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特集 神経科学の謎
脳はいかに眠るのか
著者: 本間研一1
所属機関: 1北海道大学医学部生理学第一講座
ページ範囲:P.72 - P.76
文献購入ページに移動I.脳が眠るということ
眠りとはヒトにとっては意識の消失であり,長時間にわたる身体活動の停止である。人生の3分の1をしめる睡眠は,意識喪失という特異な状態ゆえに「死の兄弟」あるいは「忘却への旅」など形而上学的に,また夢解釈など潜在意識への道としての多くの人々の興味を引き付けてきた。現在睡眠は生体機能調節機構として科学的に捉えられているが,睡眠の本態や機能,生理学的意義については依然不明な点が多い。
睡眠の厳密な定義は難しい。ヒトを含めた多くの動物に共通する睡眠の特徴は,24時間周期で現れる不活動状態,反応閾値の上昇,特有な姿勢などであり,頭皮脳波の高振幅徐波化などの睡眠特有の脳波は鳥類以上の高等哺乳類でしか認められていない1)。同様に,筋緊張の低下,急速眼球運動などを伴うレム睡眠も鳥類以上の動物でしか確認されていない。睡眠を脳全体の機能が低下した状態とみなす考えはおそらく誤りであろう。視床下部ニューロンの支配を受けている下垂体前葉ホルモンの分泌は一般に睡眠中に盛んになるし,発射頻度が睡眠中に増加するニューロンも数多く知られている。
眠りとはヒトにとっては意識の消失であり,長時間にわたる身体活動の停止である。人生の3分の1をしめる睡眠は,意識喪失という特異な状態ゆえに「死の兄弟」あるいは「忘却への旅」など形而上学的に,また夢解釈など潜在意識への道としての多くの人々の興味を引き付けてきた。現在睡眠は生体機能調節機構として科学的に捉えられているが,睡眠の本態や機能,生理学的意義については依然不明な点が多い。
睡眠の厳密な定義は難しい。ヒトを含めた多くの動物に共通する睡眠の特徴は,24時間周期で現れる不活動状態,反応閾値の上昇,特有な姿勢などであり,頭皮脳波の高振幅徐波化などの睡眠特有の脳波は鳥類以上の高等哺乳類でしか認められていない1)。同様に,筋緊張の低下,急速眼球運動などを伴うレム睡眠も鳥類以上の動物でしか確認されていない。睡眠を脳全体の機能が低下した状態とみなす考えはおそらく誤りであろう。視床下部ニューロンの支配を受けている下垂体前葉ホルモンの分泌は一般に睡眠中に盛んになるし,発射頻度が睡眠中に増加するニューロンも数多く知られている。
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