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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学48巻3号

1997年06月発行

雑誌目次

特集 開口分泌のメカニズムにおける新しい展開

特集によせて

著者: 小澤一史

ページ範囲:P.162 - P.163

 細胞内で合成された物質が細胞外へ放出される様式の一つに開口分泌(exocytosis)がある。これは,細胞内で合成された物質が分泌顆粒に含有されて,細胞内輸送によって細胞膜に近づき,細胞膜と分泌顆粒の膜とが融合し,細胞外と交通し,顆粒内の物質を細胞外へ放出する機序である。近年の細胞生物学的アプローチの進歩により,この開口分泌に関わる種々の機構が解明されつつあり,多くの因子が関与することがわかってきた。一方,開口分泌のメカニズムを理解する上で,単に開口分泌放出様式そのものだけの理解ではなく,細胞内で合成された物質が分泌顆粒として形成され,開口分泌の場まで到達する過程のメカニズムの理解が,開口分泌現象の理解に欠かせないことも併せて重要な課題の一つとして認識されている。
 例えば,ホルモンや神経伝達物質といった化学物質は,遺伝子情報に基づき,細胞内の粗面小胞体で合成され,細胞内小胞輸送によりゴルジ装置へ運ばれ,ここで種々の修飾やプロセッシングを受け,さらに凝集,濃縮され,分泌顆粒が形成されてゴルジ装置,特にtrans Golgi network(TGN)と呼ばれるゴルジ装置を構成する重要な部分から出芽し,細胞内に貯蔵され,生体内の環境に応じて細胞内を移動し,細胞膜直下に進み,膜融合を起こして,すなわち開口分泌を起こして,細胞外へ放出されるわけである。

分泌蛋白質の選別輸送シグナル―グラニン蛋白群の役割

著者: 渡部剛

ページ範囲:P.164 - P.169

 ペプチドホルモンを分泌する内分泌細胞では,一般に,ホルモンはいったん分泌顆粒に蓄えられ,適切な分泌刺激を受けてはじめて細胞外に放出される。ところが,内分泌細胞で生合成された分泌蛋白が,すべてこの分泌顆粒を経由して細胞外に放出されるわけではなく,ホルモンなど一部の分泌蛋白だけが分泌顆粒へと運ばれ,分泌刺激の到来を待つ。このペプチドホルモンが選択的に分泌顆粒へと輸送される機構については,さまざまなアプローチによる研究がなされてきたが,いまだなお,その詳細については解明されていない。
 この稿では,さまざまな内分泌細胞に広く発現していることが知られていながら,いまだその生理的機能が明らかになっていない一群の分泌蛋白,クロモグラニン・セクレトグラニン蛋白群(グラニン蛋白群)に焦点をしぼり,内分泌細胞におけるホルモンの分泌顆粒への選別輸送過程にこの蛋白群が関与する可能性を,これまでの観察所見・実験結果を踏まえながら概説する。

分泌顆粒形成の機序と超微細形態学

著者: 小澤一史 ,   河田光博

ページ範囲:P.170 - P.178

 分泌顆粒の形成に関する本題に入る前に,“分泌現象”という概念から話を進めてみたいと思う。分泌(secretion)という現象は,各種の細胞において普遍的に行われている生命現象で,細胞内においてなんらかの物質を産生する働きを意味するものである。細胞の中で産生された物質は,なんらかの方法で細胞の外へ放出される。細胞の中である物質が合成されて,細胞の外へ放出されるまでの全過程を“分泌”と称している。より具体的にこの過程を概略すると,「細胞が分泌物質の原料を取り入れ」,「それをもとに分泌物を合成し」,「さらに生物活性を持たせるために必要に応じて修飾し,これを濃縮して」,「必要ならば細胞内に貯蔵して」,「なんらかの仕組みで細胞外へ放出する」ということになる。従って,分泌物が細胞外へ放出されるまでの間には多くの過程とそれに関わるさまざまな因子が関与することが考えられ,これらを広く理解することにより,はじめて個々の事象を理解することができるわけである。

分泌顆粒の細胞内輸送と微小管系

著者: 千田隆夫

ページ範囲:P.179 - P.184

 分泌タンパクの種類や内分泌・外分泌の違いに関係なく,すべてのタンパク分泌細胞には分泌されるべきタンパクを含んだ分泌顆粒が存在する。分泌顆粒は,ゴルジ装置の最トランス側の層板あるいはトランスゴルジネットワークと呼ばれる特殊な膜系の一部が出芽し,その中に濃縮された分泌タンパクを含んだままちぎれてできたものである。本特集の別の稿で詳しく述べられているように,分泌タンパクはゴルジ装置から分泌顆粒に移行する際に,明確に仕分け(ソーティング)される。できたばかりの幼若な分泌顆粒は電子顕微鏡で見ると不整形を呈していることが多く,その中に含まれる分泌タンパクもまだ化学的修飾(プロセッシング)を受ける余地を残している。成熟した分泌顆粒は多くの場合,円形ないしは卵円形であるが,細胞によっては特徴的な形状の分泌顆粒を持つものがある。成熟分泌顆粒の限界膜は明瞭かつ平滑であり,その内容物は濃縮されて一般に電子密度が高い。
 分泌顆粒は,例えていうなら分泌タンパクという商品を運ぶためのコンテナであり,それを最終目的地である細胞膜へ運ぶためには何らかの手段が必要である。その最も有力な候補が微小管である。本稿では分泌機能に対する微小管の関与についての研究を概観するとともに,最近の知見を筆者らの研究を中心に紹介したい。

刺激―分泌連関

著者: 小澤輝高 ,   福士靖江 ,   丸山芳夫

ページ範囲:P.185 - P.189

I.刺激―分泌連関と小胞体
 開口放出に関わる調節系の一般論を刺激―分泌連関という。1960年代ダグラスにより提唱されたこの概念1)は大筋で正しく,現在,融合という力学現象を統べる情報伝達システムの総体と理解されている。分泌細胞の最終機能が開口放出であるからには,そこに至るあらゆるステップは,ステップごとの時間の長短,またその生起する細胞内局所空間の大小も含め,開口放出(分泌顆粒の細胞膜への融合)へと収束してくるはずである(図1)。刺激―分泌連関は,異なった細胞内コンパートメント各々の時間的・空間的特性を考慮に入れた上で構築されなければならない。膵腺腺房細胞を例とすれば(調節性分泌の典型として),分泌蛋白が小胞体において生成され,小胞輸送経路に乗ってゴルジ装置を通過し,チモーゲン顆粒に蓄えられるまでに約120分を要する2)。一方,アゴニスト投与からカルシウム(Ca)性反応が惹起されるまでには数秒3),また,イノシトール三リン酸(IP3)依存性Ca波が細胞をくまなく覆うにも数秒を要するにすぎない4)。このCa波に同期して,開口放出の1周期が終了する5)。核情報から小胞体での出芽,ゴルジ網様体でのソーティング,微小管の関わり合い,開口放出の分子論,エンドサイトーシスの開始と小胞のリサイクリングなど,個々の構造的また機能的コンパートメントを結びつける因子としてこうしたCa波を理解する必要がある6,7)

シナプスにおける伝達物質の放出機構

著者: 溝口明 ,   北田容章 ,   西岡秀夫 ,   井出千束

ページ範囲:P.190 - P.197

I.神経機能におけるシナプスの意義
 神経組織では,外部環境からの情報収集,情報処理,行動の決定までの一連の機能を電気信号の伝達によって行っている。この電気信号による細胞間伝達は,一般の神経以外の細胞間ではギャップジャンクションによって行われるが,特に神経細胞ではシナプスと呼ばれる特殊な伝達装置によって行われる。伝達方法は,ギャップジャンクションがイオンやcAMPなどの低分子が往き来できる細胞間トンネル装置であるのに対して,シナプスは相手の細胞を興奮させたり抑制したりする活性を持つ神経伝達物質を開口分泌する分泌装置である。このシナプスの存在により,神経系では一つの神経細胞の電気的興奮を,次に伝達される神経細胞レベルでは興奮性にも抑制性にも,また両方向性にも情報として分岐させ,抽出できるのである(図1)。
 シナプス分泌装置には多数の構造的分子的特殊化がなされており,電気信号を迅速に正確に伝達できるようになっている1,2)。それらの主な特徴は(1)神経伝達物質を含むシナプス小胞は大きさが極めて均一(直径40~50hm)で,1個当たりほぼ同数の神経伝達物質を含んでいる。(2)電気信号の到着,前シナプス形質膜の脱分極から電位依存性Ca2+チャネルの開放→細胞外Ca2+イオンの前シナプス内への流入→シナプス小胞膜と前シナプス形質膜の融合→神経伝達物質の放出までの過程が0.0002秒で完了する。

開口放出の電気的測定とそれによる最近の展開

著者: 河西春郎 ,   二宮靖典

ページ範囲:P.198 - P.204

 開口放出は分泌小胞の細胞膜への動員やCaシグナルも含んだ複合現象であるが,その核心部分は分泌小胞膜と細胞膜の膜融合である。膜融合に関係すると考えられる蛋白質が多数リストアップされ,膜融合の仕組みが理解される日が近いとここ数年感じられたが,膜融合の機構を真に明らかにするためには,膜融合を直接的定量的に測定する技術を用いることが必要であることが指摘されている。開口放出の律速段階としてCaシグナルがあり,それが細胞によって多様で複雑であることはよく知られている。それゆえに,その下流にある「融合器官」(fusion machinery)の「性能」を測定することは難しく,最近までなされてこなかった。そもそも「融合器官」の「性能」とは何かすら特定されていなかった。われわれは「融合器官」の「性能」を明らかにし,それにより「融合器官」というナノマシンの形態や構成分子を解明したいと考えている。以下に述べるわれわれの研究では,ケイジドCa試薬を利用することにより,Caシグナルの多様性を回避して,分泌小胞の融合しやすさ(融合時定数)を測定し比較した。その結果,融合時定数が分泌小胞や細胞により1万倍以上異なり,「融合器官」の「性能」を表すというに相応しい定数であることが初めて明らかになった1-4)。この研究を以下に紹介しながら,開口放出の電気的測定の方法論について解説する。

開口分泌現象のイメージング―コンピュータ画像解析

著者: 寺川進

ページ範囲:P.205 - P.211

 開口分泌の動的な過程は,いろいろな瞬間で固定された標本の電子顕微鏡による静止画を適当に並べることによって想像されてきた。しかし,その実際の過程がどのようなものであるかを調べるには,固定されていない標本を光学顕微鏡によって観察しなければならない。開口分泌の過程を光学顕微鏡で捉えようとした試みはかなり早くからなされていたが,この10年ほどで光学顕微鏡が画像処理装置によって強化され,解析が進むようになった。

開口分泌現象のイメージング―共焦点レーザ顕微鏡および走査電子顕微鏡観察

著者: 瀬川彰久 ,   ,   山科正平

ページ範囲:P.212 - P.218

 開口分泌は血液細胞,内・外分泌細胞,神経細胞など多くの細胞に普遍的にみられる分泌様式で,分泌顆粒(小胞)が形質膜と融合・除去を繰り返しながら顆粒内容物を放出する,ダイナミックな細胞活動である。形態学的にみて分泌現象のハイライトともいうべきこの過程は,電顕観察を主体に解析されてきたが,近年ではビデオ顕微鏡や共焦点レーザ顕微鏡による生きた細胞の観察法が確立され,また電気生理学の導入などにより,時間軸を基盤にした解析が可能になってきた。
 筆者らが,共焦点レーザ顕微鏡を用いて生きた細胞の開口分泌観察法を開発し1),本誌でその知見を解説してから6年経過した2)。その後,生理学および生化学的解析が著しく進み,開口分泌の諸過程(docking,priming,fusion,release,removalなど)(図1)や,SNARE仮説に代表される分子機構の実体などが詳細に“解剖”されつつある3,4)。形質膜と分泌顆粒膜の相互作用が分子の言葉で語られるようになった今,その形態的実体を,新しい視点でふたたび問い直さねばならない時代になったように思われる。

連載講座 個体の生と死・3

受精

著者: 年森清隆

ページ範囲:P.219 - P.227

 受精は,減数分裂を経て形成された半数体の雌雄の生殖細胞(配偶子)が合体して,両親由来の遺伝情報を次世代に伝えるための連続的な現象である。体外受精では,至適条件にすれば精子頭部(核)が成熟した卵形質内に導入されると胚発生が導かれる。しかし,体内受精では,精子は生殖管通過中あるいは卵子との相互作用中に分化した構造を正しく機能させる必要があり,卵子は精子を受け入れた後に体細胞としての有糸分裂を開始するための構造を正しく機能させる必要がある。これらの受精現象に関連する構造と機能に欠陥があると不妊の原因になる。この小稿では体内受精を概説する。受精現象を理解するには,先ず配偶子の微細構造と関連分子の挙動を理解することが必要であるので簡単に触れる。

解説

シグナル伝達分子三量体GTP結合蛋白質の構造と機能

著者: 仁科博史 ,   堅田利明

ページ範囲:P.229 - P.235

 1994年のノーベル医学生理学賞は,“G蛋白質と細胞内へのシグナル伝達に果たすその役割の発見”により米国のA.G.GilmanとM.Rodbellに与えられた。Rodbellは1960~70年代にかけて,ラット脂肪細胞や肝臓の細胞膜標品を用いて,ホルモンがそのシグナルを細胞の内側に伝える機構を研究し,アデニル酸シクラーゼが活性化されるときに,ホルモンと直接結合する受容体とアデニル酸シクラーゼの触媒部位との間に,GTPと結合しシグナルの伝達器として働く蛋白質が介在する可能性をはじめて指摘した。Gilmanはその後1970年代後半から80年代前半にかけて,マウスリンパ腫由来の培養細胞変異株(アデニル酸シクラーゼの活性化に関与するG蛋白質[Gs]を欠損する)の特性を利用して,G蛋白質[Gs]をはじめて精製した。すなわち,Rodbellによって提唱されたG蛋白質の概念が,GilmanによるG蛋白質の精製とその性状の解析によって実証されたといえよう1)
 1980年代以降のG蛋白質研究における大きな展開の一つは,G蛋白質が介在するシグナル伝達経路の拡大にあったと考えられる。この研究の展開において,細菌毒素の触媒するユニークな修飾反応がさまざまな局面で利用された。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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