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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学5巻3号

1953年12月発行

雑誌目次

巻頭

研究の獨創性

著者: 小川鼎三

ページ範囲:P.99 - P.99

 世間ではよく「世界的の學者」だとか,「世界的の業績」だとか云いたがるのだが,これは世界中によく知られた有名な學者とか業績を意味するのであろう。日本でも少數の人々が世界的の名聲を得ている次第で,まず以て慶賀すべきことである。
 筆者が戰前のシカゴ市ノースウエスターン大學に留學していたとき,いつも病理學細菌學の教室の廊下をとおつて,自分の研究室に通うたのであるが,その廊下に全世界の主な病理學者,細菌學者の肖像が20ほど掲げられていて,その中にわが國の北里柴三郞博士と山極勝三郞博士の2枚が含まれていたことは日本人として實に嬉しく感じ,そこをとおるときは,思わず胸を張つて濶歩するのであつた。

綜説

Riboseの代謝

著者: 牧野堅 ,   松崎喜久男

ページ範囲:P.100 - P.106

 D-Riboseは從來所謂酵母核酸(Yeast ribonu cleic acid)といわれているものの中の糖成分として99年Revene等1)によつて確認された。尚Codehydra e Ⅰ,Ⅱ,Co-enzyme A,Vitamine B1の域分をなしているDimethylbenzimidazole nucleotideの構成分をなしている。このものの還元體であるところのRibitolはRiboflavin nucleotideの構成分をなしている。Levene,London等2)3)が胸腺核酸を酵素的に分解して得たNucleosidesから2-Desoxy-riboseが分離同定された4)5)。AdenylthiomethylpentoseからはThiomethylriboseが分離されたが,このものは牧野佐藤6)7),Weygand8),Baddiley9),の研究によれば5-Thiomathyl-D-riboseであるという。Spongothymidineの糖は牧野,佐藤10)によつてXyloseであることが證明された。

神經機能と物質代謝

著者: 塚田裕三

ページ範囲:P.107 - P.116

 1.まえがき
 今世紀の始めからO.Meyerhof及びその學派の人々により,筋收縮機構の實體的な研究が見事な成果をあげ,機能と直接に關連する物質代謝系の追究という問題が正面から取の上げられる樣になつた。
 神經系の興奮傳導に就いては,電氣生理學的には既に見事な業績がつみ上げられて居るのであるが,働作電流の基盤をなしている物質的な變化,即ち神經機能と直接關係を持つ代謝系の追究にはようやく2, 3の示唆が與えられたにすぎない。

論述

生體内に於ける酸素濃度測定(續)

著者: 望月政司 ,   切替弘雄 ,   井上司 ,   眞鍋四郞

ページ範囲:P.117 - P.123

 1.緒言
 第1部に於いて既に述べた樣に溶存している酸素は微小白金電極に-0.6〜0.8V(不分極電極にを對極として)を與えた時,酸素の電解に依つて流れる電流を觀察する事に依つて測完出來るのであるから,生體内の或る組織の酸素濃度の消長を検し樣とする時には,その部分に電極を挿入し,其れに對し外部から電壓を加え電解電流を測定すれば電極近傍の酸素濃度を求めることが出來る。筆者等は既は一般研究者の使用に便利な樣な裝置を考案し,島津製作所に於てOXIGRAPHとして,製作,之に依つて實驗を行つているのであるが,此のセツトは單にStabilityを持たせ,簡單に電流記録が出來る樣にしたもので,重要な部分は電極の製作とその取扱い方である。此の樣な譯で筆者等が最近實驗を行つて來ている大腦及び皮下組織の酸素代謝の研究を中心として,OXI-GRAPHの簡單な解説と共に實驗方法について報告を行う。

展望

神經,筋の電氣活動とイオン(續)—最近の電氣生理學の1トピツク

著者: 古河太郞

ページ範囲:P.124 - P.131

 Ⅳ."Voltage clamp"實驗12)〜16)
 神系興奮に際して形質膜の透過性が變化する結果,Naが内部に入り,逆にKは外に出る事が明になつたが,これらのイオンの出入がどんな時間的經過を有するか,或はそれらと膜電位との關係はどうなつているか等,多數の問題が殘されている。Hodgkin,Huxley & Katz(1952)によつて行われた"voltage c amp"實驗は神經が電氣活動を行う際のイオンの移動を支配する法則を決定する目的で行われたものであつて,これによつて上述の疑問點はことごとく一應の解決を見るに至つたと云つてよい。この巨大軸索について行われた一連の實驗は極めて精密なものであつて,形質膜の生理學の到達し得る一つの頂點を形成するものと云つても過言ではあるまい。ここではやや繁雑にわたる嫌はあるがこの實驗の要點を紹介しようと思う。

報告

脊髓動物作製の新法

著者: 熊谷洋 ,   油井亨 ,   小川喜一 ,   大賀晧

ページ範囲:P.132 - P.132

 温血動物の脊髓機能,藥物の末梢作用を觀察するに當つては,所謂脊髓動物を使用する事がしばしば用いられる手段の一つである。脊髓動物作製の方法については,先人の幾多の報告があり,その代表的なものとしてSherrington1),Dale and Laidlaw2)等がその詳細について報告している。これらの方法に依れば,何れも頸部背面より脊髓に達する爲に,手技上の繁雑さと,多量の出血よりくる循環血量減少の爲,極度の血壓低下を來す缺點がある。
 我々は,犬,猫を用い,中樞灌流實驗法の確立に際し,上述の缺點を除き,速かに且容易に頸部腹面より行う方法を副次的に發見した。その術式は次の如くである。

腸反射に關する實驗

著者: 錢場武彦

ページ範囲:P.133 - P.135

 腸反射に關する研究はBayliss & Starling(1899)1)に基礎を置く。彼らは指にて腸をhandlingすると全腸に反射的運動抑制が生ずるのを見出し,Morinら(1934)2)6)が腸壁に伸展刺激を加えて之を確めて居る。この反射は常に内臟神經の切斷によつて消失した。今私は小腸の一部に食鹽水を注いで,この部の著しい緊張の増加,運動の亢進を起させた場合に,やはり小腸の其他の部の緊張の低下,運動の抑制を見る事が出來たが,この際は内臓神經の切斷によつで反射は消失しなかつた。この機轉を追及した。

色素結合からみた血清蛋白質の尿素變性

著者: 楠智一 ,   木村秀子

ページ範囲:P.135 - P.139

 著者は先に報告した諸實驗により1)-4),變性に際しての色素結合量の變化を定量することが,ひいては蛋白の表面構造の變化を敏感に反映させることを明らかにした。我々は今回高濃度の尿素により蛋白の表面配置がどの樣に推移するかをB. P. B.,Methyl orangeとの結合能から追究することを試みたのでその實驗結果を報告する。

和紙による電氣泳動法の實驗

著者: 入澤宏 ,   入澤彩

ページ範囲:P.140 - P.143

 濾紙電氣泳動法は器具が簡便な上に,操作が單純であり,而も試料が極めて小量で足りるため,Turba and Enenkel8),Durrum2),Cremer and Tiselius1)以來多くの研究があらわれた3)4)6)。然し使用する濾紙により泳動の結果を異にする事は當然考えられる事で,Cremer等1)に依れば,試みた15種類の濾紙の中で僅か2種類(Munktell, No. 22, Whatman. No 1)が使用に耐えたのみであつたと云う。
 又緩衝液に就いてもDurrum2)は燐酸緩衝液では分離が惡く,Veronal緩衝液を推奨して居る處である。更にこの事はFlynn and de Mayo3)も認めて居る。これらの他,裝置上の種々の點に就いては,小林5),佐藤7)等が詳細な檢討を行つて居る。私達は此の方法に關心を持ち,從來の研究者の追試を行つて居たが,濾紙以外の紙が蛋白輸送の媒質となり得るか否かに就いて檢討した結果,極めて入手の容易な和紙(糊入奉書紙)が使用できる事を知つたので,これを機會に私達の行つている方法を略述して報告する事とする。

——

キヤンベラ便り

著者: 纐纈敎三

ページ範囲:P.144 - P.145

 オーストラリヤ國立大學生理學教室のVisiting Fellowとして五月中旬オーストラリアの主都キヤンベラの街に參りまして以來,早くも四カ月になります。出來るだけ早くこちらの樣子を,日本の皆樣に御報告したいと思いつゝも,馴れない日常生活に追われ,つい今日まで失禮してしまいました。最初こちらに着きました時は,戰後最初の日本人留學生だと云うわけで,人々に珍らしがられ,色々と歡迎を受けました。それ程オーストラリアには日本人が少いわけで,現在のところこちらに來ている日本人と云えは,日本大使館員と,メルボルン,シドニー等に短期間止まつている羊毛關係の業者,それに所謂戰爭花嫁ぐらいのもので,全く淋しいものです。この點アメリカとは大いに異つていますが,そこには日濠間を隔てゝいる色々と重要な,吾々日本人にとつても,もつと考えねばならない問題がある樣な氣がします。日本を出る時に心配していたオーストラリアの對日感情と云う點につきましては,少くとも私の感じた範圍では杞憂に過ぎませんでした。
 今までのところ,この點でいやな思いをしたことは一度もありません。而しなんと云つてもオーストラリアは未だ未開の國であり,廣い土地を少數の人口で維持していると云う現實が,色々の面で色々な問題となつて現われて來ている樣に思われます。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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