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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学5巻2号

1953年10月発行

雑誌目次

巻頭

歐米を巡つて

著者: 勝木保次

ページ範囲:P.51 - P.51

 一年餘の外國生活を終え羽田に着いて,先ず感じた事は,凄く數多い日本人の體格の貧弱な事と,街の汚い事であつた。是は米英北歐が偉大な體格の持主であり,北歐諸國の道路が常に清掃されていたからであろう。そして又昨夏僻易した米國中部に劣らぬ暑氣とひどく湿度の高い事に驚いた。外國を知らない間は,餘り苦にならなかつた日本の氣候が,こんなにも嚴しいものであつたのかとどうしても信ぜられなかつた。穏和どころか全く逆である。これにも増して本當に悲しかつたのは研究室の設備である。筆者の研究室は戰後新設されたもので,歴史の古い諸教室と異り古典的な機械は殆どなく,最新のもののみを集めて一應滿足していたのであつたが,見較べて餘りにも貧弱なのにがつかりさせられた。
 勿論米國の豊さとは初めから比較にならぬ位は覚悟してはいたものの,その差が餘りあり過ぎる。外國事情にうとい我國がいつも不利な立場にある事は常々感じではいたが,今度こそ如何に我々が外國について無知であつたかが明確にわかつた。戰爭のおこつた原因の一つに,我々が先進國について何も知らなかつた事が擧げられているが,外國書を讀み慣れ文通もしていた我々自身ですらこんな次第だから,敗戰の憂自を見たのも無理からぬ事である。日本が先進國と地理的に餘り離れ過ぎている事が如何に大きい影響を與えている事だろう。

綜説

動物組織におけるWarburg-Dickens系

著者: 石田壽老

ページ範囲:P.52 - P.58

 はしがき
 グリコゲンやブドウ糖が分解されてエネルギーを出すばあいにはいずれもブドウ糖-6-燐酸となつてからつぎの酵素の作用をうける。
 ブドウ糖-6-燐酸は果糖-6-燐酸および果糖-1,6-二燐酸をとおつて三炭糖燐酸(3-燐グリセラルデヒドとα-燐ジヒドロオキシアセトンの平衡混合液)に變轉するのが無氣的の解糖作用および醗酵における糖質代謝のおもなみちすじである。動物組織では乳酸,イーストではエタノールが最終の生産物であつて,このような分解方式をEmbden-Meyerhof(EM)型といつている。

論述

脳下垂體中葉ホルモンの視紅再生に及ぼす影響

著者: 花岡利昌

ページ範囲:P.59 - P.64

 腦下垂體中葉ホルモンIntermedinは下等脊椎動物の體色變化に與るものとしてMelanophore Expanding Hormone又は單にMelanophore Hormone(以下MHと稱す)とも言われている。MHが温血動物の腦下垂體にも多量見出されるにも拘らずその機能は不明であつた。MHが色素細胞の運動に關與する外に光覺に關係するものであることを最初に研究したのはJores20)である。彼は器官及び體液中のMHの含有量を比較研究して器官では腦下垂體を除いては眼球及び間腦に,體液では血液と房水にのみ見られる事を示した21)22)。更に彼は又暗所に飼育したり,眼を覆つて飼育した家兎の眼球内のMHが明所で飼育したもののそれに比較して多量である事,更に人,モルモツト,猫,鶏の脳下垂體乾燥粉末のmg當りMH量を調べて夜行性の猫が夜盲である鶏の60倍もある事等よりMHが暗視に關係のあるものと考えてMHを人眼の一方に點眼し他眼を對照として13人の被驗者を用いて暗順應の時間を計り平均11分短縮されるのを見た(對照眼で平均50分20))。Buschke3)は追試して之を否定したがJores24)は其後更に40人の被驗者中34人が點眼によつて暗順應を早められた結果を出し,先の發表を再確認している。近年多羅尾29)は點眼により,安間32)は點眼及び皮下注射によりそれぞれこの効果を認めている。

脊髓機能の電氣生理學的研究—細胞内電極法による單一運動ノイロンの活動の研究

著者: 大谷卓造 ,   荒木辰之助

ページ範囲:P.65 - P.70

 細胞の内部へ硝子微小電極を挿入して單一細胞の靜止膜電位や活動電位を測定する方法は,先ずヤリイカの巨大神經線維についてCurtis & Cole3),Hodgkin & Huxley9)によつて行われ,更に電極の微小度を高めることによつて蛙の縫工筋の單一筋線維についてもLing & Gerard12),Nastuk & Hodgkin13)によつて成功を見た。この方法によると單一細胞の人工的分離によるよりも一層生理的状態に近い單一細胞の活動の研究が出來,活動電位が靜止電位を凌駕することなど,種々の薪知見がもたらされた。その後この方法によつてFatt & Katz6)による骨格筋端板電位の研究,Woodbury16)等,Draper & Weidmann4)及びTrautwein & Zink14)による心筋についての研究などが續々と現われている。
 我國では古河7)8)が逸早くこの方法を用いて筋線維について若干の研究を行い,更に進んで蟇の脊髄の運動性神經細胞にもはじめて之を應用した。

展望

神經,筋の電氣活動とイオン—最近の電氣生理學の1トピツク

著者: 古河太郞

ページ範囲:P.71 - P.78

 緒言
 神經或は筋の表面に2個の電極を置き,その間の電位差を測完する場合健常な神經或は筋に於ては表面は等電位にあり,電位差を證明しない。所がその一部を負傷させる場合,或は鹽化カリの樣な藥物を作用させる場合にはその部分と健常部との間に電位差があらわれる。これが負傷電位或は靜止電位と呼ばれるものであり,一方筋,神經を刺戟してこれを興奮せしめると極く短時間ではあるが,やはり電位差があらわれ,これは活動電位と呼ばれている。靜止電位の研究は極めて古くから種々行われて來ているが,活動電位に就てはその時間的經過が速である爲に眞空管増幅の技術を應用する事によつて始めて可能となつた部面が多い。衆知の如くこの活動電位は神經或は筋活動の指標として我々がこれを利用して甚だ有用なものであるが,それ自身神經或は筋活動に伴う單なる随伴現象ではないのであつて,少くとも興奮の傳導はこれを介して行われている。即ち興奮部に生起する活動電位は隣接非興奮部に對して刺戟となるのに適當したしかたで生起し,又充分な強度を有している事が知られている(局所電流説)。
 これらの電位の成立する機序に就ては從前より甚だ議論が多いのであるが,注目すべき事實として神經筋の細胞内外でそのイオン組成に大きな差がある事が知られていた。即ちKは細胞内に多くNa及びClは細胞外(組織液)に多いのであつて,この濃度の比は50倍にも達する。

報告

ATP・Na鹽粉末調製法

著者: 江橋節郞

ページ範囲:P.79 - P.79

 ATP(及びADP)のBa鹽は,保存には便利であるが,實驗上の見地からは,種々の缺點を有している。使用に當つて之をNa鹽又はK鹽に轉換するのは,單に煩雑であるばかりでなく,稍もすればBa++の殘存を來し,或は過量のSO4―添加の爲,鹽濃度の上昇を招く結果となり易い。この障碍を避ける爲には,Na鹽或はK鹽粉末を作製することが望ましい。著者は.次の方法によつて,簡易にATPのNa鹽或はK鹽を調製することに成功している1)

細胞呼吸よりみたエチールウレタンの作用(第1報)

著者: 鎌倉勝夫 ,   中馬一郞 ,   島越美夫

ページ範囲:P.80 - P.83

 腦呼吸に及ぼす麻酔劑の作用に就いてはJ.H.Quastel以來廣く研究されているが,barbiturate(B)を中心とするhypnoticaに關係したものが最も多い。これら麻酔劑の作用機序に就いては,Quastel1)は當初,glucose(G),lactate(L),pyruvate(P)を基質とした際の02−消費の減少及びメチレン青褪色時間の延長する成績から主として糖系物質の細胞内酸化(嫌氣的並びに好氣的)の抑制に因るものとした。しかし後にchloretoneを用いた實驗2)に於いて,青酸の影響のもとに赤血鹽脱水素酵素系に於ける發生CO2量から脱水素酵素に對する麻酔劑の作用を疑問視すると共にflavoproteinを抑えるものと推論訂正している。Greig3)もまたpentobarbitalを用いた成績からflavoprotein乃至cytochrome bを抑えるものと推論している。これに對してethylurethane(U)に關する研究は比較的少く,Battelli & Stem4)等の古典的研究から1930年5)6)前後にかけて若干見られる程度であつて,その作用機序もbarbiturateに準ずるものと大雑巴に考えられている。
 近來は,麻酔劑としてよりもむしろUの放射樣能(radiomimetic action)に就いて報告されているものが多い。

ACTH及びCortisone acetate投與時における胸腺内好酸球について

著者: 柴田勝博 ,   田所作太郞

ページ範囲:P.83 - P.85

 ACTH,副腎皮質ホルモン投與或は各種stressor曝露後には,流血中リンパ球は著しく減少し,同時に胸腺リンパ結節,脾臟等の所謂リンパ樣組織が急性退縮を來すことは多くの研究者により確認されている。又上記諸條件下においては流血中の好酸球も明かに減少し,この現象はThorn's testとして副腎皮質機能檢査法に廣く應用されている。一方胸腺組織丙に好酸球が存在することは古くから知られているが,流血中の好酸球減少を來すような諸状件下における胸腺内の好酸球の状態について檢索した報告は少い。
 私達は白鼠を用い,ACTH並びにCortisone acetate投與後の胸腺内好酸球につき檢索したので報告する。

皮膚觸,壓刺激の腦波への影響と腦波の生理學的解釋について

著者: 佐藤謙助

ページ範囲:P.85 - P.89

 地球上,即ち重力の場で動物が靜止しておれば身體の表面の皮膚のどこかが壓迫され,動すば觸れる。逆に皮膚の壓や觸り刺激は身體の殆んどすべての機能に影響があることを高木等は示した1)。例えば身體の片側の壓迫では自律神經の諸機能2)(汗,涙液,固有唾液や腎の尿等の分泌,鼻甲介の腫脹,肺聽診音,肺血流,氣管支,皮温,腋窩温等その他)や錐體路と錐體外路系の機能3),4),5)(膝蓋腱反射,筋緊張や姿勢等)等は壓迫側と反對側とで互にreciprocalな効果が見られる。そして兩側の壓迫ではこれらの諸機能が兩側で共に低下し全身性抑制効果が起る。この他「ふるえ」,全身性振盪,小腦性tremor,呼吸や心博リズム等の周期的興奮も亦皮膚壓迫で抑制される6)7)8)
 この壓反射による全身性抑制効果は人間で最も起り難く,犬や猫,兎の順に起り易い。そして鶏では片側の壓迫でも強い場合には既に全身性抑制が起り,蟇や蛙特に蛙では僅かの部分の皮膚壓迫でもそれが起る。そして昆虫で更に弱い刺激で動かなくなる。つまり動物の進化が進む程起り難い傾向がある9)。この効果は壓迫を除いてもしばらく殘るが,皮膚の觸刺激ですぐに消え去る。又上述の種々の周期的興奮は觸刺激で促進することも高木等によつて示され,觸反射は壓反射と拮抗的な効果を起すことが判つた。

ヒスタミンの新定量法

著者: 堀内和之

ページ範囲:P.89 - P.95

 まえおき
 私共の教室では抗Histamine劑に關して研究を續けて來たが,その藥理作用を究明するためには生體内のHistamine代謝と併せて考えて行く必要がある事は云うまでもない。また近年來諸種藥物による組織よりのHistamine遊離の事實が續々と發表されるにつけても,これら興味ある實驗を行う手段たるべき遊離Histamineの定量方法が先ず問題となつて來る。
 つまり,生體内に存在しているHistamineには遊離の状態のものと結合の状態のものとの二種類があり,藥理學的生理學的に能動なのは遊離のもののみであると云う事がわかつている。而もその量は生體の環境によつて變化するものであるが總量は常に極めて微量であると云う事から,その定量方法は特異性に於ても鋭敏度に於ても優れている事が望ましいのである。そこで私は遊離Histamineの定量に關して諸種の基礎的な實驗を行つた結果,Ion交換樹脂,Paperchromatographによる分離とモルモツト摘出腸管法による定量とを組み合わせる事によつて,ある程度上記目標に近づき得たかと思われるので,これについて記し檢討してみた次第である。

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第3回神經化學班談話會記事

著者: 白木博次 ,   柴田農武夫 ,   山田禎一 ,   在山田

ページ範囲:P.96 - P.98

 神經化學班の談話會も會を重ねて3回をむかえた。いよいよ盛大に,活發になつていく。これは昭和28年1月25日,學士會館で行われた談話會の概要である。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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