特集 カルシウム動態と細胞機能
ミミズgiant fiberにおけるCa2+波
著者:
小川宏人1
岡浩太郎2
所属機関:
1新技術事業団河内微小流動プロジェクト
2慶應義塾大学理工学部機械工学科
ページ範囲:P.140 - P.145
文献購入ページに移動
Ca2+はあらゆる種類の細胞において用いられている,最も重要な細胞内情報伝達物質の一つであることに異論を挟む余地はないだろう。今日においても,細胞内の一過的なCa2+濃度の変化が種々の生理機能を発現するという報告が相次いでいる。特にTsienらによるCa2+感受性蛍光色素の開発は,細胞内Ca2+の時空間ダイナミクスの光学的測定に大きな道を開いた1)。以来さまざまなCa2+インジケータの開発が進み,一方で共焦点レーザ走査型蛍光顕微鏡をはじめとする光学的測定装置の進歩によって,より細胞内のCa2+濃度の局所的,一過的な変化の測定が可能となった。特に神経細胞は入出力部位の分かれた特異な形態を持つため,細胞のどの部位で,どのような経時的な変化を示すかを知ることが,その細胞内での演算機能を知る上で重要なポイントとなる。例えば,哺乳類の海馬や大脳皮質視覚野における研究では,シナプス後部での一過的なCa2+上昇がシナプスの伝達効率変化に関与していることが報告されている2,3)。また,樹状突起はシナプス後電位などの受動的な膜電位変化しか示さないと考えられていたが,現在では樹状突起上でCa2+依存性の活動電位が発生していることもわかってきた4-6)。