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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学49巻2号

1998年04月発行

雑誌目次

特集 血管―新しい観点から

血行力学による血管内皮遺伝子発現

著者: 安藤譲二 ,   是永理佐

ページ範囲:P.78 - P.86

 血管内面を1層に覆う内皮細胞は,多彩な機能を発揮して血液循環ひいては生体機能の恒常性の保持に重要な役割を果たしている。例えば,内皮細胞は平滑筋を弛緩するプロスタサイクリン(PGI2),一酸化窒素(NO),C型利尿ペプチド(CNP)やアドレノメデュリン(AM)を,一方,平滑筋を収縮させるエンドセリン(ET)やトロンボキサンA2を放出し,血管のトーヌスの調節を行っている。また,内皮細胞表面にはトロンボモデュリンやヘパラン硫酸が発現し,血管内面を抗血栓性に保っている。さらに,多くの種類の接着分子や細胞増殖因子を介して他の細胞とも積極的な相互作用を行い,組織の炎症や免疫反応やリモデリングにも関わっている。
 従来,こうした内皮機能を調節するのはホルモン,サイトカイン,ニューロトランスミッターなどの液性因子であると考えられてきた。しかし,近年,内皮細胞が接している血流に起因する壁ずり応力(wall shear stress)といった血行力学因子も,内皮機能を大きく修飾することが明らかになってきた1)。生体で血流が増加すると内皮依存性に血管の径が大きくなり,逆に血流が減少すると径が小さくなる現象が起こる事実は,内皮が血流の変化に反応することを示している2)

血管内で血液が凝固しない機構

著者: 丸山征郎

ページ範囲:P.87 - P.92

 生体組織は酸素と栄養を血液から供給され,休むことなく代謝を営んでいる。従って血液の遮断は,即組織の死に直結することになる。この血液を血管外に漏らすことなく,またひとときも休むことなく送っているのが,全身に張り巡らされた血管である。従って「血液」は「血管内では決して凝固することなく」,また逆に「血管破綻の際には直ちに止血し,その血管壁を自己修復」するという任務を負わされている。
 本論では「血管内で血液が凝固しない機構」について述べ,さらにその逆の現象である「血管破綻の際には直ちに血液が凝固し,止血する」仕組みについて述べる。

血管内皮における張力刺激と細胞骨格

著者: 杉本啓治 ,   武政徹 ,   藤井幸子 ,   山下和雄

ページ範囲:P.93 - P.98

 筋肉細胞をはじめ,生体を構成する多くの細胞は何らかの機械刺激を受けている。血管内皮細胞も血流による流れずり応力,あるいは血圧による張力などの機械刺激を常時受けている細胞である。こうした刺激に対する応答を内皮細胞が活発に行って,血管としての恒常性を保っている事実が最近つぎつぎに明らかにされている1)。また,その機能不全が動脈硬化をはじめ脈管病変の主原因の一つになることからも,内皮細胞が機械刺激に対して示す応答反応の実体を明らかにすることが重要な課題になっている2)。本稿においては,張力刺激に対して内皮細胞が示すアクチン系細胞骨格の動態について解説する。他の細胞骨格要素が機械刺激によって明確な対応変化を示したとの報告はまだなされていないこともあり,内容的には細胞/基質間接着に関わるアクチン線維束(=ストレスファイバー:SF3))に関するものになることをまずお断りしておく。

内皮細胞接着因子PECAM-1と流れ感知・情報伝達

著者: 藤原敬己 ,   増田道隆 ,   大澤正輝

ページ範囲:P.99 - P.102

 血管および心臓の内面,すなわち血液が直に触れることのできる部分はすべて,単層の内皮細胞が形成する内皮と呼ばれる組織で覆われている。形態的にはきわめてシンプルな単層細胞組織だが,最近の研究から内皮は物質の選択的透過機能,諸生理活性物質の産生,情報伝達のインターフェース機能など,実に多様かつ重要な生体機能を持っていることがわかってきた。そうした機能の維持には,内皮組織が構造的完全性(integrity)を保つことが必要で,そのためには細胞間接着がうまく機能しなければならない。内皮細胞で発現されている細胞間接着分子には,ほかの上皮組織で見られるカドヘリン(cadherin)やオクルーディン(occludin)などに加え,PECAM-1(platelet endothelial cell adhesion molecule-1)がある。PECAM-1はほかの上皮組織では発現されておらず,内皮細胞が関係する細胞間接着に働いている分子である。ここでは内皮細胞におけるPECAM-1の働きについて考察する。

血管内皮細胞の新しい活性物質

著者: 三井洋司 ,   鈴木徹

ページ範囲:P.103 - P.108

 血管内皮細胞は多彩な機能を持つことが最近注目されている。それには新しい発見が大きな貢献をしてきた。例えば,エンドセリンは内皮細胞が分泌するパラクラインホルモンの血管収縮因子として発見された。しかし,内皮細胞自身のNO放出に働くオートクライン作用のほか細胞増殖やアポトーシスへの関わりも重要である。神経細胞,平滑筋細胞,心筋細胞,線維芽細胞など多彩な細胞がエンドセリン(ET)を分泌することがわかってきて,その生物学的な役割の解明が新しく展開している。それに加えて,エンドセリンファミリー遺伝子のクローニングにより,ET-1のほかにET-2(マウスやラットではVIC)とET-3が発見された。さらに,それらの受容体群(ETRA ETRB ETRC)の解析を通じて,神経・心臓の初期発生やヒト遺伝子疾患への関わりなどが次々に解明されてきている。こうした展開は当然エンドセリンに限られたことではない。新しい生理活性物質の発見が産むインパクトの強さを示している。
 われわれの研究グループは,この新しい生理活性物質の発見を目的とした戦略を展開している。例えば,1988年エンドセリンの分離,構造決定の際には,当時われわれがブタ大動脈由来の血管内皮細胞から樹立した不死化細胞株を用いて,その無血清培養液に分泌させた血管収縮因子を分離精製したことから,ブレークスルーが生じたのである。

血管内皮・平滑筋細胞と弾性線維

著者: 大山俊郎

ページ範囲:P.109 - P.113

 成人の弾性型動脈(大動脈,冠状動脈,頚動脈など)の壁は内腔表面の1層の内皮細胞,その直下の平滑筋細胞と線維成分からなる内膜肥厚,内弾性板,数―数十層の弾性板と平滑筋細胞からなる中膜,外弾性板,外膜からなる。心臓から発生する脈動に伴う血流がもつ内圧は,一定の圧波として壁に時系列でかかっている。壁のストレスは拡張圧と血管内径に比例し,血管壁厚に反比例する(Laplaceの法則)。壁の弾性(コンプライアンス)は主に弾性線維が構築する弾性板に由来する。弾性線維の弾性の源となる蛋白はエラスチンと呼ばれ,可溶性の67kDaの前駆体トロポエラスチンが酵素リシルオキシダーゼの助けを借りて架橋したものである。中膜では弾性線維と平滑筋細胞はいくつかのエラスチンレセプターまたはエラスチン結合蛋白を介して直接接して,壁全体の力学的連関性を維持している。エラスチンは動脈壁では平滑筋細胞より産生される。
 近年,エラスチン遺伝子の制御,細胞生物学的作用の面で研究が急速に進歩した。ここでは血圧とエラスチン代謝,エラスチン合成の制御機構,エラスチンの生物学的作用,レセプター,老化と弾性線維についての最近のトピックスを述べる。

血管平滑筋分化に関与する遺伝子

著者: 森崎隆幸

ページ範囲:P.114 - P.120

 平滑筋の発生分化の分子機構はまだ不明な点が多い。筋肉のなかで心筋の研究は骨格筋に10年遅れ,平滑筋は心筋にさらに10年遅れているといわれるほどであり,ようやく研究が進んできている。骨格筋における1987年のMyoDの発見とそれに続くbHLHタンパク質ファミリーの解析,MADSスーパーファミリーに属するMEF 2因子の単離や解析は,「単一遺伝子(転写因子遺伝子)の発現により分化プログラムを開始しうる」という転写因子を中心とした細胞の発生分化の分子機構を明らかにし,他の細胞の分化モデルとしても重要な知見を与えている1,2)。また,心筋でも1993年にホメオボックス遺伝子に属する心筋特異的遺伝子Csx(Nkxファミリー)が単離された3)。しかし,心筋では単独で分化プログラムを開始しうる遺伝子は明らかではなく,Csx(Nkx)遺伝子ファミリー,MEF 2遺伝子ファミリー,GATA遺伝子ファミリー,bHLH遺伝子であるHand遺伝子群などの転写因子の分化における役割が明らかになりつつある4)。一方,平滑筋においては特異的遺伝子発現機構の解明がようやく始まったばかりである。本稿では平滑筋の発生分化に関わる分子機構についての最近の知見について述べるが,血管平滑筋の形質転換や増殖に関わる点については本書別項にて詳細が述べられているので,ここでは平滑筋の発生分化を中心に述べる。

平滑筋細胞形質決定因子―その細胞内情報伝達機構と遺伝子発現制御

著者: 西田亙 ,   林謙一郎 ,   祖父江憲治

ページ範囲:P.121 - P.130

 平滑筋は,心筋・骨格筋(横紋筋)とはその構造および機能において大きな違いがある。横紋筋はアクチンフィラメント上に存在するトロポニン複合体によるCa2+感受性の収縮制御を受けている。また,筋線維はZ帯などで整然と区画され,筋細胞の全長にわたり平行に配列していることから,横紋筋の収縮は二次元的である。一方,平滑筋には横紋筋に認められるトロポニンが存在しない。このため平滑筋の収縮制御機構は長らく不明であったが,現在ではカルデスモンによるアクチン側と,ミオシン軽鎖キナーゼによるミオシン側の二重制御を受けていると考えられている。また,平滑筋には横紋は観察されず,Z帯も存在しない。平滑筋の筋線維はZ帯の代わりに,緻密斑(dense membrane,dense plaque)もしくは緻密体(dense body)を足場としてらせん状に配列している。結果として,平滑筋の収縮は三次元的であり,これが血管や消化管のトーヌス維持あるいは収縮にあずかっている。
 興味深いことに,平滑筋および横紋筋には上述したような大きな相違が認められるにもかかわらず,アクチン・ミオシン・トロポミオシンなどの基本収縮蛋白質の構成は驚くほど似通っている。両者の差異を決定するものは一体,何であろうか。骨格筋特異的な蛋白質の転写調節に関しては,MyoDの発見以来かなりの部分が明らかになってきた。

新しい分化した血管平滑筋細胞株

著者: 大見和宏

ページ範囲:P.131 - P.136

 生体内の正常血管組織に存在する血管平滑筋細胞は静止状態にあり,分化形質(収縮能,平滑筋型細胞骨格蛋白質の発現など)を維持している。それを培養系に移した場合,細胞は形質転換を起こして脱分化する(増殖能の獲得,収縮能の低下,平滑筋細胞型から非筋細胞型への細胞骨格蛋白質のアイソフォームの変換)1-7)。現在までの研究では,一度脱分化した培養平滑筋細胞や未分化な細胞を完全に平滑筋に分化させる条件は報告されていない。しかし,筆者がp 53ノックアウトマウスの大動脈から得た血管平滑筋細胞株は,通常培養下での平滑筋細胞ではダウンレギュレートされていたいくつかの平滑筋マーカーを発現しており,さらに薬物処理により分化制御が可能な細胞である。本稿では,この新規血管平滑筋細胞株作製の経緯と現在までに明らかとなっている細胞の性質について述べる。

血管平滑筋細胞の分化とミオシン遺伝子の発現

著者: 星野洋一 ,   永井良三

ページ範囲:P.137 - P.144

 血管平滑筋細胞は発生・分化あるいは動脈硬化症などの疾病において,その形質を変化させることが知られている。形質変換と呼ばれるこの現象は平滑筋細胞の形態だけでなく,細胞に存在する様々な遺伝子の発現も変化させる。収縮蛋白であるミオシンもその一つである。平滑筋特異的な発現をするミオシン重鎖遺伝子などの制御機構の解明が,平滑筋細胞における形質変換の解明につながる。しかし,骨格筋や心筋に比べその分子メカニズムには不明な点がまだ多い。骨格筋ではMyo DファミリーやMEF 2と呼ばれる転写因子が重要な役割を担う。骨格筋では,これらの転写因子が欠損すると骨格筋発生のプログラムが停止する。また,心筋細胞でもGATAファミリー,TEF,MEF 2などの転写因子がその発生に不可欠である。一方,平滑筋細胞では発生・分化に関与する特異的な転写因子は発見されていない。本稿では血管平滑筋細胞の分化について平滑筋ミオシン重鎖遺伝子を中心に解説する。

連載講座 個体の生と死・7

初期発生:体軸形成と胚葉の分化

著者: 森本武志 ,   塩田浩平

ページ範囲:P.145 - P.151

 動物の発生においては,たった1個の細胞である受精卵から,形態的・機能的に分化した多様な細胞の集団から成る体が形作られる。その過程でどのようなメカニズムによって細胞が分化し,多様な細胞系譜ができるか,また,複雑なボディープランがどのようにして作られるかは,古くから発生学における中心的な問題であった。従来ブラックボックスの中にあったこれらの問題も,近年の分子生物学の成果によって新たな視点が開けてきている。ボディープランの分子機構については,哺乳類でのデータは乏しいが,最近,両生類などの胚で次々と重要な分子が発見され,その制御機構が明らかにされつつある。本稿では,体軸形成と胚葉の分化について,形態学的な所見と最近の知見を含めて概説する。胚葉分化のうち,最も興味深く,また最も詳しく研究されているのが中胚葉の分化であるが,中胚葉については,次号で詳しく論じられることになっている。

実験講座

血管壁の力学特性とその無侵襲診断法

著者: 横堀壽光

ページ範囲:P.152 - P.156

 血管壁は内皮細胞,エラスチン(弾性線維),コラーゲン(膠原線維),平滑筋(smooth muscle)により構成される複合材料である1)。また,血圧上昇や動脈硬化の進行に伴って,線維の構成や力学的性質が変化することが知られている2-5)。この現象はin vitro下での拍動圧流負荷実験においても見られる3)。したがって,その力学的要因として,血管壁を構成する各線維がゴム弾性の分子の再配列に見られるような,圧力負荷方向への再配列を生じることが示唆される3,5)
 血管壁の力学試験としては,血管を試験片の形に切出して静的引張試験を行い,応力―歪の関係を求めることが試みられている6)。この方法により,コラーゲン,エラスチンの力学的性質の相違が明らかにされている7)。また,血管に内圧を負荷して内圧変化に伴う血管半径の増加特性を調べることも試みられている8,9-11)。この時,血管壁の剛性を表すパラメータとして圧力弾性係数9),増分弾性係数10),スティフネスパラメータ8)などが提案されている。また,局所的な血管病変部の弾性率を評価する方法として,ピペット法と呼ばれる方法も提案されている12)

話題

米国骨代謝学会印象記―カルシトニンレセプター

著者: 中村美砂

ページ範囲:P.157 - P.157

 平成9年9月10日から14日までの5日間,米国オハイオ州シンシナティーで「第19回米国骨代謝学会(ASBMR)」が開催された。本会は非常に大きな学会で,ここ数年の参加者数は3,500人以上である。連日,朝8時から夜の7時までにおよぶ記念講演,コンカレントセッション,ポスターセッションなど合わせて約1,700もの演題が発表された。さらに夜は11時頃までサテライトシンポジウムやワーキンググループ毎のセッションも催されていた。また,一昨年から新たに設けられたグラント申請の秘訣をディスカッションできる‘Meet-the-NIH Lunch Sessions’も設けられていた。
 さて,このような多くの発表の中から,私の研究テーマである甲状腺C細胞で産生,分泌されるホルモンのカルシトニン(CT)に関連した報告について,不十分ではあるが紹介させていただく。

Gordon Research Conference(老化の生物学)に参加して

著者: 石井直明

ページ範囲:P.158 - P.158

 1997年1月に,米国カリフォルニア州のリゾート,ベンチュラにおいてゴードン・リサーチ・カンファレンス「老化の生物学」が開かれた。会場となったダブルツリーは観光客相手の酒落たホテルであったが,さすがにこの季節は人もまばらで,静かな落ち着いた雰囲気であった。今回は研究仲間であるコロラド大学のT. Johnson教授がオーガナイズしたものであったので,彼の誘いで参加させてもらった。想像した通り,老化研究をリードする研究者たちによって,夕方2時間のポスターセッションを挟んで,朝9時から夜10時まで熱心な講演と討論が行われた。さらに,深夜はグラス片手にポスターを肴に熱い議論が闘わされた5日間であった。この会が示した老化研究の動向を簡単に紹介する。
 老化の研究分野は多岐に亘り,今回もクラッシックな遺伝学や分子遺伝学を用いた基礎老化研究から,ヒトの老年病であるアルツハイマーや循環器疾患,骨粗鬆症までの広い範囲の話題が提供された。基礎研究においては老化を遺伝子の面から捕える方向に進みつつあり,実験動物として遺伝学的手法が確立しているマウスやショウジョウバエ,酵母のほかに,近年遺伝子解析が急速に進んでいる線虫の一種,C. elegans(C. エンガレンス)が話題の中心となった。

米国人類遺伝学会大会印象記

著者: 剣持直哉

ページ範囲:P.159 - P.160

 1997年10月28日から11月1日までの5日間,米国のボルチモア市で第47回「米国人類遺伝学会大会」が開催された。本大会は,毎年秋に米国またはカナダの大都市で開かれるたいへん歴史のある学会で,米国のみならず世界各地から多数の研究者が集まり,最新の知見をもとに活発な情報交換を行っている。筆者は本学会へは3回目の参加であるが,常に驚かされることはその規模の大きさと発表の多様さである。今回の演題数は口頭発表が約300題,ポスターが約1800題であった。しかしこれですべてではなく,ポスターにも選ばれなかった(発表が不採択)抄録がさらに数百題あるというから驚きである。米国における人類遺伝学者の層の厚さを物語っているともいえる。これだけの演題の発表の場となった,ボルチモアのコンベンションセンターもたいへん立派な会場で,なんとすべてのポスターを全期間に亘って掲示できる,それも一人150cm幅のスペースでという,日本の学会では考えられないような施設を有していた。発表は多岐に亘っており,最新の技術を用いた分子遺伝学から社会倫理の問題まで広くカバーしており,人類遺伝学を総合的に理解するための格好の場を提供しているといえる。焦点を絞ったコールドスプリングハーバーのミーティングやゴードンカンファレンスも魅力的ではあるが,いろいろな研究者が一堂に会する本学会も,日本から一度は参加する価値がある学会のひとつであると筆者は常々感じている。

国際自律神経科学会第1回会議見聞録

著者: 西村俊彦

ページ範囲:P.161 - P.162

 International Society for Autonomic Neuroscience(ISAN)の第1回会議が1997年9月14日から6日間,オーストラリア北西のクイーンズランド州東海岸に位置するケアンズ市コンベンションセンターで約450人の参加者を集めて開催された。ISANの初代会長はロンドン大学のDr. Burnstock(現在はRoyal Free Hospital,The Autonomic Neuroscience Institute)で,第1回会議はメルボルン大学のDr. Hirstが会長であった。目的は多様な方法論を用い自律神経研究に携わる研究者間の交流を図ることである。会議は九つのレクチャー,10のシンポジウムおよび400題を越えるポスター発表で構成されていた。分子生物学的手法から伝統的な生理学的・形態学的手法を用いた研究,基礎から臨床的研究まで非常に多彩であった。
 本稿では筆者が最も興味を持って臨んだ“purinergic transmission”の話題を紹介したい。プリン作動神経という概念はDr. Burnstockが70年代初頭に提唱したもので,節後線維刺激によって誘起される結腸紐や膀胱の非コリン性・非アドレナリン性収縮がATPにより再現されるという発見から始まった。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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