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特集 神経科学の最前線
脳損傷における免疫反応と変性疾患
著者: 秋山治彦1
所属機関: 1東京都精神医学総合研究所
ページ範囲:P.67 - P.70
文献購入ページに移動 脳の損傷や神経変性疾患に際して生じる免疫系の反応に関して,詳細な検討が行われるようになってからまだ10年を経過していない。以前は,脳は免疫学的に特権的な(immunologically privileged)部位であるとされ1),その背景として血液脳関門(BBB)による隔離,リンパ管や主要組織適合(MHC)抗原発現の欠如によりT cell surveillanceを免れていること,などが強調されてきた。しかし,十分高感度の免疫組織化学を使用すれば,MHC抗原はヒト剖検脳標本を含めてさまざまな脳病変で検出することができる。BBBについても最近では,脳を免疫機構から隔離するというよりは,脳固有の免疫環境を維持するために調節的な役割を果たしていると考えられるようになってきた2)。また,ミクログリアの,脳在住の単核貧食細胞系(mononuclear phagocyte system)細胞としての性格が明確にされ3),さらに免疫系を構成する多様な分子―補体蛋白,さまざまなサイトカインなど―の少なくとも一部が,脳で産生されていることも知られるようになった4,6)。これらはBBBの破綻~血液の侵入を伴わなくても,脳自体がnatural immune systemに属する免疫反応を引き起こすだけの能力を備えていることを示している。
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