢が固定される)と間代性(伸筋と屈筋との収縮と弛緩とが交互に繰り返す)および両者が合併した強直性間代性に分けられる。
これらの異常運動は,中枢神経系の機能が異常に亢進したり抑制が取り除かれたりした結果おこるもので,その測定を通して中枢神経系の機能状態を推察することができる。さらに中枢神経興奮薬を用いて不随意運動を誘発し,それに対する抑制効果を分析することにより,抗てんかん薬や抗不安薬などの薬効の評価と作用機序の解明に役立てることができる。
振動かご法
著者: 栗原久
ページ範囲:P.464 - P.465
目標
動く,あるいは動けるというのは生きている証しで,動きの観察は生命現象の基本を追及しているといっても過言ではない。
動きにもさまざまなものがあるが,自発運動(spontaneous motor activity)は外部から特別な刺激を与えない状況下で動物が示す各種動作,すなわち歩行や体を動かすといった一定の方向性を持たない運動を意味している。自発運動の観察の基本は肉眼的観察であるが,実際には半自動または全自動測定装置を用いた観察が行われている。ここでは振動かご法によるマウスやラットの自発運動の観察について述べる。
回転かご法
著者: 栗原久
ページ範囲:P.466 - P.467
目標
振動かご法のところでも述べたが,運動量の観察は基本的な行動試験の1つで,回転かご法も振動かご法に劣らずしばしば利用されている。
ここでは,回転かご法によるマウスやラットの運動量測定について概説する。
誘導電波感応測定法(アニメックス法)
著者: 鵜飼良
ページ範囲:P.468 - P.469
目標
アニメックス法は,動物の自発運動を磁場の変化に変換して測定するものである。なお,アニメックスという名称はLKB Farad社が開発した装置名に由来する。普及型のアニメックスは平面的な自発運動のみを測定できるが,上級機種のアニメックスⅡと呼ばれる装置は平面的および垂直的自発運動の両者を検出できる。すなわち,アニメックスⅡでは,linear locomotion(連続的な直線走行),circling(回転行動),rearing(立ち上がり行動)およびgrooming(身づくろい行動)の同時測定が可能である1,2)。
赤外線ビーム法
著者: 伊藤忠信
ページ範囲:P.470 - P.471
目標
動物の自発運動は基本的な行動の一つであり,外界からの特別の刺激を与えない状態のときにみられる行動である。その行動は新しい環境に対する探索行動とは少し意味が異なる。
マウスやラットのような小動物の自発運動を観察する一つの方法として,光源に赤外線を用いた赤外線ビーム法がある。この方法は運動量測定の遂行に必要な各種装置にも応用可能である。
常同行動
著者: 栗原久
ページ範囲:P.472 - P.473
目標
常同行動(stereotypeあるいはstereotyped behavior)とは,外部刺激が与えられない状況下で,無目的に繰り返されるきわめて限定された種類の行動と定義されている。すなわち,常同行動の観察で重要なのは行動の種類ではなく,単一行動をどの程度連続的に,しかも激しく行っているのかといった行動パターンが重要である。
常同行動に含まれる行動にはさまざまな種類があるが,いずれもドーパミン作動神経系に対する刺激薬(受容体アゴニスト:アポモルヒネなど,ドーパミン遊離促進薬:覚せい剤(メタンフェタミン)など,ドーパミン再取込み阻害薬:コカインなど)の投与,あるいは環境ストレスによって発現する。
鎮痛テスト-1:tail-Pinch法・tail-flick法・hot-plate法
著者: 高橋正克
ページ範囲:P.474 - P.477
目標
ヒトの侵害刺激に対する痛覚反応が主観的な感覚であり,客観的に捉えるのが困難であるように,動物にこれと同様の感覚があるか否かも問題で,動物を用いての鎮痛効果の評価はきわめて難しい。しかしながら,ヒトでの痛みを起こす刺激に対する疼痛反応と同じと考えられる動物での疼痛反応(仮性疼痛反応)を指標とし,投与した薬物がこの反応閾値を上昇させるかあるいは反応時間を延長させるかを測定し,鎮痛効果を推定する方法がなされている。この場合,疼痛の成因の複雑さや末梢知覚神経の痛覚伝導系の選択性などから2種以上の侵害刺激を用いること,および臨床データとの比較検討を行う必要がある。
動物に対する侵害刺激としては,ヒトの場合と同じく,機械(圧),熱,電気および化学的刺激などがなされ,いずれも組織障害によって遊離した発痛物質の痛覚受容体の刺激に基づいて痛みが発生すると考えられている。
鎮痛テスト-2:酢酸ライジング法
著者: 鈴木勉
ページ範囲:P.478 - P.479
目標
痛みは主観的な感覚であり,実験者と実験動物間で言葉によるコミュニケーションができないことから,鎮痛効力の検定にはヒトで痛みを起こすような,すなわち組織を軽く損傷する程度の侵害刺激を動物に与え,ヒトが疼痛時に示す行動や反射と類似の行動や反射を動物における痛み反応(仮性疼痛反応)とし,薬物によるこれらの反応に対する抑制効果を抗侵害効果(鎮痛効果)として,鎮痛薬の効力検定が行われている。
酢酸ライジング法は鎮痛薬の効力検定法の1つであり,一次評価法として広く用いられている方法である。本法を用いることにより麻薬性鎮痛薬のみならず,抗炎症性鎮痛薬の抗侵害効果を評価することができる。
電気刺激テスト
著者: 鈴木勉
ページ範囲:P.480 - P.481
目標
電気刺激は種々の実験に用いられている。オペラント行動の実験では,レバー押し行動などを強化するために電気刺激が用いられている。この種の実験としては抗精神病薬の評価に使用されている条件回避実験,薬物の自覚効果を検討する薬物弁別実験,抗不安薬の評価に使用されるコンフリクト実験などがある。さらに,記憶実験に使用される受動的回避実験もある。これらは他の項目でふれられているので,本項では省略する。さらに,痙攣の誘発法としても電気刺激が広く使用され,抗痙攣薬の評価に使用されている。これに関しても他の項目で解説されているので省略する。
そこで,本項では電気刺激を用いた鎮痛薬の評価法について述べる。この電気刺激法は大きく尾刺激法と歯髄刺激法の2つに分類することができる。これらの方法は麻薬性鎮痛薬のような強力な鎮痛薬のみならず,抗炎症性鎮痛薬のような比較的弱い鎮痛薬の評価にも用いることができる。
聴覚テスト
著者: 山田清文 , 鍋島俊隆
ページ範囲:P.482 - P.483
目標
聴覚機能に対する薬物の作用を検討する方法としては,従来より耳介反射が利用されている。しかし,この方法では反射の判定が不明瞭であるのに加えて,刺激音に対する慣れが生じたり,聴覚閾値の変化を検出することができない。そこで,シャトル箱を用いた条件反応を利用することにより動物の聴覚閾値を測定する。この方法により物理的障害あるいはアミノ配糖体系抗生物質などの薬物による聴覚障害を検出することが可能である。
視覚テスト
著者: 山田清文 , 鍋島俊隆
ページ範囲:P.484 - P.485
目標
ラットの頭部の位置や方向が光源に対して一定となり,また,比較的短期間に訓練可能なresponse durationスケジュール下で確立した条件反応を利用して,ラットの視覚閾値を測定する。
嗅覚テスト
著者: 安東潔
ページ範囲:P.486 - P.487
目標
嗅覚の実験においては質的に異なった無数の嗅覚刺激の中からいずれかを選択して,これを一定の均質な条件下で提示する必要がある。これは視聴覚刺激の提示の場合に比べて容易ではない。そのためもあってか動物での嗅覚に関する行動実験は多いとはいえない。しかし,生まれたばかりの動物が,母乳を獲得するためにも,また母親の体温により保護を受けるためにも,嗅覚は触覚とともに重要な感覚として動物の生存に必須の役割を果たしていると考えられる。とりわけ視聴覚が十分に発達していない段階では嗅覚の役割は大きいに違いない。
さらに,成熟動物,たとえばラットなどは,新しい環境での探索行動中に嗅ぎまわり行動を示し,またイヌも同様の行動を示す。ヒトも花のかおり,香水や香料を楽しむし,日常生活や社会生活の中での嗅覚の占める役割は低いとはいえない。生体にとって,このような意味をもつ嗅覚に関する動物の行動実験について以下に述べることとする。
味覚テスト
著者: 山本隆
ページ範囲:P.488 - P.489
目標
味覚テストは,嗜好テスト(好き嫌いテスト)と識別テスト(味質弁別テスト)に大別できる。嗜好テストは,飲食物摂取に際して,動物がその味を好むか嫌うかを判定しようとするもので,識別テストは,動物がある味を別の味とその質の違いにより区別しているかどうかを調べようとするものである。
レスポンデント実験
著者: 安東潔
ページ範囲:P.490 - P.491
目標
食物や酸などの刺激を口の中に与えると唾液分泌が生じる。また,動物に強い音刺激などを与えると驚愕反射が観察される。このように特定の刺激によって誘発される反応をレスポンデント反応と呼ぶ。さらに,このようなレスポンデント反応は中性的な刺激によって条件づけられる。すなわち,特定の刺激によって誘発されるレスポンデント反応が中性的な刺激と反復対提示されると,やがてこの中性刺激の提示のみでもレスポンデント条件反応が引き起こされるようになる。一方,特定の刺激によらずに生起する唾液分泌や,動物のケージ内での探索行動などは,レスポンデント反応と対比されるものとして自発反応と呼ばれる。ちなみに,このような自発反応が強化刺激により条件づけられたものをオペラント反応と呼ぶ。
以上のことから,レスポンデント反応には,条件づけによらないものと条件づけによる両者の反応が含まれ,これらには唾液分泌や平滑筋反応などから骨格筋の関与した行動レベルのものまで含まれるといえる。
正強化オペラント実験
著者: 栗原久
ページ範囲:P.492 - P.493
目標
正強化オペラント行動(positive reinforcement behavior)とは,積極的に行動を起こして報酬(快刺激)を獲得するための学習行動を意味している。強化スケジュールの種類によって正強化オペラント行動は特徴ある行動パターンを描き,薬物投与を含む各種の処置によって変化するので,中枢神経系を中心とする機能検査に利用することができる。
負強化オペラント実験
著者: 栗原久
ページ範囲:P.494 - P.495
目標
負強化オペラント行動は能動的回避反応とも呼ばれ,自ら積極的に行動を起こして不快刺激を避けるための学習行動であり,回避反応の習得・保持過程を分析することにより動物の学習・記憶の検討が可能となる。さらに,回避反応の遂行に必要な各種機能に関する検討にも応用可能である。
ステップスルー型受動的回避実験
著者: 岩崎克典
ページ範囲:P.496 - P.497
目標
ステップスルー型受動的回避実験は,マウスやラットなどの小動物が暗い場所を好む習性を利用したもので,暗室へ進入することによって負荷された電気ショックによる嫌悪体験を記憶した動物が再び同じ環境下に置かれると,もはや暗室に入ろうとしないことを利用する。この実験では学習獲得後にさまざまな健忘を引き起こす操作をすることにより逆行性健忘を生じさせることが可能であり,抗健忘作用を目標とするいわゆる抗痴呆薬の薬効評価の第一段階(前臨床試験)として応用する。
ステップダウン型受動的回避実験
著者: 岩崎克典
ページ範囲:P.498 - P.499
目標
ステップスルー型受動的回避実験が夜行性の小動物の暗い場所を好む習性を利用するのに対して,ステップダウン型受動的回避実験では狭いプラットホームを設置しその上に動物を乗せ,床へ降りるまでの時間を測定する。基本的にはステップスルー型と同じ1回試行型の実験であり,学習獲得後に健忘を引き起こす操作をすることにより逆行性健忘を生じさせることが可能であり,脳機能改善薬やいわゆる抗痴呆薬の薬効評価の第一段階(前臨床試験)として用いるには簡便かつ有用な方法である。
Morris水迷路実験
著者: 藤原道弘 , 三島健一
ページ範囲:P.500 - P.501
目標
この実験法は,1981年Morris1)によって創案され,空間認知を測定する試験法として現在広く利用されている。この課題では動物は水難を逃避するために囲りの環境条件を手がかりにして,自分の存在場所を認識し,回避できる目的地を探しだす認知地図を脳内に形成する。したがって,この方法を用いることによって,動物の認知地図の能力をみることが可能である。
T(Y)型迷路実験
著者: 岩崎庸男
ページ範囲:P.502 - P.503
目標
動物の学習能力や学習過程を調べるためには,動物に選択(弁別)反応を行わせ,正確な選択がなされるようになるまで試行(訓練)を繰り返す。選択には2つ以上の選択肢を用意しなければならないが,その最も簡単な装置がT(Y)型迷路と呼ばれるものである。近年では,これらの装置を用いて遅延反応実験を行い,動物の短期(作業)記憶の測定も行われている。
多重迷路実験
著者: 山本経之
ページ範囲:P.504 - P.505
目標
迷路は出発点と目標点および両者を結ぶ通路からなる。通路には通過可能な通路と袋小路とからなる選択点があり,その選択点の数や選択肢の数によって学習課題の難易度が決まる。2つの選択肢が1ヶ所だけでつくられている単純迷路に比べて,多重迷路は選択点の数が多いほど偶然に正解を得る確率(チャンスレベル)が低くなり,学習獲得や記憶障害の程度をより正確に調べることができる。この多重迷路学習課題は2肢選択の繰り返しとして構成されているために,右左左…といった順序系列の記憶が必要となる。
ランウェイテスト
著者: 藤田統
ページ範囲:P.506 - P.507
目標
ランウェイテストは,ラットが示す情動反応(不安・恐怖)の個体差(情動性)を測定するために,藤田(1975)により考案されたものである。もともとラットは安全な地下に巣穴を作って生活・繁殖する動物であるが,餌・水を得るためには外敵のいる危険で不安・恐怖を覚える地表へ出て行かねばならない。本テストは,このようなラットの自然生態状況をシミュレイトしたものである。
Biel型水迷路実験
著者: 藤原道弘 , 三島健一
ページ範囲:P.508 - P.509
目標
複数のT迷路を組み合わせて,スタートからゴールまで多くの選択肢を設けたものを複合T迷路という。この迷路に水を張ったものがBiel型水迷路で,1940年,Biel1)によって創案され,water filled multiple T-mazeとも呼ばれている。これは定位置のスタートからゴールまでの位置関係の認知と,それに加えて各所にみられる分岐点における左右の選択反応の順序系列の記憶を評価できる。
8方向放射状迷路実験
著者: 藤原道弘 , 三島健一
ページ範囲:P.510 - P.511
目標
自然界において動物が生存するためには,自分と生活環境内の空間的な位置関係を知る能力,すなわち空間認知を必要とする。動物は一連の餌取り行動において,一度訪れた場所には再び訪れないというwin-shiftの性質を持ち合わせており,このことは動物が特定の場所を手がかりとして認知していることを表している。この空間認知を客観的にしかも定量化した方法が,Olton & Samuelson1)によって開発された放射状迷路課題である。
日周リズム
著者: 篠田元扶
ページ範囲:P.512 - P.513
目標
生体内には生物時計があり,生体のリズム現象を支配している。生物時計に対する最も強い同調因子は明暗刺激であり,明暗周期を24時間に統御すれば生体リズムはこれに正確に同調する。生体リズムの中でもとくに行動活性のリズムは明瞭で観察が容易であり,そのリズム性を解析することにより行動機能の変化を知ることができる。また,生体リズムは遺伝支配を受けていると考えられることから,行動リズムを指標として分子レベルの異常を検討することも可能と思われる。
脳内自己刺激
著者: 小野武年 , 田村了以
ページ範囲:P.514 - P.515
目標
1953年,0ldsとMilnerはラットの脳のいろいろな部位に刺激電極を植え込み,レバー押しにより自分の脳を刺激する(脳内自己刺激Intracranial self-stimulation;ICSS)という実験を最初に行った1)。その後多くの研究の結果,動物が電気刺激を好んで求めようとする脳領域(報酬系)と,逆に回避しようとする脳領域(嫌悪系)の存在が明らかにされた。これら報酬系と嫌悪系は,快―不快情動や行動の発現に重要な役割を果たすと考えられ2),したがって,ICSSは情動に関する研究にきわめて有用な実験手技の一つである。
薬物反応性
著者: 栗原久
ページ範囲:P.516 - P.517
目標
行動は脳機能を中心として制御される生体全体の動きであることから,行動観察を通して各種機能に影響を及ぼす薬物効果を鋭敏に把握することができる。逆に,薬物効果による行動変化の分析から,生体内の状態を推察することも可能性である。そこで行動実験では,明確な行動変化を引き起こし,しかも作用機序が判明している薬物の投与がしばしば行われている。
4.トリ
鳴鳥類の歌学習(さえずり学習)
著者: 斎藤望 , 前川正夫 , 宇野宏幸
ページ範囲:P.520 - P.522
目標
鳴鳥類であるカナリヤ・キンカチョウ・ジューシマツなどは成鳥雄の歌(song)を学習する。成鳥の与えたモデルを脳内に手本(template)の形で記憶する。モデルの感受期が明確に一定期間臨界期だけ開いて,その後閉じるという特性がある。しかし,臨界期はいろいろな要因で延長するので,学習の動物モデルとしての利用価値が高い。さらに歌の制御系の神経核がよく分離して発達しているので,神経核の特異的機能との対応がわかりやすい。
歌学習にアプローチするのに以下の3つの方法があるが,それぞれを組み合わせることにより多様な実験をデザインできる。
オウムの言語行動
著者: 斎藤望 , 前川正夫 , 宇野宏幸
ページ範囲:P.523 - P.523
目標
オウム・インコ・カラス・スズメ・九官鳥などはヒトのことばをまねて発声することができる。しかし,これらの多くは単なるまねの反復であり,ヒトとverbal communicationができるわけではない。しかし,例外的にある種のオウムがヒトとverbal communicationをすることが可能であることが示されている。African grey parrot(1981;1991,Pepperberg)が長期間の訓練によってヒトと音声言語を交換して,行動の意味づけが可能となった。その方法はヒト幼児教育にも利用されるmodel-rival法である。
この方法は,言語行動の初期段階において,“ことば”と“もの”の対応関係,色,形,数,大小関係などの概念を理解させる。この方法を多少改変して利用する。
ハトの視覚認知機能
著者: 渡辺茂
ページ範囲:P.524 - P.525
目標
ハトが視覚認知機能にすぐれていることはよく知られており,多くの研究が行われている。図1はハトの視覚系を示す。主たる視覚経路は網膜から視蓋(TeO)を経由し,円形核(RT)を経て大脳の外線条体(EC, EP)に到る経路と,網膜から視床背外側核(OPT)を経由し,大脳背内側部のウルストとよばれる高線条体によって構成される部位(HA, IHA, HIS, HD)に到る経路である。
哺乳類では外側膝状体を経由して視覚1野に到る経路が主要経路であるが,鳥類では視蓋経由系が主要視覚経路である。
ハトの条件性抑制
著者: 渡辺茂
ページ範囲:P.526 - P.527
目標
条件性抑制(Conditioned Suppression),または条件性情動反応(Conditioned Emotional Response)といわれるものは,オペラント行動の抑制を指標としたレスポンデント条件づけ(パヴロフ型条件づけ)である。レスポンデント条件づけでは自律神経系の反応を用いる場合が多いが,この方法ではオペラントの反応頻度を測度として利用する。
ハトの遅延反応における指向性忘却
著者: 実森正子
ページ範囲:P.528 - P.529
目標
比較的短い記憶保持が要求される課題場面で,課題解決に必要な情報を積極的に保持し,不必要な情報を忘却する事実を指向性忘却という。単に時間が経過したために生じる忘却ではなく,不必要な情報に対しては,それを積極的に保持する活動が停止されたために生じる忘却で,課題解決場面に関与する能動的な記憶過程を反映すると考えられている。
情報を積極的に保持する活動,いわゆるリハーサルを動物は行うのか,またリハーサルが行われるとするならば,それがどのような環境条件によって制御されるのかなどを分析することによって,動物の能動的な記憶過程の検討が可能になる。
ニワトリの摂食内容と摂食行動
著者: 古瀬充宏 , 奥村純市
ページ範囲:P.530 - P.531
目標
生産を目的に飼育されているニワトリは,多くの研究の成果を経て最も生産性が高まるように配合された飼料を与えられる。この飼料を与える限り,どういった内容(栄養素あるいは飼料源)を摂取するかを知ることはできない。本来雑食性を示すニワトリは,さまざまな飼料を一度に自由に摂取することが許された場合,自らの要求量に見合うようにそれぞれを組み合わせて食べることが知られている。これを研究室の水準で確かめるには,選択摂取という方法が用いられる。例えば高蛋白質の飼料と低蛋白質の飼料を同時に与えれば,蛋白質の摂取量が適当な水準になるように両飼料を摂取する。しかしこの方法は,同時にある飼料成分にニワトリが嗜好性を示すか否かを調べるにも有効な方法である。もしある飼料成分に興味あるいは嫌悪感を示した場合には,その原因を追及することができる(図1)。
産卵期ニワトリの摂食行動と熱発生量の測定
著者: 山本禎紀 , 伊藤敏男
ページ範囲:P.532 - P.533
目標
ニワトリの生活と生理現象は光環境に強く支配されており,通常の明暗下では,明期活動高レベル・暗期休息低レベルの特徴的パターンを示す。ここでは,生理現象や行動解析をするための基本測定事項である摂食行動と熱発生を取り上げる。また,両者の関係を解析する方法にも触れた。
5.カエル
嘔吐行動
著者: 内藤富夫
ページ範囲:P.536 - P.537
目標
カエルは吐剤による刺激1-3)や食道開口部の機械的刺激1,2)で容易に嘔吐する。この嘔吐のメカニズムは基本的には哺乳類の場合と同じである1,2)。したがって,比較生理学的観点から,カエルの嘔吐行動を基にして脊椎動物における嘔吐メカニズムの解析を哺乳類と同様の立場で行うことができる。ある特定の物質や刺激が嘔吐をもたらすか否か,あるいは制吐作用があるか否かをカエルを用いて調べることができる。これは,刺激受容から嘔吐行動発現までの間に介在する神経回路とその活動調節,あるいは神経回路に含まれるレセプターレベルの解析を可能にする。カエルの嘔吐能は変態期に獲得される1)。変態期における嘔吐およびそれに関連する機能・行動の発達を調べることは,それらを調節する中枢神経系の発達過程を理解する研究につながってくる。
生殖行動とホルモン
著者: 石居進
ページ範囲:P.538 - P.539
目標
内分泌学の発展には実験用のラットやマウス,家禽のニワトリやウズラなどが実験動物として大きく貢献してきた。しかし,これらの動物は特殊化したものであって,野生種とはいろいろな点で異なっている。そして,脊椎動物のほとんどを占めているのは野生の動物である。したがって,脊椎動物の内分泌調節機構を本当に知るには,野生の状態の動物をよく観察し,それをもとに,野外であるいは研究室で実験的に調べることが必要である。そうすることによって,これまで明らかにされた内分泌調節機構の普遍性が確かめられたり,また新たな内分泌調節機構が発見されるのではないかと考えられる。このような理由から,われわれはヒキガエルを研究の材料として行動内分泌学の研究を行った。ヒキガエルの成体はかつては研究や実習の材料としてよく使われていたが,現在では一部の研究を除くと1),第一線を離れてしまっている。
ヒキガエルを材料に選んだ理由はいくつかある。まず,1年間に活動が際立った変化を示し,その上,短距離ではあるがマイグレイションまでする。また,繁殖期がはっきりしていて,しかも,性行動が生態学的によく調べられている。さらに興味深い点として,繁殖期がまだ気温が低い早春であること,繁殖期には陸棲から水棲に変わることなどがあげられる。その上,大型で発見するのも楽であるし,血液をとったり,手術をするのも楽である。
平衡反応
著者: 原田康夫 , 鈴木衞
ページ範囲:P.540 - P.541
目標
カエルの内耳は,外側半規管,前・後の垂直半規管,耳石器としての卵形嚢と球形嚢,ラゲナ,さらに2つの聴覚受容器から構成されている。これらの受容器から出る神経は前庭神経本幹となって脳幹に至る。
カエルは自然界において,歩行はもとより跳躍や水泳など多彩な運動能を有する動物であるので,個々の受容器神経を切断して行動の変化を観察することにより,その受容器が体平衝にいかに関与するかがわかる。
6.サカナ
摂餌行動
著者: 東信行
ページ範囲:P.544 - P.545
目標
動物にとって餌をとるということは,個体維持および繁殖に関し直接的な影響を及ぼす行為である。それゆえに摂餌行動にはその個体が生き抜き,子孫を残すためのさまざまな「戦略」が見られる。1960年頃から摂餌行動にはどのような規則性があり,それが理論的にどのように理解できるかについて活発な研究がなされてきた。そして初期の重要な成果の1つが餌選択の理論的な解決であった。具体的には時間あたりの摂餌量を最大化するような行動をとるという短期的な最適化がその基準となった。今回は,この古典的ではあるが,今なお基本的な理論の有効性を失っていない,餌選択に関する最適採餌の実験に焦点をあてる。
現在ではすべての動物にあらゆる状態で短期的最適化を適用することはないが,この理論に基づいた実験は,その生物の生態を明らかにするという研究の第一歩として,また応用面では飼育動物にどのような餌を与えるべきかを単に経験からだけではなく考えるために有効である。
生殖行動
著者: 植松一眞
ページ範囲:P.546 - P.547
目標
魚類の生殖行動は多様であるが,多くの場合,産卵行動は,産卵準備の終わった(最終成熟あるいは排卵の完了した)雌に対する雄による追尾,次いで期を得た放卵放精と続く。産卵床などに卵を産み付ける種では,この間に産卵床の掘削や産卵基質の清掃などを行う。ここでは雌の性行動の誘起に関わるホルモンの探索法,特定の脳領域の電気刺激による特定の産卵行動レパートリーの誘起法,放卵放精に関わる筋の活動記録法などについて紹介する。これら生理学的研究の他に,魚の生殖行動を繁殖戦略の進化の見地から研究する学問分野もある。
遊泳運動と逃避行動
著者: 植松一眞
ページ範囲:P.548 - P.549
目標
多くの魚種では,遊泳の推進力を得るために,体側筋が吻側から尾側に向けて順に左右交互に規則正しく収縮して波状運動を作り出す。運動リズムの源は脊髓の体節ごとに1対ずつあるニューロン群であり,これらはcentral pattern generatorと呼ばれる。脊髄で生成される基本リズムが脳からの指令により修飾されて,さまざまな魚体運動のパターンが生じる可能性が指摘されている1)。真骨魚の運動には,この他に,同じ運動系を使いながら支配系が異なる逃避反射startle reflexがある。このおもに内耳刺激に反応して起こる反射は,動作時の魚体屈曲の形からC-スタートとよばれる。C-スタートには延髄にある一対のマウスナー細胞Mauthner cellが関わる。マウスナー細胞は刺激された側と反対側の脊髄運動ニューロンを一体側性に興奮させることにより,急速な方向転換を実現する2)。
これらの神経回路網を電気生理学的および組織学的に調べることにより,脊髄内リズム生成装置や遊泳運動賦活系などの解析が可能となる。
とびはね行動実験(回遊行動)
著者: 塚本勝巳
ページ範囲:P.550 - P.551
目標
とびはね行動は,アユ稚魚が春の遡河回遊時に落水刺激に対してみせる行動である。これを用いてアユの遡河性の強弱を定量することが可能である。またとびはね行動に及ぼす環境要因の影響を検討することにより,遡河回遊行動の制御因子と解発メカニズムを推定することもできる。
成群行動
著者: 長谷川英一
ページ範囲:P.552 - P.553
目標
魚類の群れ構造およびその行動は3次元的な広がりを持つものであり,水槽を利用した実験室内での立体的測定についていろいろな工夫がなされ,現在ではコンピュータを駆使した自動測定機器も開発されている。ここでは簡易的測定方法を紹介するとともに,群れ行動計測指標について述べる。本方法は,魚類の群れ形成に関わる諸感覚機能の検討に利用できる。
電気感覚魚の行動
著者: 浅野昌充
ページ範囲:P.554 - P.555
目標
電気感覚魚は夜間や濁り水の中で視覚の代償となる感覚を発達させた特殊な魚群で,発電器官により自体周囲に形成している電場の歪みを感知し,異物の接近を察知する弱電魚群と,もっぱら餌魚や外敵の発する生体電気を探知する受動的電気受容魚群と大別される。
本テストは,後者に区別され,入手および飼育の容易なナマズSilurus asotusの水中電場に対する習性行動(=待機行動)の強化によって,その電気感覚の感度,電場強度識別能および周波数識別能を調べるために組み立てられたものであるが,強化過程を分析することで学習・記憶やそれにかかわる生理機能の検討にも応用可能である。
攻撃行動
著者: 井口恵一朗
ページ範囲:P.556 - P.557
目標
噛みつきや体当たり,直接相手の体に触れないまでも,大きく口を開けたり鰭を立てたりの威嚇は,個体同士の遭遇によってしばしば観察される行動である。こうした攻撃的干渉は,何らかの資源(餌や配偶相手から隠れ場所や産卵場所まで含まれる)を排他的に利用しようとして起こるのが普通である。攻撃対象のもたらす情報は,視覚領域に限っても,位置・大きさ・形・色・模様などと多岐に及ぶ。ところが,Tinbergenらの行ったトゲウオの跳びはね闘争に関する有名な実験では,下部を赤く塗ったモデルであればたとえそれが魚の形をしていなくても,雄の攻撃行動が喚起されることが判明した。特定の反応を解発するのは,比較的単純なサイン刺激(トゲウオでは赤色)であることが実証されたのである。サイン刺激を備えたモデルを用いることによって,攻撃行動を定量的に測定することができる。さらに,異なる集団間や同一集団内の個体内で,あるいは同一個体の発育段階を追って,攻撃レベルの比較検討が可能になる。
キンギョの弁別学習
著者: 大井修三
ページ範囲:P.558 - P.559
目標
キンギョが本年7月のスペースシャトルに乗った。これは,キンギョの飼育法が確立され,比較的扱いやすいからである。またキンギョは,比較的単純な神経系をもつ魚類の代表として,これらによって支配される行動を研究する目的で用いられてもいる。
一方,薬物の中枢神経系への影響をみる場合に,キンギョには一つの利点がある。キンギョ(10cm前後)の頭骨と脳との間に1mm程の間隙がある1)。ここに薬物を投与することによって,末梢にあまり影響を与えずに薬物の中枢への効果を検討することができる(図1)。
7.昆虫 ショウジョウバエ
行動突然変異の分離のための行動の定量化―視覚行動の場合
著者: 堀田凱樹
ページ範囲:P.562 - P.565
目標
神経系の研究には単一ニューロンレベルの解析が重要であるが,神経系の最終的な理解にはinputからoutputまでの全体的な理解が必要である。そのためには,中枢神経系の最終的な出力の表われである「行動」を指標とした研究が大切である。とくに「行動突然変異」を解析して脳・神経系の研究をする行動遺伝学は,遺伝子がどのようにして中枢神経系の神経回路網を作り上げ,行動を発現させるかを解析できる重要な分野である。
しかも最近の遺伝子技術の発展により,ショウジョウバエを研究材料に選べば,遺伝子クローニング・遺伝子導入個体の作成なども自由に行えるから,いわば遺伝子の分子レベルの研究から神経回路の形成・行動の発現機構などの高次レベルの理解までを一本の連続した現象として完全に解明していく可能性が出てきている。すでに,視覚行動の研究はその域に達しているし,飛翔行動についても筋肉レベルの研究は大いに発展している。また,学習・体内時計・求婚行動などでも興味深い研究が進められている。
求愛行動
著者: 山元大輔
ページ範囲:P.566 - P.567
目標
繁殖のプロセスで成功を収め,より多くの子孫を残すことは,生物個体のいわば使命である。その直接的帰結として,精緻にして多様な性行動様式が動物界に生み出されてきた。キイロショウジョウバエの求愛行動はその端的な例であり,各行動要素をつくり出す神経細胞機構や,その基盤をなす遺伝子ネットワークの実体を解明する上で好個の素材を提供している。
嗅覚・味覚テスト
著者: 谷村禎一
ページ範囲:P.568 - P.569
目標
嗅覚,味覚の化学感覚は,ハエの食物選択,摂食,求愛などの行動に重要である。ショウジョウバエの成虫の嗅覚器は触覚およびmaxillary palpに,味覚器は跗節,唇弁,翅にある。行動突然変異体の研究において,化学感覚器あるいは感覚情報の中枢での処理過程に異常があるかどうかを調べるには,行動アッセイによるのが簡便である。
飛翔行動
著者: 最上要
ページ範囲:P.570 - P.571
目標
ショウジョウバエの飛翔行動は,目の前を何かが横切ったり,足元の安定が失われるといった刺激によって誘起される。これらの刺激は中枢を経て胸部神経節に位置する運動ニューロンの発火を引き起こし,最終的には胸部に存在する筋肉群を興奮させてハエは飛び始める。したがって,これらのサーキットに異常を起こすような突然変異を解析するためには飛翔行動の定量化が必要である。
ミツバチ・コオロギなど
形の識別能力テスト
著者: 三村珪一
ページ範囲:P.574 - P.575
目標
昆虫の種類はきわめて多いが,そのうち実際に視覚パターンを識別しうることがわかっている昆虫はそう多くはない。また,形を識別しうることが推測されているにしても,どのような形を識別しうるかが完全に解明されているとは限らない。一般に,動物にとっての感覚能力は,その動物が生存してゆくために必要な情報が受容しうるように発達している。したがって,その種類の多様性を考えれば,昆虫の形の識別に関する研究はその緒に着いたばかりといえるであろう。本テストの目標は,ある昆虫が形の識別を可能とするか,可能とするならばどのような形を識別できるのかを知る方法を述べることである。
基本的には彼らの行動を解析することにより形の識別を推測するという方法をとる。具体的には,昆虫に備わった特異的な行動能力を利用したテスト法であるといえる。昆虫の場合,その種の多様性に伴い,形の識別も多様化するので,飛ぶ昆虫・歩く昆虫・はう昆虫などすべての昆虫に一様な方法を適用することはできない。当然,調べる対象となる昆虫の習性や目の特性などを考慮したうえで,それ相応の工夫がなされなければならない。また,行動解析以外の諸方法の裏づけも当然必要である。利用できる行動としては,光(形)を刺激として用いた条件反応,光に基づく反射,光走性などが考えられる。
生物時計のテスト
著者: 青木清
ページ範囲:P.576 - P.577
目標
24時間前後の周期をもつ生物のリズムを概日リズム(Circadian rhythm)と呼んでいる。それはなんらかの環境サイクルに同調する自律性のリズムである。したがって概日リズムは生物に内在する自律性振動の現れであるから,生物を周期的な照度変化や温度変化のない恒常条件下においたとしてもリズムは持続する。
このような恒常条件下においてみられる概日リズムを,とくにfree runリズムといっている。つまり基本的に生物の概日性リズムがあるかないかは,free runリズムを記録してみることによって知ることができる。
偏光視能力テスト
著者: 青木清
ページ範囲:P.578 - P.579
目標
社会性昆虫であるミツバチやアリは,天空に広がる偏光パターンを受容することができる。ミツバチやアリは偏光パターンをコンパスとして航行の手段に使っている。昆虫の複眼を構成する個眼の光受容細胞,とくに紫外線受容細胞の位置と配列が偏光パターンの分析に使われている。その光受容細胞の位置と配列は,一般に天空の偏光パターンを読み取れるようになっている。本テストは,昆虫はこの特殊な天空の偏光パターンにあった複眼にある偏光フィルターを使って,天空からの偏光によって作られる複雑な空間的情報を読んでいるかどうかを理解するものである。ミツバチは餌の場所の方向を示すダンスを踊るので,餌の位置を学習させることによって,ダンスを指標として,偏光パターンのわかった偏光板を使った行動のテストによってミツバチの偏光視能力を知ることができる。この偏光視能力テストは,野外において決まった時刻に行われなければならない。それは,偏光コンパスは時刻学習も関与しているからである。
複眼の空間分解能テスト
著者: 蟻川謙太郎
ページ範囲:P.580 - P.581
目標
昆虫複眼の空間分解能―視力―を推定する方法として,視運動反応を利用する方法と,擬瞳孔を観察する方法とを紹介する。
コオロギの産卵行動
著者: 菅原隆
ページ範囲:P.582 - P.583
目標
昆虫の行動は,定型化された行動(いわゆる本能行動)がその大部分を占めるが,これは中枢の行動プログラムが,内的・外的な情報により実行されると考えられる。各プログラムは,サブプログラム(行動上ではステップと呼んでおく)の連鎖で構成されている。
このような定型化された行動の生理学的研究には,さまざまな処置を施した動物で,その行動がどう影響を受けるかが基礎的データとして必要になる。ここでは,構成ステップが明確にされているコオロギの産卵行動を取り上げて,こうした研究の一例とする。
フェロモンによる行動検定
著者: 神崎亮平
ページ範囲:P.584 - P.585
目標
昆虫のフェロモンは,個体間のコミュニケーションや配偶行動,社会性昆虫のコロニーの維持などに利用される。なかでも定位行動を発現させるリリーサとしての作用は重要である。風洞装置を用いた昆虫のフェロモン源への定位行動の解析は,単離されたフェロモン成分の検定法として,また昆虫の匂い源への遠距離定位行動のメカニズムの解析,さらに、雌雄間のフェロモン交信撹乱による農業害虫駆除の検定などにも応用可能である。
コオロギ歩行の定量的計測
著者: 久田光彦
ページ範囲:P.586 - P.587
目標
コオロギに限らず,昆虫の行動の定量化の目的は大きく2種類に分けることができるだろう。概日リズムの計測のように単に活動レベルを継続的に測定する場合と,歩行や飛行の方向性,速度,移動量などを追跡記録する場合とである。とくに後者では刺激源に対する定位,走性を計測することによって感覚機構の解析,あるいは誘引物質など刺激源自体の評価解析の有効な手段とすることができる。
8.甲殻類
エビ・カニの歩行計測
著者: 久田光彦
ページ範囲:P.590 - P.591
目標
甲殻類のいくつかの種類で,1940年代から中枢神経系についての多くの研究が蓄積された。とくに最近の結果として,回路要素の神経細胞の同定がいちじるしく進んで,データベース化が志向されている。なかでもザリガニ,イセエビの類は逃避行動,歩行,姿勢維持に関する神経要素と,その形成する回路が詳細に知られている。
これらの神経行動学的な研究には,まずこれらの動物の行動の客観的記述が必要であり,したがって歩行,姿勢維持行動などの記録解析が必要になる。発見された回路の機能を確定するためにも,また逆に,解析可能な行動の発見のためにも,この種の解析は前堤になる。
アメリカザリガニの回避学習
著者: 柳沼重弥
ページ範囲:P.592 - P.593
目標
回避学習は,不快刺激を,ある行動をおこすことにより,あるいは抑制することにより,避けることを学ぶことである。その学習成立過程,保持過程を調べることにより,ザリガニの学習,記憶能力,さらに不快刺激の知覚,回避行動遂行の運動機能など,学習行動に関与する諸能力を調べるのに利用できる。
9.軟体動物
アメフラシの引っ込め反射
著者: 杉田修三
ページ範囲:P.596 - P.597
目標
アメフラシは,神経細胞の細胞体が比較的大きく電気生理の実験に適していること,色素,大きさ,位置などにより個々の神経細胞の同定が可能であることなどから,行動を細胞レベルから説明しようと試みる研究者にとり,理想的な系である。引っ込め反射はアメフラシが示す行動の中でももっとも単純なものの1つであり,外界からの触刺激などに対して,エラ,水口,尾を引っ込める防御反応である。反射をつかさどる神経回路の同定が第1の目標となる。さらに,この反射行動は,経験によってその強さが変化する,つまり学習しうることから,学習と記憶の基本的モデルとしての研究も可能である。この場合,学習や記憶にともなって神経回路の一部に変化が生じることが見いだされており,シナプスの可塑性を分子レベルから解明しようとする研究とも結びつく。
ウミウシの連合学習法
著者: 榊原学
ページ範囲:P.598 - P.599
目標
ウミウシに連合学習の一つである古典的条件付けをする。ウミウシは生来,光の明方向へ移動する性質と,振動刺激から逃れようとする性質がある。この性質は行動出力として足の筋肉の動きを指標とすると,光に対しては足を伸ばそうと,一方振動には逆に縮めるように応答する。この2種の刺激を,光を条件刺激,振動を無条件刺激とし,それらを時間的に組合わせ訓練する。
10.線虫
行動測定法概論
著者: 桂勲
ページ範囲:P.602 - P.605
C. エレガンス
土壌自活性線虫C. エレガンス(Caenorhabditis elegans)(図1)は,発生と神経系の分子生物学的研究のために選び出されたモデル生物であり,以下のような性質をもつ1,2)。(1)大腸菌を餌として寒天上または液体中で簡単に飼える。世代時間が3日なので,短期間に増やすことができ,成虫の体長が1.2mmなので,多数の個体を扱うことができる。(2)性決定はXO型であり,自家受精する雌雄同体と雄がいる。雌雄同体は1匹で子孫を残せるが,雄を使うと交配もできる。(3)ゲノムサイズが高等動物の約1/30であり,染色体のほぼ全領域について対応する遺伝子クローンが入手できる。現在,ゲノムの全塩基配列が決定中であり,1998年末には完成の予定である。(4)細胞数が少なく(雌雄同体の成虫で体細胞核959個),細胞の数・位置や細胞分化に関する個体差がほとんどないので,全細胞に個別の名前が付けられている。さらに受精卵から成虫に至る全細胞系譜3,4)と,302個のニューロンからなる神経系の全回路構造5)が知られている。したがって,変異体における発生や神経回路の形態異常を,特定の細胞の異常として記述することができる。
温度走性テスト
著者: 森郁恵 , 大島靖美
ページ範囲:P.606 - P.607
目標
線虫は,餌のある培地で通常に飼育された後,温度勾配のある所に置かれると,飼育温度の方向へ寄っていき,その温度付近で等温線を描くように移動する。温度走性テストは,この正常な応答に影響を与える飼育環境要因,薬剤,突然変異,あるいはこの応答を担う神経細胞を同定するために用いる。
タップ反応
著者: 細野隆次
ページ範囲:P.608 - P.609
目標
C.elegansは広汎な行動能を持っているが,連合あるいは非連合学習能についてはまだ十分調査されていない。もし,系統的に解析できる行動があれば神経系高次機能の解析に役立つであろう。そうした可能性のある行動としてタップ反応について紹介する。
触覚
著者: 三谷昌平
ページ範囲:P.610 - P.611
目標
線虫の触覚は外敵の接近を機械刺激受容ニューロン(タッチセル)により感じとり,それと反対方向に逃避反射を行うために用いられている。タッチセルは欠如しても実験室内での線虫の生存には影響がなく,変異体の分離およびその遺伝学的,分子生物学的解析が可能である。線虫実験系でよく知られている発生や神経の形態学的知識を用いることにより,タッチセルの分化機構および機械刺激受容の分子機構へのアプローチが可能である。
化学物質・薬剤への応答
著者: 香川弘昭
ページ範囲:P.612 - P.613
目標
特定の薬剤が生理学的あるいは細胞学的にどのように生体に影響するかを調べる。薬剤の作用箇所が複数で,結合蛋白質や受容体を生化学的方法で単離することが困難な場合でも,薬剤に対する多数の作用分子に関連する突然変異体を単離して,分子生物学的解析から目的分子を求めることを目指している。
行動異常変異体のトラッキングアッセイ
著者: 近藤和典
ページ範囲:P.614 - P.615
目標
線虫C.elegansは,筋肉や神経系に関連した遺伝子の変異によって,行動に異常が生じた個体を遺伝学的に解析するのによく用いられる。線虫の行動を静止画によって視覚化するために,寒天の薄層上を一定時間這わせて,その跡(トラック)を写真にするトラッキングアッセイ法を述べる。
11.ミミズ
T字迷路学習
著者: 岡浩太郎
ページ範囲:P.618 - P.619
目標
環形動物の学習についてはあまり多くのことが知られていないものの,例外的にミミズについては,振動と光の組み合わせ学習(古典的条件付け),慣れ,感作,迷路学習などが古くから知られていた。ここではミミズの記憶・学習についてDattaの仕事を中心に紹介し,ミミズのT字迷路学習の方法と結果について説明する。
12.ゾウリムシ
無重力状態における行動
著者: 村上彰
ページ範囲:P.622 - P.623
目標
地球上の生物は,長い間一定の重力環境下(1g)で進化した。重力に対する走性や屈性を発達させた多くの生物は,無重力状態にどのように適応できるのであろうか。人工衛星(Salyut VIとD1-challenger)を利用した実験で,ゾウリムシの細胞増殖率が無重力環境下で増加することが観察された。この原因は,重力走性のために消費されているエネルギーが無重力下では不要となり,細胞増殖に振り向けられるためであると考えられている1)。
ゾウリムシは,水中の小さな単細胞生物で,特別な重力受容器をもたないが,顕著な負の重力走性を示す。この機構を明らかにし,無重力環境下での行動を解析することによって,細胞レベルでの重力への適応現象が解明されていくものと思われる。
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特集 血小板凝集
37巻1号(1986年2月発行)
特集 脳のモデル
36巻6号(1985年12月発行)
特集 脂肪組織
36巻5号(1985年10月発行)
特集 細胞分裂をめぐって
36巻4号(1985年8月発行)
特集 神経科学実験マニュアル
36巻3号(1985年6月発行)
特集 血管内皮細胞と微小循環
36巻2号(1985年4月発行)
特集 肝細胞と胆汁酸分泌
36巻1号(1985年2月発行)
特集 Transmembrane Control
35巻6号(1984年12月発行)
特集 細胞毒マニュアル—実験に用いられる細胞毒の知識
35巻5号(1984年10月発行)
特集 中枢神経系の再構築
35巻4号(1984年8月発行)
特集 ゲノムの構造
35巻3号(1984年6月発行)
特集 神経科学の仮説
35巻2号(1984年4月発行)
特集 哺乳類の初期発生
35巻1号(1984年2月発行)
特集 細胞生物学の現状と展望
34巻6号(1983年12月発行)
特集 蛋白質の代謝回転
34巻5号(1983年10月発行)
特集 受容・応答の膜分子論
34巻4号(1983年8月発行)
特集 コンピュータによる生物現象の再構成
34巻3号(1983年6月発行)
特集 細胞の極性
34巻2号(1983年4月発行)
特集 モノアミン系
34巻1号(1983年2月発行)
特集 腸管の吸収機構
33巻6号(1982年12月発行)
特集 低栄養と生体機能
33巻5号(1982年10月発行)
特集 成長因子
33巻4号(1982年8月発行)
特集 リン酸化
33巻3号(1982年6月発行)
特集 神経発生の基礎
33巻2号(1982年4月発行)
特集 細胞の寿命と老化
33巻1号(1982年2月発行)
特集 細胞核
32巻6号(1981年12月発行)
特集 筋小胞体研究の進歩
32巻5号(1981年10月発行)
特集 ペプチド作働性シナプス
32巻4号(1981年8月発行)
特集 膜の転送
32巻3号(1981年6月発行)
特集 リポプロテイン
32巻2号(1981年4月発行)
特集 チャネルの概念と実体
32巻1号(1981年2月発行)
特集 細胞骨格
31巻6号(1980年12月発行)
特集 大脳の機能局在
31巻5号(1980年10月発行)
特集 カルシウムイオン受容タンパク
31巻4号(1980年8月発行)
特集 化学浸透共役仮説
31巻3号(1980年6月発行)
特集 赤血球膜の分子構築
31巻2号(1980年4月発行)
特集 免疫系の情報識別
31巻1号(1980年2月発行)
特集 ゴルジ装置
30巻6号(1979年12月発行)
特集 細胞間コミニケーション
30巻5号(1979年10月発行)
特集 In vitro運動系
30巻4号(1979年8月発行)
輸送系の調節
30巻3号(1979年6月発行)
特集 網膜の構造と機能
30巻2号(1979年4月発行)
特集 神経伝達物質の同定
30巻1号(1979年2月発行)
特集 生物物理学の進歩—第6回国際生物物理学会議より
29巻6号(1978年12月発行)
特集 最近の神経科学から
29巻5号(1978年10月発行)
特集 下垂体:前葉
29巻4号(1978年8月発行)
特集 中枢のペプチド
29巻3号(1978年6月発行)
特集 心臓のリズム発生
29巻2号(1978年4月発行)
特集 腎機能
29巻1号(1978年2月発行)
特集 膜脂質の再検討
28巻6号(1977年12月発行)
特集 青斑核
28巻5号(1977年10月発行)
特集 小胞体
28巻4号(1977年8月発行)
特集 微小管の構造と機能
28巻3号(1977年6月発行)
特集 神経回路網と脳機能
28巻2号(1977年4月発行)
特集 生体の修復
28巻1号(1977年2月発行)
特集 生体の科学の現状と動向
27巻6号(1976年12月発行)
特集 松果体
27巻5号(1976年10月発行)
特集 遺伝マウス・ラット
27巻4号(1976年8月発行)
特集 形質発現における制御
27巻3号(1976年6月発行)
特集 生体と化学的環境
27巻2号(1976年4月発行)
特集 分泌腺
27巻1号(1976年2月発行)
特集 光受容
26巻6号(1975年12月発行)
特集 自律神経と平滑筋の再検討
26巻5号(1975年10月発行)
特集 脳のプログラミング
26巻4号(1975年8月発行)
特集 受精機構をめぐつて
26巻3号(1975年6月発行)
特集 細胞表面と免疫
26巻2号(1975年4月発行)
特集 感覚有毛細胞
26巻1号(1975年2月発行)
特集 体内のセンサー
25巻5号(1974年12月発行)
特集 生体膜—その基本的課題
25巻4号(1974年8月発行)
特集 伝達物質と受容物質
25巻3号(1974年6月発行)
特集 脳の高次機能へのアプローチ
25巻2号(1974年4月発行)
特集 筋細胞の分化
25巻1号(1974年2月発行)
特集 生体の科学 展望と夢
24巻6号(1973年12月発行)
24巻5号(1973年10月発行)
24巻4号(1973年8月発行)
24巻3号(1973年6月発行)
24巻2号(1973年4月発行)
24巻1号(1973年2月発行)
23巻6号(1972年12月発行)
23巻5号(1972年10月発行)
23巻4号(1972年8月発行)
23巻3号(1972年6月発行)
23巻2号(1972年4月発行)
23巻1号(1972年2月発行)
22巻6号(1971年12月発行)
22巻5号(1971年10月発行)
22巻4号(1971年8月発行)
22巻3号(1971年6月発行)
22巻2号(1971年4月発行)
22巻1号(1971年2月発行)
21巻7号(1970年12月発行)
21巻6号(1970年10月発行)
21巻4号(1970年8月発行)
特集 代謝と機能
21巻5号(1970年8月発行)
21巻3号(1970年6月発行)
21巻2号(1970年4月発行)
21巻1号(1970年2月発行)
20巻6号(1969年12月発行)
20巻5号(1969年10月発行)
20巻4号(1969年8月発行)
20巻3号(1969年6月発行)
20巻2号(1969年4月発行)
20巻1号(1969年2月発行)
19巻6号(1968年12月発行)
19巻5号(1968年10月発行)
19巻4号(1968年8月発行)
19巻3号(1968年6月発行)
19巻2号(1968年4月発行)
19巻1号(1968年2月発行)
18巻6号(1967年12月発行)
18巻5号(1967年10月発行)
18巻4号(1967年8月発行)
18巻3号(1967年6月発行)
18巻2号(1967年4月発行)
18巻1号(1967年2月発行)
17巻6号(1966年12月発行)
17巻5号(1966年10月発行)
17巻4号(1966年8月発行)
17巻3号(1966年6月発行)
17巻2号(1966年4月発行)
17巻1号(1966年2月発行)
16巻6号(1965年12月発行)
16巻5号(1965年10月発行)
16巻4号(1965年8月発行)
16巻3号(1965年6月発行)
16巻2号(1965年4月発行)
16巻1号(1965年2月発行)
15巻6号(1964年12月発行)
特集 生体膜その3
15巻5号(1964年10月発行)
特集 生体膜その2
15巻4号(1964年8月発行)
特集 生体膜その1
15巻3号(1964年6月発行)
特集 第13回日本生理科学連合シンポジウム
15巻2号(1964年4月発行)
15巻1号(1964年2月発行)
14巻6号(1963年12月発行)
特集 興奮收縮伝関
14巻5号(1963年10月発行)
14巻4号(1963年8月発行)
14巻3号(1963年6月発行)
14巻1号(1963年2月発行)
特集 第9回中枢神経系の生理学シンポジウム
14巻2号(1963年2月発行)
13巻6号(1962年12月発行)
13巻5号(1962年10月発行)
特集 生物々理—生理学生物々理若手グループ第1回ミーティングから
13巻4号(1962年8月発行)
13巻3号(1962年6月発行)
13巻2号(1962年4月発行)
Symposium on Permeability of Biological Membranes
13巻1号(1962年2月発行)
12巻6号(1961年12月発行)
12巻5号(1961年10月発行)
12巻4号(1961年8月発行)
12巻3号(1961年6月発行)
12巻2号(1961年4月発行)
12巻1号(1961年2月発行)
11巻6号(1960年12月発行)
Symposium On Active Transport
11巻5号(1960年10月発行)
11巻4号(1960年8月発行)
11巻3号(1960年6月発行)
11巻2号(1960年4月発行)
11巻1号(1960年2月発行)
10巻6号(1959年12月発行)
10巻5号(1959年10月発行)
10巻4号(1959年8月発行)
10巻3号(1959年6月発行)
10巻2号(1959年4月発行)
10巻1号(1959年2月発行)
8巻6号(1957年12月発行)
8巻5号(1957年10月発行)
特集 酵素と生物
8巻4号(1957年8月発行)
8巻3号(1957年6月発行)
8巻2号(1957年4月発行)
8巻1号(1957年2月発行)