実験講座
原子間力顕微鏡―生体高分子から生きた細胞の液中観察まで
著者:
牛木辰男1
人見次郎1
山本晋1
小倉滋明2
所属機関:
1新潟大学医学部第三解剖学教室
2北海道大学医学部内科学第一講座
ページ範囲:P.601 - P.606
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原子間力顕微鏡atomic force microscope(AFM)の医学生物学的応用が,近年注目されてきている。この顕微鏡は1986年にBinnig,Quate,Gerberによって発明された1)。AFMは従来の顕微鏡とは異なり,光も電子も,そしてレンズも使わない風変わりな顕微鏡で,鋭くとがった針で試料をなぞりながら表面凹凸形状を測定する。いわば触診式顕微鏡ということができる。この顕微鏡を用いて結晶性の無機材料(たとえばグラファイトや雲母など)を観察すると,表面の原子配列を直接観察することができる。このような高分解能をもつことから特に材料学の分野で現在盛んに利用されてきている。一方で,AFMには試料の導電性に関係なく大気中や液中で観察できるという特徴もある。この点から,医学生物学への利用も期待されてきた2-4)。
本稿では,まずAFMの原理を紹介し,医学生物学応用の現状とわれわれの研究室で試みている実例について述べる。その中で,AFMを医学生物学に利用していくための利点や問題点について考えてみたい。また,AFMの仲間にあたるさまざまな顕微鏡が最近開発されてきているので,最後にそうした顕微鏡についても多少触れることにする。