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文献詳細

雑誌文献

生体の科学46巻1号

1995年02月発行

文献概要

特集 神経科学の謎

シナプス長期増強は記憶と因果的に関係しているのか

著者: 津本忠治1

所属機関: 1大阪大学医学部バイオメディカル教育研究センター高次神経医学部門

ページ範囲:P.37 - P.43

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 最近,その数が益々増加しているシナプス長期増強(long-term potentiation:LTP)や長期抑圧(long-term depression:LTD)に関する論文は,必ずといってもいいほど「記憶や学習の素子過程であるLTPやLTDは・・・・」といった決まり文句で始まっていることが多い。あるいは,学習や記憶を表題に掲げる研究費申請書の多くの内容は,単にLTPやLTDの分子メカニズムを調べるものであったりする。
 それでは,どのような実験的根拠に基づいてLTPやLTDは記憶や学習の素子過程といえるのであろうか。素子過程であるというLTPやLTDが,脳内のどこでどのように組み合わさって記憶や学習が成立するのであろうか。これらの疑問に遭遇すると多くの人は狼狽することになる。それは,残念ながら現在のところ,それらの疑問に確として答えうる実証的研究結果が非常に少ないからである。もっとも,経験に基づく行動の変容が学習で,その持続が記憶であると定義すればアメフラシをはじめとする下等動物での研究は多数あるが,上述の疑問で記憶といっているのは高等哺乳類における顕在的記憶explicit memoryあるいは認知的記憶のことである。この認知的記憶とLTPの因果関係を実証することは,後述するように予想以上に手ごわい。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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