文献詳細
文献概要
特集 プロテインホスファターゼ―最近の進歩
インスリンの細胞内シグナル伝達機構とチロシンホスファターゼ
著者: 的崎尚1 春日雅人1
所属機関: 1神戸大学医学部第2内科
ページ範囲:P.127 - P.134
文献購入ページに移動 インスリンにより誘導される多様な生物反応は,インスリンが受容体に結合した後に活性化されるインスリン受容体βサブユニットが有するチロシンキナーゼ活性により媒介されるものと考えられている1)。インスリン受容体チロシンキナーゼは,受容体自身の自己リン酸化を惹起するのみならず,インスリン受容体基質-I(IRS-1)2)やShc3)などのシグナル伝達分子のチロシンリン酸化を直接に行うことで,下流への細胞内シグナルを伝達するものと考えられている。従って,インスリンの細胞内刺激伝達経路において,タンパク質のチロシンリン酸化という現象は中心的役割を果しており,種々のシグナル蛋白質のチロシンリン酸化状態がインスリンシグナルのon/offに直接関与しているものと思われる。生体内においては,タンパク質のチロシンリン酸化状態はリン酸化と脱リン酸化反応の両者のバランスにより制御されている。従って,生体内で脱チロシンリン酸化を解媒するチロシンホスファターゼ(PTP-ase)は,インスリンシグナル伝達経路においても,重要な調節的役割を果している可能性が想定される。現在まで約20数種のPTPaseがヒトにおいて知られているが,最近の研究成果により,いくつかのPTPaseが確実にインスリンのシグナル伝達に関与していることが明らかにされている。
掲載誌情報