特集 老化
ヒトの早老症と遺伝子
著者:
三木哲郎1
名倉潤1
荻原俊男1
所属機関:
1大阪大学医学部老年病医学講座
ページ範囲:P.558 - P.564
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ヒトゲノム中には,老化関連遺伝子や病的老化を促進させる疾病遺伝子が含まれていると考えられる。ワシントン州立大学のMartin教授は暦年齢に比べ老化が促進する遺伝病に注目し,表1に示す『老化に関する病理生理学及び細胞性基準』の21項目に従って,1975年度版の“Mendelian Inheritance in Man(ヒトのメンデル遺伝)”に掲載されている2336種の遺伝病を検索し,83種の常染色体性優性,70種の常染色体性劣性,9種のX染色体連鎖の合計162種の遺伝性早期老化症候群(=遺伝性早老症)を選び出した。この数は全遺伝病の6.9%にあたる。全遺伝子数は5-10万と考えられるため,3,500-7,000遺伝子座位が老化形質発現に関わることになるが,主要な老化形質の発現に関係している遺伝子座位は50-60であると報告した1)。
老化の基準により採点された上位9位までの遺伝性早老症を表2(Ⅰ)に示した。各遺伝病の右端の点数は採択された基準を示す。例えばウェルナー症候群の場合は,21項目中12項目の老化基準を満たしたことになる。遺伝性早老症は正常の老化を100%反映していないが,部分的な臓器の老化の症状を呈するため,segmental progeroid syndrome(部分的老化症)と呼ばれている。ダウン症候群は14項目の基準を満たすことになり,代表的な早老症の一つとなっている。