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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学47巻4号

1996年08月発行

雑誌目次

特集 エンドサイトーシス

マクロファージの機能

著者: 副島利紀 ,   壇辻百合香 ,   永山在明

ページ範囲:P.248 - P.252

 マクロファージは骨髄の前駆細胞から血液中の単球を経て分化成熟し,血液,骨髄,肝臓,脾臓,リンパ節,肺,神経組織,腹腔など体内に広く分布している細胞である。この系列には肝クッパー細胞,脳ミクログリア細胞,骨の破骨細胞なども含まれ,各組織においてマクロファージは多様な形態と機能を示す1)
 マクロファージは微生物やいろいろな異物を取り込む能力が極めて強い細胞で,多数のリソソームを含む大型の細胞である。しかし,マクロファージの機能は極めて多種多様であり,マクロファージは食作用以外にも殺微生物活性,腫瘍障害活性,液性因子の産生と分泌作用,リンパ球への抗原提示作用,組織の修復作用,骨の形成と吸収作用,脂質の代謝作用など広範な機能を有する2)。ここでは,食作用,分泌作用,抗原提示作用などを中心にマクロファージの機能について述べる。

マクロファージのリポ多糖の取り込みと活性化

著者: 山元久典 ,   花田賢太郎 ,   西島正弘

ページ範囲:P.253 - P.256

 リポ多糖(LPS)はエンドトキシンとも呼ばれ,生体に作用してサイトカイン産生や発熱,血圧低下などを引き起こす。この反応において生体側で中心的役割を担うのがマクロファージで,微量のLPSにより活性化され,種々の生理活性物質を産生・放出し,これらがメディエータとなってエンドトキシンの生理作用が発現される。本稿ではマクロファージによるLPSの取り込みと,その活性化に関する最近の研究成果を概略した。

プロテインAの作用を介した抗体感作細胞による細菌の貪食

著者: 関啓子

ページ範囲:P.257 - P.261

 貪食作用は細胞が環境から微生物や細胞破片,顆粒などの大きな粒子を取り込む作用である。貪食作用を専門に行う細胞として貪食細胞があり,哺乳動物では白血球のうちの好中球やマクロファージがこれに相当する。貪食細胞によって異物が取り込まれる際には,まず,異物はそれに対応する抗体によって表面を被われる。この時,抗体分子IgGのFab部分が異物と結合し,反対側にあるFc部分が白血球細胞膜上にあるFc受容体と結合すると白血球の貪食作用が活性化される。ここには,IgGのほか補体も関与する。粒子が細胞表面に吸着すると,細胞膜の一部が突出したり陥入したりして粒子を取り囲むようになる。突出した膜同士が融合して粒子は袋に入った状態になり,細胞内に取り込まれる。
 通常,黄色ブドウ球菌が細胞壁に共有結合の形で保有しているプロテインAは,IgGのFc部分と高い親和性を有する1)。この特異的作用が上に述べたIgGや補体などの関与する白血球の貪食作用を妨げるために,黄色ブドウ球菌が白血球により取り込まれにくくなるとされており2),プロテインAが黄色ブドウ球菌の病原性発現の一端を担っているとも考えられている。

網膜色素上皮細胞の貪食過程

著者: 出口順子 ,   宇山昌延 ,   田代裕 ,   山本章嗣

ページ範囲:P.262 - P.267

 網膜色素上皮細胞(RPE)は網膜の最外層に位置し,視細胞と脈絡膜毛細血管板との間でブルフ膜の上に,1層の細胞層を形成している(図1,2)。RPEは視細胞外節の貪食,脈絡膜循環からのビタミンAの取り込み・貯蔵と視細胞への供給,イオンやその他の物質の視細胞への輸送などを行い,視細胞を含む神経網膜の代謝と維持に重要な役割を果たしている。特に脱落した視細胞外節の貪食はRPEの最も重要な機能の一つで,この機能が障害されるとさまざまな網膜の変性を引き起こす。
 視細胞の光受容体は外節と呼ばれ,桿体外節の場合,約600-1000枚の円板からなる。円板にはロドプシンが存在し,光を感受して光化学反応を起こし,その結果,トランスデューシンを介するcGMPホスホジエステラーゼの活性化,cGMPの減少,Naチャネルの閉鎖などの一連の反応が引き起こされ,視細胞電位が発生する。その電位変化が順次上位ニューロンに伝達され,視覚が成立する。

生細胞エンドソームの可視化と動態解析

著者: 市村孝雄

ページ範囲:P.268 - P.275

 蛍光顕微鏡あるいは共焦点レーザ顕微鏡は,蛍光プローブを使ってさまざまな生体分子の細胞内局在と細胞機能を解析する細胞生物学に必須の手段である。今日では組織化学や免疫細胞化学による検索の目的ばかりでなく,細胞のさまざまなレベルでの動的過程を定量的に解析する目的でも使われている。この稿では,蛍光顕微鏡あるいは共焦点レーザ顕微鏡と蛍光プローブを使って生細胞のエンドゾームを可視化する方法と,エンドゾームの動態解析,および内部pHの定量に関する最近の話題を紹介する。すでにこの分野の一線研究者たちによる概説1,2)もあるので,あわせて参照していただきたい。

エンドソームの動的構造変化と分子選別

著者: 堺立也 ,   宮本宏

ページ範囲:P.276 - P.281

 真核細胞はさまざまな外界の物質を,受容体を介したエンドサイトーシスにより細胞内に取り込んでいる。図1に示したように哺乳類の細胞では,細胞外の栄養物や有害物,ペプチドホルモンなどがエンドサイトーシスにより取り込まれる。取り込まれた物質はその用途に応じ仕分けされ,有害物質やペプチドホルモンなどはリソゾームに運ばれ分解されるし,低密度リポタンパクの受容体,トランスフェリンとその受容体などは細胞表面に戻ってくる1,2)。表面まで戻った分子は再利用されるので,この過程をリサイクリングと呼んでいる。これらの分子選別や目的地までの輸送の中心的役割を果たすのがエンドソームである。エンドソームには二種類あり,選別エンドソーム(sortingendosomeあるいはearly endosome)と後期エンドソーム(late endosome)と呼ばれる3-5)。取り込まれた分子は,第一段階は選別エンドソームの中に存在する。ここで分子の選別が行われ,リサイクリングするものとリソゾームへ行くものが分けられる。リソゾームへ行く分子はその後,後期エンドソーム内に移り,最終的にリソゾームに移行する。
 エンドソームによる分子選別や輸送は,この膜器官の分裂や融合あるいは運動といった膜のダイナミックな過程に裏付けられているはずである。

LDL受容体とエンドサイトーシス

著者: 横出正之

ページ範囲:P.282 - P.286

 血液中においてコレステロールの大部分はLDL(低比重リポ蛋白)を担体として運搬されている。したがって血中コレステロール値はLDLの代謝調節に深く依存すると考えられるが,その中枢を担っているのがLDL受容体を介したLDL粒子の細胞への取り込み機構である。LDL受容体の発見は血中コレステロール値調節の分子機序を明らかにすることにより,遺伝疾患の分子遺伝学的解析の方向を示しただけでなく,受容体介在型エンドサイトーシス機構の解明における先駆的役割を果たした点でも大きな意義をもっている。小稿ではLDL受容体のエンドサイトーシスの分子機構を中心に述べてみたい。

シナプス機能と膜再循環

著者: 門田朋子

ページ範囲:P.287 - P.291

 シナプス伝達については1950年代から「量子説」が唱えられ1),次いでこれに形態的に対応するものとして「小胞仮説」が提出された。これは量子分に相当する量の神経伝達物質がシナプス小胞(synaptic vesicles)に蓄えられており,これがシナプス小胞のシナプス前膜への開口(エクソサイトーシス)によってシナプス間隙へ放出される,とする仮説である。これに従って考えると,シナプス伝達に際して,シナプス小胞はミリ秒単位で動員されるため,使われる小胞の数は莫大なものになる。軸索流によって運ばれる膜輸送量を考えると使い捨てでは追いつかず,小胞膜の再利用を考えざるを得なくなる。以上のような背景のもとに「シナプス小胞膜再循環仮説」が1970年代初めにHeuserらにより提唱された。この総説では,(1)この古典的なシナプス小胞膜再循環仮説と,(2)われわれが哺乳類シナプスでみたシナプス小胞膜の動き,を簡単に説明し,(3)さらにシナプス小胞膜の再循環(membrane recycling)を調節する分子機構について現在どこまで明らかにされているかについて,その概要を紹介する。

コーテッドベジクルの生成と構成タンパク質

著者: 與良隆雄

ページ範囲:P.292 - P.298

 細胞内小胞輸送系としてのコーテッドベジクルには,クラスリン被覆小胞(CV),非クラスリン被覆小胞またはコートマー被覆小胞(COP被覆小胞)およびカベオラ(カベオリン被覆小胞,caveolae)の存在が知られている。CV1)はレセプター介在エンドサイトーシス,ゴルジ装置からリソソームや分泌顆粒への新生タンパク質輸送,神経細胞における細胞膜のリサイクリングに関与している。COP被覆小胞2)はタンパク質のゴルジ層板間,あるいはゴルジ装置から小胞体への逆輸送に関与していることが示唆されている。カベオラ3)はカベオリンという特異的なタンパク質(分子量約22kDa)で生体膜がコートされていて,電顕的に特徴的な形態を呈し,低分子物質や電解質の細胞内への取り込みに関与していると考えられている。
 本稿では,これら小胞輸送系のうちCVについて焦点を当て,その精製法,特徴および構成タンパク質の性質について概説する。

ジフテリア毒素のエンドサイトーシスと細胞質への移行

著者: 馬田敏幸

ページ範囲:P.299 - P.304

 ジフテリア毒素はジフテリア菌が分泌する強力な蛋白質毒素である。この毒素は動物細胞に侵入し,細胞の蛋白質合成を阻害して結果的には細胞を殺す作用を持つ。ジフテリア毒素は発見以来さまざまな角度から研究されてきたが,最近の研究の焦点は毒素がどのようなメカニズムで細胞内に至るかという問題である。この問題は細菌毒素の毒性発現機構を明らかにするだけでなく,細胞の持つ種々の物質輸送機構と深く関わっており,細胞生物学的問題としても重要である。さらに近年,悪性腫瘍の治療にハイブリッドトキシンを用いる試みがなされているが,毒素の侵入に関するより深い理解がハイブリッドトキシンの作製に求められている。
 1992年にジフテリア毒素の結晶構造1)とジフテリア毒素レセプターの遺伝子2)が相次いで明らかになり,ジフテリア毒素の細胞内侵入がようやく分子レベルで論じられるようになった。本稿では,ジフテリア毒素の細胞内侵入に関与する細胞側の因子や,膜通過の研究を中心に紹介する。

ウイルス感染とエンドソームネットワーク

著者: 佐藤智

ページ範囲:P.305 - P.312

 動物細胞のエンドサイトーシスでは,内在化する膜の量が毎時細胞表面の50~200%に達し,それと同じ量が細胞内から供給される。これは,細胞がある限り起こるという意味で,構成的(constitutive)な活動であり,始まりに導かれた終わりがまた始まりを導く,「はてしない物語」のようなものである。ウイルスはこの物語に割り込みその存在を危うくするものとしても,克服され新しい物語を展開するきっかけとしても登場する。この数年の研究の進展によって,この物語をつづる「文法」ともいうべき,エンドサイトーシスにおける分子間相互作用がかなり明らかになり,新たな特徴がわかってきた。これに基づいて,ウイルス感染とエンドソームネットワークの成り立ちの関係を紹介したい。

原生動物におけるエンドサイトーシス

著者: 洲崎敏伸

ページ範囲:P.313 - P.317

 原生動物には光合成により独立栄養的に生活する種と,エネルギー源を体外からエンドサイトーシスにより取り込む有機物に依存している従属栄養種が存在する。本稿では,従属栄養性のさまざまな原生動物における食胞形成のプロセスについて概説するが,特に形成中の食胞に付加されていく膜の供給源がどこにあるかという点と,食胞が細胞内に取り込まれる際の原動力に関係する細胞内構造について注目して述べていきたい。
 原生動物においては,摂食のために細胞の一部に半永久的な開口部を有するものが多い。このような構造は口部装置buccal apparatusと呼ばれ,細胞小器官の一つとみなすこともできる(図1)。口部装置の構造は,特に繊毛虫などにおいて複雑に発達している。細胞の表面において,餌となる有機物が送り込まれるための陥入部を前庭vestibulum,それに連続する細胞口cytosomeまでの管状部を口腔buccal cavityと呼んでいる。細胞口の最下部において行われるエンドサイトーシスの結果,餌の有機物を含有する食胞が形成される。口腔より細胞の内部に向かって,微小管や他の細胞骨格線維から成る細胞咽頭線維系cytopharyngeal fibersが走っており,形成された食胞はこの線維系に沿って細胞内部へと運搬されていく。

連載講座 新しい観点からみた器官

脳室―特に睡眠に関連して

著者: 早石修

ページ範囲:P.318 - P.323

 脳室の詳しい科学的な研究は14世紀ルネッサンスの頃,人体解剖が法律で解禁になったときに始まったといわれている。中でも不世出の天才といわれたLeonard da Vinciは,額に近い方から脳室を第一,第二,第三に分け,各々の脳室が想像力と常識,理性,記憶の座であると主張した。この考え方はその後も2世紀近く継承され,有名なMagounの「The Waking Brain」1)にも16世紀の脳の解剖図が掲載されており,脳室こそが精神の座であるという当時の説が紹介されている(図1)。しかしながら17世紀になってイギリスのT. Willisの大著「Cerebri anatome」が発刊され,脳の実質こそがその機能にとって重要であるという,当時としては革命的な主張が発表された(文献2は1995年に発刊された英訳版である)。
 その後約200年の間に神経科学は急速な,また膨大な発展を遂げたが,脳室の生理的意義は殆ど忘れ去られ,脳が神経管から発生した折に生じた“腔”であり,脈絡叢から分泌された脳脊髄液(CSF)の通路となって,脳を物理的に保護している空間と位置付けられてきた。

解説

Mato細胞の機能

著者: 間藤方雄

ページ範囲:P.324 - P.330

 周知のごとく,脳・脊髄の微小血管と神経組織との間には関門があり(blood-brain barrier;BBB),血液中を流れる高分子の物質が自由に脳実質内には流入しないようになっている。この仕組は内皮細胞間にtight junctionのあること,および内皮細胞には物質の取り込みを示す胞飲現象(pinocytosis)が極めて少ないことによるとされている1)。このように外来異物の侵入の阻止に有用なBBBは一方では,中枢神経内の異物(代謝産物)を脳外に運び出す際には極めて不都合なbarrierとなり2),必ずしも中枢神経内の生活環境に有利なことばかりでないため,何らかのscavenger機構が中枢神経および脳血管に備わることが必要となる。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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