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特集 言語の脳科学
脳損傷と失語症
著者: 河内十郎1
所属機関: 1東京大学大学院総合文化研究科認知行動科学
ページ範囲:P.23 - P.31
文献購入ページに移動 人間の高次脳機能の研究は,1861年にフランスのP. Brocaが運動性失語症患者2例の臨床像と剖検の結果を相次いで報告した時に本格的にスタートしたといわれている。このことからも明らかなように,失語症研究は1世紀以上の間,人間の高次脳機能研究の先陣の役割を果たしてきた。その間,すでに1874年にドイツのC. Wernickeがさまざまなタイプの失語症の出現を説明するモデルを提唱し1),失語の古典論が確立されている。このモデルはその後多くの批判を受け,一時は消滅したかに見えた時期もあったが,1965年のN. Geschwind2)による復興の結果,100年以上も経過した今日でも,批判はあるものの失語症研究者の間でその基本的な考え方は広く支持されている。Wernickeのモデルは,単に言語の神経機構を説明するだけではなく,皮質機能局在論,連合説という,脳の働きの基本的な生理機構に関わる側面を持っており,言語以外の人間の高次機能の神経機構にも敷衍できるもので,事実,前世紀から今世紀の初頭にかけてH. Lissauerの失認論,J. Dejerineの失読論,H. Liepmannの失行論など,Wernickeの理論を他の高次機能障害に適用したモデルが次々に提唱されている。
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