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連載講座 新しい観点からみた器官
心臓―心筋細胞の分化と増殖の分子機序
著者: 小室一成1
所属機関: 1東京大学医学部第三内科
ページ範囲:P.71 - P.76
文献購入ページに移動 心臓は個体発生段階の非常に早期に,臓器としては最も早く,しかも最も頭側において決定される。心臓は決定されるとすぐに分化し,自律拍動を開始し,血液が循環するようになって初めて他の臓器の分化,成長が進む。したがって心臓の分化は,他の臓器の分化,成長にとって必須であり,個体の発生にとって極めて重要といえる。心筋と共通の遺伝子を多数発現している骨格筋が中胚葉より体節をへて分化するのに対し,心臓は直接外側中胚葉から体節よりも早い時期(原腸陥入の後期)に最も頭側において発生する。骨格筋が筋芽細胞から筋細胞へと分化すると同時に分裂能を喪失するのに対して,心筋は分化後も分裂能を維持し,胎生期は活発に分裂増殖を続ける。ところが,出生し胎児型の蛋白から成人型の蛋白に変換すると同時に心筋細胞はその分裂能を喪失する。一般に分化と増殖は相容れないものであることが知られているが,胎児心筋においてはこの法則は成り立たない。
一般にある組織や器官が分化する際には,まずある種の細胞外因子(細胞増殖因子や細胞接着因子)が細胞膜の受容体に作用し,それがシグナルとして細胞質内を伝わり,核内で転写因子を活性化する。ある臓器を規定している(つまり心臓を心臓たらしめている)ものの中において,その臓器特異的な転写因子が重要な役割を果たしている。骨格筋特異的転写因子であるMyoDの発見以来,骨格筋の分化の機序について実に多くの知見が得られた1,2)。
一般にある組織や器官が分化する際には,まずある種の細胞外因子(細胞増殖因子や細胞接着因子)が細胞膜の受容体に作用し,それがシグナルとして細胞質内を伝わり,核内で転写因子を活性化する。ある臓器を規定している(つまり心臓を心臓たらしめている)ものの中において,その臓器特異的な転写因子が重要な役割を果たしている。骨格筋特異的転写因子であるMyoDの発見以来,骨格筋の分化の機序について実に多くの知見が得られた1,2)。
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