特集 最近のMAPキナーゼ系
神経軸索再生時のRas-MAPキナーゼ情報伝達路の再構築
著者:
木山博資1
桐生寿美子1
濤川一彦1
所属機関:
1旭川医科大学解剖学第一教室
ページ範囲:P.101 - P.106
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成熟神経細胞は分裂増殖することはできないが,極めて長期間生存することができる細胞である。この分裂能を失った神経細胞のうち,特に中枢神経系は虚血や外傷などによる神経傷害に極めて脆弱であり,神経損傷に起因する神経細胞死は生体機能の大きな損失へ至る。神経細胞が損傷を受けたとき,神経細胞を細胞死から救い,さらに再び軸索を伸展させ回路の修復を行うことができれば,重篤な機能損失から免れることが可能となる。われわれは,障害中枢神経細胞の生存維持や軸索再生を目指し,損傷に対しては比較的強い神経系である末梢運動神経をモデルとして,損傷後の生存や軸索再生の分子メカニズムの解明に取り組んでいる。特に,軸索に傷害を受けた神経細胞の中で起こるさまざまな分子群の発現調節がいかになされているかを中心に研究を行っている。その結果,一部の細胞内情報伝達系に属する分子群の発現が,極めて特徴的に促進していることが浮かび上がってきた1)。すなわち,損傷という大災害の後でライフラインを確保するための情報の通り道を確保するために,特定の情報伝達路が速やかに再構築または強化されるのである。この再構築されるルートのなかで最も幹線にあたるのがRasからERK(MAPキナーゼ)へ至る情報伝達系である。